葬儀 葬儀の概要

葬儀

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/13 11:11 UTC 版)

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葬儀の様式にはそれを行う人たちの死生観、宗教観が深く反映される。その意味で葬儀は、宗教が文明に発生する以前の旧石器時代から行われてきていた宗教的行為であるといえる。

また、葬儀は故人のためだけでなく、残された人のために行われるという意味合いもあり、残された人々が人の死を心の中で受け止めるのを援助する儀式でもある。

歴史

現在、発見されている歴史上初めての葬儀跡と言われている物が、イラク北部にあるシャニダール洞窟で見つかっている。この洞窟の中には約6万年前と推定されるネアンデルタール人の骨が見つかっており、その周辺にはこの洞窟から見つかるはずの無い花粉が見つかっている。これは死者を弔うためにを死体の周りに添えたと解釈されている。しかし、近年の研究では、ネアンデルタール人による埋葬の習慣に関して疑問が投げかけられており、また、仮に埋葬の習慣を認めるとしても、その形式は、ホモ・サピエンス(現生人類)と比較すると、かなり単純である[1]

ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人と違い、抽象的思考力や認知能力、言語能力が高く、高度な精神文化を発達させた。その結果として、ネアンデルタール人と違い、ホモ・サピエンスによる埋葬の形式は高度化した。

ギルガメシュ叙事詩』の主人公ギルガメシュは、死んだ友人エンキドゥの復活を願い埋葬せずに7日7晩嘆き悲しんだが、その死体が腐敗していく様に恐怖した。古代エジプト古代ギリシャなど、古代社会では死者の腐敗は恐怖の対象であり、死者の不名誉な姿を見ないために葬儀が行われた。

古代ギリシャや古代ローマでは、霊魂は不死であり、死後一定期間肉体の周辺にとどまった後に冥界天界に旅立つ、と考えられた。古代ギリシャでは土葬火葬が併用されたが、土葬に比べて火葬は手間と費用が必要だった。エトルリア文化の影響のあった古代ローマでも火葬と土葬は混在していたが、肉体の復活を信じる人は土葬を選択した[2]

宗教ごとの葬儀

キリスト教

カトリック教会

カトリック教会における葬儀観は、現代のカトリック教会の精神をもっともよく表している第2バチカン公会議の文書の一つ『典礼憲章』から読み取ることができる。同文書では「葬儀はキリスト信者の死の過ぎ越しの性格をより明らかに表現し、典礼色も含めて各地方の状況と伝統によりよく適応したものでなければならない」(81条)としている。現代のカトリック教会における葬儀は、この文書をうけて改訂され、1969年に発表されたカトリック教会の儀式書『葬儀』およびその各国語訳に基づいておこなわれているが、それ以前のものと比べると二つの特徴をあげることができる。

まず、第一は葬儀が「キリスト信者の過ぎ越しの性格を表現するもの」であると宣言されていることである。つまり死が人間にとって完全な終わりではなく、キリストを信じることで永遠の命復活への希望に入るものとなるということである[3][4]。このことからカトリック教会では信徒の死を「帰天」と呼ぶことがある。かつてのカトリック教会では、死と関連して死後の審判や煉獄地獄の恐怖が強調されることが多かったが、そのような考え方もこの視点によって修正された。これと関連して葬儀ミサ(レクイエム)で歌われた続唱などが、その内容がキリスト教本来の死生観から外れたものとして廃止されている。

第二の特徴は、カトリック教会の葬儀は全世界一律でなく地域の文化に合わせる柔軟さを持っているということである。日本においても当然固有の文化と伝統が尊重される。この精神に従って日本での葬儀では献花の他に焼香が行われることもあり、カトリック信徒でない参列者が多数を占めることが多いという現実が配慮されている。具体的には葬儀で用いられる用語や固有の表現は可能な限り避けられ、ミサに代えて「ことばの祭儀」を行いうることなどがあげられる[5]

カトリック教会における葬儀は、死者のために祈ることももちろんであるが、残された生者のために祈る場でもあり、神が悲しみのうちにある遺族を励ましてくださるよう祈ると同時に、キリストに結ばれたものとして、キリストが死んで復活したように自分たちもキリストの死と復活にあずかることができるという信仰を再確認する場でもある[5]

正教会

アレクシイ2世の埋葬式の模様(救世主ハリストス大聖堂)。基本的にパニヒダや埋葬式などでは、教衆は白色の祭服を着用するが、参列者は黒色の喪服を着用するのが一般的。
『敗北。パニヒダ。』(ロシア語: Побежденные. Панихида.ヴァシーリー・ヴェレシチャーギンによる露土戦争の一場面を描いた油彩画。膨大な数の兵士達の遺体を前に、正教会司祭振り香炉を振りつつ、パニヒダを捧げている。[6]

ギリシャ正教とも呼ばれる正教会の葬儀は、埋葬式と呼ばれ、主に連祷と、無伴奏声楽による聖歌から構成されている(正教会の聖歌は無伴奏声楽が原則である)。永眠した正教徒が、神からの罪の赦しを得て天国に入り、神からの記憶を得て、永遠の復活の生命に与ることを祈願するものである[7][8][9]

正教会では「逝去」「亡くなられた」「故人」ではなく、それぞれ「永眠」「永眠された」「永眠者」の語が用いられる。これは、正教会においては死は来世の復活の生命に与るまでの一時的な眠りとして捉えられている為である。

埋葬式の前晩にはパニヒダが行われる。正教会においては終夜、永眠者のために祈ることは初代教会から大事にされた伝統であるとされ、前晩のパニヒダを通夜と呼ぶ事もあまり忌避されない(「パニヒダ」の語源がそもそも「夜通しの祈り」という意味である)。また、永眠後の「三日祭」「九日祭」「四十日祭」「一年祭」「年祭」にもパニヒダが行われる。正教会においては死は忌むべきものではなく復活への入口であるため、このように「祭」の語彙が用いられる[7][8]

プロテスタント

プロテスタントの葬儀は欧米では日中の葬儀・埋葬礼拝のみであることが多い。

キリスト教(特にプロテスタント)では、人の死は忌むものではなく、人の霊が地上の肉体を離れ、天にいる神とイエス・キリストのところに召されることであり、イエス・キリストの再臨において復活するための準備に過ぎない(このことからプロテスタント諸教派では信徒の死を「召天」と呼ぶことがある。したがって、死とは、天国において故人と再会できるまでの一時の別れであり、地上に残された者(遺族などの生存者)にとっては、その別れが寂しく慰められるべき事であるが、死そのものは悲しむべき事ではないと説明される。

日本では通夜の代わりに「前夜式」を行なうことがある。

イスラーム教(イスラム教)

グラム・アザムの葬儀の様子(2014年、バングラディッシュ、ダッカにて)

イスラーム教における死は、神アッラーへの服従と一時的な別れとし、アッラーの審判の日に復活をすると信じられているため、土葬される。死後なるべく早く葬儀を済ませるべきであるという考えから、死亡の翌日には執り行われることが多い。死亡した場所の法律にもよるが、同性の遺族または専門の業者が遺体を洗浄し、縫い目のない白い布に包まれ、ミンバル(説教壇)の前にある台に設置される。その前にイマーム(導師)が立つ。礼拝はイマームに従い、参列者が起立したまま行われる。 遺族が葬儀中に泣き叫ぶことは禁止されている一方で、泣き女として雇われた女性が「オルルル!」という声を響かせる。礼拝が終わると遺体が墓地へ運ばれ、頭部をメッカの方向を向かせて、右腕が下になるようにして埋葬される。遺族は男性は3日間、女性は4ヶ月10日間を喪に服し、派手な生活は控えるよう規定されている。

道教

台湾の葬儀の準備

中国台湾では道教風水の影響を強く受けた葬儀が行われている。 葬儀にはを基調とした色が用いられ、「白事」とも呼ぶ(逆に婚礼は赤を基調とし「紅事」とも呼ぶ)。 まず、遺体を整え、洗い清めた後に「寿衣」と呼ばれる白い死に装束を着せる儀式「小殮」を行う。葬儀の手配をした後、葬儀の日程や場所を親戚や知人に知らせる「報喪」を行う。知らされた人は花輪(花圏)を用意したり、「対聯」と呼ばれる葬送にふさわしい言葉を書いて贈ったりする。葬儀の場所は葬儀場(「殯儀館」)を使う場合の他、自宅前の道路にテントを立てて行うことも多い。死者は葬儀が行われるまで「霊棚」などと呼ばれる祭壇に安置される(「停霊」)。祭壇には死者の遺影(「遺像」)を飾り、死者が好んだ食べ物などを供物(「供品」)として供え、線香や蝋燭の他、「紙銭」(紙幣状の冥銭)や「紙紮」と呼ばれる紙で作った日用品や家が用意される。通夜に当たる縁者による訪問を受けることは「守霊」と呼ぶ。この際、近親者は薄い色の生成りの布で作られた「孝服」と呼ばれる喪服を着て、藁縄で結んで留め、草鞋を履く。道士による読経の他、楽隊を用意して、チャルメラ(「嗩吶」)などの吹奏、鼓舞が行われる。

葬儀は「大殮」と呼び、家族の前で遺体を布団を敷いた棺に入れ、釘を打つ。裕福な家庭では遺体を入れた内棺を外棺に入れ、間に副葬品を入れる。やはり、道士による読経、楽隊の吹奏、鼓舞が行われる。

出棺は「出殯」といい、喪主(主に長子)が「摔盆」という陶器のを割る儀式を行う。土葬が行われることが多く、棺を担いで墓地まで送り届ける。「引魂幡」と称して、旗を掲げて葬列を先導し、楽隊が演奏を行い、爆竹を鳴らしながらついて行くが、現在は自動車に地味な色の飾り付けをして用いることも多い。埋葬の場所や、時間は風水師に決めてもらうことが多い。

埋葬後、7日毎に墓に出向き、「紙銭」を焼いて読経する「焼七」を7回行い、「断七」の四十九日まで行い葬儀は終わる。その後、伝統的には3年間は喪中とするが、現在は短縮化されている。後に遺骨を洗い、骨を「金塔」と呼ばれる陶器のや塔状納骨器に納め直すことが行われる。

儒教

儒教の葬礼は上記道教の葬礼と重なる部分も多い。

儒教においては親の葬儀を盛大に営む事が何より大切な事とされる。元々儒教教団はそう言った葬儀に関する様々なしきたりを教授するための人から生まれたものである。

儒教の死生観では人は死ぬと魂(こん)と魄(はく)と言う二つのたましいに別れる。魂は精神を、魄は肉体をつかさどるたましいであるとされる。魂は天の陽気からのたましいであり魄は地の陰気からのたましいである。魂は天に昇って神になり、魄は地に返る。残された者たちは魂を祀る為に位牌を作ってに祀り、魄の戻る場所として地中に遺体を埋める。

葬儀では死者の魂を天国や地獄など7つの世界を巡らせる儀式を行う。この儀式で死者の魂が最後に到達する世界はこの世であり、再びこの世に生まれ変わってきて欲しいとの願いを込めている。

また、死者との関係ごとに定められた作法で慟哭することが求められる(哭礼)。朝鮮半島では、葬儀に出席して声を上げて泣く事でお金を貰う泣き女が存在する。

バリ島のヒンドゥー教

バリ島の葬儀。葬列ではにぎやかなガムランが演奏され、晴れやかな儀式であるため人々の表情は一様に明るい。

水辺で火葬にし、そのまま水に流す。海が近ければ海まで、そうでなければ川まで、を運ぶ葬列を仕立てる。葬列では、楽器を運びながらガムラン音楽を演奏する。費用がかかるため、没後すぐに行えない場合も多い。貧しい村では数人の他界者が出るまで待ち、まとめて葬儀を行う。天国へ行くための晴れやかな儀式であり、葬儀へ参加する人々の表情は、一様に明るい。


  1. ^ 山田康弘『つくられた縄文時代』新潮社 2015年、ISBN 978-4-10-603778-8 pp.177-178
  2. ^ 小池寿子『死を見つめる美術史』ポーラ文化研究所 1999年、ISBN 4938547473 pp.44-50
  3. ^ 日本カトリック司教協議会、常任司教委員会、『カトリック教会のカテキズム要約』カトリック中央協議会、2014年2月10日。184頁(354)。
  4. ^ 第124回 キリスト教の葬儀 カテキズムを読もう Laudate 女子パウロ会
  5. ^ a b c 臨終から葬儀まで カトリック信者の手引き. 藤沢カトリック教会 葬儀を考える会
  6. ^ Vasily Vereshchagin. Defeated. Servise for the dead.
  7. ^ a b かたち-諸奉神礼:日本正教会 The Orthodox Church in Japan - 日本正教会公式サイト
  8. ^ a b 『誰でも知っておきたい正教会の諸習慣と常識』 - 長司祭牛丸康夫による訳文
  9. ^ 永眠者の記憶について - 長司祭長屋房夫による訳文[リンク切れ]
  10. ^ 冷凍葬について
  11. ^ 佐原真、『食の考古学』pp143-156、1996年、東京、東京大学出版会、ISBN 4-13-002074-9
  12. ^ コトバンク 知恵蔵mini [1]
  13. ^ author (2020年3月4日). “新型コロナウイルス感染症による 葬儀社対応(ご遺体火葬/ご遺体搬送)について | 板橋区で葬儀・葬式なら24時間対応の京花へ” (日本語). sougi-critic.com. 2020年4月19日閲覧。
  14. ^ 東京福祉会の事業の特色”. 東京福祉会. 2009年4月5日閲覧。[リンク切れ]
  15. ^ 帆刈浩之. “広東幇華人の慈善ネットワークに関する史的研究”. 東京大学文学部・大学院人文社会系研究科. 2009年4月4日閲覧。[リンク切れ]
  16. ^ a b 第125回 葬儀 カテキズムを読もう Laudate 女子パウロ会
  17. ^ 日本カトリック司教協議会、常任司教委員会、『カトリック教会のカテキズム要約』カトリック中央協議会、2014年2月10日。185頁(356)。
  18. ^ カトリック教会の命日祭 パウロ社
  19. ^ OCA - The Orthodox Faithアメリカ正教会公式ページ)
  20. ^ お通夜・告別式の服装のこと
  21. ^ 平均231万円日本の葬儀代  詐欺同然超高額のカラクリ
  22. ^ 国民生活センター - 増加する葬儀サービスのトラブル
  23. ^ 冠婚葬祭費積み立て、解約手数料「違法」判決 業者に返金義務 贈る葬儀こころ 2019年12月12日
  24. ^ 高木復興相側が香典や枕花代、公選法に抵触? 贈る葬儀こころ 2019年12月12日
  25. ^ 2011年2月11日の朝日新聞朝刊39面
  26. ^ 2011年2月10日の朝日新聞朝刊39面
  27. ^ 「宗教介入だ」仏教界困った イオンの葬儀サービスが「お布施」に目安 (1/2ページ) - MSN産経ニュース - 産経新聞 2010年7月2日
  28. ^ 「葬儀に料金透明化の動き イオンがひつぎ代など明文化 (1/2ページ) - MSN産経ニュース - 産経新聞 2010年1月24日
  29. ^ 産経新聞にコメントが掲載されました。 JT-VAN新着情報-2010年-”. 日本テンプルヴァン. 2010年7月5日閲覧。
  30. ^ 布施の価格目安
  31. ^ 僧侶見習が通夜、遺族憤慨 名古屋の寺「修行の一環」 朝日新聞 2013年2月5日
  32. ^ イラク北部で葬儀中に自爆攻撃、51人死亡”. AFP (2008年4月18日). 2018年3月25日閲覧。
  33. ^ イラク北部で少数宗教集団の葬儀狙った自爆攻撃、26人死亡”. AFP (2013年9月15日). 2018年3月25日閲覧。
  34. ^ アフガン東部の葬儀場で自爆テロ 15人死亡、ISが犯行声明”. 産経新聞社 (2018年1月1日). 2018年3月25日閲覧。


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