うしろ【後ろ】
読み方:うしろ
㋐後方。背後。「—を向く」「—へ順に送る」「駅の—の公園」⇔前。
2 表からは見えない所。物の裏側になっているところ。「カーテンの—」「—で糸を引く」⇔前。
3 順序のあとの方。また、最後のところ。「行列の—につく」「物語の—の方でどんでん返しがある」⇔前。
5
㋐舞台に出て役者の着付けを直したりする者。後見(こうけん)。
㋑舞台の後方で黒衣を着て控え、役者に台詞(せりふ)をつける者。
㋒舞台の陰で役者の所作につれて歌ったり、演奏したりすること。また、その音楽。下座音楽。
6 物事の過ぎ去ったのち。特に、人が去ったり、死んだりした、それから先。
後ろ
★1a.後ろ手。一般に、相手に背を向けて何事かをするのは呪いのしぐさである。
『古事記』上巻 イザナキは黄泉国を訪れた時、8体の雷神と千5百の黄泉軍(よもついくさ)に追われた。彼は、身につけていた十拳(とつか)の剣を抜き、後ろ手に振りながら逃げた〔*『日本書紀』巻1に同記事〕。
『古事記』上巻 ホヲリ(山幸彦)は、兄ホデリ(海幸彦)に借りた釣り針を、海に失う。海神の助けで、ホヲリは釣り針を捜し出し、兄ホデリに釣り針を返す。その時、海神に教えられたとおり、ホデリは呪いの言葉を唱え(*→〔呪い〕1)、後ろ手に釣り針を渡す。その後、兄ホデリは貧しくなる。
*これとは逆に、後ろ手で財産を授かる話もある→〔餅〕6の『妖怪談義』(柳田国男)「妖怪名彙(シズカモチ)」。
★1b.神と対面するのは畏れ多いので、後ろ手で行なうという場合もある。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「戸隠明神」 歯の病の治癒を願って戸隠明神へ参詣する人は(*→〔歯〕8)、梨を奉納する。神主が梨を折敷にのせて後ろ手に捧げ、後(あと)しざりして、奥の院の岩窟の前に置いて帰る。後ろをかえり見ることはしない。神主が岩窟から10歩離れないうちに、まさしく梨の実を喫する音が聞こえるという(『譚海』巻2)。
★2.後ろへ投げる。
『オデュッセイア』第5巻 トロイアから故国イタケへの航海途中、大嵐で船が難破し、オデュッセウスは海上を漂う。海の女神レウコテアがオデュッセウスにスカーフを与え、「これを身につければ危険にはあわぬ。ただし、無事陸地に手が触れた時には、海に背をむけてスカーフを投げ返せ」と教える〔*オデュッセウスは陸地に着きスカーフを投げ、眠りこんで、王女ナウシカアに発見される〕。
『神統記』(ヘシオドス) ウラノス(=天)が夜を率いて訪れ、ガイア(=大地)の上に愛を求めておおいかぶさった時、彼らの息子クロノスは待ちぶせの場から手を伸ばし、大鎌で父の性器を切り取った。クロノスがそれを背後に投げつけると、後ろへ飛んでいった。
『日本書紀』巻2・第10段一書第2 海神がヒコホホデミに、「鉤(つりばり)を兄ホノスセリに返す時には、『貧鉤(まぢち)、滅鉤(ほろびち)、落薄鉤(おとろへち)』と呪詞をとなえ、鉤を後ろ手で投げ捨てて兄に取らせよ。面と向かって与えてはいけない」と教える。ヒコホホデミはこの呪詞と、潮満つ珠・潮干る珠を用いて、兄を降参させた〔*一書第3にも同記事。ただし呪詞が異なる〕。
『変身物語』(オヴィディウス)巻1 大洪水後、生き残ったデウカリオンとピュラ夫婦は、女神テミスから「大いなる母の骨を背後に投げよ」との神託を得た。夫婦は、「大いなる母」は大地、「骨」は石のことと解し、石を後ろの方へ投げると、そこから人間が生じた〔*→〔接吻〕5の「母なる大地の伝説」も、神託の「母」を「大地」と解釈する物語〕。
*→〔うちまき〕2aの『追儺』(森鴎外)・〔呪的逃走〕1の『御曹子島渡』(御伽草子)・『古事記』上巻・『ペンタメローネ』(バジーレ)第2日第1話・〔守り札〕1の『三枚のお札』(昔話)。
『カンガルー・ノート』(安部公房) かいわれ大根が脛に生える奇病にかかった「ぼく」は、廃駅にたどり着き、賽の河原の小鬼たちの手でダンボール箱に押し込められる。ダンボール箱には覗き穴があり、そこから外を見ると「ぼく」の後ろ姿が見える。その「ぼく」も、覗き穴から向こうをのぞいている。「ぼく」は脅える。駅の構内で「ぼく」の死体が発見される。
『現代民話考』(松谷みよ子)5「死の知らせほか」第1章の2 昭和52(1977)年、硬膜下血腫の手術中、生死の間を漂っている時に見た1コマ。真っ白なペンキを流したような大きな川に、真っ黒な小波が立っていた。白と黒の河原に私はションボリと立っており、その後ろ姿を私が見ていた。自分の姿を自分が見て、自分が呼んでいるのは、まことに奇妙なことだった(新潟県新潟市)。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ16 ある家の主人が外から帰って来て、書院の文机に寄りかかる人の後ろ姿を見る。それはどう見ても、主人自身の後ろ姿だった。やがて後ろ姿は、障子のわずかな隙間から外へ出て行った。主人はその年のうちに死んだ。その家では父も祖父も、死ぬ前に自分の姿を見ている。
*自分の後ろ姿と気づかず銃撃する→〔円環構造〕7の『長い部屋』(小松左京)。
*無限の空間の彼方に、自分自身の後ろ姿を見る→〔無限〕8の『似而非(えせ)物語』(稲垣足穂『ヰタ・マキニカリス』)。
『一千一秒物語』(稲垣足穂)「自分によく似た人」 自分によく似た人が住んでいるという、真四角な家があった。自分の家とそっくりなので、変に思いながら、戸口を開けて2階へ登る。椅子にもたれ、背をこちらに向けて、本を読んでいる人があった。「ボンソアール!」と大声で言うと、向こうは驚き、立ち上がってこちらを見た。その人とは自分自身だった。
前後

前後(ぜんご・まえうしろ)とは、六方位(六方)の名称の一つで、縦や奥行を指す方位の総称。この内、進む方向を前(まえ)、これと対蹠に退く方向を後(うしろ)という。
古くは「まへ」・「しりへ」とも呼ばれた。「へ」は方向を指し、「まへ」は目の方向、「しりへ」は背の方向である。
相対的意味
平面上の地図においては、北を前、東を右とすることが一般的である。しかし、観測点の位置により、四方における左右前後と東西南北は相対的に異なる。
平面の方向では、縦は「前後」ではなく「上下」を指す事が多いが、これは前後と平行する方向に立てた時の称である。
立体では、「前後」が縦や奥行で、上下が高さや深さを意味するように、前後と上下の概念も相対的に異なる。例えば、「右上」という表現は、前後と平行する方向に立てた時の称であり、上下と平行する方向に置いた時には「右前」となる。
鏡は一般に左右を反転すると言われるが、水平の鏡面上に立つ所を想像すれば判る通り、鏡は鏡面に垂直な方向を反転する作用を持つ。故に、鏡を正面から見る時、鏡は前後を反転していると考えることができる。
| \ | \ | \ (上) | (上) \ Z | Z' \ ↑ | ↑ \ | Y | Y' |鏡 | 観○―→ | ←─○像 | 測 \ (前) | (前) \ | 者 X \ X' | (右) \ (右) | \ | \ | \ | \ | 観測者の前に鏡面を置いた状態 (観測者の右上後方から見た図)
目の前に真正面に置いた鏡による鏡像は、上の図の通り物理的には前後を反転させるが左右は反転させない。日常では目の前でこちらを向いている人と自分とでは左右が反転するはずなのに、鏡で自分の姿を写したときに見える鏡像は、物理的には前後だけが反転するものの左右は反転しない。このことが逆に左右が反転するものと一般に認知されているのである。つまり、自分が右手を動かすと鏡像は左手を動かすというように認知してしまうのである。上下が重力方向で決まるのに対し、左右は基準となる人や物の向きによって相対的に決まる概念であるため、上下反転とは認知されず、左右反転と認知されているのである。
観測者と鏡像との関係は、直交座標系の右手系と左手系の関係と同じである。つまり、観測者の右方向をX軸、前方向をY軸、上方向をZ軸とすれば、右手系直交座標系となる。これに対し鏡像の方は左手系直交座標系となり、鏡像の右方向をX'軸、前方向をY'軸、上方向をZ'軸とすると、YとY'が逆方向になるだけで、XとX'、ZとZ'は同じ方向となる関係である。
観測者(実像)と鏡像の関係にあるのは鏡によるものだけではない。例えばテレビやパソコンなど、人が面と向かって使用する道具は鏡像と同じように、使用者に対して前後が逆転している。ステレオテレビやパソコンの右スピーカは使用者と同じ右側についており、使用者と左右は一致している。もちろん上下は使用者と同じ方向である。ところが、テレビやパソコンの前方向は使用者に対面する方向、つまり、使用者にとっての後ろ方向である。
時間軸の前後
時間においては、「話が前後する」「…する前」「…した後」「以前に言ったように」「後回し」「前近代」「後三年の役」というように、早い方を「前(先)」、晩い方を「後」として示す。英語で「時間軸が前の」「優先する」「先んずる」を意味する"anterior"の原義は「前方の」、「時間軸が後の」「劣後する」「後れる」を意味する"posterior"の原義は「後方の」である。
これとは逆に、「時の流れが後を向いている」「これから先」というように、早い方を「後」、晩い方を「前(先)」として示す場合もある。
進行方向
人は目で確認し、そちらに足を踏み出して歩くのが標準である。従って目の向く方向、同時に爪先のある方向が前である。しかしながらやや困難ではあるが、後ろに向かって歩くことも可能である。その場合、通常に後ろが進行方向であるが、それに応じてこちらを前と言い換えることはない。その場合、後退という。それと区別する意味で前に進むことを前進という。他にも自動車や自転車など、基本的な進む方向は決まっているが,後ろにも進める場合、前進と後退を用いる。このように「進む」は前方への移動を「退く」は後方への移動を示す。後進は、同方向へ、遅れて移動するものを指す。ちなみに第二次世界大戦後半、日本軍部は退却と言いたくないために転進という語を使用した。
日本における地名
令制国時代の旧国名に「前」「後」が付く場合、京に近いか遠いかを示す。(括弧内は概ね該当する現在の県域)
- 京に近い越前国(福井県北部)とその先の越後国(新潟県)
- 京に近い備前国(岡山県東部)とその先の備後国(広島県東部)
- 京に近い豊前国(福岡県東部と大分県北部)とその先の豊後国(大分県中南部)
- 京に近い筑前国(福岡県西部)とその先の筑後国(福岡県南部)
- 京に近い肥前国(佐賀県と長崎県)とその先の肥後国(熊本県)
また、京に近い地域では、京を基準にその後背地域に「後」を付す。
日本の名字
関連項目
後ろ!
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 09:02 UTC 版)
両手を広げて大の字になって前に倒れ、空中で背後の敵に蹴りを浴びせる。悟空とピッコロの同時攻撃をしのぐ最中に、背後に回り込んだ2人を「後ろ!」の言葉と共に迎撃した。
※この「後ろ!」の解説は、「ラディッツ」の解説の一部です。
「後ろ!」を含む「ラディッツ」の記事については、「ラディッツ」の概要を参照ください。
「後ろ」の例文・使い方・用例・文例
- 彼は振り向いて後ろにいる女性に話しかけた
- 彼は後ろを向いた
- ずっと後ろのほうの席のチケットしかありません
- 車の後ろの座席に座る
- 見てごらん,シャツが後ろ前だよ
- 家の後ろにガレージがある
- 前に進め!後ろに下がるな
- おじさんの家は後ろが湖に接している
- 後ろを振り返る
- 後ろに体をそる
- 名前を後ろから言ってみて
- 後ろを振り返ることもなく彼女は家族を捨てて出て行った
- 駅の後ろに洗面所がある
- その幼い少女は父親の背中の後ろに隠れた
- 後ろを振り返るな
- だれかが後ろから私の頭をなぐった
- 彼を後ろから押し上げて塀を乗り越えさせた
- 彼らは風の力を弱めてくれる木立の後ろに隠れた
- 彼はカーテンを両側に開いてその後ろに何があるかを見た
- 彼女は髪を後ろに引いてポニーテールにした
後ろと同じ種類の言葉
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