色覚異常 色覚異常の概要

色覚異常

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/25 09:34 UTC 版)

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先天色覚異常の分類

人間の錐体細胞(S、M、L)と桿体細胞(R)が含む視物質の吸収スペクトル

1色覚

錐体細胞をまったく持たない場合、およびS・M・Lのいずれかひとつしか錐体細胞を持たない場合に発生する。発症は数万人に1人と少ない。

まったく錐体細胞を持たない場合は、本来暗い光を感知する桿体細胞にのみ視覚を頼る形になる。暗いところでは正常色覚者でも色がわからなくなるほか、細かい形状がわからなくなる(視力が低下する)が、錐体細胞がまったくない場合は、明るい環境でもこの状態になる。つまり、色がまったく識別できないほか、弱視などの症状がある。視力は0.1程度。近視などと違い網膜の問題であるため、眼鏡では色覚も視力も改善しない。また、明るすぎる環境では桿体細胞が正常に働かず、さらに視力が低下する。これに対してはサングラスや遮光眼鏡で対処する。

S錐体のみを持つ場合、もともとS錐体自体の数がM錐体・L錐体に比して非常に少ない(約10分の1)ため、まったく錐体を持たない場合とあまり変わらない症状になる。視力は0.3程度。

M錐体またはL錐体のみを持つ場合は色の識別はできなくとも視力はいいが、きわめてまれである。

ミクロネシア連邦ピンゲラップ島は、12人に1人を1色覚者(錐体を持たない)が占める島である。これは、1775年頃に島を襲ったレンキエキ台風によって人口が20数人にまで減ってしまい、その生き残りに1色覚者がいたため、孤立した環境で近親婚を繰り返した結果、1色覚者の割合が高くなったものである。1色覚者は暗い場所で微妙な明かりを見分けることができるとされている。このため、ピンゲラップ島において1色覚者の人々の多くは、夜釣りの漁師として働いている[6]

先天赤緑色覚異常

先天色覚異常の中でもっとも多く存在し、赤系統や緑系統の色の弁別に困難が生じる人が多いとされる。色の弁別に困難が生じるだけで、視力は正常である。日本人では男性の約5%、女性の0.2%が先天赤緑色覚異常で[7]、日本全体では約290万人が存在する。北欧にルーツを持つ男性では約8%、女性では約0.4%で先天赤緑色覚異常がみられる[8]

脊椎動物の色覚は、網膜の中にどのタイプの錐体細胞を持つかによって決まる。魚類両生類爬虫類鳥類には4タイプの錐体細胞(4色型色覚)を持つものが多い。よってこれらの生物は、長波長域から短波長域である近紫外線までを認識できるものと考えられている。一方、ほとんどの哺乳類は錐体細胞を2タイプ(2色型色覚)しか持たない。哺乳類の祖先である爬虫類は4タイプすべての錐体細胞を持っていたが、2億2500万年前には、最初の哺乳類と言われるアデロバシレウスが生息し始め、初期の哺乳類はおもに夜行性であったため、色覚は生存に必須ではなかった。結果、4タイプのうち2タイプの錐体細胞を失い、青を中心に感知するS錐体と赤を中心に感知するL錐体の2錐体のみを保有するに至った。これは赤と緑を十分に区別できない、いわゆる「赤緑色盲」の状態である。この色覚が哺乳類の子孫に遺伝的に受け継がれることとなった[9]

ヒトを含む旧世界の霊長類(狭鼻下目)の祖先は、約3000万年前、X染色体にL錐体から変異した緑を中心に感知する新たなタイプの錐体(M錐体)視物質の遺伝子が出現し、ヘテロ接合体の2本のX染色体を持つメスのみが3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて相同組換えによる遺伝子重複の変異が起こり、同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されることとなり、X染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚は果実等の発見に有利だったと考えられる[9][10]

時代を下ってヒトの色覚の研究成果により、ヒトが属する狭鼻下目のマカクザルに色盲がヒトよりも非常に少ないことを考慮すると、ヒトの祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が下がったと考えられる[9]。色盲の出現頻度は狭鼻下目のカニクイザルで0.4%、チンパンジーで1.7%である[10]。新世界ザル(広鼻下目)はヘテロ接合体のX染色体を2本持つメスのみが3色型色覚を有し、オスはすべて色盲である。これは狭鼻下目のようなX染色体上での相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こさなかったためである[10]。ヒトは上記のような霊長目狭鼻下目の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、M錐体を欠損したX染色体に関連する赤緑色盲が伴性劣性遺伝をする。男性ではX染色体の赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいると色盲が発現し、女性では2本のX染色体とも赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいる場合に色盲が発現する[11]

青黄色覚異常

錐体神経のうち、青錐体(S錐体)系の異常(第3色覚異常)により発生する。先天的な青黄色覚異常は非常にまれである。正常色覚者でも青錐体の数は少なく、そこからの情報は補助的にしか利用していない[12]ため、生活上の不便はまったくといっていいほどなく、本人も周囲の者も気づかないことがほとんどである。学校でかつて全員に行われていた色覚検査でも赤緑色覚異常の検出に主眼を置いていたため、発見される機会も少なかった。

強度の青黄色覚異常の場合、かすかに緑がかった黄色と青紫色が中性点(無彩色に見える点)となる。しかし、赤緑色覚異常での中性点(大雑把に赤と緑だが、厳密には第1色覚と第2色覚で微妙に異なる)が、日常的に同明度で区別を要する状況が頻出するのに対し、黄色と青紫が同明度で使われることはまずあり得ない(同明度の黄色と青紫は、一般的にいう黄土色と藤色の関係であり、普通の黄色と青紫では白と黒ほど明度が違って見えるため区別できないことは事実上ない)。また、緑と青の区別も難しいが、正常者でも青と緑は区別しない傾向にあるため、周囲の者も気づかないというだけである。逆に赤緑色覚異常の者にとっては、青と緑はまったく違う色に見え、正常者が区別しない傾向にあることを不思議に感じることが多い。逆に言えば、「正常色覚」は青と緑の判別力が相対的に弱いといえる。また、青黄色覚異常の人は、赤から緑にかけての色の識別は問題ないものの、緑から青にかけての色の識別は正常色覚よりも劣る。「青」錐体が欠損しているため波長410nm前後の光を吸収できず、厳密には紫みを帯びた青は黒く見え、黄色は白く見えるようになる。

先天色覚異常の分類のまとめ

正常色覚RGBW
1型2色覚RGBW
2型2色覚RGBW
3型2色覚RGBW

実際の患者によるヒアリングによると、3型は絵のように青がここまで黒くなくもう少し青く見えることが最近分かった。錐体細胞の異常の有無と現れる色覚異常の関係を表にまとめると下記のとおりである。

錐体細胞の異常の有無と現れる色覚異常の関係
錐体細胞 名称 症状 発生頻度
S M L
正常色覚 正常(症状なし) 人口の大多数
× 1型色覚 赤系統 - 緑系統の色弁別に困難が生じるが、
正常色覚とほぼ同程度の弁別能を持つ者も多い
日本では男性約20人に1人
女性約500人に1人
× 2型色覚
× 3型色覚 正常色覚とほとんど変わらないが、
正常色覚と比べて全体的に色がくすんで暗く見える
日本では数万人に1人
(ほとんどが後天色覚異常が多い)
× × 1色覚 色は識別できないが視力は正常 日本では数万人に1人
× ×
× × 色が識別できず視力も低い
× × ×
  • 日本眼科学会が2005年に更新した色覚関連用語は以下の通りである[13]
色覚に関する眼科用語(一部)
医学用語(現行) 医学用語(2004年以前)
1色覚 全色盲
2色覚 2色型色覚
3色覚・正常色覚 正常3色型色覚・正常色覚
異常3色覚 異常3色型色覚・色弱
1型色覚 第1色覚異常
2型色覚 第2色覚異常
3型色覚 第3色覚異常
1型2色覚 第1色盲・赤色盲
2型2色覚 第2色盲・緑色盲
3型2色覚 第3色盲・青色盲
1型3色覚 第1色弱・赤色弱
2型3色覚 第2色弱・緑色弱
3型3色覚 第3色弱・青色弱

後天色覚異常の分類

本節は未記述。注を参照のこと。[14]




  1. ^ 遺伝学用語改訂について”. 日本遺伝学会 (2017年9月11日). 2018年11月30日閲覧。
  2. ^ 小澤瀞司・福田康一郎 監修『標準生理学 第8版』、医学書院、2015年8月1日 第8版 第2刷、P290
  3. ^ KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P233、節『クリニカルボックス 12-6 色覚異常』
  4. ^ KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P233、節『クリニカルボックス 12-6 色覚異常』
  5. ^ カラーバリアフリー「色使いのガイドライン」 (PDF) - 国立遺伝学研究所(平成17年4月)
  6. ^ オリヴァー・サックス『色のない島へ』,(The Island of the Colorblind 1996年、ISBN 4-15-050237-4早川書房,第1部「ピンゲラップ島」77頁
  7. ^ 日本眼科学会:目の病気 先天色覚異常
  8. ^ Chan, Xin; Goh, Shi; Tan, Ngiap (2014). “Subjects with colour vision deficiency in the community: what do primary care physicians need to know?”. Asia Pacific Family Medicine 13 (1): 10. doi:10.1186/s12930-014-0010-3. 
  9. ^ a b c 岡部正隆、伊藤啓「なぜ赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子が並んで配置しているのか」『細胞工学』第21巻第7号、2002年7月。
  10. ^ a b c 三上章允 (2004年9月18日). “霊長類の色覚と進化 (PDF)”. 公開講座「遺伝子から社会まで」. 京都大学霊長類研究所. 2013年9月20日閲覧。
  11. ^ 岡部正隆、伊藤啓「女性で赤緑色盲が少ない理由」『細胞工学』第21巻第7号、2002年7月。
  12. ^ そのため画像圧縮でも青色情報には少ない情報量しか割り当てられない。赤や緑に比べていい加減な再現でも人間の眼には違いがわかりにくいからである。
  13. ^ 市川一夫 (2007年9月6日). “色覚関連用語について”. 日本医学会医学用語辞典. 日本医学会. 2013年9月20日閲覧。
  14. ^ 事例として、第四次視覚野に銃弾を撃ち込まれてその部位だけ壊されてしまった人は、色の判別ができなくなり、視界が白黒に映るようになった(全色盲の例でもある)。銃弾が速く鋭利に発展したため、脳の一部のみを破壊する例が増え、こうした症例も確認されるようになったとされる。参考・池谷裕二『進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線』講談社、2007年、ISBN 978-4-06-257538-6、p.58より。
  15. ^ 田辺詔子、深見嘉一郎、市川一夫 ほか、眼科的検診のための仮性同色表 『臨床眼科』 47巻5号 (1993年5月), doi:10.11477/mf.1410908623
  16. ^ 先述「医学用語(2004年以前)」表にもある通り。
  17. ^ a b “色覚異常の中高生、半数気づかず進学・就職”. 読売新聞. (2012年9月19日). http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130919-OYT1T01158.htm 
  18. ^ a b c “色覚異常、半数気づかず 検査中止10年、進路断念も”. 朝日新聞デジタル. (2013年9月19日). http://www.asahi.com/national/update/0919/TKY201309180649.html 
  19. ^ “小4での色覚検査、中止から10年 異常知らず進路選択、トラブルも”. MSN産経ニュース: p. 2. (2013年9月30日). http://sankei.jp.msn.com/life/news/130930/bdy13093008200000-n2.htm 
  20. ^ 学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知) 文部科学省 26文科ス第96号 平成26年4月30日
  21. ^ 学校における色覚検査に関する見解 日本眼科学会 平成27年9月11日 (PDF)
  22. ^ 高柳泰世, 宮尾克, 色覚異常者のよりよい色彩環境を考える」『人間工学』 1998年 34巻 Supplement号 p.256-257, 日本人間工学会, doi:10.5100/jje.34.Supplement_256
  23. ^ News Up タヌキの色は緑色? 知っておきたい色の見え方の多様性 - NHK
  24. ^ 色覚検査のすすめ (pdf)”. 日本眼科医会. 2016年9月22日閲覧。
  25. ^ マンガ家 安藤正基先生 - 名古屋造形大学
  26. ^ 学校における色覚に関する資料 (10/17)”. 日本学校保健会. 2021年1月24日閲覧。
  27. ^ 色覚バリアフリー社会への一助でありたい - NPO法人True Colors
  28. ^ よくある質問 Q&A|航空身体検査|一般財団法人 航空医学研究センター
  29. ^ 航空管制官採用試験”. 航空保安大学校. 2013年9月20日閲覧。
  30. ^ 「色覚異常:見やすい信号機 東京・芝に試験設置」毎日新聞 2012年2月7日配信
  31. ^ ユニバーサルデザイン信号機、ついに登場!”. 聖学院大学非公式ブログ「福祉のこころ」 (2012年2月8日). 2013年9月20日閲覧。
  32. ^ 2色LEDは色覚異常者の敵”. U'eyes Design Inc 使いやすさ日記. 2015年5月31日閲覧。
  33. ^ 2色LED製品情報”. サンケン電気. 2015年5月31日閲覧。
  34. ^ 新屋太九郎、少陽経と陽明経の異常と色盲治験 『日本鍼灸良導絡医学会誌』 7巻 2号 1978年 p.4-6, doi:10.17119/ryodoraku1971.7.2_4


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