永遠の記憶とは? わかりやすく解説

永遠の記憶

作者菅野このみ

収載図書Nobody is LONELY
出版社日本文学館
刊行年月2007.3


永遠の記憶

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/30 06:49 UTC 版)

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フレスコ画イコン復活』。現在はカーリエ博物館となっている、ホーラ(コーラ)修道院の聖堂内、湾曲した天井に描かれている。主ハリストス(キリスト)がアダムエヴァの手を取り、地獄から引き上げる情景を描いたもの。このハリストスの地獄降りのイコンが、正教会においては復活大祭のイコンとして定着している[1]
17世紀ヤロスラヴリで描かれたイコン。中央上にハリストス(キリスト)復活した情景、下方にキリストがアダムエヴァの手を取り人々をよみから引き上げる情景。他、小さく左上に、十字架上のハリストス受難の光景、ハリストス埋葬、空の墓が描かれている。

永遠の記憶ギリシア語: Αιωνία η μνήμη[2], 教会スラヴ語: Вечная память[3], 英語: Memory Eternal)とは、正教会における祈祷文。

埋葬式パニヒダ永眠者のためのリティヤなどの末尾に詠隊によって歌われるほか[4]、永眠した者の霊の安息を神に願い祈る際に、「永遠の記憶」と単独で用いられる[5]。その対象は正教徒に限定されず、正教徒では無い永眠者の霊の安息を祈る「異教人のパニヒダ」の末尾でも「永遠の記憶」が歌われる[6]

意義

一般には「永遠の記憶」とは、追悼する人間による記憶を指すと思われがちであるが、元来は神による記憶を願うものである[7]

聖書において、よみ(陰府、黄泉、ギリシャ語ハデス、ヘブル語シェオル)は、主である神に対する讃美もなにもない、神から離された状態として描かれる。神に記憶されるとはその対極の状態、すなわち天国にいる状態である。従って「永遠の記憶」とは、復活によって、よみに打ち勝ったイイスス・ハリストス(イエス・キリスト)によって可能となり現実のものとなった、神によって与えられる永遠の生命が永眠者に与えられるよう祈願するものである[7]

神から離れた状態が、よみを指すことについては聖詠第87(詩篇第88)が引用される。ホセア書13:14は、ハリストス(キリスト)が十字架上で死に、よみに降ってこれに打ち勝ったことと関連付けられる[8]コリンフ前書(コリントの信徒への手紙一)の15章には、「死は勝に呑まれたり。」「神に感謝す、其我等に、我が主イイススハリストスに由りて、勝を賜ひしが故なり。」といった記述がある[9]のをはじめ、ハリストスの死と復活が、人々の死と復活と結び付けられ、死と、よみに対する勝利として語られている。ハリストスがよみに行き人々に生命をもたらしたことを示すものとして、エフェス書(エフェソの信徒への手紙)4:9、ペトル前公書(ペトロの手紙一)3章も挙げられる[7]

埋葬式・パニヒダ・リティヤにおける祈祷文

以下のように、詠隊が三度「永遠の記憶」と歌うことで、埋葬式パニヒダ・永眠者のためのリティヤの末尾は閉じられる。永眠者が男性である場合には「僕(ぼく)」、女性である場合には「婢(ひ)」、複数の永眠者を記憶する際に両性が含まれる場合には「僕婢(ぼくひ)」が用いられ、祈祷文の「某」の部分には聖名が入れられる。司祭のみで各種奉事を行い、輔祭が不在である場合、輔祭朗誦部分は司祭が唱える。

輔祭:主よ、なんじの眠りし僕(婢)(某)の幸いなる眠りに永遠の安息を与え、彼(ら)に永遠の記憶をなしたまえ。
詠隊:永遠の記憶(三度)。 — 日本正教会、『記憶録』昭和57年5月1日

ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』

フョードル・ドストエフスキーの作品は正教会側からも高く評価されるものであり、時には「正教の神髄の代弁」とまで評され、特に『カラマーゾフの兄弟』については、正教会における人間の救いについての基本的な考えが一応網羅されているとされる[10]

ドストエフスキーによる『カラマーゾフの兄弟』の末尾の埋葬式の場面で、この祈祷文がアリョーシャの音頭により唱和されている[11]

訳によっては「永遠の思い出を!」などとされているものがあるが[12]、原文で述べられているのは"Вечная память!"(ヴェーチナヤ・パーミャチ!)つまり「永遠の記憶!」であり[13]、人々の思い出にのみ言及する性質の台詞にとどまらず、正教会の祈祷文として、復活への信仰を意識して述べられたものである。実際、アリョーシャも周りにいる少年達による「永遠の記憶!」と唱和する場面の前後における話題は、永眠者の復活を巡るものとなっている[11]

脚注

  1. ^ 府主教ダニイル主代郁夫『2009年 復活大祭』正教時報 2009年4月号、7頁
  2. ^ 現代ギリシャ語読みによる転写例:「エオニア イ ムニミ」
  3. ^ ロシア等における転写例:「ヴェーチナヤ パーミャチ」
  4. ^ 現在日本正教会で行われている『パニヒダ』のテキスト
  5. ^ 用例:永遠の記憶フェオドシイ永島新二釧路正教会百年の歩み(「④クリル人に永遠の記憶を」)、永遠の記憶 - しんがくほうろうき
  6. ^ 『諸祈祷文』98頁、札幌正教会内 ジェムズ・ミッション印刷 1963年12月15日発行
  7. ^ a b c OCA - The Orthodox Faithアメリカ正教会公式ページ)
  8. ^ "Orthodox Study Bible" (正教聖書註解) P. 994 (2008年)
  9. ^ 聖書本文の引用部分は日本正教会訳聖書より。
  10. ^ イオアン高橋保行 p232 - p233, 1980
  11. ^ a b DOSTOEVSKY AND MEMORY ETERNAL - An Eastern Orthodox Approach to the Brothers Karamazov by Donald Sheehan - 「ドストエフスキーと永遠の記憶、『カラマーゾフの兄弟』に対する正教からのアプローチ」(英語)
  12. ^ 訳:原卓也『カラマーゾフの兄弟〈下〉』新潮文庫ISBN 9784102010129
  13. ^ Ф.М. Достоевский "БРАТЬЯ КАРАМАЗОВЫ" ЭПИЛОГ.

参考文献

関連項目

外部リンク


永遠の記憶

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埋葬式」の記事における「永遠の記憶」の解説

詳細は「永遠の記憶」を参照 正教会パニヒダ埋葬式は、輔祭輔祭居ない場合司祭)が永眠者の霊(たましい)の安息を願う祈祷文朗誦した後、「永遠の記憶、永遠の記憶、永遠の記憶」と三回歌われる聖歌を以て終結する。人を生かす、神による永遠の記憶が永眠者与えられるように祈願する祈祷文である。 「パニヒダ」も参照

※この「永遠の記憶」の解説は、「埋葬式」の解説の一部です。
「永遠の記憶」を含む「埋葬式」の記事については、「埋葬式」の概要を参照ください。

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