色覚異常 検査・評価

色覚異常

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/25 09:34 UTC 版)

検査・評価

仮性同色表

色覚異常があると数字などが読めない指標や、色覚異常がある場合とない場合で違うものが読める指標、色覚異常者には読め、正常色覚者には読めない指標を読ませることで色覚異常を検出する。感度が高くほとんど正常に近い色覚異常でも検出できる[15]。色覚特性に対する高い検出力、検査の簡便さや準備の手軽さ、低費用などの長所があるため、色覚検査でもっともよく使われる方法のひとつであり、精密検査でほかの色覚検査法に先だって行われることも多い。

石原表が有名で世界的に用いられているほか、標準色覚検査表、東京医大表などがある。カラーセロファンなどの一般的な色フィルターをかざすことで色覚検査表を判読することができる場合がある。

アノマロスコープ

赤緑異常の評価に頻用される。緑の光と赤の光を混合すると黄色く見えるが、これを黄色の波長の光を見ながら同じく見えるように混合比を調節させるものである。赤緑異常を持っている場合、正常人に比べて混合比がどちらかに大きく偏る傾向が見られる。

パネルD-15テスト

連続した色相の15個のチップを、色が連続的に変化するように並べるものである。ある2色の区別がつきにくい場合、それ以外の色の変化のみに着目した配列にしてしまうため、色覚異常の種類・程度を判別することができる。

航空業界や船舶業界では石原表と合わせて検査に使われている(後述)。

症状

かつて色盲(しきもう)と呼ばれた[16]ことから、「白黒に見える」ような誤解があるが、それはまれな全色盲の場合である。先天色覚異常の大多数を占める赤緑色覚異常の当事者は有彩色を感じ取っている。先天色覚異常者の色弁別能(2つ以上の色が同じか違うかを判別する能力)は、正常色覚者の色弁別能に劣る。しかし、軽度の先天色覚異常者の色弁別能は、日常生活で不便を感じる程度のものではない。

以下のような色の組み合わせの例は、正常色覚者と先天色覚異常者とで見分けやすさが異なる場合が多い。正常色覚者にとっては同系色でない色彩の組み合わせを、先天色覚異常者が同系色と認識する、あるいは色相を特定できないなどといったことが生じる場合がある。狭い面積に配色されたもの(細い線の文字など)はより判別しにくくなるなど、色彩以外の条件も影響する。なお、以下の色彩は、各々のコンピュータやディスプレイの設定・特性に影響されるため、参考程度にとらえるべきである。また、これらは先天色覚異常の説明のためのものであり、色覚異常の判定に用いることは不適切である。大雑把に言えば、明度が近い場合に、赤っぽさと緑っぽさを混同しているように見える。

淡赤と淡緑
淡赤と淡灰
淡緑と淡灰
淡青紫と淡青灰
淡青緑と淡青灰
淡青紫と淡青緑
赤味青と緑味青
青紫と暗青
赤味黄と緑味黄
黄赤と黄緑
暗黄と暗緑
暗赤と暗緑(重度の場合)
赤黒と黒(1型色覚の場合)
赤と暗橙(1型色覚の場合)
緑黒と黒(2型色覚の場合)
青緑と灰(2型色覚の場合)

社会生活

「一部の色が区別しづらいだけで日常生活にはほとんど影響がない」と言われるが、信号の色の判別が難しい、肉の焼け具合がわからない、顔色が分からない(すべての色覚異常者がこれらに該当するわけではない)など、非当事者に知られていない部分も多い。また、「色盲」「異常」などの言葉の語感ゆえ誤解・理解不足による偏見を招き、社会生活の多くの面で制限を受ける場合が多い。

強制検査

日本の小学校では、全児童を対象に石原表を用いた色盲検査が行われていた。1994年以降は4年次における1回だけになった。のちに文部科学省は「色覚異常についての知見の蓄積により、色覚検査において異常と判別される者であっても、大半は支障なく学校生活を送ることが可能であることが明らかになってきていること、これまで、色覚異常を有する児童生徒への配慮を指導してきていること」を理由として、2003年(平成15年)度より色覚検査を定期健康診断の必須項目から削除した[17]

学校内で必要に応じて色覚検査を行うことについては、日本学校保健会は「学習指導や進路指導に際して、色覚異常の児童生徒を配慮するために、検査の実施を必要とする考えから」、色覚検査の任意実施を認める姿勢にある。また日本眼科医会は、2013年の調査で色覚異常の子どもの半数が異常に気づかぬまま進学・就職時期を迎え、その6人に1人が進路の断念などのトラブルを経験していることが分かった[17][18]ことから、希望者には小学校低学年と中学1・2年で検査を実施するのが望ましいと訴えている[19]。平成26年、文部科学省は学校保健安全法施行規則を一部改正し、事前の同意を得たうえでの個別の検査・指導などの働きかけを適切に行い、保護者などに色覚に関する周知を積極的に行うように通知した[20]。この通知は「学校での色覚検査の取り組みを積極的に進めるように」との趣旨と解釈され、学校では平成28年度から児童生徒に「色覚希望調査票」を配布し、希望者に色覚検査を実施することになった[21]

雇用者については、労働安全衛生法で義務づけられた雇い入れ時健康診断の必須項目の中に色覚検査が加えられており、実際に行われることは少なかった[要出典]ものの、法的には新規採用社員は色覚検査を受ける必要があった。この義務は、採用を制限しないよう指導する目的で2001年に[18]廃止された。

大学への入学制限

以前は多くの大学が入学制限を課しており[22]、中には、医師免許の取得には昔から色覚による制限がなかったにもかかわらず、入学者選考時に色覚制限を課す大学が多く存在した。1993年以降、ほぼすべての国立大学で色覚による制限はなくなり、私立大学もそれに準じている。

会社への就職制限

上述のとおり、雇い入れ時健康診断における色覚検査は廃止されたが、これは雇用者が任意に検査を実施することを禁ずるものではなく、企業によっては制限を課しているところもある。

厚生労働省は、

  • 色覚検査は現場における職務遂行能力を反映するものではないことに十分注意すること。
  • 各事業場で用いられている色の判別が可能か否かを確認するだけで十分であること。
  • 「色覚異常は不可」などの求人条件をつけるのではなく、色を使う仕事の内容を詳細に記述すること。
  • 採用選考時の色覚検査を含む健康診断については、職務内容との関連でその必要性を慎重に検討し、就職差別につながらないよう注意すること。
  • 各事業場内において「色」の表示のみにより安全確保等を図っているものについては、文字との併用などにより、誰もが識別しやすい表示方法に配慮すること。

という指導を行っている。しかし実情としては、同じ業種であっても色覚制限の有無は企業によってまちまちである。

職種の制限

日本では偏見が薄れ、少しずつ改善傾向にある。学校の健康診断で色覚検査は2003年に行われなくなったが、これ以降の世代は自身の色覚について知る機会がなく、色覚に制限がある職種の採用試験で発覚するという事態も起きている[23]

日本眼科医会では、鉄道運転士(後述)、染色業、塗装業、滴定実験を伴う業務、色調整・色校正が伴う業務については異常3色覚であっても就業が困難とし、パイロットや鉄道・航空関係の整備士、商業デザイナー、警察官、看護師、獣医師、カメラマン、食品の鮮度を確認する作業が伴う業務、美容・服飾関係の業務については2色覚での就業が困難としている。また、医師や薬剤師、理容師、電気工事士、教師などについては本人の努力が必要としている。このため、日本眼科医会は進路選択前に色覚検査を受診することを推奨している[24]

絵画など色を使う芸術分野への就業は不可能ではないが色の判別ができないことは足かせとなるため、安藤正基のように白黒で済む漫画家を目指す者もいる(実際には色塗り作業は多い)[25]。また石ノ森章太郎は『マンガ家入門』において色が判別できなければ(アシスタントなどの)他人に塗ってもらえばいいとしている。

運転免許については信号機の色が弁別しづらいために取得できないという誤解があるが、普通自動車免許については赤、黄、青の3色を弁別できれば取得できる[26]。運転免許が取得できるにもかかわらず、バスの運転手では採用をしないケースもあったが、色覚補正レンズの使用を認める例もある[27]

船舶は舷側灯として左舷側には紅灯、右舷側には緑灯の装備が法定(海上衝突予防法21条2項)されており「赤緑色盲」は致命的であるが、海技士パネルD15テストで正常とみなされれば受験可能である。また水先法施行規則によれば、水先人になるためには色盲または強度の色弱でないことが求められる。2004年からは、小型船舶操縦士は強度異常であっても夜間に舷側灯の色が識別できれば免許を取得できるようになった。

動力車操縦者(鉄道の運転士)免許試験では色覚に異常のある者の受験を認めていない。根拠法は、国土交通省が定める、『動力車操縦者運転免許に関する省令』による。また運転士以外の運転業務に就く際にも色覚が正常である必要がある。なお鉄道会社では、運転業務に就く可能性がない非常勤採用などの場合を除き、採用時に色覚検査を行っており、色覚に異常のある者は鉄道会社への就職はできない場合が多い[18]

航空機の位置灯は左翼端が赤灯、右翼端が緑灯、上下が赤色の閃光灯であるため、船舶と同じく「赤緑色盲」は致命的であり、操縦士は石原表で正常範囲と認められない場合は不適合となるが、パネルD15テストの検査と眼科の専門医の判断により適合となることもある[28]航空管制官採用試験では、色覚に異常のある者は不合格となる[29]。航空業界では法的に定めがなくとも航空整備士や地上支援業務を行うグランドハンドリングなど、航空機に接近する職種での採用は厳しくなっている。

自衛隊では航空機関係と潜水艦乗組員には特に厳しい色覚制限があるが、その他の職種についてはパネルD15テストの結果が正常であれば入隊可とされている。これは、防衛医科大学校の医官が実際に自衛官の各業務の内容を実地に精査し、色覚異常の隊員等の勤務成績も勘案した結果出された判断であって、その後10年間の追跡調査でも、色覚異常の有無による勤務成績の差は見られていない。

毒物及び劇物取締法によれば、色盲の者には特定毒物研究者の許可を与えないことができる。

警察官採用試験は自治体により異なっていたが、最後まで残っていた沖縄県が2011年6月に制限を廃した。

徴兵検査

徴兵検査では多くの国で詳細な色覚の検査が行われてきた歴史があり、日本では石原表が官民で広く用いられていた。男性約22人に1人いる2型色覚の場合には兵科色の中に区別できない物が何種類か存在することになり、軍務を行う上で重大な欠陥として扱われてきた。このため2型色覚は兵役免除の対象になった。たとえば、2型色覚の混同色である橙色と黄緑色はドイツ軍では前者が憲兵、後者が装甲擲弾兵部隊を表していた。

徴兵制が世界的に行われていた時代には身体的欠陥による徴兵不適格者は社会的にあらゆる場面で差別を受けたため、色覚異常は過剰に障害として問題視されたが、現代では兵科色自体があまり使われなくなったことや、誤認を防ぐ色分け方法の発達などによりそれほど問題とされなくなった。




  1. ^ 遺伝学用語改訂について”. 日本遺伝学会 (2017年9月11日). 2018年11月30日閲覧。
  2. ^ 小澤瀞司・福田康一郎 監修『標準生理学 第8版』、医学書院、2015年8月1日 第8版 第2刷、P290
  3. ^ KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P233、節『クリニカルボックス 12-6 色覚異常』
  4. ^ KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P233、節『クリニカルボックス 12-6 色覚異常』
  5. ^ カラーバリアフリー「色使いのガイドライン」 (PDF) - 国立遺伝学研究所(平成17年4月)
  6. ^ オリヴァー・サックス『色のない島へ』,(The Island of the Colorblind 1996年、ISBN 4-15-050237-4早川書房,第1部「ピンゲラップ島」77頁
  7. ^ 日本眼科学会:目の病気 先天色覚異常
  8. ^ Chan, Xin; Goh, Shi; Tan, Ngiap (2014). “Subjects with colour vision deficiency in the community: what do primary care physicians need to know?”. Asia Pacific Family Medicine 13 (1): 10. doi:10.1186/s12930-014-0010-3. 
  9. ^ a b c 岡部正隆、伊藤啓「なぜ赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子が並んで配置しているのか」『細胞工学』第21巻第7号、2002年7月。
  10. ^ a b c 三上章允 (2004年9月18日). “霊長類の色覚と進化 (PDF)”. 公開講座「遺伝子から社会まで」. 京都大学霊長類研究所. 2013年9月20日閲覧。
  11. ^ 岡部正隆、伊藤啓「女性で赤緑色盲が少ない理由」『細胞工学』第21巻第7号、2002年7月。
  12. ^ そのため画像圧縮でも青色情報には少ない情報量しか割り当てられない。赤や緑に比べていい加減な再現でも人間の眼には違いがわかりにくいからである。
  13. ^ 市川一夫 (2007年9月6日). “色覚関連用語について”. 日本医学会医学用語辞典. 日本医学会. 2013年9月20日閲覧。
  14. ^ 事例として、第四次視覚野に銃弾を撃ち込まれてその部位だけ壊されてしまった人は、色の判別ができなくなり、視界が白黒に映るようになった(全色盲の例でもある)。銃弾が速く鋭利に発展したため、脳の一部のみを破壊する例が増え、こうした症例も確認されるようになったとされる。参考・池谷裕二『進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線』講談社、2007年、ISBN 978-4-06-257538-6、p.58より。
  15. ^ 田辺詔子、深見嘉一郎、市川一夫 ほか、眼科的検診のための仮性同色表 『臨床眼科』 47巻5号 (1993年5月), doi:10.11477/mf.1410908623
  16. ^ 先述「医学用語(2004年以前)」表にもある通り。
  17. ^ a b “色覚異常の中高生、半数気づかず進学・就職”. 読売新聞. (2012年9月19日). http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130919-OYT1T01158.htm 
  18. ^ a b c “色覚異常、半数気づかず 検査中止10年、進路断念も”. 朝日新聞デジタル. (2013年9月19日). http://www.asahi.com/national/update/0919/TKY201309180649.html 
  19. ^ “小4での色覚検査、中止から10年 異常知らず進路選択、トラブルも”. MSN産経ニュース: p. 2. (2013年9月30日). http://sankei.jp.msn.com/life/news/130930/bdy13093008200000-n2.htm 
  20. ^ 学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知) 文部科学省 26文科ス第96号 平成26年4月30日
  21. ^ 学校における色覚検査に関する見解 日本眼科学会 平成27年9月11日 (PDF)
  22. ^ 高柳泰世, 宮尾克, 色覚異常者のよりよい色彩環境を考える」『人間工学』 1998年 34巻 Supplement号 p.256-257, 日本人間工学会, doi:10.5100/jje.34.Supplement_256
  23. ^ News Up タヌキの色は緑色? 知っておきたい色の見え方の多様性 - NHK
  24. ^ 色覚検査のすすめ (pdf)”. 日本眼科医会. 2016年9月22日閲覧。
  25. ^ マンガ家 安藤正基先生 - 名古屋造形大学
  26. ^ 学校における色覚に関する資料 (10/17)”. 日本学校保健会. 2021年1月24日閲覧。
  27. ^ 色覚バリアフリー社会への一助でありたい - NPO法人True Colors
  28. ^ よくある質問 Q&A|航空身体検査|一般財団法人 航空医学研究センター
  29. ^ 航空管制官採用試験”. 航空保安大学校. 2013年9月20日閲覧。
  30. ^ 「色覚異常:見やすい信号機 東京・芝に試験設置」毎日新聞 2012年2月7日配信
  31. ^ ユニバーサルデザイン信号機、ついに登場!”. 聖学院大学非公式ブログ「福祉のこころ」 (2012年2月8日). 2013年9月20日閲覧。
  32. ^ 2色LEDは色覚異常者の敵”. U'eyes Design Inc 使いやすさ日記. 2015年5月31日閲覧。
  33. ^ 2色LED製品情報”. サンケン電気. 2015年5月31日閲覧。
  34. ^ 新屋太九郎、少陽経と陽明経の異常と色盲治験 『日本鍼灸良導絡医学会誌』 7巻 2号 1978年 p.4-6, doi:10.17119/ryodoraku1971.7.2_4


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