ジャガイモ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 02:19 UTC 版)
利用法
塊茎(イモ)は主に食用にされ、味にクセがなく、野菜としても、また穀類としての両面を持ち合わせている[47]。主成分がデンプンであることから、コメや麦、トウモロコシと並んで、国によっては主食にもしている[68][47]。またビタミンCに富み、副菜の材料としても使われる[47]。一年中出回っているが食材としての旬(北半球)は、一般に秋から冬(10 - 2月)、新ジャガイモでは初夏(5 - 6月)とされる[69]。凸凹が少なくて、皮の表面にシワがなくなめらかで、芽が出てなく、緑色に変色していないものが良品とされる[27][69]。ジャガイモの芽、茎、葉、花、果実、緑色になったイモには、中毒を引き起こすソラニンというアルカロイド成分を含むため、食用や薬用に用いることは避けるべきである[26]。
ジャガイモの利用形態は、生食(青果)、加工、デンプン原料の3種類に大別される。加工用としては、ポテトサラダ、スナック菓子(ポテトチップスなど)、フライドポテト、冷凍食品・惣菜(コロッケなど)がある。デンプンは、いわゆる片栗粉として流通している粉末の原料であり、インスタント麺などの原料にもなる。
栄養価
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 318 kJ (76 kcal) |
17.6 g | |
デンプン 正確性注意 | 16.9 g |
食物繊維 | 1.3 g |
0.1 g | |
飽和脂肪酸 | 0.01 g |
多価不飽和 | 0.02 g |
1.6 g | |
ビタミン | |
チアミン (B1) |
(8%) 0.09 mg |
リボフラビン (B2) |
(3%) 0.03 mg |
ナイアシン (B3) |
(9%) 1.3 mg |
パントテン酸 (B5) |
(9%) 0.47 mg |
ビタミンB6 |
(14%) 0.18 mg |
葉酸 (B9) |
(5%) 21 µg |
ビタミンC |
(42%) 35 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 1 mg |
カリウム |
(9%) 410 mg |
カルシウム |
(0%) 3 mg |
マグネシウム |
(6%) 20 mg |
リン |
(6%) 40 mg |
鉄分 |
(3%) 0.4 mg |
亜鉛 |
(2%) 0.2 mg |
銅 |
(5%) 0.10 mg |
マンガン |
(5%) 0.11 mg |
他の成分 | |
水分 | 79.8 g |
水溶性食物繊維 | 0.6 g |
不溶性食物繊維 | 0.7 g |
ビオチン (B7) | 0.4 μg |
有機酸 | 0.5 g |
別名:ばれいしょ(馬鈴薯)。廃棄部位:表層 | |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
ジャガイモの塊茎(イモ)にはデンプンを13 - 20%、たんぱく質を1.5 - 2.6%含み、ビタミンA(カロテン)以外のビタミンB1・B2・Cなどのビタミン類やカリウムも豊富に含んでいる[73][27]。デンプン質を多く含む割には、低カロリーな食品でもあり[73]、エネルギー量は炊いた米飯の約半分である[74]。ジャガイモには約80%の水分が含まれ、残りは炭水化物がほとんどであり、炭水化物の90%がデンプン質である[47]。少量であるが、炭水化物の中に蔗糖や果糖も含んでおり、特有のおいしさを形成している[47]。
芋類の中でも特にビタミンCが豊富に含まれ、フランスでは「大地(畑)のリンゴ(pomme de terre:ポム・ド・テール)」と呼ばれ[27]、ドイツ語や上述のオランダ語でも同様の表現が存在する。ビタミンCは熱に弱い性質をもつが、ジャガイモの場合では主成分のデンプン質に包まれているため、加熱調理をしても失われにくい利点や、長期保存をしてもほとんど損失しないという特徴がある[27][68][47]。ジャガイモは動物性たんぱく質を減らす効果があるとされ、間接的に尿酸値の増加を抑える効果が期待できる[73]。
ジャガイモには可食部100グラム中、食物繊維1.3グラムと豊富に含まれており、便秘解消や大腸癌予防効果が知られている[47]。
様々な栄養素に富む食品であるジャガイモではあるが、アメリカなどではフライドポテトやポテトチップスとして、大量に消費しているため、健康的な消費の仕方とは言いがたい[47]。煮たり、蒸したり、焼いたりといった日本食的な食材を活かした調理方法であれば、健康的に良い食品だといわれている[47]。
料理
ジャガイモは各地域で様々な料理に用いられる。形状・加熱の具合や水分量によって多種多様な食感になり、様々な調味料や油脂、乳製品などとの相性が良い。
日本では一般家庭料理の範疇に属するものとして、肉じゃがや粉吹芋、ポテトサラダ、いももちなど、じゃがいもを主な食材とする料理がある他、カレー、シチュー、グラタン、おでん、味噌汁などの具にも広く用いられる。じゃがバターもポピュラーである。
フライドポテト、マッシュポテト、ベイクドポテト、ヴィシソワーズ、スープ、コロッケなど、欧米ではジャガイモを主体とした料理が多くあり、そのまま蒸かして主食とする食べ方もある。他にジャガイモ料理としてアイリッシュシチュー、トルティージャなどが挙げられる。
中国では、千切りしたジャガイモの炒め物も一般的である。また、日本以外では、パンの材料に用いられる(じゃがいもパン)。他にパスタ(ニョッキ)にも使われる。
調理上の特性
ジャガイモに含まれるチロシンは酸素に触れるとメラニンを生じ褐変を起こすため、皮を剥くなどした切断面を水にさらす方法などで褐変を防ぐ[75]。ただし、30分以上水にさらしてしまうと、細胞膜内のペクチンと水に含まれる無機質が反応して細胞膜が強くなり火が通りにくくなる[75]。
品種によって特性が異なるので、料理によって使い分けをする[11]。比較的粘りが少ない粉質の芋(男爵薯など)は、コロッケや粉吹き芋に向いており[11]、皮付きのまま芋を茹でるようにすると、デンプン質が水に流れ出るのを防いで水っぽくならず、ほっくり感がある食感を残して茹で上げることができる[76][11]。粘りがある粘質の芋(メークインなど)は、煮込み料理向きで、サラダにしてもよい[11]。
煮崩れは、細胞内のデンプンが吸水し膨らみ変形するためで、粉質系の男爵は加熱するとホクホクした食感になり、粘質系のメークインはネットリした食感になる[77]。
春先に出回る早採りしたジャガイモは「新しゃがいも」「新じゃが」として親しまれ、皮が薄くて水分が多いため、小ぶりのものは皮を剥かずにまるごと調理して、蒸し芋、煮ころがし、揚げ物に向いている[76][69]。
保存食
ジャガイモは、古くから凍結乾燥させるという方法で保存性を高め、保存食として利用されてきた。先コロンブス時代、中央アンデス地域において、冷凍したジャガイモを踏みつけることを繰り返すことで水分と毒を抜く方法が発明され、長期にわたる保存・備蓄が可能になった。この凍結乾燥したジャガイモのことを「チューニョ」と呼ぶ。現在でもボリビアやペルーの高地(アルティプラーノ)ではチューニョが利用されている。乾燥したチューニョはまるで小石のように見える。塩味のスープに入れて長時間煮込んで食べるが、質の悪いチューニョはアンモニアのような臭いがすることがある。また、若干作り方が異なり、イモの種類も異なるが、原理的にはチューニョと同じ凍結乾燥ジャガイモに「トゥンタ」と呼ばれるものがある。これもペルー南部やボリビアなどで広く食べられている。
日本でも、山梨県の鳴沢村や長野県の一部地域では、ジャガイモを寒冷期の外気温で冷凍させ、踏みつけることを繰り返して、重量と体積を減らし、保存性を高める方法が存在する。「しみいも」「ちぢみいも」などと呼ぶ。
北海道のアイヌ民族も、秋に収穫し切れなかったジャガイモや傷のあるジャガイモを畑に放置し、雪に埋もれて凍るに任せる。放置されたイモは凍結と解凍を繰り返し、干からびて体積が減る。この工程を経て作られた保存食を「ポッチェイモ」「ペネコショイモ」などと呼び、食べる際は水で戻して丸め、団子にして脂を引いた平鍋で焼く。
こうした保存食とは異なるが、現代の北海道では、低温で一年半ほど保管して熟成させ、デンプンを糖化させて甘くしたジャガイモが商品化されている[78][79]。
加工食品
スナック菓子としてポテトチップスが広く食べられている。ただし、タンパク質の成分としてトリプトファンが多く、焦がした場合ニトロソアミンに変化することがあるので注意が必要である。なお、ポテトチップス用の品種も存在し、そのような品種は揚げても焦げにくい(無論、焦げないわけではない)という特徴をもつ。2014年のジャガイモ収穫量は245万トン、うちポテトチップ用は37万トンである[80]。
デンプン採取
ジャガイモは、そのものが調理に使われるだけでなく、豊富に含まれるデンプンを抽出したものが片栗粉として販売されている(片栗粉は本来はカタクリのデンプンを粉にしたものであるが、現在市場に出回っている片栗粉のほとんどはジャガイモのデンプンである)。
酒造
豊富なデンプンをもつジャガイモは、ウォッカ、ジン、アクアビット、焼酎、ソジュ(韓国焼酎)など蒸留酒の原料にも用いられる。
日本においても、近年、北海道では特産のジャガイモを使ったジャガイモ焼酎(しょうちゅう乙類)の生産が広く行われるようになっている。また、長崎県でも特産品としてジャガイモ焼酎を製造している酒蔵がある。1979年4月に、北海道斜里郡清里町の清里町焼酎醸造事業所が、日本で最初のジャガイモ焼酎となる清里焼酎を製造販売した。以後、北海道の多くの焼酎メーカーがジャガイモ焼酎に参入している。ジャガイモ焼酎は、サツマイモで作る芋焼酎と比べると癖が少なく飲みやすいものとなる。
薬用
ジャガイモを薬用で使うときは、塊茎(イモ)が薬用部位となり、洋芋(ようう)と称する場合がある[16]。イモはすべて皮をむき、芽を完全に取り除いてから用いる[73]。使用にあたっては、あまり体質を問わない薬草でもある[16]。体内のナトリウムを排出する作用があるカリウムを多く含むことから、高血圧予防にも役立つといわれている[27][47]。
民間療法で、湿疹、かぶれ、打ち身、くじき、やけどには、生のジャガイモをすりおろして、小麦粉と酢を混ぜてガーゼなどに延ばして患部に冷湿布すると、痛みが和らぎ、早期治療に役立つといわれている[73][16]。痛風には、日常の食事にジャガイモを取り入れるとともに、前述の冷湿布を併用すれば効果的とされている[73]。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍には、ジャガイモをすり下ろして土鍋に入れ、水分を飛ばして黒くなったものを1日1回2グラムほど服用する[16]。
注釈
- ^ トウモロコシは温暖な気候に適した作物であり、3,500 mを超える高地での栽培跡が確認できていない一方、ジャガイモは4,000 m級の場所でも栽培跡が確認されている。
- ^ インカ人の人骨に含まれるたんぱく質から生前の食生活を解析した結果、主要な食料源はイモ類、豆類であったことが判明した。
- ^ 観葉植物として楽しまれていたが、16世紀の後半にエリザベス1世がジャガイモの若芽を食べてしまい、それに含まれている有害物質のソラニン中毒になったことなどもあり、普及が遅れた。
- ^ 品種の正体が「アイリッシュ・コブラー」であることは後に判明した。
- ^ JAたんの(現:JAきたみらい端野支所)による、独自ブランド名。
- ^ 系統名から1972に交配が行われた可能性が高い。
- ^ 育成者などは「ネオデリシャス」と呼んでいたが、原採種栽培での名称は「アンデス赤」となっており、一般には「アンデス赤」「レッドアンデス」、「アンデスレッド」「アンデス」などの名称で販売されている。
出典
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