国勢調査 (日本)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/23 09:13 UTC 版)
その他
広報
第1回の調査では、国勢調査により先進国の仲間入りを果たしたという宣伝ポスターが多数制作された[24]。
国勢調査のイメージキャラクターとして、男の赤ちゃんのセンサスくんが1990年の国勢調査から使用されている。センサスくんの名前は、英語で国勢調査を意味する、人口センサスに由来する。2015年には女の赤ちゃんのみらいちゃんが加わる[25]。
記念品
1920年に行われた第一回の調査員に対しては、内閣からの任命書のほか様々な記念品が贈られた。記念のプレートのほか[26]、表面に大化年間の国司が戸籍の巻き物を手に立っている姿[27]、裏面に「国勢調査記念章」の文字が刻まれたメダルの存在が確認されている[28]。
費用について
当初1905年に予定されていた調査は、約300万円(当時の農商務省の単年度予算に匹敵)と試算されていた。後の第1回調査(1920年)の費用は、295万7000円である[7]。
第18回調査(2005年)では、調査費用は約650億円が予算計上された(他に、前年の予備調査等に約20億円。市等地方自治体職員の労働時間等は除外)。
日本の国勢調査の経費(人口1人当たり)は、他の主要先進国と比べてかなり低いとされている。[要出典]
報告時期について
第1回調査(1920年)については、最終報告書は1932年6月に刊行した。調査から実に12年の歳月が経過しており、この間に第2回、第3回の調査も行われている。これだけ遅くなった背景には、
などが挙げられる[7]。
近年の国勢調査では、情報技術の活用により、公表の早期化が図られている。また、早期に必要とされる統計表は最優先の日程で集計・公表され、その後、より詳細な統計表が予め定められた日程により段階的に順次公表されている。第18回調査(2005年)では、最初の速報人口は調査基準日から3カ月足らず後の2005年12月27日に公表された。最終的な結果表がすべて出るのは、調査基準日から約4年後となっている[7]。
『(平成22年国勢調査の実施に向けて(検討状況報告))』には、結果公表のスケジュールについて外国との比較が掲載されているが、これによると日本では結果公表が比較的早期に行われている。
外地・租借地・委任統治領での各種センサス
戦前、台湾は日本が統治していたため、台湾の人口センサスは台湾総督府が行っていた。調査の実施は日本よりも早く、1905年の「臨時台湾戸口調査」である。調査項目は日本よりも多く、人種、使用言語、アヘン経験などについても調査していた。ここには(ほぼ)単一民族であり統治に労力がかからなかった日本と、多民族であったため統治に労力がかかった台湾との差を見て取ることができる[7]。
このほか、日本統治時代の朝鮮、樺太庁などの外地、関東州や満鉄附属地などの租借地、南洋群島などの委任統治領、青島守備軍管内などの軍管轄地区でも国勢調査、人口調査、臨時戸口調査が実施された。以下に外地、租借地、委任統治領などで実施された各種センサスをまとめる。なお1920年の国勢調査は外地では「臨時戸口調査」と称され、南洋群島で実施された国勢調査は「島勢調査」と称された。また朝鮮では1920年に国勢調査が実施されず、下の表中の1920年の朝鮮の人口は公簿調査に基づく現住人口である。
実施年月日 | 回 | 調査形態 | 調査人数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
台湾 | 樺太庁 | 朝鮮 | 関東州 | 満鉄附属地 | 領事館管内 | 南洋群島 | 青島守備軍管内 | |||
明治38年(1905年)10月1日 | 第1次 | 臨時戸口調査 | 3,039,751 | |||||||
大正4年(1915年)10月1日 | 第2次 | 3,479,922 | ||||||||
大正8年(1919年)9月30日 | 208,139 | |||||||||
大正9年(1920年)10月1日 | 第1回 | 国勢調査・ 臨時戸口調査 |
3,655,308 | 105,899 | 17,264,119 | 688,130 | 231,438 | 20,384 | 52,222 | 248,209 |
大正14年(1925年)10月1日 | 第2回 | 国勢調査 | 3,993,408 | 203,754 | 19,522,945 | 765,776 | 288,298 | 36,316 | 56,294 | |
昭和5年(1930年)10月1日 | 第3回 | 4,592,537 | 295,196 | 21,058,305 | 955,741 | 372,270 | 69,626 | |||
昭和10年(1935年)10月1日 | 第4回 | 5,212,426 | 331,943 | 22,899,038 | 1,134,081 | 522,645 | 102,537 | |||
昭和15年(1940年)10月1日 | 第5回 | 5,872,084 | 414,891 | 24,326,327 | 1,367,334 | 131,258 | ||||
昭和19年(1944年)2月22日 | 人口調査 | 391,825 | ||||||||
昭和19年(1944年)5月1日 | 25,917,881 | |||||||||
昭和19年(1944年)7月15日 | 6,269,949 |
「かたり調査」などの事件の発生
第18回調査(2005年)の調査では、調査員を装って調査票をだまし取る事件が全国で発生した。個人情報の収集が目的と見られる。そのほか、大阪府堺市では調査員を名乗って家に入り現金65万円を奪う犯罪も起きた。総務省では、国勢調査員が自宅に来訪したときには調査員であることの証明書(総務省統計局交付の身分証を必ず持っている)を確認するよう国民に呼びかけている。また、この問題を契機として、2007年に全面改正された統計法においては、「かたり調査」の禁止の規定(第17条)が設けられた。
茨城県では2005年10月8日、同県坂東市の国勢調査員が、担当地域の調査票を燃やすという事件が起きている。その地域では地元住民による持ち回りで調査員を選出しており、本人が調査員になることを望んだものではなかった。調査員を引き受けたものの、調査対象者から協力が得られなかった結果の行動だったという。そのため、国は同市職員を急遽調査員に任命し、担当地域を再調査した。なお、公文書である調査票を焼くことは犯罪であり、公文書毀棄罪に該当する。
島根県松江市の国立病院機構松江医療センターでは、国勢調査の様式が届いたことを筋ジストロフィー患者たちに知らせず、また承諾も得ないまま、病院が勝手に記入を代行しようとした事件が発生した。
奈良県大和郡山市では、2010年に行われた国勢調査で、調査員が、自治会が集会を行う際に、調査票を持参させた上で一括回収していたことが発覚した。この調査員は、手間を省けることを理由として挙げており、同市は、回収分は有効としたものの、個人情報漏洩に繋がりかねないとして、議論となっている[29]。
千葉県船橋市では、2015年に行われた国勢調査で、調査員に任命されたマンション管理人が、自分が管理するマンションの住民情報を、住民の同意が無いまま調査票に無断で記載していたことが判明している[30]。
人口の水増し
前述の通り、国勢調査の結果に基づく法定人口により市や指定都市への移行などが決定されるため、市制施行を目指す自治体が故意に人口の水増しを行ったことがある。
1970年に行われた国勢調査で北海道羽幌町の人口は2万8000人余であったが、翌1971年になって同町町議の告発がきっかけとなり約5,900人もの人口の水増しが行われていたことが発覚した。同町では前回の1965年の国勢調査で当時の市制施行要件を上回る3万人余の人口を記録し、新庁舎の建設に着手するなど市制施行に向けた動きが活発になっていたが、町の経済を支えていた羽幌炭鉱の経営が悪化したことで人口の流出が進み、調査時には3万人を大幅に割り込んでいた。警察の捜査の結果、町長ら幹部を含む83人が統計法違反や公文書偽造の容疑で送検された[31][32]。
また、2010年に行われた国勢調査において愛知県知多郡東浦町の人口は、速報値では50,082人であったが、総務省統計局が再調査した後の確定値は49,800人であった。東浦町は市制施行の要件の1つである「人口5万人」の突破を目前に控え市制施行を準備していたが、5万人に足らなかったため、2011年10月、市制施行を断念した[33]。
これに先立つ2010年12月、国勢調査に関わる町の不正を告発する匿名の文書が、総務省統計局に届き[34]、2012年2月、総務省が現地調査を行った結果、居住実態のない国勢調査票が303人分見つかり、この国勢調査で人口の「水増し」が行われた可能性があることが指摘された[35]。
居住実態のない国勢調査票について東浦町側は当初、平成22年国勢調査から調査票に記入漏れがあった場合は、地方公共団体の担当職員が書き加える、という新制度が設けられたことを受けて、町職員が居住実態を確認することを怠ったまま、住民票に基づいて調査票に居住者を書き加えた事務的失態であった、と説明していた。これに基づき、調査監督責任者である幹部職員を含む町職員4名に対し減給・戒告などの処分を行い[36]、町長が「新制度に関する認識不足、勉強不足によるもの」であるとして謝罪した[37]。
一方愛知県警察は、組織ぐるみで人口を水増しする違法行為が行われたと判断し、強制捜査に踏み切った。2013年2月、町長の釈明とは異なり、東浦町が故意且つ組織的に人口を水増しした疑いが強まり、統計法違反の容疑で前副町長を逮捕した[38]。また前副町長の指示に基づき調査票を偽造した容疑で町幹部や町職員らも共犯として任意捜査を受けており、書類送検された[39]。
愛知県警によると、調査票偽造は平成22年国勢調査から設けられた新制度を悪用したものと見られ、東浦町の住民基本台帳や外国人登録の情報を基に、既に町が転出を確認している元町民について、国勢調査当時も東浦町に居住していたように偽装し、町職員が元町民の情報を調査票に記入していたという。
聞き取り調査の実施
国勢調査の回収率は非常に高く、ほとんど全ての世帯から回収している。調査期間内に世帯に面会することがどうしても困難な場合には、大家や近隣の住民からの情報を元に自治体が住民票のデータで補う「聞き取り調査」が行われている[24]。2000年の調査では、「聞き取り調査」を行った世帯の割合は、わずか1.7%にすぎなかったが、大都市を中心にオートロックマンション、不在がちな世帯、ベルを鳴らしても出てこない家も少なくなく、悪質な訪問販売や手渡し型の特殊詐欺に対する警戒心によりドアを開けてもらうことが困難な場合も多い。東京都で聞き取り調査によった世帯の割合は5.9%となっている。
2005年調査では、聞き取り調査の割合は4.4%となっている。
円滑に調査を行うためマンション管理者への協力を要請している[40]。
住民基本台帳からのデータ転用
2015年に実施された国勢調査で、大阪市など8市町において、集計ルールに違反する形で住民基本台帳からデータの転用が行われていたことが、2020年8月に判明。調査への信頼性に懸念が示されかねない状況となっている[41]。
今後
国民生活や社会環境の変化に伴って、統計調査において調査員が世帯と接触することが従来よりも困難度を増してきている[42][24]が、これが社会や生活様式の変化によるものである以上、単一の決定的な解決方法は容易には見当たらず、様々な対策が検討されている。
このような中で、総務省統計局は2006年7月9日、国勢調査の実施方法を大幅に見直す方針を明らかにした。その結果は、『平成22年国勢調査の実施に向けて(検討状況報告)』(2009年4月)に公表されている。
このような検討を踏まえて、2010年4月に総務省統計局から『平成22年国勢調査実施計画』が公表され、2015年の国勢調査からは、初めて全国でのインターネットによる回答を導入した。
ヨーロッパ諸国も日本と同様の問題で調査に支障が出ているため、全数調査自体を諦め、国が保有する各種のデータを合わせて統計をとる「レジスター方式」に移行しているが、全数調査に比べ正確性は劣るとされる[24]。
注釈
出典
- ^ 総務省統計局. “統計用語辞典 か行|なるほど統計学園”. 2020年9月23日閲覧。
- ^ 3ヶ月以上滞在予定がある、または永住権がある外国籍
- ^ a b c d e “国勢調査が「存亡の危機」に!?” (日本語). NHK NEWS WEB. 2020年10月6日閲覧。
- ^ “「国勢調査、無視しよう」はダメ。避難者の数を予測しづらくなったり、企業があなたの街に出店をやめるかも? | ハフポスト”. www.huffingtonpost.jp. 2020年10月6日閲覧。
- ^ 平成27年国勢調査の調査項目について(調査項目の意味、記入方法) 総務省
- ^ 統計法(平成十九年法律第五十三号)
- ^ a b c d e f g 『近代統計制度の国際比較』安本稔編集 2007年12月 日本経済評論社 ISBN 9784818819665
- ^ 樋畑雪湖『日本郵便切手史論』、2020年1月31日閲覧。
- ^ 統計図書館ミニトピックスNo. 22 第1回国勢調査の記念切手をデザインしたのは? - 国勢調査に係る統計史料を訪ねて【その7】 (PDF) - 統計局、2020年1月31日閲覧。
- ^ #横山雅男、p.p.20「内国統計史」
- ^ 『平成22年国勢調査の実施に向けて(検討状況報告) 』 総務省統計局 2009年4月
- ^ a b 統計法を参照。
- ^ a b c d 国勢調査、勤務先やマンション階数、なぜ言わないといけないの? 総務省に聞いてみた - 毎日新聞
- ^ “令和2年国勢調査の概要”. 総務省. 2020年10月1日閲覧。
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ “平成27年国勢調査(簡易調査)で追加・廃止を検討する調査事項(案)”. 総務省. 2015年10月1日閲覧。
- ^ [3]
- ^ [4]
- ^ 新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた令和2年国勢調査の実施について - 統計局
- ^ 国勢調査の回答率 4割に届かず 武田総務相が協力呼びかけ - NHK
- ^ 国勢調査のネット回答、20日まで延長 - 共同通信
- ^ “国勢調査回答率80.9% ネットと郵送、19日時点 総務省(時事通信)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2020年10月20日閲覧。
- ^ a b c d 国勢調査が「存亡の危機」に!? - NHK
- ^ 国勢調査のイメージキャラクター紹介
- ^ “第一回国勢調査記念品(統計資料館)”. 総務省統計局. 2020年10月5日閲覧。
- ^ “第一回国勢調査記念章(統計資料館)”. 総務省統計局. 2020年10月5日閲覧。
- ^ 「国勢第一回の任命書」『中国新聞』2020年(令和2年)10月6日備後版22面
- ^ 国勢調査、「手間省ける」と自治会の集会で回収 読売新聞 2010年10月6日
- ^ 国勢調査:管理人が勝手に記入…マンション50世帯分 毎日新聞 2015年10月10日
- ^ 背伸びやめ 胸を張る 読売新聞 2007年9月1日
- ^ 羽幌町人口水増し事件
- ^ 市制施行の見送りについて(PDF)
- ^ “人口水増しで前副町長逮捕 市政移行目指した愛知・東浦町”. msn産経ニュース (2013年2月22日). 2013年2月22日閲覧。
- ^ 市昇格を狙い人口を水増しか 愛知・東浦町、国勢調査で - asahi.com,2012年2月26日
- ^ 愛知・東浦町長、意図的な人口水増しを否定 - 日テレnews,2012年3月2日
- ^ 平成22年国勢調査にかかる不適切な事務処理について - 東浦町サイト,2012年3月2日
- ^ 人口水増し疑い、前副町長を逮捕 愛知・東浦町 - 日本経済新聞,2013年2月22日
- ^ 東浦町前副町長を逮捕へ=人口水増しの疑い-愛知県警 - 時事ドットコム,2013年2月22日
- ^ マンション管理者のみなさまへ - 国勢調査2020総合サイト
- ^ 【独自】国勢調査で住基情報転用…15年 8市区集計ルール違反 読売新聞 2020年8月12日
- ^ 毎日新聞の読者投稿欄『みんなの広場』2010年10月9日版に、居留守を使われた調査員の嘆きが記載されている。
- ^ “国勢調査100年”. 日本郵便. 2020年9月28日閲覧。
- 国勢調査 (日本)のページへのリンク