グリシンベタイン蓄積によるストレス耐性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 16:18 UTC 版)
「遺伝子組み換え作物」の記事における「グリシンベタイン蓄積によるストレス耐性」の解説
グリシンベタインは、テンサイ、ホウレンソウなどのアカザ科植物やコムギなど低温耐性の植物に多く含まれる適合溶質であるが、イネやトマトやアラビドプシスは蓄積しない。多量に含まれても細胞の生化学反応や細胞内小器官には悪影響を及ぼさずに浸透圧の調整、活性酸素から膜やタンパク質の保護を行うことが知られている。そこで、グリシンベタインを生合成しない植物にグリシンベタインを合成させてさまざまなストレス耐性を強化する試みがある。 グリシンベタインはコリンがベタインアルデヒド (betaine aldehyde) を経て酸化されて合成される。この反応を行う合成系にはいくつかの種類があることが知られている。植物ではプラスチドで合成される。コリンからベタインアルデヒドへ酸化する酵素、コリン一酸素添加酵素はフェレドキシン要求性の酵素である。次にベタインアルデヒドからグリシンベタインへ酸化する酵素、ベタインアルデヒド脱水素酵素によってグリシンベタインへと酸化される。一方、細菌Arthrobacter globiformisでは分子状酸素のみを要求する一種類の酵素、コリン酸化酵素によって合成されている。A. globiformisのコリン酸化酵素の遺伝子codAは、導入する遺伝子が1つで済むこととコードしている酵素がコリンと分子状酸素以外には必要としない性質のため、植物や大腸菌由来のグリシンベタイン生合成酵素遺伝子よりも植物に導入されている例が多い。 なお、コリン一酸素添加酵素遺伝子であるcodAを植物で発現させてもグリシンベタイン生成量が少ないのは、植物中のコリン含量が制限要因となっているからである。そこで豊富に存在するグリシンからグリシンベタインへ変換する別のグリシンベタイン合成経路を利用する試みがある。メタン生成古細菌Methanohalophilus portucalensis FDF1株由来のグリシン サルコシン N-メチル基転移酵素 (glycine sarcosine N-methyltransferase: GSMT) とサルコシン ジメチルグリシン N-メチル基転移酵素 (sarcosine dimethylglycine N-methyltransferase: SDMT) を植物で生産させた。GSMTはグリシン N-メチル基転移活性(グリシン N-メチルトランスフェラーゼ)とサルコシン N-メチル基転移活性を、SDMTはサルコシン N-メチル基転移活性とジメチルグリシン N-メチル基転移活性を持つ。つまり、GSMTとSDMTによりグリシンからサルコシンへ、サルコシンからN, N-ジメチルグリシンへ、N, N-ジメチルグリシンからグリシンベタインへ変換される。GSMTとSDMTが生産されているシロイヌナズナは塩耐性を示した。 グリシンベタインを生産するようになった形質転換植物は、低温ストレス、高温ストレス、乾燥ストレス、凍結ストレス、塩ストレスなどさまざまなストレスに抵抗性を示すようになる。合成されたグリシンベタインのモル濃度だけでは、そのストレス抵抗性を説明できない。そこで、グリシンベタインの細胞内局在による局所的高濃度、膜やタンパク質に対する保護作用、コリン酸化酵素の反応に伴い生じる過酸化水素による活性酸素消去系酵素の常時誘導など、ストレス耐性機構を説明するさまざまな説がある。
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