灌漑 灌漑の顕彰と保全

灌漑

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/04 03:15 UTC 版)

灌漑の顕彰と保全

灌漑史跡は人類の農耕と治水技術の発展の歴史を物語るものとして、文化財文化遺産として保護される傾向が国際的に広まっている。

かんがい施設遺産

国際かんがい排水委員会(ICID)が、灌漑の歴史・発展を明らかにし、灌漑施設の適切な保全に資することを目的として、建設から100年以上経過し、灌漑農業の発展に貢献したもの、卓越した技術により建設されたもの等、歴史的・技術的・社会的価値のある灌漑施設を登録・表彰するために、かんがい施設遺産制度を創設した[25]

世界遺産

世界遺産を推進する国際連合教育科学文化機関(UNESCO)は水科学部を設け、水資源管理に積極的に関与している[26]。このことから世界遺産も灌漑施設を重視する傾向がみられる。

関吉の疎水溝

以上(登録年順)は水路などが現在も活用されている稼働遺産としての灌漑システムそのものが評価されて登録されたもの。

この他、灌漑農業の典型として棚田(例:フィリピン・コルディリェーラの棚田群・中国紅河ハニ棚田)や、都市・集落の中に灌漑設備が組み込まれ構成資産となっているもの(例:カンボジアアンコール遺跡に含まれるバライという貯水池)、干拓に伴う排水行為(例:オランダのベームスター干拓地)、現在は機能していない遺跡として発掘確認されたもの(例:パキスタンのモヘンジョダロや中国の良渚遺跡)など多数の灌漑環境が登録されている。

無形文化遺産

無形文化遺産はユネスコが推進する世界遺産の無形文化財版。

記憶遺産

ユネスコ三大遺産事業の一つである記憶遺産は、歴史的・社会的な事象を伝える記録の保護を目的としている。

農業遺産

国連食糧農業機関(FAO)が始めた、世界重要農業遺産システム(GIAHS・ジアス)。

インド・クッタナドのバックウォーター

世界水システム遺産

世界水会議が推進する水管理に関係する施設などを顕彰する制度で、灌漑施設も対象になる。

文化財保護法による文化財

文化財保護法による国内の灌漑関連文化財の内、重要文化財史跡に指定、または登録有形文化財に登録されているものを「水土里(みどり)の文化財」[29]と呼んでいる。

このほか名勝重要伝統的建造物群保存地区重要文化的景観でも灌漑を含む景観を重視している(重複指定あり)。

姨捨の棚田
針江・霜降の水辺景観
雄川堰

歴史まちづくり法による歴史的風致維持向上地区

歴史まちづくり法は文化財単体ではなく、周辺環境も含めた歴史を中核に据える市街地整備計画を目的としており、認定されると歴史的風致維持向上地区として国から支援や特別措置を受けられる。群馬県甘楽町が、かんがい施設遺産となった雄川堰を中心とした歴史的風致維持向上地区となっている。また所管官庁の国土交通省は、歴史まちづくり法による「地域用水環境整備事業」を推進している。

日本遺産

日本遺産文化庁が推進する文化財を観光資源と位置付ける活用法。重要文化的景観の近江八幡の水郷、高島市海津・西浜・知内の水辺景観、高島市針江・霜降の水辺景観などを「琵琶湖とその水辺景観―祈りと暮らしの水遺産」として包括、福島県郡山市猪苗代町の「未来を拓いた『一本の水路』―大久保利通“最期の夢”と開拓者の軌跡 郡山・猪苗代―」が安積疏水を対象としている。

東西用水酒津樋門

近代化産業遺産

法的保護根拠はないが経済産業省近代化産業遺産を認定しており、「瀬戸内海沿岸の灌漑施設」としてかんがい施設遺産の淡山疏水(淡河疎水山田川疎水)とその流間流末に位置する印南野ため池群、高梁川東西用水酒津樋門岡山県倉敷市)、豊稔池ダム香川県観音寺市)が選ばれている。

土木遺産

社団法人土木学会が歴史的土木構造物土木遺産として認定しており、かんがい施設遺産からは七ヶ用水の大水門・給水口と山田堰が認定されているほか、多数の灌漑施設が含まれている[30]。特にユネスコへ加盟できないため世界遺産への展望が開けない台湾が独自に選定した世界遺産候補である烏山頭ダムを認定している点が注目される。

機械遺産

社団法人日本機械学会が機械技術の発展に貢献したものを機械遺産として認定している。農研機構生物系特定産業技術研究支援センターの農機具資料館収蔵品が登録されており、灌漑用のポンプなどが含まれている[31]

100選

農林水産省が日本の農業を支えてきた代表的な用水から疎水百選、農業の礎となった歴史・文化・伝統がある貯水池からため池百選、景観維持のため棚田百選[32]を選定している。

円山川下流域の水田

ラムサール条約

水鳥の生息環境である湿地帯を保護する目的のラムサール条約は、人工湿地としての灌漑農地や用水路も対象としている。国内では宮城県蕪栗沼周辺水田と兵庫県の円山川下流域周辺水田が灌漑耕作湿地として登録されている。

エコパーク

ユネスコが世界遺産と並行して推進しているMAB(Man and the Biosphere/人間と生物圏)計画の生物圏保護区(日本語通称エコパーク)は、自然環境の厳正保護が目的の世界遺産に対し、エコパークは自然との共存を図りつつ利用することも認めている。日本で登録されている志賀高原只見南アルプスでは自然湧水を活かした流下灌漑(重力灌漑)が行われている。


  1. ^ Frost protection: fundamentals, practice, and economics – Volume 1 (PDF)”. Food and Agriculture Organization of the United Nations (2005年). 2010年8月24日閲覧。
  2. ^ Williams, J. F.; S. R. Roberts, J. E. Hill, S. C. Scardaci, and G. Tibbits. “Managing Water for Weed Control in Rice”. UC Davis, Department of Plant Sciences. 2007年3月14日閲覧。
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  6. ^ Encyclopædia Britannica, 1911 and 1989 editions
  7. ^ Amenemhet III”. Britannica Concise. 2007年1月10日閲覧。
  8. ^ Dillehay TD, Eling HH Jr, Rossen J (2005). “Preceramic irrigation canals in the Peruvian Andes”. Proceedings of the National Academy of Sciences 102 (47): 17241–4. doi:10.1073/pnas.0508583102. PMC 1288011. PMID 16284247. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1288011/. 
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  10. ^ Ancient India Indus Valley Civilization”. Minnesota State University "e-museum". 2007年1月10日閲覧。
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  14. ^ Needham, Volume 4, Part 2, 340-343.
  15. ^ Needham, Volume 4, Part 2, 33, 110.
  16. ^ Siebert, S.; J. Hoogeveen, P. Döll, J-M. Faurès, S. Feick, and K. Frenken (2006-11-10). “The Digital Global Map of Irrigation Areas – Development and Validation of Map Version 4” (PDF). Tropentag 2006 – Conference on International Agricultural Research for Development. Bonn, Germany. http://www.tropentag.de/2006/abstracts/full/211.pdf 2007年3月14日閲覧。 
  17. ^ 「国民百科事典2」平凡社 p224 1961年4月30日初版発行
  18. ^ Irrigation in Africa in figures – AQUASTAT Survey – 2005 (PDF)”. Food and Agriculture Organization of the United Nations (2005年). 2007年3月14日閲覧。
  19. ^ 点滴灌漑 - 転職ワークペディア(2008年9月21日時点のアーカイブ
  20. ^ ILRI, 1989, Effectiveness and Social/Environmental Impacts of Irrigation Projects: a Review. In: Annual Report 1988, International Institute for Land Reclamation and Improvement (ILRI), Wageningen, The Netherlands, pp. 18 - 34 . On line: [1]
  21. ^ EOS magazine, september 2009
  22. ^ World Water Council
  23. ^ Drainage Manual: A Guide to Integrating Plant, Soil, and Water Relationships for Drainage of Irrigated Lands, Interior Dept., Bureau of Reclamation, (1993), ISBN 0-16-061623-9 
  24. ^ Free articles and software on drainage of waterlogged land and soil salinity control in irrgated land”. 2010年7月28日閲覧。
  25. ^ 農林水産省 かんがい施設遺産
  26. ^ 文部科学省 日本ユネスコ国内委員会 ユネスコ科学局の活動
  27. ^ Irrigators’ tribunals of the Spanish Mediterranean coast: the Council of Wise Men of the plain of Murcia and the Water Tribunal of the plain of Valencia - UNESCO Intangible Heritage
  28. ^ 朝日新聞2010年10月18日
  29. ^ 農林水産省 水土里の文化財
  30. ^ 土木学会選奨土木遺産HP
  31. ^ 機械遺産登録リスト
  32. ^ 全国棚田(千枚田)連絡協議会 『日本の棚田百選』


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