連邦最高裁判所の判例
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「著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)」の記事における「連邦最高裁判所の判例」の解説
最高裁で係争中の案件は「#連邦下級裁判所の判例」を参照。 ※表中の「判例の通称」の英語表記をクリックすると、英語版ウィキペディアの個別判例ページに遷移する。また判例集番号末尾をクリックすると、JustiaやFindLawなど判例を転載した外部サイトに遷移する。デスクトップビューで閲覧の場合、表の項目名横をクリックすると、昇順または降順で並び替えることができる (モバイルビューやモバイルアプリでは並び替え機能なし)。判例の通称は英語名アルファベット順で並び替えされる。 判例の通称判決年(判例集番号)争点判決訴訟概要と判決要点特筆性ウィートン対ピーターズ裁判(Wheaton v. Peters) 1834(33 U.S. 591) コモンロー・コピーライト、職務著作 (代理法(英語版)) 合法 連邦法としての著作権法が適用された米国最高裁最古の判決:23。法律家ヘンリー・ウィートン(英語版)は公務として最高裁判例集の編纂者(英語版)を務めており、ウィートンの判例集が無断で同僚のリチャード・ピーターズ(英語版)によって複製出版されたことから著作権侵害で提訴した事件である。州法たるコモンロー・コピーライトも著作物を保護するが、これが発行によって保護が消滅することを示し、英国「ドナルドソン対バケット裁判(英語版)」(Donaldson v Becket) の1774年判決を踏襲した。そして、合衆国最高裁の判決は連邦法では著作物性がないとも捉えられて複製は合法とされた。また、ウィートンが代理法の観点から独立の契約者なのか、それとも最高裁から雇われた従業員なのか (つまり職務著作となりうるのか) についても考察されたことで当判決は知られている。 ベーカー対セルデン裁判(Baker v. Selden) 1879(101 U.S. 99) アイディア・表現二分論 (マージ理論) 合法 アイディア・表現二分論 (事実や発見を含むアイディアそのものは保護せず、アイディアの表現のみを著作権法で保護する法理) の基礎を構築したとされる判決。ベーカーとセルデン両名の書籍で紹介した簿記の手法が酷似していたことから、先に出版されたセルデンの書の相続人である妻がベーカーを訴えた。簿記の手法に対して独占性を主張するには、特許を取得しなければならず、手法そのものは著作物性がないと判示された。同様に新薬や耕作用具の論文も文字による表現は著作物だが、発明の新規性は特許法の範疇だと例示され、後の国内外の判例に多大な影響を与えたリーディング・ケース。 バローガイルズ・リトグラフィック対サロニー裁判(Burrow-Giles Lithographic Co. v. Sarony) 1884(111 U.S. 53) 写真の保護要件 違法 作家オスカー・ワイルドを被写体にした写真が無断でリトグラフ化されたことから、写真家ナポレオン・サロニー(英語版)がリトグラフ販売事業者を提訴した。最高裁は被写体のポーズ、衣装、装飾品、明暗などの選択は、写真家の創造的な選択・配置であると指摘し、写真の著作権保護を認めた。なお、米国著作権法は1865年の法改正で写真を保護対象に追加している。 ブライシュタイン対ドナルドソン・リトグラフィング裁判(Bleistein v. Donaldson Lithographing Co.) 1903(188 U.S. 239, 251) 応用美術の保護要件 違法 サーカスの広告用に多色石版刷りされたポスターが無断複製され、このポスターが著作権保護の対象かが問われた。ポスターに描かれたのは実在する人物であり、実際のサーカスでよく見られる情景であった。当判決以前は著作権の保護要件に審美性 (aesthetic merit) を求める判決も存在したものの、当判決によって審美性は保護要件とならないと判示された。ただしこの原則は実用品には適用されず、審美性の質を主観的に判断して保護要件に含めうる余地を残している。 シェルドン対メトロ・ゴールドウィン・ピクチャーズ裁判(Sheldon v. Metro-Goldwyn Pictures Corp.) 1940(309 U.S. 390) アイディア・表現二分論 (物語)、抽象化テスト(英語版) 違法 エドワード・シェルドン(英語版)脚本『Dishonored Lady(英語版)』は実在の殺人事件被疑者マデリン・スミス(英語版)を題材にした作品。メトロ・ゴールドウィン (現MGM) がシェルドンとの間で映画化権の交渉を行うも決裂したことから、同じ題材の別小説を原作として映画『令嬢殺人事件』を製作した。これを受け、シェルドンが映画の差止と損害賠償 (興行収入のシェア) を求めて提訴した。物語のプロットはアイディアに過ぎないが、人物関係や情景設定と情景描写、詳細な出来事などはアイディアの「表現」だとし、損害賠償金額の算出対象を絞り込んだ。また 二審 では抽象化テストを用いたことでも知られる。抽象化テストの手法を確立した「#ニコルズ対ユニバーサル・ピクチャーズ裁判」(1930年) も参照のこと。 メイザー対ステイン裁判(Mazer v. Stein) 1954(347 U.S. 201) アイディア・表現二分論、応用美術の保護要件、意匠特許 違法 実用品デザインの著作権保護を巡るリーディング・ケース。原告の卓上ランプの支柱にはステイン夫妻作・半浸透性のダンサー男女の像が装飾されており、この像は著作権登録されていた。実用品の「機能」面でのランプには著作権性はないが、ダンサー像には「表現」の著作権性があるとして、卓上ランプの模倣が著作権侵害と判定された。著作権法と意匠特許のどちらで美的な創作物を保護するかについて、実用的か否かは問われず、美的「表現」かデザインの「発明」かが判断基準だと示された。本件以降も、旧式電話機型の鉛筆削り、犬形の貯金箱、繊維製品のグラフィックデザインに著作権性が認められる判決が続いている。なお、本件ではダンサー像の「物理的分離」が可能で像単体が著作物として成立しうる判断されたが、2017年最高裁「#スター・アスレティカ対ヴァーシティ・ブランズ裁判」判決では「概念的分離」の基準が示されることとなった。 シアーズ・ローバック対スティフル裁判(Sears, Roebuck & Co. v. Stiffel Co.) 1964(376 U.S. 225) 連邦優位条項(英語版)、不正競争防止法と著作権法の関係 訴訟概要を参照 スティフル社製支柱ランプの類似品をシアーズ社が販売したことから訴訟に至った。下級裁では、たとえ連邦法としての著作権法や特許法で保護されていない商品であっても、州法の不正競争防止法の観点で違反であると認めて、シアーズ社はスティフル社に対して部分的に賠償責任を負うこととなった。しかし最高裁は合衆国憲法の連邦優位条項を適用して、州法による保護を否定した。これは連邦法の著作権や特許で認められている独占の範囲以外は、パブリックドメインに帰して万人による利用を可能とすべきとの立場に基づく。なお、同日には蛍光灯設備の類似品を巡る「コンプコ対デイブライト・ライトニング裁判(英語版)」(Compco Corp. v. Day-Brite Lighting, Inc., 376 U.S. 234 (1964)) の最高裁判決も出ており、連邦法優位がこちらでも示された。その後も「#ボニート・ボーツ対サンダー・クラフト・ボーツ裁判」(1989年) が同じ立場を踏襲した。 ゴールドスティン対カリフォルニア州政府裁判(Goldstein v. California) 1973(412 U.S. 546) 固定の要件、連邦優位条項(英語版) 違法 ゴールドスティンらは楽曲をテープやレコードに複製する海賊版の生産拠点を運営し、パッケージ化して無断で販売していた。カリフォルニア州刑事法典(英語版) (The California Penal Code) の第635h条では音楽の実演を無断で複製・販売することを禁じ、このような楽曲に永久著作権を認めていた。ところが当時の連邦著作権法 (1909年改正ベース) は楽曲の実演について規定していなかったことから、被告は合衆国憲法の連邦優位条項および特許・著作権条項を持ち出して抗弁した。しかし最高裁は、連邦議会が1909年法を可決した際、楽曲が著作権保護に値しないとの意図には解せないとして被告の訴えを退けた。また特許・著作権条項には Writing (著作) の文言があるが、これを「あらゆる物質的表現」と解したことから、著作物保護には何らかの媒体に固定されていることが必要と判示された。 20世紀ミュージック対エイケン裁判(Twentieth Century Music Corp. v. Aiken) 1975(422 U.S. 151) 公衆実演権、著作権保護の目的 合法 バーモント州知事や合衆国上院議員などを歴任したジョージ・エイケン(英語版)が経営する食料品店 (イートインスペースも併設していることから客の滞在時間は長い) が、ラジオ局から楽曲を受信して店内で流していた。この楽曲は米国作曲家作詞家出版者協会 (ASCAP) が著作権を管理しており、20世紀スタジオ社系列の20世紀ミュージック社に実演権が独占ライセンスされていたことから、営利目的で楽曲を使用したエイケンを20世紀ミュージックが著作権侵害で提訴した。一審は原告の訴えを認めたものの、二審と最高裁は退けた。ラジオの送受信は実演権に含まれないと判断されたためである。さらに、創作者が公平な対価を享受し、創作のインセンティブを与える目的で著作権保護は存在するのであって、その著作物を公衆が享受する公益性との間でバランスがとられるとも判示された。 ソニー・アメリカ他対ユニバーサル・シティ・スタジオ他裁判(Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc.) 1984(464 U.S. 417) フェアユース第1・第4基準、寄与侵害(英語版) 合法 通称「ソニー・ベータマックス判決」。テレビ番組の家庭用録画機器ベータマックスなどを使用して、一般ユーザが著作物 (番組) 全量を複製しており、番組著作権者らが寄与侵害 (一般ユーザの直接侵害に手段提供している廉) で機器メーカーのソニーらを提訴した。利用者の多くが家庭での使用であり、後日視聴 (time-shifting) を目的としていることから、フェアユース第1基準で非営利性が認められ、録画が番組著作権者の収益に影響を及ぼさないとしてフェアユース第4基準の市場代替性の観点も考慮された。21世紀に入ってからはインターネット視聴や音楽などのファイル共有ソフトウェアなどを巡って類似訴訟が発生しており、度々ベータマックス訴訟は「ソニー・ルール」として引き合いに出される (#MGMスタジオ対グロクスター裁判:2、#ABC他対Aereo裁判:17など)。 ハーパー & ロー対Nation誌裁判(Harper & Row v. Nation Enterprises) 1985(471 U.S. 539) フェアユース第1・第4基準、アイディア・表現二分論 違法 フェアユース関連で言及されることの多い代表的判例の一つ。フォード元大統領の未発表回想録の引用を巡る争い。総合出版ハーパー社 (原告) が回想録を出版するためフォードから著作権を獲得し、書籍化を計画していた。この書籍の発行前に、雑誌『TIME』が2万5千ドルをハーパーに支払う契約を締結し、回想録の抄録発行権を得た。しかし雑誌『The Nation(英語版)』を発行するNation社 (被告) が無断で引用して先に記事掲載したことから、ハーパーとTIME誌間の契約は破棄となり、著作権侵害でNationが提訴された。フォード元大統領が公人であることから「公共性」を理由に被告はフェアユースで抗弁するも、公人か否かはフェアユースの判断基準外と判示された。また最初の出版権を誰が有するかを重要視された。逐語的に引用されたのは、書籍の元原稿20万語のうちわずか300語だったが、決定的な箇所だと判示された。加えて、回想録は事実を記していることからアイディア・表現二分論上の「アイディア」に該当して著作権保護されないのではないかとの指摘もあったが、その創作的な表現には保護がおよぶとも判示された。 ボニート・ボーツ対サンダー・クラフト・ボーツ裁判(Bonito Boats, Inc. v. Thunder Craft Boats, Inc.) 1989(489 U.S. 141) 連邦優位条項(英語版)、船体デザイン、DMCA 合法 デジタルミレニアム著作権法 (DMCA) 第5章 (連邦著作権法 第13章を新設する改正立法) 可決に影響を与えた判例。ボニート社のガラス繊維製の遊興用ボートは船体デザインが特許申請されていなかったものの、後にフロリダ州政府が船体デザインの盗用・販売を禁じる州法を成立させたことから、ボニート社がサンダー社を提訴した。この州法は連邦特許法と矛盾するとして「#シアーズ・ローバック対スティフル裁判」で示された連邦優位条項の解釈を継承し、船体デザインの模倣は合法とされた。その後、発明の新規性を要件とする特許法では保護されないような船体デザインも著作権法で保護すべく、連邦議会はDMCAを1998年に成立させて法改正することとなった。 CCNV対リード裁判(Community for Creative Non-Violence v. Reid) 1989(490 U.S. 730) 職務著作 訴訟概要を参照 「職務」の要件を定義したリーディング・ケース。ホームレス問題に取り組む慈善団体のCCNV(英語版)が彫刻家リードに作品を依頼。完成した彫像は職務著作として委託者CCNVに著作権が認められるのかが問われた。当判決では代理法における「独立の契約者」(independent contractor) の概念が判断基準として用いられた。 ファイスト出版対ルーラル電話サービス裁判(Feist Publications, Inc. v. Rural Telephone Service Co.) 1991(499 U.S. 340) アイディア・表現二分論 (額の汗の法理) 合法 額の汗の法理(英語版)が最高裁で初めて否定された判決として国内外で知られる。ルーラル社はカンザス州北西の一部地域で独占営業を認められた電話サービス事業者で、加入者の電話番号を電話帳として編纂して無料配布する法令義務を負っていた。一方のファイスト社は、カンザス州広域で電話帳の発行を専業とする出版社である。ファイストがルーラルの無料電話帳から自社の発行する電話帳に電話番号を転載したことから、著作権侵害が問われた。一審と二審は侵害を認めたが、最高裁では一転し、著作権保護には単なるデータ配列 (額に汗をかいてデータ収集すること) だけでなく独自の創造性 (オリジナリティを持つ表現性) が必要だと合衆国憲法の特許・著作権条項(英語版)が解釈された結果、電話帳に著作権は認められずファイストの行為は合法と判示された。なお、ファイスト判決以前に額の汗の法理が支持されていた判決例としては、判決文のページ付けシステムなどがある。 キャンベル対エイカフ・ローズ・ミュージック裁判(Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc.) 1994(510 U.S. 569) フェアユース第1 (パロディ) 基準 合法 パロディに関するリーディングケース。1990年公開映画『プリティ・ウーマン』の主題歌 "Oh, Pretty Woman" (歌手ロイ・オービソン) を使用して、ヒップホップグループのThe 2 Live Crew (被告ルーサー・キャンベル(英語版)はこのメンバーの一員) がパロディを製作し、25万枚のセールスを記録した。一審はフェアユース認定、二審は否定し、最高裁が再び認定した。パロディとして使用された箇所 (原曲の冒頭部) は有名であり原曲の中核をなすと認定されたものの、パロディはこのような中核を用いることが常であると判断された。そしてフェアユース第1基準の定める変形的利用が、同じく第1基準で例示される非営利性に勝り、第4基準の市場代替性を損なうことがないと解される裁判。原曲 "Oh, Pretty Woman" (あぁ、可愛い女性) がパロディでは "Big Hairy Woman" (デカい髪型の女性) に変形されている。2つの楽曲動画は「#関連画像・音声・動画」節のリンクを参照。 ロータス・デベロップメント対ボーランド裁判(Lotus Dev. Corp. v. Borland Int'l, Inc.) 1996(516 U.S. 233, per curiam decision) 著作物の定義、アイディア・表現二分論 合法 ロータス・デベロップメント (現IBM) 製の表計算ソフトLotus 1-2-3で使用されているコマンド469個 (コピー、印刷等) と同じものをボーランドが自社開発した表計算ソフトのメニューに組み込んだ。ロータスの既存ユーザがボーランド製に乗り換えやすくなったことから、ロータスが提訴。一審ではメニュー体系の著作物性を認めたものの、二審では「操作の手法」に過ぎないとして著作権保護が否定された。最高裁も二審を支持している。 ニューヨーク・タイムズ他対タシーニ裁判(New York Times Co. v. Tasini) 2001(533 U.S. 483) 集合著作物、二次的著作物、職務著作、著作物の登録 違法 通称「タシーニ判決」「フリーランサー集団訴訟」。フリーランサーの著作物がニューヨーク・タイムズ (NYT) などに寄稿され、それがレクシスネクシスなどのオンラインデータベースに無断転載されたため、全米作家労働組合(英語版)のタシーニ会長らが集団訴訟を起こした。201(c)条 は集合著作物について規定しており、集合著作物の著作権者 (本件ではNYT等の新聞・雑誌社) は改訂版を発行する権利は有するが、個々の記事の複製権・頒布権は有しない。データベース化はフェアユースの定める翻案化 (つまり改訂版の創作) には該当しないことから2001年最高裁判決で原告勝訴となった。しかし訴訟には事前に著作物の登録が必須とされている (米国著作権法 第412条) ことから、和解金を受け取れなかった未登録著作物の著作者らが別途訴訟を継続した。本件では別途、全米作家協会や全米ジャーナリスト・作家協会(英語版) (ASJA) なども同類の訴訟を起こしており、2001年のタシーニ判決後に合流している。最終的に原告側は総勢3000人以上、対象著作物は60万記事を超え、総額1800万米ドルの和解金で2014年に決着。 エルドレッド対アシュクロフト司法長官裁判(Eldred v. Ashcroft) 2003(537 U.S. 186) ソニー・ボノ著作権延長法の合憲性、永久著作権 合法 通称「ミッキーマウス訴訟」。著作権保護期間を死後50年から70年に延長する1998年の改正立法によって著作物の社会利用が妨げられ、合衆国憲法修正第1条が保障する表現の自由に抵触するとの主張。また合衆国憲法の特許・著作権条項(英語版)は「限られた期間」(limited times) を保護すると記されており、期間延長がこれに抵触すると主張した。原告はパブリックドメインに帰した著作物を活用する団体・個人で構成。しかし、フェアユースによって既存著作物の翻案が認められていることから、表現の自由に抵触しないと判断された。また、既に欧州連合 (EU) では保護期間を70年に設定していることから、米国もこれに合わせることで創作者へのインセンティブを与えるとする特許・著作権条項の目的に合致するとして、原告の主張を棄却した。 ダスター対20世紀フォックス裁判(Dastar Corp. v. Twentieth Century Fox Film Corp.) 2003(539 U.S. 23) 商標権と著作権の関係性 合法 元軍人・後の大統領アイゼンハワーによる戦争回想録 (1948年出版) のテレビ化権を20世紀フォックスが獲得。著作権期限切れ前に更新せず、テレビ番組は1977年にパブリックドメインに帰す。ダスター社がテレビ番組の映像を購入して複製し、リバース・パッシングオフ(英語版) (他者の商品を自分名義で偽って販売する「逆詐称通用」) を行った。これがランハム法(英語版) (米国の連邦商標法であり、不正競争防止法の要素も含む) に抵触するとしてフォックスが提訴。リバース・パッシングオフの非を認めつつも、パブリックドメインに帰していることからダスターの著作権侵害は棄却。 MGMスタジオ対グロクスター裁判(Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. v. Grokster, Ltd.) 2005(545 U.S. 913) 著作権侵害の技術提供者の二次責任 (誘引侵害責任理論(英語版)) 違法 著作権侵害の技術提供の文脈で、ベータマックス裁判と比較されることが多い訴訟:2。Peer-to-peerファイル共有ソフトのMorpheus等が著作権侵害に利用されているとして、開発会社グロクスター等を相手取り、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー (MGM) など計28の原告団が提訴。Morpheusの頒布者には二次責任を認めたが、その開発者の責までは問わなかった。本件では特許法で用いられる誘引侵害責任理論 (inducement theory または inducement test)が著作権侵害でも適用されると判示された。最高裁判決後、グロクスター社は原告各社と和解に達したが、StreamCast Networks社 (旧MusicCity Networks社) とConsumer Empowerment社 (KaZaA社) は訴訟を継続。 :53 リード・エルゼビア対マッチニック裁判(Reed Elsevier, Inc. v. Muchnick) 2010(559 U.S. 154) 著作物の登録、事物管轄 訴訟概要を参照 「ニューヨーク・タイムズ他対タシーニ裁判」の類似ケース。学術出版5大企業の一角リード・エルゼビア (現レレックス・グループ) がフリーランサーの著作物をデジタル化し、ニューヨークタイムズなどに提供。訴訟対象となった著作物の多くが未登録だったことから和解金の受取対象が問われた。一審では1800万ドルの和解金が示されるも、マッチニックら一部のフリーランス著作者が和解に反対した。二審では未登録の著作物に対して裁判所は事物管轄権を有しないとの理由から、一審を覆した。最高裁は著作権法 第411条 は出訴にあたって著作物の登録を必須要件だとしつつも、未登録であっても司法管轄権はあると判示した。本件は9年後の最高裁判決「#フォース・エステート対Wall-Street.com裁判」にも大きな影響を与えた。 :16 オメガ対コストコ裁判(Omega S.A. v. Costco Wholesale Corp.) 2010(562 U.S. 40) per curiam decision 消尽論 合法 「#カートサン対ワイリー裁判」とセットで論じられることが多い:4。スイス高級腕時計メーカーのオメガは正規販売ルートのみに「シーマスター」のモデルを卸していたが、安価大量販売で知られるコストコが非正規ルート (闇転売) でオメガのシーマスターを輸入して販売。時計の彫刻デザイン "Omega Globe" がシーマスターに施されており、このデザインが著作権保護の対象であることから、オメガがコストコを提訴した。オメガは正規ルートに販売する際に、米国内への輸入やコストコへの転売を許可していないと主張した。しかし米国著作権法 第109条 では、複製した商品の購入者は自由に中古売買でき、著作権者の排他的な権利は所有者まで及ばない消尽論をとっており、コストコの行為は合法と判示された:3–5。 ゴラン対ホルダー司法長官裁判(Golan v. Holder) 2012(565 U.S. 302) 権利回復著作物、ウルグアイ・ラウンド協定法の合憲性 合法 過去にパブリックドメインに帰していた外国著作物が、1994年制定のウルグアイ・ラウンド協定法により著作権保護対象となった (これを権利回復著作物と呼ぶ)。権利回復によって著作物の社会利用が妨げられることから、表現の自由を保障する合衆国憲法修正第1条に反するとの主張がなされたが、合憲の判示となった。 カートサン対ワイリー裁判(Kirtsaeng v. John Wiley & Sons, Inc.) 2013(568 U.S. 519) 消尽論 合法 タイ人留学生スパップ・カートサンは、学術出版大手ジョン・ワイリー・アンド・サンズ (略称ワイリー) の出版する教科書がタイと比べて米国で高額に販売されていると知り、タイから米国に逆輸入してオークションサイトのeBayで販売し、約120万米ドルの収益を得たとされる。第2巡回控訴裁の判決を覆す形で、最高裁はカートサン無罪の判決を下した。この判決により、米国の著作物が米国外で複製印刷・販売され、再び米国内に逆輸入した際にも、米国著作権法第109条が定める消尽論が適用されることが判示された。 ペトレラ対MGM裁判(Petrella v. Metro-Goldwyn-Mayer, Inc.) 2014(572 U.S. 663) ラッチェスの法理 訴訟概要を参照 プロボクサーのジェイク・ラモッタの実話に基づき、ラモッタと友人ペトレラが脚本2版と小説本をそれぞれ執筆した。後にMGM傘下ユナイテッド・アーティスツが映画化権を獲得して『レイジング・ブル』を1980年に製作・公開。ペトレラ本人は1981年に死去し、ペトレラの相続人 (娘) は1991年、1963年に発行された旧版の脚本について著作権期限更新を行った。1997年にペトレラの相続人はMGMが著作権侵害だと警告したが、実際に訴訟へと発展したのは2009年である。米国著作権法では民事訴訟は発生から3年以内の提訴が認められている (いわゆる出訴制限)。また判例では「ラッチェス抗弁」(懈怠の法理) が一部認められる。これは原告が出訴を遅らせることで不当に損害請求額を積み増してはならないとする考え方である。従来はラッチェスの法理は損害賠償請求のみに適用され、差止命令は適用外と解されてきたが、二審の控訴裁では差止および3年以内に発生した侵害分の損害賠償全ての原告請求を棄却した。しかし最高裁では一転し、著作権法で規定しているのは出訴制限のみで、衡平に欠く場合でなければ、原則は損害賠償や差止などの侵害救済にまでラッチェスの法理は及ばないと判示した。 ABC他対Aereo裁判(American Broadcasting Cos., Inc. v. Aereo, Inc.) 2014(573 U.S. 431) 複製権、公衆実演権 違法 ストリーミング配信における公衆実演権に関する米国初の連邦最高裁判決:466。Aereo(英語版)は各地に小型アンテナを数千基設置し、各ユーザがアンテナにインターネット経由でアクセスすることで、TV番組の見逃し配信を提供するストリーミング動画サービス。番組の著作権を有する地上波テレビ局ABCらがAereoを訴えた。2001年の「#ナップスター判決」で違法とされたP2Pのファイルシェアのように著作権法の穴を掻い潜ろうとする新技術の登場は、判事らからも "Aereoization" と揶揄された:469。Aereoはケーブルテレビのビジネスモデルに近いことから、先例を引用して公衆実演権に抵触しないと抗弁した。「#ソニー・ベータマックス判決」では各ユーザが個々人で複製し、家庭内で視聴していることから著作権法が定める公衆実演権を侵害していないとされるが、Aereoの場合、各ユーザ向けに複製を行っているのはアンテナを有するAereoであることから、著作権侵害と判示された:17。この結果、Aereoは2014年に連邦倒産法第11章に基づき破産申請している。 スター・アスレティカ対ヴァーシティ・ブランズ裁判(Star Athletica, LLC v. Varsity Brands, Inc.) 2017(580 U.S. 15-866) 著作物の保護範囲の定義、デザイン、ファッションロー 違法 通称「チアリーディング・ユニフォーム事件」。チアリーディングのユニフォームデザイン (縞・ジグザグ・逆さV字模様など) が似ているとしてスポーツ・アパレル大手ヴァ―シティ (デザインを著作権登録済) が同業のスターを提訴した。実用品向けのデザインのため著作権は発生しないとスターは抗弁。実用品の著作権保護を巡っては1954年最高裁「#メイザー判決」が知られているが:712、チアリーディングのユニフォームの場合はデザインと衣服という実用性が物理的にも概念的にも分離不可能であり、一審では著作物性が否定された。二審の第6巡回区控訴裁、および最高裁はこれを覆し、分離不可でも著作権保護されると判示した。このように判断が分かれたのは連邦著作権法が「分離性」(separability) の用語を定義していないことに起因する:709。第6巡回区控訴裁は概念的分離について「実用的な側面から分離して識別」できること、およびデザインが「実用的な側面から独立して存在」しうるかを判断基準とした。最高裁も二審を支持して結審。 フォース・エステート対Wall-Street.com裁判(Fourth Estate Public Benefit Corp. v. Wall-Street.com) 2019(586 U.S. ___)(Docket no. 17-571) 著作物の登録手続 訴訟概要を参照 フォース・エステート(英語版) (4E) は社会性の高いテーマを扱うメディアで、他のメディア企業に記事提供している。企業IR情報などを掲載するWall-Street.comが4Eとのライセンス契約を打ち切ったが、4Eの提供済記事をサイトに掲載し続けたため4Eが提訴した。著作権法 第411条(a) では著作者が米国籍の場合、提訴前にアメリカ合衆国著作権局 (USCO) に著作物を登録することを求めている。ここでの登録を著作権者の「申請」(著作物の納付と登録料支払) とするか、USCOによる「登録許可」とみなすかで各巡回控訴裁判所によって過去判例が分かれていた。最高裁では後者の「登録許可」方式を採用し、登録許可が完了するまで原告は提訴を待たなければならないと判示された。
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