遺伝子重複
遺伝子重複
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/17 14:42 UTC 版)

遺伝子重複(いでんしちょうふく、gene duplication / chromosomal duplication)とは、遺伝子を含むDNAのある領域が重複する現象のことである。遺伝子重複が起こる原因としては、遺伝的組換えの異常、レトロトランスポゾンの転移、染色体全体の重複などがある[1]。
遺伝子の重複だけでなく、ゲノム全体の重複も珍しいことではない。例えば酵母のゲノムは1億年ほど前に重複したと考えられている[2]。また植物では頻繁にゲノム重複が起こっており、コムギは6つのゲノムセットを持つ6倍体である(→ 倍数性)。
遺伝子重複と進化
重複した遺伝子の一方は選択圧から解放される。これは同じ機能を持つ二つの遺伝子が存在する場合、一方が突然変異を起こしてその機能を失っても(もしくは変化させても)、もう一方が正常に機能していれば生物の生存に支障が無いためである。そのため重複した遺伝子では、単一の遺伝子よりもはるかに早く、経代に伴う変異が蓄積される。そのため、重複遺伝子は進化の主要な役目を担うと考えられており、100年以上も前から学界において支持されてきた[3]。大野乾はもっとも有名な提唱者の一人であり、著書 "Evolution by gene duplication" (1970年)を著した人物でもある[4]。重複遺伝子は共通祖先の出現以来、最も重要な進化の原動力であったと主張する人もいる。
オーソログとパラログ
相同な遺伝子、すなわちホモログ(同じ祖先遺伝子から由来した遺伝子)は、その生じ方の違いから、オーソログとパラログに分けられる。種分岐で生じた二つの遺伝子はオーソログと呼ばれる。これに対して、遺伝子重複によって生じた二つの遺伝子はパラログと呼ばれる。パラログは、遺伝子として発現する体の部位や発現する時期、または機能や構造が異なるタンパク質をコードすることが多い。
これらオーソログとパラログとを区別することは研究上重要であるが、しばしば困難である。例えばヒトの遺伝子の研究は、他の動物に相同な遺伝子が見つかればそれを用いて行われることが多いが、これはその遺伝子がヒトの遺伝子のオーソログである場合にのみ可能である。仮に遺伝子重複の結果生じたパラログであれば、その機能が異なっている可能性が高い。
参考文献
- ^ Zhang, J. (2003). "Evolution by gene duplication: an update." Trends in Ecology & Evolution 18(6): 292-298. DOI link
- ^ Kellis, M, Birren, BW & Lander, ES. (2004). "Proof and evolutionary analysis of ancient genome duplication in the yeast Saccharomyces cerevisiae" Nature 428: 617-624.
- ^ Taylor, JS. & Raes, J. (2004). "Duplication and Divergence: The Evolution of New Genes and Old Ideas" Annual Review of Genetics 9: 615-643. DOI link
- ^ Ohno, S. (1970). Evolution by gene duplication. Springer-Verlag. ISBN 0-04-575015-7
関連項目
外部リンク
遺伝子重複
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もう1つの仮説は、オプシン多型は狭鼻小目から分岐した後の広鼻小目で生じたと説く。この仮説では、単一のX型オプシンアレルが狭鼻小目で重複し、狭鼻小目のM型およびL型オプシンはその後に複製された一方の遺伝子の影響を与えるが、他方には影響を及ぼさない突然変異によって分岐したとされる。広鼻小目のM型およびL型オプシンは、既存の単一オプシン遺伝子から複数の対立遺伝子へと平行進化したとされる。DNA配列のいくつかの小さな違いから経過時間を推定する、「分子時計」と呼ばれる遺伝学上の技術を使用して、進化的イベントの前後関係を決定できる。オプシン遺伝子の塩基配列分析により、新世界ザルのオプシン対立遺伝子間の遺伝的相違(2.6%)が、旧世界ザルの遺伝子間の相違(6.1%)よりもかなり小さいことが明らかとなっている。したがって、新世界の霊長類の色覚対立遺伝子は、旧世界ザルに起きた遺伝子重複よりも後に発生したことが示唆される。オプシン遺伝子の多型は、1回または複数回の点突然変異によって独立して生じうるため、吸光スペクトルの類似性は収斂進化によるものであるとも考えられる。新世界ザルの遺伝的均質化にもかかわらず、ヘテロ接合の雌では3色型色覚が維持されており、これらの対立遺伝子を定義する重要なアミノ酸が維持されていることが示唆される。
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