国勢調査員殺害事件とは? わかりやすく解説

国勢調査員殺害事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/24 07:34 UTC 版)

国勢調査員殺害事件
場所 日本広島県広島市安佐南区祇園[1]
標的 国勢調査員の主婦(当時36歳)[1]
日付 1990年平成2年)10月7日[1]
午後6時頃[2] (UTC+9)
概要 男が国勢調査員を自宅に招き入れて乱暴しようとし、抵抗されたため両手で首を絞めて殺害。遺体を自宅近くの竹藪に遺棄した[2]
攻撃手段 絞殺
攻撃側人数 1人
死亡者 1人
犯人 男(逮捕当時25歳)[1]
容疑 殺人・死体遺棄[1]
動機 国勢調査を巡るトラブル[1]
対処 男を広島県警察刑事部捜査第一課と広島北警察署逮捕広島地方検察庁起訴[1]
補償 総務庁が女性の遺族に国家公務員災害補償法に基づく補償金など約2000万円を支給した[3]
刑事訴訟 懲役18年[4]
影響 総務庁は「安全対策検討委員会」を設置し、調査員に防犯ブザー4500個を配布した[5]
管轄
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国勢調査員殺害事件(こくせいちょうさいんさつがいじけん)とは、1990年平成2年)実施の第15回国勢調査において、非常勤の国家公務員として働いていた主婦が訪問先で殺害された事件である。

総務庁国勢統計課(当時)によると、1920年大正9年)に国勢調査が始まって以来、国勢調査員が調査訪問先で殺害された事件は初めてのことであった[1][2]。これに対して、国勢調査員に対する所管官庁の安全対策が不十分であるとの批判が起こり、その後の国勢調査では、国勢調査員に対してさらなる安全対策が講じられるようになった。

事件の概略

1990年10月8日広島県広島市安佐南区で国勢調査員として働いていた主婦(当時36歳)が農道脇の竹藪で死亡しているのが発見された[1]。当初は外傷も無く滑落による事故死と思われていたが、司法解剖の結果、絞殺であることが判明した[1]。これを受けて広島県警察刑事部捜査第一課と広島北警察署(現:安佐南警察署)は殺人事件と見て捜査を開始した[1]

翌日になり犯人の男(当時25歳)が広島北警察署に出頭したため、殺人死体遺棄容疑で逮捕された[1][2]。供述によれば10月7日に男が自宅で一人でいるところに被害者が訪問したため乱暴しようとしたが、抵抗されたために衝動的に殺害。深夜になり遺体を自宅付近の竹藪に遺棄したというものであった[1][2]

事件の影響

事件発生を受けて塩崎潤総務庁長官は「女性調査員が夜間に一人で歩くことは反省し、施策を考えなければならない」と国勢調査における安全対策の再検討を行う方針を固めた[6][7]

以降の国勢調査では調査員の安全確保のために複数人で調査活動を行う仕組みや、マニュアルを用いた安全対策の指導、防犯ブザーなどの支給などの対策が講じられている[8]。その後は、1995年(平成7年)実施の第16回国勢調査から現在まで同様の事件は発生していない。

1990年10月29日、広島地検は男を殺人、死体遺棄罪で起訴した[9]

刑事裁判

1990年12月11日、広島地裁(藤戸憲二裁判長)で初公判が開かれ、罪状認否被告人は「まちがいありません」と起訴事実を全面的に認めた[10][11]

1991年3月8日、論告求刑公判が開かれ、検察側は「乱暴後、発覚を恐れて貴い命を奪った犯行はあまりにも自己中心的で悪質。今後、国勢調査員の募集に支障をきたすことが予想されるなど社会的影響も重大」として懲役20年を求刑した[12]

1991年4月26日、広島地裁(藤戸憲二裁判長)は「調査に伴って予想されるトラブルに対する注意、指導が欠けていたことが事件誘発の遠因になった」と広島市役所の不備を指摘した上で「犯行は凶悪で、国勢調査関係者に不安と衝撃を与えた」として被告人に懲役18年の判決を言い渡した[13][14]

弁護側は「調査員は家の中に上がらない、などの指導がなく、女性に独身男性の一人暮らしの多い地区を受け持たせるなどしていたが、配慮があれば事件は起きなかったかもしれない」と国勢調査における安全面の不備を主張していたが、判決ではその主張を全面的に認定した[13]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 毎日新聞』1990年10月10日 東京朝刊 社会面27頁「国勢調査員の主婦が、調査先の男に殺される 25歳男性、逮捕--広島」(毎日新聞東京本社
  2. ^ a b c d e 朝日新聞』1990年10月10日 朝刊 1社31頁「国勢調査の主婦殺される 訪問先の運転助手自首 広島」(朝日新聞東京本社
  3. ^ 読売新聞』1990年11月28日 全国版 大阪朝刊 社会27頁「広島市の国勢調査主婦殺し 総務庁が遺族に補償2000万円」(読売新聞大阪本社
  4. ^ 『朝日新聞』1991年4月26日 夕刊 1社23頁「安易な指導を判決で指摘 広島の国勢調査員殺害公判」(朝日新聞東京本社)
  5. ^ 『朝日新聞』1991年8月19日 朝刊 2総2頁「安全も統計も大切、ジレンマの総務庁 広島「調査員殺人」後の安全策」(朝日新聞東京本社)
  6. ^ 『毎日新聞』1990年10月11日 東京朝刊 社会面27頁「国勢調査員殺人の◯◯容疑者の顔にひっかき傷--広島県警」(毎日新聞東京本社)
  7. ^ 『読売新聞』1990年10月13日 全国版 東京朝刊 三面3頁「国勢調査員の殺人事件で安全対策再検討 塩崎総務長官が表明」(読売新聞東京本社
  8. ^ 『朝日新聞』1991年5月12日 朝刊 政治4頁「統計調査で悩む広島 影落とす殺人事件(列島NOW)」(朝日新聞東京本社)
  9. ^ 『毎日新聞』1990年10月30日 大阪朝刊 社会面27頁「◯◯容疑者を起訴--広島市の女性国勢調査員殺人事件で広島地検」(毎日新聞大阪本社
  10. ^ 『毎日新聞』1990年12月11日 大阪夕刊 社会面11頁「国勢調査員殺しの起訴事実認める--広島地裁初公判」(毎日新聞大阪本社)
  11. ^ 『読売新聞』1990年12月11日 全国版 大阪夕刊 夕社会13頁「広島の国勢調査主婦殺し 被告、事実認める/初公判」(読売新聞大阪本社)
  12. ^ 『朝日新聞』1991年3月9日 朝刊 1社31頁「広島の国勢調査員殺しに懲役20年を求刑 【大阪】」(朝日新聞大阪本社
  13. ^ a b 『毎日新聞』1991年4月26日 大阪夕刊 社会面11頁「国勢調査員殺人の被告に懲役18年--広島地裁判決」(毎日新聞大阪本社)
  14. ^ 『読売新聞』1991年4月26日 全国版 東京夕刊 夕2社18頁「国勢調査の主婦殺し判決 元トラック運転助手に懲役18年/広島地裁」(読売新聞東京本社)




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