けい‐そ【×珪素/×硅素】
ケイ素(Si)
ケイ素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/17 07:38 UTC 版)
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外見 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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金属光沢のある暗灰色![]() ![]() ケイ素のスペクトル線 |
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一般特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||
名称, 記号, 番号 | ケイ素, Si, 14 | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | 半金属 | ||||||||||||||||||||||||||||||
族, 周期, ブロック | 14, 3, p | ||||||||||||||||||||||||||||||
原子量 | 28.0855(3) | ||||||||||||||||||||||||||||||
電子配置 | [Ne] 3s2 3p2 | ||||||||||||||||||||||||||||||
電子殻 | 2, 8, 4(画像) | ||||||||||||||||||||||||||||||
物理特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||
相 | 固体 | ||||||||||||||||||||||||||||||
密度(室温付近) | 2.3290 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||||||||
融点での液体密度 | 2.57 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||||||||
融点 | 1687 K, 1414 °C, 2577 °F | ||||||||||||||||||||||||||||||
沸点 | 2628 K, 2355[1] °C, 4271 °F | ||||||||||||||||||||||||||||||
融解熱 | 50.21 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||
蒸発熱 | 359 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||
熱容量 | (25 °C) 19.789 J/(mol·K) | ||||||||||||||||||||||||||||||
蒸気圧 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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原子特性 | |||||||||||||||||||||||||||||||
酸化数 | 4, 3 , 2 , 1[2] −1, −2, −3, −4 (両性酸化物) |
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電気陰性度 | 1.90(ポーリングの値) | ||||||||||||||||||||||||||||||
イオン化エネルギー | 第1: 786.5 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||||||||
第2: 1577.1 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||||||||
第3: 3231.6 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||||||||
原子半径 | 111 pm | ||||||||||||||||||||||||||||||
共有結合半径 | 111 pm | ||||||||||||||||||||||||||||||
ファンデルワールス半径 | 210 pm | ||||||||||||||||||||||||||||||
その他 | |||||||||||||||||||||||||||||||
結晶構造 | 立方晶系 | ||||||||||||||||||||||||||||||
磁性 | 反磁性[3] | ||||||||||||||||||||||||||||||
電気抵抗率 | (20 °C) 103 [4]Ω⋅m | ||||||||||||||||||||||||||||||
熱伝導率 | (300 K) 149 W/(m⋅K) | ||||||||||||||||||||||||||||||
熱膨張率 | (25 °C) 2.6 μm/(m⋅K) | ||||||||||||||||||||||||||||||
音の伝わる速さ (微細ロッド) |
(20 °C) 8433 m/s | ||||||||||||||||||||||||||||||
ヤング率 | 185[4] GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||
剛性率 | 52[4] GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||
体積弾性率 | 100 GPa | ||||||||||||||||||||||||||||||
ポアソン比 | 0.28[4] | ||||||||||||||||||||||||||||||
モース硬度 | 7 | ||||||||||||||||||||||||||||||
CAS登録番号 | 7440-21-3 | ||||||||||||||||||||||||||||||
バンドギャップ energy at 300 K | 1.12 eV | ||||||||||||||||||||||||||||||
主な同位体 | |||||||||||||||||||||||||||||||
詳細はケイ素の同位体を参照 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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ケイ素(けいそ、珪素、硅素、英: silicon、羅: silicium)は、原子番号14の元素である。元素記号はSi。原子量は28.1。「シリコン」とも呼ばれる。
名称
1787年に、アントワーヌ・ラヴォアジエが「silicon」と名付けた。ラテン語の「silex」「silicis」(燧石)にちなむ。のちに、宇田川榕庵が「舎密開宗」で「珪土」をケイ素(シリコン)の訳語とした。オランダ語のシリコンは「keiaarde」であり、「keisteen-aarde」(火打石の土)の短縮形であるため、玉偏の同音字「珪」(けい、「圭」の異体字)で音写した。のちに「硅」も出現したが、「珪素」が基準となった[要出典]。中国名の「硅」はこの日本の音写由来であると考えられる[注 1]が、発音はguī(グイ)と日本とは異なり[注 2]、また台湾においては旧来[注 3]の「矽」(xī、シー)が21世紀初頭現在においても用いられている[5]。
性質

標準状態で安定な結晶構造はダイヤモンド構造。比重2.33、融点1410 °C(1420 °C)、沸点 2600 °C(ほかに2355 °C、3280 °Cという実験値あり)。ダイヤモンド構造のケイ素は、1.12 eVのバンドギャップ(実験値)をもつ半導体である。これは非金属元素であるが、圧力(静水圧)を加えると、βスズ構造に構造相転移する。このβスズ構造のケイ素は金属である。更にケイ素には、シリセンという、ケイ素原子が環状に6個結びついた同素体がある。周期表において、すぐ上の元素は炭素だが、その常温・常圧での安定相であるグラファイト構造は、ケイ素においては安定な構造として存在できない。
分布
ケイ素は、地球の主要な構成元素のひとつである。地球地殻の質量の74.32 %は酸素(46.60%)とケイ素(27.72%)で占められており[注 4]、石英の成分であるSiO2が地殻の大部分を構成している[7]。地殻の造岩鉱物の92 %はSiO4の四面体を結晶構造の基本単位とするケイ酸塩鉱物である[7]。
歴史
1787年に、アントワーヌ・ラヴォワジエが初めて元素として記載した。しかしラヴォワジエは、燧石そのものを元素だと思っていた。
1800年に、ハンフリー・デービーの研究によって燧石は化合物だったことが判明した。
1811年に、ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックとルイ・テナールが、のちのベルセリウスと同様の方法でアモルファスシリコンの分離に成功したと考えられている。
1823年に、イェンス・ベルセリウスが四フッ化ケイ素とカリウムを加熱して単離に成功した。
用途
バンドギャップが常温付近で利用するために適当な大きさであること、ホウ素やリンなどの不純物を微量ドープさせることにより、p型半導体、n型半導体のいずれにもなることなどから、電子工学上重要な元素である。半導体部品として利用するためには高純度である必要があり、このため精製技術が盛んに研究されてきた。現在、ケイ素は99.9999999999999%(15N[注 5])まで純度を高められる。また、Si(111) 基板はAFMやSTMの標準試料としてよく用いられる。

赤外光学系
ケイ素は赤外域(波長2–6 μm)で高い透過率があり、レンズや窓の素材に用いられる。波長4 μmの屈折率は3.4255[8]。
半導体素子

四塩化ケイ素やトリクロロシランから作られる高純度ケイ素の塊(シリコンウェハー)は、半導体素子に用いられる。また、液晶ディスプレイのTFTやソーラーパネルには、アモルファスシリコンや多結晶シリコンなどが用いられる。ヒ化ガリウムや窒化ガリウムなどの化合物半導体の基板にシリコンを用いれば、大幅な低価格化が可能であり、さまざまな研究や実用化が進められている。
ケイ素含有合金
電気炉における製鉄材料として鉄1トンあたり4 kg前後のケイ素が添加されるほか、ケイ素合金として製鉄の脱酸素剤に用いられる。そのほかに、ケイ素を混ぜた鋼板(ケイ素鋼板)は、うず電流による損失が少なくなるため、変圧器に使われている。アルミニウム工業の分野でもケイ素の合金が使われている。また、鉛レス黄銅にも添加される。
ケイ素含有セラミックス類
ケイ素の酸化物(シリカ)を原料とするガラスは、窓などで使われるほか、繊維状にしたグラスウールは断熱材や吸音材としても用途がある。ゼオライトは、イオン交換体、吸着剤あるいは、有機化学工業における触媒ともなっている。シリカゲルは、非常に利用しやすい乾燥剤になる。
炭化ケイ素は、耐火材や抵抗体として使われたり、高いモース硬度(9.5)を持つために研磨剤として使われたりする。そのほかのケイ素化合物として、アルミノケイ酸塩が粘土に含まれ、陶器やセメント・煉瓦などセラミックスと呼ばれる材料の主成分になっているほか、カルシウム化合物を除去する働きから、水の精製に使われるなどしている。
アボガドロ定数の決定
ケイ素の単結晶は半導体材料として工業上重要であるため、もっとも高純度・低欠陥な結晶が実現されている材料のひとつである。このことから、28Siのほぼ無欠陥な単結晶により真球を作成し、この真球からアボガドロ定数の正確な値と、1 キログラムを構成するのに必要な原子の個数を決定する試みが行われた[9]。2019年5月20日よりアボガドロ定数は6.02214076×1023 mol−1という定義値として施行されることになった。
機械式時計の部品
ケイ素は鉄と違って軽いうえ磁性を帯びないため、機械式時計の部品(ゼンマイ、ガンギ車など)の素材としても用いられるようになっている。最初に実用化に成功したのはスイス・ユリス・ナルダンの『フリーク』(2001年)[10]で、以降スイスの高級時計メーカーで採用が進められている。日本では、2021年にセイコーエプソンがプリンターヘッドの製造技術を応用し、「オリエントスター」ブランドで初めて発売に踏み切った[11]。
ただし、製造にはLIGAやMEMSなど高度な成型技術が必要なうえ、壊れやすいため歩留り率が低いなど、実用化されてから日が浅いため欠点や不明な点が多く、採用しないメーカーも多い。
ケイ酸塩・ケイ素樹脂
前述のように、ケイ酸塩はさまざまな形で地殻上に存在しており、天然に存在するケイ素化合物のほとんどが、二酸化ケイ素およびケイ酸塩である。工業的にも広く用いられ、ガラス、陶磁器、肥料など、枚挙に暇がない。
アスベストは、繊維状のケイ酸塩鉱物であり、耐薬品性や耐火性から以前は建材などに広く用いられたが、中皮腫が問題になったため、使用量は激減している。日本でもアスベストによる健康被害が社会問題となり、労災認定や健康被害を受けた人に対しての補償問題、また、依然として既存建築物に多く残るアスベストの撤去問題を抱える。
有機基を有するケイ素二次元および三次元酸化物は、シリコーンと呼ばれる。このものは、優れた耐熱性、耐薬品性、低い毒性などの有用な性質を示し、油状のものはワックス、熱媒体、消泡剤などに用いられる。三次元シリコーンはゴム弾性を示し、ゴム状のものはホースやチューブ、樹脂状のものは塗料や絶縁材、接着剤など各種の用途に利用される。
製法
原料
工業用ケイ素の主原料は、SiO2からなる二酸化ケイ素(珪石、石英、シリカとも)である。日本国内の埋蔵量は2億トンあるとされるが、アルミニウムと同様、酸化物から還元するには大量の電力を必要とするため、金属シリコンの状態になってから輸入するのが一般的である。
世界の二酸化ケイ素の埋蔵量はきわめて潤沢であり、高純度のものも世界に広く分布する[12]。二酸化ケイ素#埋蔵量を参照。
精製
- 金属グレードシリコン(MG-Si)
- 英語で"metallurgical-grade silicon" (MG-Si)と呼ばれる。直訳で「冶金グレードシリコン」であるが、日本語で金属グレードシリコンや金属シリコンと呼ばれることもある[13]。
- ケイ素の単体はカーボン電極を使用したアーク炉を用いて、二酸化ケイ素を還元して得る。この際、精製されたケイ素は純度99 %程度のものである。
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- 半導体工学
- シリコンバレー
- プラント・オパール
- シリコンフォトニクス
- 多結晶シリコン(ポリシリコン)
外部リンク
- ケイ素 - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)
- 国際化学物質安全性カード ケイ素 (ICSC:1508) 日本語版(国立医薬品食品衛生研究所による), 英語版
- “安全データシート ケイ素(粉末、無定形のもの)”. 職場の安全サイト. 厚生労働省 (2010年3月). 2018年2月23日閲覧。
- 『ケイ素』 - コトバンク
ケイ素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 04:16 UTC 版)
植物が吸収するケイ素の形態は、電荷をもたない中性分子として土壌溶液中に溶け込んでいるケイ酸である。この溶解性ケイ酸はpH9以下で現れ、土壌溶液中に0.1〜0.6mM程度存在する。pH9以上になると、電荷を持ったケイ酸塩となる。また、ケイ酸濃度が2mM以上となると重合してシリカとなる。ケイ酸の溶出元は、土壌中に豊富な二酸化ケイ素である。これは、岩石の主成分として土壌質量の50-70%を占める。 植物地上部のケイ素含有率(% dry wt)植物ケイ素含有率稲3.91 小麦1.54 カボチャ1.34 ズッキーニ1.98 ひよこ豆0.30 キュウリ2.29 トウモロコシ2.10 植物にとってのケイ素の重要性を説明する前に、植物中のケイ素の存在量を説明する。ケイ素は、土に根を下ろす全ての植物に含まれており、その含有量は植物種によって大きく異なる(下表)。被子植物ではイネ科とカヤツリグサ科が特に高い。双子葉植物では、ウリ科とイラクサ科を除いて低い。身近な植物では竹やトウモロコシやトクサがケイ素集積植物である。これらの集積能力の違いは、後述する根のケイ素吸収能力の違いに起因する。 ケイ酸含量に基づき、植物は以下の3つのグループに分類される。 ケイ酸含量10-15% ― 湿地イネ科(水稲、スギナ) ケイ酸含量1-3% ― 乾燥地イネ科(サトウキビ、穀物のほとんど、双子葉植物のいくつか) ケイ酸含量0.5%以下 ― 双子葉植物のほとんど、特にマメ科植物 次に、ケイ素の必須性を概略的に説明する。必要とする植物は限られており、サトウキビやトクサ科植物などである。しかし、必須ではなくとも、多くの植物種で適正な量を与えるとその成長を促進する。その効果は生物的・非生物的ストレスの軽減および光合成の促進である。下にまとめる。 生物的ストレス耐性病害耐性稲のいもち病、胴枯れ病、紋枯病、褐斑病など キュウリ、大麦、小麦のうどん粉病 サトウキビの輪紋病 ササゲのさび病 虫害耐性 (ニカメイガ、ウンカなど) 化学ストレスの緩和金属毒性の緩和(Al、Cd、As、Mn、Feなど) 栄養素過不足の改善(窒素過剰、リン不足など) 塩ストレスの緩和 物理ストレスの緩和倒伏の防止 高温および低温耐性の向上 霜害の防止 乾燥耐性の向上 放射線耐性の向上 光合成の促進葉の垂れ下がりの防止(直立葉、英: leaf erectness)による、葉の受光姿勢の改善および他の個体に対する遮光の防止 これらの効果は、ケイ素を多く集積する植物で顕著に現れる。一方で、あまり集積しない植物では現れにくい。光合成の促進効果は、窒素の多量投入かつ密植集約で栽培する場合に特に顕著となる。以下にケイ素の効果を各論で説明する。 病害・虫害耐性向上の仕組みは2つ提唱されている。一つは、ケイ素が組織に沈積し、物理的な障壁[ 英: physical barrier]を形成して糸状菌や害虫の侵入を防ぐというものである。もう一つは、植物体内に溶け込んでいるケイ酸が抗菌性物質(フェノール化合物やファイトアレキシンなど)の生産と抗菌性酵素(キチン分解酵素、過酸化酵素、ポリフェノール酸化酵素など)の活性を高めるというものである。この仮説の中でケイ酸は、病原菌に対する宿主植物の応答を促進させる役目を担う。 物理的ストレス耐性の向上は、ケイ素が植物体内に沈積することによる。沈積は茎の稈壁の厚さと維管束の太さを増加させ、また、クチクラ蒸散を抑制して乾燥を防ぐ。これらの働きは稲の場合で典型的に効果的である。収穫期の台風による倒伏を減少させる。また、特にもみ殻の過蒸散を抑える効果があるため、沈積量が少ないと白穂が発生しやすい。 マンガン過剰の緩和はイネ、大麦、豆、カボチャで見いだされた。このマンガンストレスの軽減機構は植物種によって異なる。稲では、ケイ酸が根の酸化力を向上させることによってマンガンの過剰な吸収を抑える。大麦と豆においては、ケイ酸はマンガンの吸収に影響しないが、体内のマンガン濃度を均一化させる。カボチャでは、体内のマンガンを不活性の部位(毛茸)に局在化させることで、マンガンの過剰害を回避させる。 マンガンはアルミニウムやナトリウムの害、およびリンの欠乏・過剰も緩和する。ケイ酸は土壌溶液中のアルミニウムイオンと結合し、植物へと吸収されないようにしている。ナトリウムの取り込みの防止は、ケイ素沈積による蒸散量の減少によると考えられている。稲ではリンが欠乏している場合、ケイ酸はリンの吸収に直接影響しないが、リン酸と欠乏しやすい鉄やマンガンの吸収を抑えることで間接的に体内のリンの有効度を高める。リン酸過剰では、ケイ酸がリン酸の吸収を抑える。 続いて、ケイ素の肥料としての側面を紹介する。上述したようにケイ素は植物体を強化する。加えて、根の重量や密度を高めるとともに植物の成長や生理活性を向上させ、作物のバイオマスと収量を改善させることも見出されている。このため、多くの国で肥料として重要視されている。例えば、日本は1955年に世界で初めてケイ素を、稲の安定収量に重要な必須栄養素と認定した。米国飼料検査官協会(英: Association of American Plant Food Control Officials)(AAPFCO)は2006年にケイ素の植物有用物質としての等級を上げた。 ケイ素は、土壌中に存在する元素の中で唯一、過剰害を引き起こさない。これは、植物が通常生育可能なpH(pH9以下)において、電荷を持たない分子であるためと、ケイ素濃度が2mMを超えると重合して植物に吸収されなくなるためである。このため、過剰害を引き起こす他の元素のように、電荷を持った塩として、細胞内に高浸透圧を作り出したり生体分子と結合したりしない。 次に、植物体内のケイ素の生理学的挙動を、根の吸収から地上部組織への分配、植物成長への寄与まで順を追って説明する。まず、根によるケイ酸の吸収である。その機構には、積極的な吸収と受動的な吸収がある。また、これとは別に、体内のケイ酸を排出する仕組みもある。これらの機構の有無は植物によって異なる。稲は積極的に吸収し、培地溶液のケイ酸濃度を素早く減少させる。キュウリは受動的に吸収し、培地中の濃度はほとんど変わらない。トマトは排除機構を持ち、水の吸収に伴いケイ酸濃度を上昇させる。ただし、これら3つの植物において、根のケイ酸輸送体のケイ酸への親和性は同程度である。取り込みの最大速度は稲>キュウリ>トマトであり、この違いは、細胞当たりの輸送体の発現量の違いに起因する。加えて稲は、導管中のケイ酸濃度は外部より濃縮されていたのに対し、キュウリとトマトではより低かった。稲は、体内での導管へのケイ酸の輸送を能動的に行うことができると予想されている。 根のケイ酸輸送体として、稲と大麦とトウモロコシでLsi1とLsi2の2つが発見されている。ケイ酸吸収欠損変異体lsi1(low silicon 1)から同定されたLsi1は、細胞の外から中へと輸送する。根の外皮と内皮の両層において、細胞の遠心側に局在する。アクアポリンと同じファミリーに属する。一方、Lsi2は内から外に向けて働き、外皮と内皮の向心側に局在する。陰イオン輸送体と似た構造を持つ。2つの輸送体の一次構造には全く相動性は見られない。共通する点は、主に根、特に基部での発現が多いことと、主根と側根に発現するが、根毛がある表皮細胞には表れないことである。これらの発現事情は根でのケイ酸吸収に関する生理学的実験の結果―吸収量は先端よりも基部でより多い、かつ、吸収に対して根毛による寄与がない―と一致する。 次に、根のケイ酸輸送体により吸収されたケイ酸が導管で地上部へと運ばれる機構を説明する。この運搬過程において興味深い点は、導管中のケイ酸濃度が20mM以上にも達する事実である。これは、ケイ酸が重合して不溶性のシリカゲルに変化する飽和濃度(常温で2mM)を大きく上回る。しかし、導管内のケイ素の形態は単分子のケイ酸のみである。飽和濃度以上でも重合が起こらない理由は、濃縮と輸送の過程が素早いためだと考えられている。 地上部へと運ばれた後、導管中のケイ酸は葉や茎などの組織に分配される。この分配を担うのは、導管中に分布する外向き輸送体のLsi6である。Lsi6は前述のLsi1の相同遺伝子であり、稲とトウモロコシで発見された。葉鞘と葉身の導管に隣接する木部柔組織に発現し、導管に面して偏在する。 Lsi6を介して地上部組織(葉、茎、もみ殻、果実表面など)に分配されたケイ素は、蒸散に従って濃縮され、重合して非晶性で不定形のシリカとなる。植物体内のケイ素の95%以上はこのシリカとして存在する。シリカは、クチクラ層直下のアポプラスト(クチクラ-シリカ二重層)や機動細胞、短細胞、長細胞などの細胞に沈積することが稲の葉身においてわかっている。細胞中では小胞体、細胞壁、細胞間隙に沈着する。その後、ポリフェノールと複合体を形成し、細胞壁を構成するリグニンに置き換わる。いったん沈積したケイ素はほとんど再移動しない。こうして、細胞壁をより頑強にする。 イネ科植物のケイ化細胞は植物オパールとして知られ、枯死後も土壌に残留する。植物オパールは植物種ごとに特徴的な形をしているため、考古学ではその土地に生えていた植物を推測するための手掛かりとなる。
※この「ケイ素」の解説は、「栄養素 (植物)」の解説の一部です。
「ケイ素」を含む「栄養素 (植物)」の記事については、「栄養素 (植物)」の概要を参照ください。
「ケイ素」の例文・使い方・用例・文例
- 二酸化ケイ素と結合している点で頁岩と、また粘板岩の劈開を持たない点で粘板岩と異なる堆積岩
- 二酸化ケイ素から成る白色の鉱物
- 不定色の水和した二酸化ケイ素から成る、半透明の鉱物
- 結晶形の二酸化ケイ素から成る、光沢のある硬い鉱物
- 炭化ケイ素の結晶から成る研磨剤
- 粘土と二酸化ケイ素を混ぜ合わせた褐鉄鉱からなる顔料
- より電気的陽性の元素または基を含んだケイ素の各種の化合物の総称
- 非常に吸収性がある二酸化ケイ素の多孔質形
- 2−3パーセントのケイ素を含む青銅で、耐食性がある
- 二酸化ケイ素の鉱物形態
- ケイ素という非金属元素
- ケイ素の結晶成長
- 石英という二酸化ケイ素からなる鉱物
- 石英ガラスという二酸化ケイ素だけからなるガラス
- ケイ素を半導体に用いたトランジスタ
- 有機ケイ素化合物を重合した高分子化合物
- 炭化ケイ素繊維という合成繊維
- アモルファスシリコンというケイ素
- ケイ素から作った特殊合成樹脂
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