低温耐性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/10 05:07 UTC 版)
低温における微生物のストレス耐性として一般的なのは細胞膜組成を変化させることである。これは、低温による生物への害は第一に膜中の流動性の低下であるためである。超好熱性古細菌であるMethanocaldococcus jannaschiiの場合、生育至適温度(75度)では主な膜脂質はテトラエーテル型や大環状ジエーテル型の脂質であるが、低温(47度)ではジエーテル型脂質になる。温度依存的な膜脂質の組成の変化は超好熱性古細菌Termococcus kodakarensisでも確認されている。 低温による核酸分子やタンパク質の構造の異常変化(変性)への対処はシャペロンによって行われる。シャペロンは、変性した構造を元の状態に戻す働きを持つ。低温下での変性とは、核酸の場合、分子内に熱力学的に安定な二次構造が形成されて転写と翻訳の過程に問題が生じることである。タンパク質の場合、構造変化は機能を喪失させる。 低温に対応するRNA結合性シャペロンの一群を低温ショックタンパク質[ 英: cold-shock protein:Csp ](RNAシャペロン[ 英: RNA chaperone ])と呼ぶが、Csp遺伝子は好熱性細菌であるThermus thermophilusやThermotoga maritimaも持っている。Cspは、RNA上に生じた余分な二次構造を一本鎖状にほどき、遺伝子発現とタンパク質合成を可能にする。Cspには低温応答性[ 英: cold-induced ]のものと非低温応答性[ 英: non-cold-induced ]のものがある。大腸菌の場合、Csp遺伝子は9種類あるが、そのうち4つが低温応答性である。 低温に対応するタンパク質結合性分子シャペロンの例として、T. kodakarensisにてCpkAが発見されている。CpkAは低温依存的に発現し、低温で変性したタンパク質を特異的に認識して再生させる。CpkAが低温への適応にどれほど重要なのかを示す研究結果が2015年に示された。それは、CpkAのATPase活性(変性状態から天然状態に回復させるためのエネルギーをシャペロンが作るための活性)の至適温度をさらに低くする点変異を導入したT. kodakarensisが、より低い温度でも生育したというものである。 RNAの低温変性に対しては、シャペロンのほか、ある種のRNAヘリカーゼも対処する。T. kodakarensisは低温ストレス応答性DEADボックスRNAへリカーゼ[ 英: cold stress-inducible DEAD box RNA helicase:Tk-DeaD ]を持つ。これは60度で機能し、ステム構造のRNAをほどく反応[ 英: unwinding ]を触媒する。Tk-DeaD遺伝子の破壊株は60度で増殖後に溶菌することからこの温度帯の生育に必須であることが示唆されている。 Tk-DeaDの研究は、好熱菌において低温応答性遺伝子はどのようにして低温をトリガーに発現誘導されるか、その機構の一つの解明につながった。低温発現は、SD配列とTk-DeaD遺伝子の開始コドンとに挟まれたアデニン連続領域(AAAAA配列)によって誘導されている。RNAポリメラーゼがアデニンを転写するとチミンが合成され、鋳型鎖上のアデニンと娘鎖上のチミンは水素結合するが、重要なのはこの水素結合は弱いという点である。したがって、AAAAA配列は鋳型鎖と娘鎖との間に、高温に対しても特に弱い結合部位を作り出す。温度が高くなればなるほど鋳型鎖と娘鎖の結合は切れやすくなり、転写が終了する確率が高くなる。おそらく生育至適温度(85度)ではAAAAA配列を超えて転写されることは不可能であろう。このため、AAAAA配列より下流にあるTk-DeaD遺伝子は低温でなければ転写されなくなる。 Tk-DeaD遺伝子で見られたような、弱い水素結合を生み出す塩基配列による低温発現誘導機構はT. kodakarensisに多く存在する。生育至適温度(85度)に比べて低温(60度)で、T. kodakarensisの50遺伝子で4倍以上の発現量の増加が見られた。このうち40遺伝子でAまたはTに富む配列がSD配列と開始コドンの中間領域に認められた。
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低温耐性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/07 14:28 UTC 版)
ムカシトカゲは多くの爬虫類が耐えられる温度よりかなり低い温度でも生存でき、冬眠することでも知られている。気温5〜10℃でも活動し、それより寒くなると冬眠する。7℃までは通常の活動性を維持でき、16〜21℃が適温であるが、これはすべての爬虫類の最適温度中最低の部類である。28℃以上になると多くの場合は死に至る。トカゲ類より低い代謝率をもつが、それは体温の差に現れている。体温はトカゲ類が約20℃の体温なのに対し、5.2〜11.2℃の範囲である。
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