学術出版とは? わかりやすく解説

学術出版

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/10 17:28 UTC 版)

科学系および技術系学術専門誌の出版件数。人口100万人あたりで換算(2020年時点)[1]

学術出版(がくじゅつしゅっぱん)は、学術研究出版すること。学術出版物は広く学術的、学問的、科学的、そして研究に関する書籍やジャーナル、記事、論文を含む[5]。学術出版物は多くの場合、公的援助を受けている[5]理系では科学学術雑誌での発表が中心で書籍の比重は大きくないが、人文科学社会科学などの文系では書籍の重要度は高い[独自研究?]

学術雑誌の出版

学術雑誌は科学文献のキュレーターと位置づけられる[6]。科学者が学術誌に論文を投稿すると、学術誌の編集者や査読者たちが、その研究が出版に値する質と関連性を有するかどうかを検討する[6]。編集者は、学術誌に投稿された研究論文が学術誌の領域に当てはまるかどうかを検討し、その分野の専門家(査読者)の意見を聞いて研究を評価する[6]。そして、著者に堅牢性と透明性という点において、論文原稿をさらに改善する方法を提案する[6]。この過程を経て、学術雑誌によって出版された論文は、品質が高く、再現性も確保された論文とみなされる[6]。学術出版社は、出版される論文を選別することで、科学的記録の蓄積に貢献する[6]

一方で、論文を選別したり改善したりしない代わりに、掲載料さえ払えば迅速かつ簡単に論文を発表できると謳うハゲタカ学術誌が問題となっている[6]

学術書の出版

印刷業の発祥の地はドイツの都市ライプツィヒであり、世界の学術出版の中心と称されて盛んな商業出版がグーテンベルク博物館英語版を建設した[7]

学術出版の発行元としては、大別して大学出版局と商業出版社の2つがある。そのほか自費出版されるケースもある。

学術書出版は、商業出版や自費出版と異なる営為である[8]。学術書は、執筆者の研究に商品価値を付与し[9]、様々な読者に読まれる可能性を生む[9]。また、書籍の体裁が確立されているため、図書館で購入されやすく、書誌情報として共有されてアクセスしやすくなる[9]

一部の書籍を除き少部数で刊行されるため、一般書と比べると1冊の単価は高い傾向にある(表1参照)。難しい内容の本文を読みやすくして書籍を製作するため、具体的な特徴がある。

少部数の出版物は印刷代も製本代も割増料金がかかり、ひつじ書房によると、試算は以下の通りである。

【表1】部数と想定価格
(300頁の場合)[9]
部数(部) 価格(円)
1001-1300 4,200
701-1000 6,000
501-0700 8,600
300-0500 15,000

上記の現状から、研究者から出版企画を依頼された場合、特に商業出版社においては、予想される実売部数とコスト面から出版を見送るケースもある。

一方で、日本学術振興会の助成金や大学のファンドといった刊行助成金を利用することで、出版を果たす場合がある[9]。また、学術研究書出版制度を大学の使命と考え、積極的に推進する大学もある。早稲田大学は「大学の研究教育の内容やその水準を直接に体現する手段の一つであり、当該大学にとって枢要な使命を担うと位置づけ、その充実こそが、大学全体のアカデミック・ステイタスの維持・向上に直結する」と表明している[10]明治大学も「大学出版の意義はユニバーシティ・エクステンション、すなわち大学の知的資源を広く社会に開放することに尽きる」と述べている[11]

オープンアクセス化

理系を中心とした学術雑誌の電子化が進んでいるが、学術誌は一部の欧州の学術出版社による寡占状況にあり、雑誌購読料の高騰が問題になっている[12][18]。学術誌の価格上昇は、学術出版を担う商業出版社のビジネスモデルにあり、学術誌は価格が高くても他の雑誌で代替できないため、市場原理が働かないことに起因する[19]。世界の三大出版社の利益率は、いずれも30~40%に達する[19]

この寡占化に対抗して、1990年代から商業出版社への抵抗運動が起き、オープンアクセス化や学術出版社の雑誌へのボイコットなどが行われている[19]。また、これらを回避するように海賊版サイトが立ち上がることもある。

オープンアクセスは、学術出版の著者が広く認知されやすくなり、資金提供者による投資効果が大きくなり、他の研究者および社会全体がアクセスできる知識が増えるメリットがある[5]。このため、新たに生産される論文の半分はオープンアクセスで公開されている[19]

出典

  1. ^ Annual articles published in scientific and technical journals per million people” (英語). Our World in Data. 2024年9月21日閲覧。 “件数の目盛りは0から10、20、50、100、200、500、1000、2000、5000。出典:世界銀行(2023年)、国際連合(2022年)”
  2. ^ Brigitte Vézina, Author at Creative Commons [ブリジット・ヴェジナ=クリエイティブ・コモンズの執筆者]” (英語). Creative Commons. 2025年11月10日閲覧。
  3. ^ Vézina, Brigitte (2020年4月21日). “Why Sharing Academic Publications Under No Derivatives Licenses is Misguided” (英語). Creative Commons. 2025年11月10日閲覧。
  4. ^ Vézina, Brigitte (2020年4月21日). “学術出版物を「改変禁止」ライセンスで共有することが不適切である理由”. クリエイティブ・コモンズ・ジャパン. 2021年9月25日閲覧。
  5. ^ a b c 原文は Brigitte Vézina[2]著 "Why Sharing Academic Publications Under No Derivatives Licenses is Misguided"[3]。その日本語訳[4]
  6. ^ a b c d e f g 学術界サバイバル術入門 — Training 1:学術出版のすすめ | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio”. www.natureasia.com. 2021年9月25日閲覧。
  7. ^ 正木 1918, pp. 6, 150–152
  8. ^ 松本功『学術出版の困難』ひつじ書房、2003年3月28日https://www.hituzi.co.jp/academic/ 
  9. ^ a b c d e 松本功 (2003年3月28日). “第1回『学術書の出版の仕方』”. オンライン講座. ひつじ書房. 2013年8月10日閲覧。出版社の公式ウェブサイト
  10. ^ 学術研究書出版支援”. 早稲田文化. 2021年9月25日閲覧。
  11. ^ 明治大学における学術出版の歩み”. 明治大学. 2021年9月25日閲覧。
  12. ^ 学術誌問題の解決に向けて” (PDF). 【日本学術会議】 (2010年8月2日). 2010年8月2日閲覧。
  13. ^ ハーバード大学、価格高騰する学術雑誌の購読中止を視野に入れた対策案を教員等に提示」『カレントアウェアネス』、国立国会図書館、2012年4月24日。 
  14. ^ Faculty Advisory Council Memorandum on Journal Pricing § THE HARVARD LIBRARY”. isites.harvard.edu (2012年4月17日). 2025年11月10日閲覧。
  15. ^ Provost Convenes Faculty Advisory Council on the Library § THE HARVARD LIBRARY”. isites.harvard.edu. 2025年11月10日閲覧。
  16. ^ ハーバード大、学術誌の価格高騰に危機感、講読中止検討案を提示”. STI Updates. 情報管理Web (2012年4月24日). 2025年11月10日閲覧。
  17. ^ Staff (2012年4月24日). “「予算がいくらあっても足りない」ハーバード大学図書館が教職員に論文等のオープンアクセス化を要請(hon.jp DayWatch Archive)”. HON{{.}}jp News Blog. 2025年11月10日閲覧。
  18. ^ 「カレントアウェアネス」[13][14][15][16][17]
  19. ^ a b c d 学術誌をアカデミアの手に取り戻す」『NII Today』第82号、国立情報学研究所/ National Institute of Informatics、2021年9月25日閲覧 

参考文献

関連資料

  • アントワーン・ブーケ、ダニエル・ナイルズ、小林邦彦、押海圭一、王智弘(著)、定期刊行物編集室 ほか(編)「特集1 インタビュー : 地球環境学と国際学術出版の未来」『Humanity & nature newsletter』第74号、人間文化研究機構総合地球環境学研究所、2018年12月28日、2-4頁、国立国会図書館書誌ID: 11724906/1/1 

関連項目

外部リンク


学術出版(日本)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 14:28 UTC 版)

盗用」の記事における「学術出版(日本)」の解説

日本生化学会学術雑誌The Journal of Biochemistry」(英語):ウェブサイトに「盗用」の定義はない。盗用検出ソフトCrossCheck盗用検出しているとあり、実質上、CrossCheckの定義を適用していることになる。

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「学術出版(日本)」を含む「盗用」の記事については、「盗用」の概要を参照ください。

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