木星帝国
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木星帝国(ジュピター・エンパイア)は、漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム』に登場する木星圏を支配する架空の国家。
概要
宇宙世紀が始まり、人類が生活圏を宇宙に拡大し始めて100年以上が過ぎ、木星圏にまでスペース・コロニーを建造するに至る。
木星圏のコロニーは表向きは「公社」であるが、秘密裏に地球圏で戦乱を起こそうとする者に武器の供与や経済援助をおこなう。そして、総統クラックス・ドゥガチの指揮のもと、軍事国家として地球侵攻作戦を画策する。
かなり厳しい階級制がとられているらしく、軍人、工作員は手の甲にナンバーが刻印されていて、その階級差、権限は絶対である。一般市民であっても水や空気の割り当てが決まっていて、たとえ瀕死の病人であったとしても割り当てを超えた消費は許されず、他者に譲り渡す事も禁止されている。ドゥガチの跡を継いだカリスト兄弟は「実験室で生まれた」と語っており、新生児の出生数も厳しく規定されていると考えられる。また人命と物資の主客が逆転しており、戦闘で機体を失うも生還したパイロットたちを「貴重なマシンを損失し、軍規を犯した」とした理由で銃殺刑とした在り様を映像で公開したり、捕虜となったトビア・アロナクスの処刑を政治ショーにするなど、恐怖政治によって市民を統制する手法は後のザンスカール帝国を彷彿させる面がある(なお『ゴースト』の設定では、ザンスカール帝国宰相フォンセ・カガチとドゥガチに繋がりがあり、ドゥガチの内縁の息子であるキゾを預かっている)。ただし、帝国に潜入したトビア・アロナクスやキンケドゥ・ナウを匿った人達がいた事や、少数ではあるがレジスタンスが存在していた事からも、表向きは忠誠を誓っていても木星圏の市民すべてがドゥガチを支持している訳では無い。
生活スタイルは無重力状態を基本とするもので、重力の存在する時間は長くない。そのため、地球の重力について本質的に理解していない人物が多く、地上用として製作されていながら重力下での運用において欠点がある機体も見受けられる。
なお『機動戦士ガンダム』をはじめとする宇宙世紀作品には、木星と地球圏を往復してヘリウム3を輸送する木星船団が存在するが、木星帝国との関係性は語られていない。
木星戦役
武力を伴った戦闘こそ無かったが、木星帝国は地球侵攻の準備を宇宙世紀0120年代には開始しており、コスモ・バビロニア建国戦争の裏でも暗躍していた。0130年代に入ると、帝国の野望を察知した宇宙海賊クロスボーン・バンガードが海賊行為に偽装したレジスタンス活動を開始。木星圏で小規模の紛争が相次いだ。
宇宙世紀0133年、地球親善訪問を謳ったジュピトリス9の地球圏到着を以って、帝国は地球連邦政府へ宣戦布告。デス・ゲイルズによる奇襲等で戦局を優位に進め、地球上の主要拠点を占領下に収める。地球侵攻の総仕上げとして、クラックス・ドゥガチは地球全土への全面核攻撃を実行に移すが、宇宙海賊クロスボーン・バンガードと一部の連邦軍部隊を中心とした抵抗勢力の反撃に遭う。更に、各スペース・コロニー軍の予想よりも遥かに早い軍事介入により計画は失敗(木星帝国側は、地球連邦滅亡までコロニーは動かないと踏んでいた)。総統ドゥガチや重鎮カラスといった中心人物が戦死した事により、戦闘は終結した。その後、地球連邦の査察が木星コロニーに入り、帝国は一旦解体された。
神の雷計画
地球連邦の査察により帝国は壊滅したと思われていたが、新総統となったカリスト兄弟の下で秘密裏に組織を再建。宇宙世紀0136年に「神(ゼウス)の雷計画」を決行する。これはコロニーレーザー「シンヴァツ」で遠く離れた木星から地球を直接砲撃するというもので、ドゥガチ前総統が計画していたものの、自身の寿命がコロニーレーザーの完成に間に合わないと判断して放棄したものである。
宇宙空間はレーザー光線を減衰させるような物質も障害物も基本的には存在せず、よって木星から地球に直接レーザー砲撃を行うのも可能である。計画では第1射で連邦首都を攻撃し、地球の自転に合わせて2時間に1射、計12回の照射を行い、それによって着弾地点は直径6キロメートルのレーザー光に焼かれ、それによって発生した熱量による二次三次被害は想定しきれるものではない。この情報が地球圏にもたらされたのは計画実行の2週間前であった。これは当時の一般的な惑星間航行技術ではけして間に合わない時期であったが、宇宙海賊クロスボーン・バンガードは当時はまだ試験段階であったミノフスキー・ドライブを利用することで解決した。
計画は順調に進行しているかのように思われたが、シンヴァツ発射まで数十分を切ろうとしていた時に、脱走兵であるエウロペ率いる7機の精鋭部隊が「鋼鉄の7人」作戦を決行し地球より襲撃。第1射の発射は阻止できなかったものの、ギリの命がけの行動により発射角度をわずかにずらし、レーザーの第一射は地球への命中コースを外れた後、シンヴァツは破壊され2射以降の発射が不可能になり計画は失敗。陣頭指揮をとっていたカリスト兄弟は戦死し、更にその間隙をついたレジスタンスにより指揮系統を掌握され、帝国は事実上瓦解した。
その後は、「鋼鉄の7人」作戦の実行メンバーの一人であり、生還者であるミノル・スズキと、彼と結婚したローズマリーが木星の査察官に就任し、残存勢力の掃討・監視に当たった。また、ドゥガチが生前に構成していた政治団体は完全に解体されていたが、資産の一部は残され、ドゥガチの娘であるテテニス・ドゥガチが引継ぐこととなる。
余談だが、後日この計画の報告を受けた連邦政府は首都中枢を月面に移転する計画を進めている。位置はどのサイドからも「直接的な攻撃は出来ない場所」とされた。
以降の時代
『ゴースト』では神の雷計画の後が描かれている。木星帝国は共和制の「木星共和国」となっており、テテニスが引き継いだドゥガチの遺産を運用する団体は「ユピテル財団」として活動している。なお、ミノルは神の雷計画の5年後に死去し、ローズマリーは地球圏に帰還したというのもあり、政治と監視はテテニスと彼女の関係者が担っており、カーティス・ロスコへと成り替わっていたトビアが木星の諜報機関および特殊部隊である「蛇の脚(セルピエンテ・タコーン)」を率いて裏からそれを支えていた。
ジャック・フライデイとその妹やヌブラード兄妹がストリート・チルドレンであったことから、一時は家族単位の生活もままならない状態の木星コロニーであったが、テテニスはユピテル財団の資産を用いて木星の生活基盤の改善に取り組んでその手腕を発揮し、『ゴースト』の時代(宇宙世紀150年代)には大幅に生活環境が改善されて食料などの生産も安定、配給制が取り止められた上でそれらを必要としなくても国民の生活が成り立つにまで国力を得た。一方、かつての帝国の時代のタカ派も現存してドゥガチを今なお支持しており一枚岩とはなっておらず、軍部のサーカスらが地球圏への侵攻も視野に入れた新兵器を開発している(共和国政府は、それらのガス抜きおよび高い要求を出して開発を難航・頓挫させる事を狙って承諾したが、成果が挙がってしまうという予想外の結果となった)などタカ派も活動に力を入れていて、監視やけん制を続けている状態である。
上述のようにフォンセ・カガチは彼が木星船団出身であったため、テテニスは彼がサイド2の有力者となった時点から友好関係を結ぼうとしており、後にザンスカール帝国の最終兵器として使われることとなるエンジェル・ハイロゥの正体とは、両国の友好の一環としての「10万人を搭乗させることができる木星への巨大移民船」をテテニスを騙して木星側に建造させ、カガチがそれを地球圏に持ち込み兵器利用したものとされている。
更に時代を経た『DUST』(宇宙世紀160年代後半)では政治闘争の結果・タカ派が主導権を取り、テテニスを始めとしたハト派有力者は軟禁された状態だが、地球圏から圧倒的距離を隔てていることを利点として戦乱には表立って介入しないことで非常に安定した立場を得ている(裏では宇宙に上がりたい者と工作員の入れ替えによる潜入を進めている)。地球圏の工業力や開発力が低下しているのに対して、木星圏の膨大な資源力を背景に産業は著しい発展を遂げて高い技術力を保持しており、個人向けにデチューンした新造MSの販売や、すでに地球圏では技術的な模倣すら不可能となりつつあるMSのレストアも行うなど、太陽系全域へ広がりつつある宇宙社会の中心的存在となりつつある。
代表的な人物
- クラックス・ドゥガチ
- テテニス・ドゥガチ/ベルナデット・ブリエット
- ザビーネ・シャル
- カラス
- ギリ・ガデューカ・アスピス
- ローズマリー・ラズベリー
- バーンズ・ガーンズバック
- 光のカリスト/影のカリスト
- エウロペ・ドゥガチ
- フォンセ・カガチ
代表的なMS・MA・戦艦
関連項目
木星帝国
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「機動戦士クロスボーン・ガンダム」の記事における「木星帝国」の解説
クラックス・ドゥガチ 声 - 永井一郎(『GGENERATION-F』『第2次α』) / 麦人(『GGENERATION SPIRITS』以降) 木星帝国総統。木星圏を人の住める環境にするために、地球連邦からの充分な援助も無いまま70年余りに渡り尽力し一定の国力を持ち、ある程度の自立ができるようになった。すると、地球側から政略の一環として、良家の女性(ベルナデットの母)との縁談が申し入れられる。政略結婚により地球に対して媚るよう求められたことに加え、その妻が非常に優しいよく出来た女性だったことで、豊かな生育環境でしか生まれない余裕を見せ付けられ、かつてない程の屈辱を味わう。そのため地球に対し狂気ともいえる憎悪を抱き、密かに木星帝国を築き上げる。国民に対しては豊かな大地である地球を木星人の手に取り戻すと公表していたが、その真の目的は地球を不毛な大地へと変えることであり、その先のことは全く興味はなかった。 彼の思考をコピーした「バイオ脳」が9体存在しており、影武者を務めている。 搭乗機は、MAエレゴレラおよびディビニダド(オリジナルが直接搭乗したのはディビニダドのみ)。特にディビニダドには「フェザーファンネル」というサイコミュ兵器らしき武装が搭載されているが、彼自身がニュータイプであるかは不明。ゲームではニュータイプ扱いとなっている。 女性関係ではベルナデットの母以外にも、続編『鋼鉄の7人』では木星人である後妻のエウロペが登場し、また、ベルナデットの母と結婚する前に、内縁関係にあった女性が存在し、その女性との間に子供(キゾ)がいた事が『ゴースト』で判明している。 カラス 声 - 茶風林 トビア達留学生の指導教官の一人だが、実は木星帝国の諜報員で、ドゥガチ直属の部下。中継ステーション襲撃時にスマシオンに積んであった毒ガスをトビアが見た場面に居合わせ、証拠隠滅のために彼を拳銃で射殺しようとする。「強い者こそが正しい」という信念の持ち主で、木星帝国に従っているのもその信念に基づいているに過ぎない。現に敵であっても、ニュータイプとして急成長するトビアに強い関心を示し、しきりに自らの元に来るように勧誘している反面、子飼いのギリに対しては敗者という理由だけで気にもとめなくなる程。また、強者=ニュータイプ能力を持つ人間に強い関心を示しており、「スクール」と呼ばれる場所でギリやカリスト兄弟を教育していた。 ワイヤーを操る技術に長けており、それによって宇宙漂流の危機を脱して何度もトビア達の前に現れる。最終決戦では自らニュータイプ部隊を率いMAノーティラスでトビアに戦いを挑む。偽りとはいえ教え子のトビアの説得には耳を貸さず、違う生き物同士は強者だけが生き残るべきという持論を嬉々として語る。余りの身勝手な言い分に激怒したトビアにNT部隊共々敗北。トビアに対して歪んだ師弟愛を感じていたらしく、死にかけながらも自分に勝利したトビアの力量を称賛し、死の間際に至っても後ろからトビアを撃とうとした部下を勝者(トビア)の行く手を阻む敗者として逆に撃ち落とし、その生き様を全うした。 ギリ・ガデューカ・アスピス 声 - 真柴摩利(無印) / 岩永哲哉(鋼鉄の7人) 対クロスボーン・ガンダムチーム「死の旋風(デス・ゲイルズ)隊」のリーダーで、チームの攻撃担当。階級は少佐。木星帝国の次期幹部候補生。カラス直属のニュータイプであることに異常ともいえる自尊心をもっており、性格は非常に尊大にして傲慢かつ残虐。地球での掃討戦では楽勝と思っていたが、計算外の地球の重力と地の利と機体特性を最大限に活用したトビアと援軍で駆けつけたキンケドゥにより敗北し、自決しようとしたところをバーンズに止められた。 搭乗機はクァバーゼ。 『鋼鉄の7人』では、地球でコックとして生活しており、バーンズの手引きで新生木星帝国と戦う仲間を求めていたトビアと再会。当初は協力を断っていたが、トビアより遥かに険悪な間柄だったカリスト兄弟が帝国を支配している事から協力するようになる。地球での生活の間にトビアよりも身長が大きく伸びており、かつて生死を賭けた激闘を繰り広げた間柄にも関わらず、トビアとの再会の際に開口一番無頓着に身長を驚かれたことも、ギリの心情を少なからず動かすきっかけとなった。 木星決戦においてはビギナ・ギナIIに搭乗し、光のカリストと激闘を繰り広げるが、じりじりと押されていく。発射体制に入ったコロニーレーザー・シンヴァツを止めるべく四肢を失った機体で特攻を行い、戦死。その命を捨てた行動はシンヴァツに深刻なダメージこそ与えられなかったものの、発射角度をわずかにずらした。その結果、レーザーの第一射は地球への命中コースを外れることになる。 搭乗機は量産型クァバーゼ、後にビギナ・ギナII(ギリ専用機)。 ローズマリー・ラズベリー 声 - まるたまり 死の旋風隊の女性パイロット。金と血生臭い騒動が大好きな性格。 搭乗MSはアビジョで、敵機の牽制・かく乱を担当する。捕虜となったトビアを公開処刑にする際はX2に搭乗するも、生身のトビア相手に油断し、不意を突かれて機体を奪われてしまう。地球での掃討戦で敗北する。 『鋼鉄の7人』では、経歴を詐称してアナハイム・エレクトロニクスのミノフスキードライブ搭載型試作機スピードキングのテストパイロットになったが、テスト中に地球の重力に捕まり大気圏に突入。「光の翼」をビームシールドの代わりにして大気圏を突破するが、地上に墜落した際に機体が渓谷の狭間にハマり込んでしまい、そのまま逃亡。各地を巡業してモビルスーツストリップ(MSの掌の上でのストリップ)を行い生活しており、トビアからの誘いに快諾した。 木星決戦時には、アラナ・アビジョに騎乗。戦いの中で機体は中破するがなんとか生き残る。戦後はミノルの妻となり、共に監視役として木星圏に暮らす。またその傍ら「神(ゼウス)の雷計画の真実」という本を執筆し好評を博したが、その内容はかなり不正確な代物であったらしい(しかし、不正確であるがゆえに連邦のお目こぼしをもらい、見逃された)。 17年後の『ゴースト』では地球圏に舞い戻ってフリーライターとして登場。単なる取材で訪れたはずの「真のザンスカール」で、いつのまにかレジスタンスのリーダー格になる・人前で公然と「真のマリア」に楯突くなど、騒動好きの性格は変わっていない。なお、夫ミノルとは結婚後5年目で死別したとのこと。トレスのVガンダムヘキサに搭乗しサーカスのバイラリナを撃退するも、戦闘後に乗機のコックピットをザンネックによる大気圏外からの射撃で打ち抜かれ戦死した。 バーンズ・ガーンズバック 声 - 飯塚昭三 木星帝国のベテランパイロット。階級は大尉。搭乗MSは専用機として赤色に塗装したバタラだったが、死の旋風隊ではトトゥガを与えられ、防御を担当する。息子を事故で失っており、過酷な木星の環境と比べ、豊かな水資源を持つ地球圏の住人に対して恨みを抱いていた。また、息子が亡くなって以来、出撃時にはヘルメットをかぶらない。 敵であるトビアに亡き息子の面影を見ており、地球での掃討戦での敗北後、彼らにジュピトリス9の弱点を教えた。 『鋼鉄の7人』では地球で生活し、牧場を営んでいた。トビアからの誘いに快く応じ共に戦う。木星決戦時には、バーラ・トトゥガに乗り戦うが、影のカリストの攻撃によって大破。シンヴァツ特攻を行うギリを敵機の攻撃からかばい抜いて果てる。なお、この時の作戦中は仲間を守るため少しでも長く生きぬこうと、息子が亡くなって以来初めてヘルメットをかぶり戦った。
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