国際環境法とは? わかりやすく解説

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国際環境法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/02 00:34 UTC 版)

国際環境法(こくさいかんきょうほう)とは、国際的に発生している環境問題に対処するための国際法の一分野である。一般に、条約および慣習国際法により規律されるが、近年は、条約により特別の制度レジーム)を創設し、その内部で自己充足的な解決を目指すことが少なくない。

歴史

伝統的には、1941年の「トレイル溶鉱所事件」仲裁裁判所判決(米国/カナダ)(A.J.I.L., Vol.35, 1941, p.716)に見られるように、二国間における、一方の他方に対する領域主権侵害(「相当の注意義務」違反)という、他分野と変わりのない(フリードマンの「共存の国際法」)、紛争の平和的解決という性質であった。

しかし、1972年の環境に関する初めての世界規模の会議である「ストックホルム会議」で打ち出された「ストックホルム人間環境宣言」により、「環境は、人間の生存を支え」、「自然の環境と人間が作り出した環境は、ともに人間の福利および基本的人権ひいては生存権そのものの共有にとって不可欠である」とされ、「人類とその子孫のため、人間環境の保全と改善を目指す」(前文)と宣言された。まだ、この時点では、国際環境法は、「部門別アプローチ」(une approache sectorielle)のタイプのものであった(第一世代の国際環境法)。

その後、1980年代後半から新しいタイプの条約が次々と作成され、オゾン層の保護、地球温暖化、生物多様性の保護、砂漠化対処など、国際共同体全体の利益を管理する取り組みの国際法へと移行した(「第二世代の国際環境法」)[1]

現代の国際環境法の特質

それは、「持続可能な発展」(Sustainable Development; SD)概念(「持続可能性」)にある。すなわち、現代の世代のみならず、将来世代の利益の保護を目指す(「ストックホルム宣言」第2原則)、過去、現在、未来という時間を越えた概念である「人類」(l'humanité)[2]に結びつく国際法である。

具体的適用においては、他分野との相違として、次の三点が指摘される。

第一に、「防止原則」/「予防原則」である。これは、環境損害の不可逆性に由来する(1997年「ガブチコヴォ・ナジュマロシュ計画事件」国際司法裁判所判決、I.C.J. Reports 1997, pp.77-78, para.140)。「防止原則」(Preventive Principle; 「ストックホルム宣言」第21原則、「環境と開発に関するリオ宣言」第2原則)とは、科学的予測によって、自国の行為が環境を害する恐れがある場合には、前もってその行為を思いとどまらなければならない、という原則である。近年は、それよりさらに進んだ「予防原則」(Precautionary Principle; 「リオ宣言」第15原則)が確立し始めている。それは、たとえ科学的データによって環境を害することが明らかではない場合でも、重大で回復不能な損害を与えるリスクの存在だけで、当該行為を規制しなければならないという原則である。同原則は、すでにいくつかの条約で採用されている(「気候変動枠組条約」3条3項、「生物多様性条約」前文および「カルタヘナ議定書」10条6項ほか)。ただ、「予防原則」が一般慣習法に成熟したかどうかは、学説上、争いがある。

1998年「EC・ホルモン肉事件」において世界貿易機関(WTO)上級委員会は、予防原則が一般または慣習国際法であると加盟国によって幅広く受け入れられているかはより明らかではなく、ただこの抽象的な問題には入り込む必要はないとした。そして、予防原則は小委員会を通常の条約解釈の義務から解放するものではなく、それはSPS協定5条1項及び5条2項をくつがえすものではないと判断した(WT/DS26/A/R, WT/DS48/A/R, 16 January 1998, pp.46-48, paras.120-125.)。

その後、2011年「深海底における活動に関連する国の責任と義務」国連海洋法裁判所海底紛争裁判部勧告的意見において、予防アプローチはますます多くの国際条約の中に取り込まれてきており、それらの多くはリオ宣言第15原則の形式を反映しているのであり、そのことにより同原則が慣習国際法の一部になる方向への傾向が始まったと示した(ITLOS Reports 2011, p.47, para.135.)。

2010年「ウルグアイ河のパルプ工場事件」(アルゼンチン対ウルグアイ)において、国際司法裁判所は、近年における、1991年「越境環境影響評価条約」(エスポ条約)や1987年にUNEPで採択された「環境影響評価の目的と原則」に基づく、諸国家によりかなり広汎に受け入れられた実行を理由として、国境を越える枠組みにおいて、特に共有資源に重大な有害影響をもたらす危険性を有する産業活動の場合には、「環境影響評価」(Environmental Impact Assessment, EIA; l'évaluation de l'impact sur l'environnement, EIE)を実行する義務が一般国際法上、存在することを認め、1975年の「ウルグアイ河の地位に関する条約」41条が定める保護・保存の義務は、この実行に従って解釈されなければならないと示した(arrêt de la C.I.J., 20 avril 2010, pars.203-204; 岡松暁子「パルプミル事件」小寺/西村/森川(編)『国際法判例百選』(第2版)162-163頁)。

第二に、「共通だが差異のある責任」(common but differentiated responsibility;「リオ宣言」第7原則)である。この概念の根本には、お互いに助け合うという精神的な結びつきを意味する「国際共同体」(the international community; la communauté internationale)概念がある。すなわち、十分な対応能力を有する先進国と比べて、技術力や資金力を有しない発展途上国を別に扱い、たとえ違反が行われてもその事実のみを指摘して制裁を科さない「不遵守手続き」(Non-Compliance Procedure; NCP)[3]や先進国から途上国への技術移転、資金援助などを規定する国際条約が、今日では非常によくみられる。

第三に、私的アクターの存在である。これは、国際人権法の分野にも見られる。すなわち、NGO(非政府組織)が様々な条約作成や履行委員会などの国際会議に出席して発言したり、ロビー活動を通じて、国家の意思決定に積極的に関わるという現象が見られる。

また、法源としては、事態に敏速に対応するために、まず、「枠組条約」(framework-convention; une convention-cadre)を設定した後、締約国会議(COP; Conference Of the Parties)を継続させ、その中で「議定書」(Protocol)、「決定」(Decision)、「附属書」(Annex)を追加していく、という方式がよく採られる。また、ソフトロー的な法的拘束力のない文書を先行させて、後のハードローである条約や慣習法の成立を誘発させる、という形もとられている。

主要な国際条約・宣言

代表的な国際条約として、以下のものが挙げられる。

また、直接の法的拘束力はない「ソフトロー」的文書で、重要なものとして、以下のものがある。

その他、多数の地域条約制度が存在する。

脚注

  1. ^ Boisson de Chazournes,L., «Chapitre 15. Droit de l'environnement», in D.Alland(dir.), Droit international public, Paris, P.U.F., 2000, pp.731-732.
  2. ^ Dupuy,P.-M., Droit international public, 7e éd., Paris, Dalloz, 2004, p.753.
  3. ^ 高村ゆかり「国際環境条約の遵守に対する国際コントロール―モントリオール議定書のNon-compliance手続(NCP)の法的性格―」『一橋論叢』119巻1号(1998年)67-82頁; 柴田明穂「環境条約不遵守手続の帰結と条約法」『国際法外交雑誌』107巻3号(2008年)1-21頁。

参考文献

  • 高村ゆかり/亀山康子(編)『気候変動と国際協調―京都議定書と多国間協調の行方』(慈学社出版、2011年、407頁)
  • パトリシア・バーニー/アラン・ボイル著(池島大策/富岡仁/吉田脩訳)『国際環境法』(慶應義塾大学出版会、2007年、888頁)
  • 児矢野マリ『国際環境法における事前協議制度』(有信堂、2006年、354頁)
  • 高村ゆかり/亀山康子(編)『京都議定書の国際制度―地球温暖化交渉の到達点』(信山社、2002年、382頁)
  • 水上千之/西井正弘/臼杵知史編『国際環境法』(有信堂、2001年、263頁)
  • 渡部茂己『国際環境法入門』(ミネルヴァ書房、2001年、192頁)
  • 石野耕也/磯崎博司/岩間徹/臼杵知史(編)『国際環境事件案内』(信山社、2001年、263頁)
  • 磯崎博司『国際環境法』(信山社、2000年、290頁)
  • 山本草二『国際法における危険責任主義』(東京大学出版会、1982年、345頁)
  • SANDS(Philippe), Principles of International Environmental Law, 2nd ed., Cambridge, Cambridge University Press, 2003, 1116pp.
  • KISS(Alexandre)/SHELTON(Dinah), International Environmental Law, 3rd ed., New York, Transnational Publishers, 2004, 837pp.
  • KISS(Alexandre)/BEURIER(Jean-Pierre), Droit international de l'environnement, 3e éd., Paris, Pedone, 2004, 503pp.
  • DAILLIER(Patrick)/PELLET(Alian), Droit international public Nguyen Quoc Dinh, 7e éd., Paris, L.G.D.J., 2003, Sous-Titre III, pp.1269-1337.
  • BIRNIE(Patricia)/BOYLE(Alan), International Law & The Environment, 2nd ed., Oxford, Oxford University Press, 2002, 798pp.
  • ALLAND(Denis)(dir.), Droit international public, Paris, P.U.F., 2000, Chapitre 15 (par Laurence BOISSON DE CHAZOURNES), pp.727-756.
  • SHIGETA(Yasuhiro), International Judicial Control of Environmental Protection. Standard Setting, Compliance Control and the Development of International Environmental Law by the International Judiciary, The Hague, Kluwer Law International, 2010, 409pp.
  • YOSHIDA(Osamu), The International Legal Régime for the Protection of the Stratospheric Ozone Layer, The Hague, Kluwer Law International, 2001, 403pp.

関連項目


国際環境法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:16 UTC 版)

国際法」の記事における「国際環境法」の解説

国際環境法とは、国際的な環境問題対処するための国際法一分野である。その特徴は、「持続可能な発展」(Sustainable Development; SD概念として現れている。すなわち、従来国際法が、現在の世代利益のみを考慮していたのに対して近年の国際環境法、特に地球環境保護目的したものは、現在のみならず将来世代利益保護目指したものであり、過去、現在、未来世代という、時間超越した人類」(l'humanité概念に結びついている確かに20世紀半ばまでは、国際環境法も他分野同じく主権国家間の紛争の平和的解決の手段にすぎなかった。すなわち、当時は、「領域使用管理責任概念や「相当の注意義務」(due diligence概念適用する共存国際法であった1941年トレイル溶鉱所事件」(米国/カナダ仲裁裁判所判決、A.J.I.L., Vol.35, 1941, p.716)。 しかし、1972年の「ストックホルム人間環境宣言」を契機に、地球環境保護が、「人間福利および基本的人権ひいては生存権そのもの享有にとって不可欠である」(前文)と認められる至ったこのころの国際環境法は、海洋汚染対策1973年の「航行による汚染に関するロンドン条約」)、特定の動植物保護1979年の「野生動物相に属す移動性種の保護に関する条約」)、UNEPの下で採択され各種地域海洋に関する条約など、まだ「部門別アプローチ」の方式とっていた(「第一世代の国際環境法」)。 その後1980年代後半からは、国際共同全体利益管理することを中心問題とした「第二世代の国際環境法」を設定する条約次々と生まれようになったオゾン層保護地球温暖化への対処生物多様性保護砂漠化への対処などである。1992年ブラジルリオ・デ・ジャネイロ開催され環境と開発に関する国際連合会議から生まれた、「気候変動枠組条約」、「生物多様性条約」、そして法的拘束力はないが「森林原則宣言」は、その典型的なのである現代の国際環境法の特徴は、(1)防止原則/予防原則、(2)共通だ差異のある責任(3)私的アクター三つ挙げられる第一に、「防止原則」(Preventive Principle; 「ストックホルム人間環境宣言」第21原則、「環境と開発に関するリオ宣言」第2原則)とは、科学的予測によって、自国行為環境害する恐れがある場合には、前もってその行為思いとどまらなければならない、という原則である。近年は、それよりさらに進んだ予防原則」(precautionary principle; 「リオ宣言」第15原則)が確立し始めており、すでにいくつかの条約採用されている(「気候変動枠組条約3条3項、「生物多様性条約前文および「カルタヘナ議定書10条6項ほか)。それは、たとえ科学的データによって環境害することが明らかではない場合でも、重大で回復不能な損害与えリスク存在だけで、当該行為規制しなければならないという原則である。ただ、「予防原則」が一般慣習法成熟したかどうかは、争いがある。 1998年ECホルモン事件」において世界貿易機関WTO上級委員会は、予防原則一般または慣習国際法であると加盟国によって幅広く受け入れられているかはより明らかではなく、ただこの抽象的な問題には入り込む要はいとした。そして、予防原則小委員会通常の条約解釈義務から解放するものではなく、それはSPS協定5条1項及び5条2項くつがえすものではないと判断した(WT/DS26/A/R, WT/DS48/A/R, 16 January 1998, pp.46-48, paras.120-125.)。 その後2011年深海底における活動関連する国の責任義務国連海洋法裁判所海底紛争裁判部勧告的意見において、予防アプローチはますます多く国際条約中に取り込まれてきており、それらの多くリオ宣言15原則形式反映しているのであり、そのことにより同原則が慣習国際法一部になる方向への傾向始まった示したITLOS Reports 2011, p.47, para.135.)。 第二に、「共通だ差異のある責任」(common but differentiated responsibility; 「リオ宣言」第7原則)は、精神的な結びつきである「国際共同体」概念がその基礎にあると考えられる。すなわち、十分な応能力を有する先進国比べて技術力資金力有しない発展途上国別に扱うことである。たとえ違反が行われてもその事実のみを指摘して制裁を科さない「不遵守手続き」(Non-Compliance Procedure; NCP)や先進国から途上国への技術移転資金援助などを規定する国際条約が、今日では非常によくみられる第三に、私的アクター、すなわちNGO非政府組織)が様々な条約作成履行委員会などの国際会議出席して発言したり、ロビー活動通じて国家意思決定積極的に関わるという現象見られる。 また法源としては、事態敏速に対応するために、まず「枠組条約」(framework-convention; une convention-cadre)を設定した後、締約国会議COP; Conference Of the Parties)を継続させ、その中で議定書」(Protocol)、「附属書」(Annex)、「決定」(Decision)を追加していく、という方式がよく採られる(気候変動枠組条約COP3(1997年)で成立した京都議定書」ほか)。また、ソフトロー的な法的拘束力のない文書先行させて、後のハードローである条約慣習法成立誘発させる、という形もとられている。

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