耐寒性について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 13:57 UTC 版)
本種の耐寒性に関しては多くの研究があり、生活史との関連も論じられている。一般にクモ類では耐寒性を高める為に、体液の成分を調節するなどの方法で体組織の過冷却点(組織が凍り始める温度)を下げ、低温でも凍らないようにする方法がとられる。本種の場合、季節によってこの温度が変わる。札幌の個体群での研究によると、夏には-7℃であるものが、冬には-20℃まで下がる。札幌の戸外は最低温度が-15℃程度であり、このことが冬季を乗りきる上で大きな意味を持つ。 消化管の内容物が、低温下において、体内で氷の結晶を作らせる原因となる可能性が示唆されており、オオヒメグモの場合、秋から冬に摂食活動が低下することが知られている。これは低温によって起きるものではなく、恒温条件下でも日長を調節して明期を15時間以下とした短日条件で引き起こせる。15時間の日長は弘前付近では8月下旬に当たり、これは越冬への準備がこのころから始まっていることを意味する。 低温による悪影響そのものとしての低温障害への耐性も季節によって変化する。48時間で実験個体数の50%が死亡する温度を調べると、越冬幼生では-13.7℃であるが、夏季の幼生のそれは-2.1℃である。 本種において、北海道や東北など、日本の北部個体群では短日条件で休眠が引き起こされ、これは卵以外の全ての発育段階で見られる。幼生がどの段階で休眠に入るかは状況によって変化する。日長の短さ・低温・餌不足・これらの条件が強いほど若い段階で休眠する。このクモは7月上旬から10月上旬まで散発的に産卵するので、当然ながら越冬時の大きさにはばらつきがある。それら様々な段階で越冬に入れる、というのがこの性質のもたらす利点である。他方、成虫の出現や産卵開始の時期は揃っており、これには何らかの仕組みが別にあることが推測されている。ただ、弘前では9月下旬以降の卵は低温の為に孵化できないらしく、また卵には低温耐性がない。産卵開始を揃えることにはこれに関連した意味があるらしい。 なお、沖縄の個体群では夏季と冬季で比較すると冷温致死温度は低下するものの過冷却点は低下しない。沖縄の個体群も冬季には休眠に入り、特に繁殖活動は抑えられる。沖縄の冬の平均気温に近い15℃では、幼生の成長、親の産卵は可能であるが、孵化は出来ない。この種は元来が熱帯系のものと考えられ、沖縄のような亜熱帯域に進出した際に低温耐性と休眠が結びつき、さらに温帯域に進出する際に過冷却点低下を獲得したと考えられる。
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