終活
終活(しゅうかつ)とは、自分自身の死を見据えた一連の活動を指す言葉。
終活の具体的な取り組みとしては、自身の葬儀や墓について準備する、遺言やエンディングノートを執筆する、身辺整理を行う、終末期医療における希望をまとめるなどが挙げられる。もと「終活」はもっぱら葬儀および墓の準備を行うことを指したが、今日では人生の終末期を迎えるにあたっての行動一般を指して用いられる。
「終活」は「就活」をもじってできた語である。「終」は「終わり」ないし「終末」のことで、人生の最期を意味し、「活」は「活動」の略である。2009年に「週刊朝日」で連載された「現代終活事情 変わりゆく葬儀のかたち」で初めて用いられた言葉である。翌年からは関連書籍が相次いで発売される「終活本」のブームが起こり、2012年にはユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選出された。「終活」という言葉が注目された背景には、無縁社会や孤独死が社会問題になったことなどがあるといわれる。
『おひとりさまの終活 自分らしい老後と最後の準備』は、2011年に三省堂から刊行された中澤まゆみの著書で、身寄りのない高齢者が安心して老後を送るための情報をまとめている。
(執筆:稲川智樹)
しゅう‐かつ〔‐クワツ〕【終活】
終活
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/17 02:12 UTC 版)
終活(しゅうかつ)は、「人生の終わりのための活動」の略称。人間が自らの死を意識して、人生の最期を迎えるための様々な準備や、そこに向けた人生の総括を意味する言葉や行動を指す。
沿革
始まりと言葉の流行
「終活」の語は『週刊朝日』から生み出された言葉とされ、同誌副編集長の佐々木広人が生みの親とされる[1][2]。
2009年(平成21年)8月から12月にかけ、『週刊朝日』で「現代終活事情」[3]という終活に関する連載が行われたのが最初である。それ以降、「終活本」などと呼ばれる、これに関する書籍が相次いで刊行される一方[4]、世間にもこの言葉が広まり、翌2010年には新語・流行語大賞にノミネート[5]、2012年の新語・流行語大賞でトップテンに選出された。
2011年にはエンディングノートを題材とした「エンディングノート (映画)」(砂田麻美監督)が公開。日本製ドキュメンタリー映画としては興行収入1億円を達成。翌2012年にはテレビドラマ『家族、貸します 〜ファミリー・コンプレックス〜』が、日本テレビ系列で放映された。2014年にはマンガ『月刊すてきな終活』(小坂俊史画)が連載されるなど、終活を題材とした作品が作られるようになった。
団体・専門誌・資格の創設
2011年には、武藤頼胡によって「終活カウンセラー協会」が設立され、以降、終活協議会、終活ジャパン協会などの団体が、終活カウンセラーや終活アドバイザー、終活ガイド、シニアライフカウンセラー、遺言相続コンサルタント、相続アドバイザー、相続ファシリテーター、相続相談士などの民間資格が乱立していった。
翌2012年には、北海道に終活支援団体「エンディング総合支援サポートの会」(のち、一般社団法人「終活ジャパン協会」として法人化)が設立、翌2013年には、産経新聞出版より日本初の終活専門誌『終活読本ソナエ』が刊行[6]、翌2014年にかけ『文藝春秋』や『中央公論』、『週刊東洋経済』でも、終活に関する特集が組まれた。2022年には『終活読本ソナエ』の休刊と呼応するかのように、葬祭業専門誌であった『仏事』(鎌倉新書刊行)が『月刊終活』とリニューアルした[7]。
ライフ・エンディング産業の出現
それまでの葬祭業、石材業、介護業界のほか、信託銀行や身元保証会社なども相次いで参入し、いわゆる「終活市場」(ライフ・エンディング産業)が出現[8]、2011年には経済産業省商務情報政策局サービス政策課サービス産業室は「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書」[9]を公表、葬儀・お墓・介護・終末期医療・財産整理・相続・遺言など終活にまつわる業界報告を行った。矢野経済研究所によれば終活市場は2025年には約5兆円規模になるとの予想している[10]。
2015年12月からは「エンディング産業展」が毎年、東京で開催されている[11]。
自治体の関与とトラブルの増加
このような終活業界が活性化した結果、迷う当事者が多く現れたため、地方自治体や社会福祉協議会、地域包括支援センターが、エンディングノートを配布したり、講座を開いたりしているほか、神奈川県横須賀市では、身寄りがいない又は少ない市民から、遺言の保管場所や墓の所在などについて生前に知らせてもらい、没後に対応する「終活情報登録伝達事業」(通称・わたしの終活登録)を行っている[12]。
こうした情報過多で戸惑う当事者に対し、財産を騙し取る悪徳業者も現れ始めた。死後事務委任契約や身元保証を迫る身元保証業者[13]、「家族葬18万円」と広告を打って実際には遺族に250万円請求する葬祭業者[14]、「子どもに迷惑をかけさせたくない」「高額な離檀料を支払わなければならない」と墓じまいをそそのかし、自社(提携)の納骨堂や樹木葬、海洋散骨に誘導する業者、終活コメンテーター、終活研究者、「自宅を売却しても賃貸で死ぬまで住める」と嘘をつく金融・不動産業者[15]、自身が提携する葬祭業者に誘導するケアマネージャー、介護事業者、故郷の実家を「負動産」とラベリングして不安を煽り自身に財産を遺贈させるように唆す司法書士法人、行政書士法人、NPO法人[16]などが出現、担当司法書士が懲戒処分を受けたり[17]、国民生活センターが注意喚起を行っている[18]。
財産を信託した団体が破産したりするなどの事例も発生している[19]。
背景
終活が流行している背景には、医療の発達による高齢化、学費の高負担化に伴う少子化や都会進出に伴う地方の過疎化、核家族化、女性の地位向上に伴う個人主義の増長などが挙げられる。
準備
自身が元気なうちに、体力の低下や寝たきり、認知症になる前に、今後の人生をシミュレーションして、遺族の負担を軽減させるために、自身の介護や死後の在り方についてエンディングノートに記載する。[20]
内容
- 1.公的年金、自立支援医療 (精神通院医療)、確定申告、源泉徴収、生命保険等私的年金について知る。
- 2. 家計簿を付けて収入や住宅ローンを把握して財産や納税を管理。老後資金(定年後の支出)等をシミュレーションする。
財産管理については、家族信託制度もある[21]。 1.2.に並行して生前整理(下記参照)を行う人もいる。
- 生前整理 - 自身が元気に生きて動けられる間に行う、身の回りの物品の整理(断捨離とも)と付き合い整理(年賀じまい)。
- 3.公正証書、死後事務委任契約について知る。
自身が決めた内容について、その内容を確実に実行してもらうために、遺言書を公正証書で用意したり、司法書士や弁護士、地域包括支援センター等と成年後見契約、死後事務委任契約等を結んでおく必要がある。
葬儀には一般葬(親族・親戚のみならず勤務先や近所の人も招く、葬祭会館で通夜式・葬儀式・告別式を2日で行う形式の葬儀)、家族葬(親族・親戚のみ)のほか、近年は生前葬などもある。直葬・火葬式は、宗派・宗教によっては葬儀として認められないため[25]、納骨の直前に葬儀をやり直すなど、遺族が二度手間になるケースがあるため、事前に菩提寺や神社との確認が必要である。
お墓については、現在、自身や自身の家族が契約しているお墓が、自身が最後の管理者(墓地利用契約者)ある場合、合葬墓や納骨堂への事前の改葬(墓じまい)が必要となる。
自身の遺骨については、自身が最後の1人である場合、事前に葬儀社や成年後見人と納骨の代理契約を結ぶ必要がある。葬儀は自分で行うことができないので、甥姪や友人、成年後見人など、事前に任せられる関係を築いておくことが大切であると指摘する声もある。
副次的効果
終活を通じてよりよい人生を生きるという「サクセスフル・エイジング」(加齢による心身の機能低下を最小限に抑え、健康で充実した老後を送ることを目指す概念)・「プロダクティブ・エイジング」(高齢になっても社会とのつながりを持ち、役割や活動を継続することで、社会に貢献していくことを重視する概念)につながっていっているとの指摘もある[2]。
批判
なお、終活について、養老孟司氏やひろさちや氏は、死後のことはどうにもならないから、終活は不要として批判している[26]。
また、葬祭Youtuberの佐藤信顕は、「「終活」っていう人は全員ビジネス目的。試しに、お金儲からなくてもその支援やりますか? って聞いてみて。いませんからそんな奴。高齢化社会で他人の財産が金になると思ってやっている」と、批判している[27]。
関連作品
ドラマおよびドラマ化された作品
参考文献
- 木村由香、安藤孝敏「マス・メディアにおける終活のとらえ方と その変遷 -テキストマイニングによる新聞記事による内容分析-」(横浜国立大学、2018年)[2]
- 本田桂子監修『終活ハンドブック』(PHP研究所、2011年)
脚注
- ^ 「高校生写真の日本一を決める「写真甲子園2016」7月26日(火)遂に開幕!~第23回の優勝をかけた戦いが始まる~」【時事通信】2016/07/26-19:05
- ^ a b 木村由香、安藤孝敏「マス・メディアにおける終活のとらえ方と その変遷 -テキストマイニングによる新聞記事による内容分析-」(横浜国立大学、2018年)[1]
- ^ のちに『わたしの葬式 自分のお墓 2010終活マニュアル』週刊朝日MOOK、朝日新聞出版、2010年)として書籍化。
- ^ asahi.com(朝日新聞社):〈本の舞台裏〉「終活本」続々発売 - 出版ニュース - BOOK
- ^ 新語・流行語大賞 2010 ノミネート語
- ^ しかしながら、2022年に36号をもって休刊となった
- ^ 「『月刊「仏事」』は『月刊「終活」』へ、リニューアル創刊」【PRTIMES】2022年10月3日付
- ^ Mladenova, Dorothea (2020). “Optimizing one’s own death: The Shūkatsu industry and the enterprising self in a hyper-aged society”. Contemporary Japan 32 (1): 103-127. doi:10.1080/18692729.2020.1717105.
- ^ Internetarchive>経済産業省>「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書」
- ^ バフェット・コード>業界レポート: 終活関連サービス
- ^ TSO>沿革
- ^ 【列島追跡】神奈川・横須賀市、「就活」情報を登録/墓・遺言…死語尊厳守る『日本経済新聞』朝刊2018年5月28日(地域総合面)2018年5月31日閲覧。
- ^ 国民生活センター>「身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意」
- ^ 国民生活センター>「大切な葬儀で料金トラブル発生! -後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと- 」
- ^ 国民生活センター>高齢者の自宅売却トラブルにご注意!
- ^ 国民生活センター>身元保証契約に伴って締結した死因贈与契約が無効とされた事例
- ^ 「【月報司法書士・2023年9月号】懲戒処分の公表(2)成年後見人司法書士懲戒処分 」【弁護士自治を考える会】2023年9月22日付
- ^ 「(身寄りなき老後)死後の財産譲り受け、どう規制 見守りから葬儀まで、終身サポートの業者」【朝日】2025年3月16日付
- ^ 国民生活センター>「死後事務委任契約の注意点」
- ^ 本田桂子 (行政書士)・経産省報告書作成委員監修の『終活ハンドブック』(PHP研究所、2011年)
- ^ 法務局>「家族信託とは」
- ^ 「生前整理ってどうやるの?失敗しない進め方と注意するポイント」【朝日新聞】2020年3月16日付
- ^ スマホ残して死ねますか デジタル終活、遺族のために朝日新聞DIGITAL(2017年11月28日)2018年3月22日閲覧。
- ^ 年賀状 終活で「やめます」高齢者「付き合い整理」の一環『日本経済新聞』夕刊2018年12月25日(社会面)2018年12月29日閲覧。
- ^ 曹洞宗>よくあるご質問>「費用も時間もありません。直葬してもいいのでしょうか?」
- ^ 養老孟司、「自分の死後を指図したい!? そんな終活やめればいい」、『中央公論』(特集「終活戦線異常あり」)、pp.26-29、2014年9月; ひろさちや、「終活なんてしなくていい!」、『週刊新潮』、pp.48-51、2014年11月13日
- ^ X>佐藤信顕>2025年6月29日付
関連項目
外部リンク
終活
- >> 「終活」を含む用語の索引
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