ウシ 名称

ウシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 23:36 UTC 版)

名称

ウシは、伝統的には牛肉食文化が存在しなかった地域においては、例えば漢字文化圏における「」ないし十二支の配分である「(うし)」のように、単一語で総称されてきた。これに対し、古くから牛肉食や酪農を目的とする家畜としての飼育文化や放牧が長く行われてきた西洋地域(例えば、主に英語圏など商業的牛肉畜産業が盛んな地域)においては、ウシの諸条件によって多種多様な呼称をもつ傾向がある。

インターネットの世界的普及などによる情報革命が起き、ユビキタス社会の黎明期ともなった21世紀初期には、欧米由来の食文化のグローバル化も進展し、宗教的理由から牛肉食がタブーとされている地域を除いては、牛肉食文化の世界的拡散が顕著である。特に商業畜産的要因から、現代の畜産・肥育・流通現場においては世界各地で細分化された名称が用いられる傾向がある。

性別による名称

  • 牡の牛
牡(オス)の牛。日本語では、牡牛/雄牛(おうし、おすうし、古:『をうじ』とも)[1]牡牛(ぼぎゅう)[1]という。「雄牛(ゆうぎゅう)」という読みも考えられるが、用例は確認できず、しかし種雄牛(しゅゆうぎゅう、雄の種牛〈しゅぎゅう、たねうし〉)[2]という語形に限ってはよく用いられている。古語としては「男牛(おうし、古訓:をうじ、をうじ)」もあるものの、現代語として見ることは無い。
英語では、"bull"、"ox"、方言で "nowt"という。
ラテン語では "taurus"(タウルス)といい、"bos"と同じく性別の問わない「牛」の意もある。
  • 牝の牛
牝(メス)の牛。日本語では、牝牛/雌牛(めうし、めすうし、古訓:めうじ、をなめ、をんなめ[3]、うなめ等)[4][3]牝牛(ひんぎゅう)[3]という。「雌牛(しぎゅう)」という読みも考えられるが、用例は確認できず、雄と違って種雌牛も「しゅしぎゅう」ではなく「たねめすうし」と訓読みする[5]。古語としては「女牛[6]」「牸牛[4]」の表記もあるものの、現代語として見ることは無い。
英語では "cow"、ラテン語では "vacca"という。

年齢による名称

日本語における年齢を基準とした呼び分けは牛においても一般的用法と変わりなく、つまり、人間や他の動植物と同じく[年少:幼牛─若牛─成牛─老牛:年長]という呼び分けがあるが、体系的に用いられるわけではない。一方、畜養・医療・加工・流通・管理・研究等々諸分野の専門用語として、通用語と全く異なる語が用いられていることもある。また、親牛・仔牛という本来は親と子の関係を表していた名称は、一般・専門ともによく用いられる。

  • 未成熟な牛
成熟していない牛全般は、未成熟牛をいう。生まれたての牛も成熟間近の牛も該当する。
  • 幼い牛
幼牛(ようぎゅう)。成熟に程遠い年齢の未成熟牛、あるいは未成熟牛全般をいう。専門的には、生後およそ120日以内から360日以内までの牛を指すことが多い。先述のとおり、子供(※動物に当てる用字としては『』であるが、常用漢字の縛りの下では『』で代用する)の牛という意味から発した仔牛/子牛(こうし)は、幼牛より定義の緩い語ながらむしろ多く用いられる。英語では "calf"が同義といえ、日本語でもこれが外来語化した「カーフ」がある。なお、これらの語は未成熟牛もしくは幼牛の生体を指し、屠殺後の食品とは別義である。
肉牛の場合、この段階から業者が品質を高めて始めることになるため、ベーシックな状態の牛という意味合いで素牛(もとうし)、育て上げる牛という意味で育成牛(いくせいぎゅう)という[7]。素牛は繁殖用育成と肥育(出荷するために肉質を高めつつ肉量を増やす飼育)のいずれかに回すことになり[8]、行く末が決まり次第、それぞれに繁殖素牛肥育素牛(ひいく-)という。
その肉は仔牛肉/子牛肉といい、英語では "veal"ヴィール)、フランス語では "veau"(ヴォー)と呼ばれる。外来語形は少なくとも料理や栄養学などの分野で定着している。柔らかい食感が好まれ、さまざまな料理の食材として用いられる。特にフランス料理においては、その肉のブイヨン出汁)がフォン・ド・ヴォーとして重用される。
生後6か月以内の仔牛の皮革(原皮となめし革)は[9][10]、「カーフ」の名で呼ばれるほか[11]、その原皮を「カーフスキン (calfskin)」[9]、その皮革を一般に「カーフレザー (calf leather)」[10]と呼び、前者は原義を離れて「仔牛の革」の意でも用いられる[12]。後者は牛革の中でも最高級とされ[10]、よく馴染むしなやかさが特徴で、手帳財布など多様な革製品に好んで用いられる。
  • 若い牛
若牛(わかうし)。成熟が近い未成熟牛をいう。ただしあくまで古来の日本語において通用する語であって、各専門分野の用語としては、確認し得る限り、「仔牛(幼牛)」の段階を過ぎた牛は「成牛」である。
  • 成熟した牛
成牛(せいぎゅう)という。
  • 老いた牛
老牛(ろうぎゅう)という。現代都市文明社会においては、年老いて利用価値が低下した牛は、市場価値が極めて低く、ほぼ全ての老齢個体は廃用牛(はいようぎゅう)として処分される。例えば乳牛は、自然界では到底あり得ない頻度で生涯に亘って搾乳され続けるため、採算が取れないほど乳の出が悪くなった頃には体がボロボロになっていることが普通である。

飼育条件による名称

畜産業界ないし肥育業界、ないし牛肉産品を流通・販売する業界などにおいては、さらに多様に表現されている。

  • 畜牛(ちくぎゅう、英:cattle
畜産用途に肥育されるウシ全般のこと。家畜牛。
  • 去勢牛[きょせいぎゅう]
人工的に去勢されたウシのこと。食肉を目的として肥育されるにあたっては、雌雄とも去勢されることが多い。荷車牽引などの用務牛用途を目的として牡牛を用いる場合にも、精神的な荒さや発情を削ぐために去勢されるケースがよく見られる。英語では特にオスの去勢牛を"ox"、メスを"steer"と呼んで区別する。
搾乳目的で飼育されるウシのこと。
  • 未経産牛(みけいさんぎゅう、英:heifer
妊娠ないし出産を経験していない牝牛のこと。乳牛用途・肉牛用途ともに高価で取引される。
  • 経産牛(けいさんぎゅう、英:delivered cow
すでに出産経験のある牝牛のこと。肉牛として出荷する場合には、未経産牛に比較して安価で取引される。

日本語の方言・民俗

日本の東北地方では牛をべこと呼ぶ。牛の鳴き声(べー)に、「こ」をつけたことによる。地方によっては「べご」「べごっこ」とも呼ぶ。

柳田國男によれば、日本語では牡牛が「ことひ」、牝牛が「おなめ」であった。また、九州の一部ではシシすなわち食肉とされていたらしく、「タジシ(田鹿)」と呼ばれていた[13]


注釈

  1. ^ 古来日本の、牛に牽かせる屋形車である「牛車(ぎっしゃ)」はその一種。
  2. ^ より正確な元の数値が損なわれないよう、単位「千頭」でも表記しておく。
  3. ^ 番組内では「噛めば噛むほど味わい深い」と評している。
  4. ^ 日本では『続日本紀』などに記述が見られ、一例として、文武天皇2年正月8日条(ユリウス暦換算:698年2月23日の条)、「土佐国から牛黄が献上された」と記されている他、11月29日条(ユリウス暦換算:699年1月5日の条)にも、「下総国が牛黄を献上した」など、各地から献上品としての記録が見られる。

出典

  1. ^ a b 小学館『精選版 日本国語大辞典』、三省堂大辞林』第3版. “牡牛・雄牛 おうし”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  2. ^ 小学館『デジタル大辞泉』. “種雄牛”. コトバンク. 2019年8月5日閲覧。
  3. ^ a b c 小学館『デジタル大辞泉』、ほか. “牝牛 ヒンギュウ”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  4. ^ a b 小学館『精選版 日本国語大辞典』、三省堂『大辞林』第3版. “牝牛・雌牛 めうし”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  5. ^ 小学館『デジタル大辞泉』. “種雌牛”. コトバンク. 2019年8月5日閲覧。
  6. ^ 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “種牛 シュギュウ”. コトバンク. 2019年8月5日閲覧。
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  9. ^ a b ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』. “カーフスキン”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  10. ^ a b c 小学館『デジタル大辞泉』. “カーフレザー”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  11. ^ 三省堂『大辞林』第3版、ほか. “カーフ”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  12. ^ 三省堂『大辞林』第3版. “カーフスキン”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  13. ^ 柳田國男『定本 柳田國男集』第1巻 筑摩書房 258頁
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  17. ^ 農林水産省『肉用牛の種類』
  18. ^ 社団法人 三重県畜産協会 参照
  19. ^ a b c d e f g h 平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)肉用牛の飼養実態アンケート調査報告書”. 公益社団法人畜産技術協会. 2020年4月20日閲覧。
  20. ^ 社団法人 畜産技術協会調査
  21. ^ 農林綜合研究センター 参照[リンク切れ]
  22. ^ 社団法人 山形県畜産協会 参照
  23. ^ a b c 平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書”. 20220107閲覧。
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