反芻
反芻とは、特定の哺乳類が食物を一度飲み込んだ後、再度口へ戻し咀嚼する行為を指す。この行為は、食物の消化を助け、栄養素の吸収を最大化する役割を果たしている。反芻を行う動物は「反芻動物」と呼ばれ、ウシ、ヒツジ、ヤギなどが代表的である。 反芻動物は、草食性であり、草などの植物質を主食とする。植物質は消化が難しいため、反芻という特殊な消化機構を持つことで、効率的に栄養を摂取することが可能となる。具体的には、食物を一度胃に送り、そこで発酵させた後、再度口へ戻し咀嚼する。これにより、食物が細かくなり、消化酵素がより効率的に作用する。 また、反芻は比喩的に用いられることもあり、何かを深く考え続ける様子を表す際に使われる。この用法は、反芻動物が食物を何度も咀嚼する様子から派生したものである。
反芻
「反芻」とは、人が思考を繰り返すことを意味する表現である。
「反芻」とは・「反芻」の意味
「反芻」とは、草食動物が、食べたものを胃から口に戻して、改めて咀嚼し直すことを指す言葉である。反芻を行う草食動物としては、牛が代表的である。牛は胃を4つ持っていて、食べた草はまずひとつ目の胃に蓄えられる。そこで微生物の力を借り、草の繊維を分解する。その際に、微生物の分解を助けるために、2つ目の胃がポンプとなり、消化中の草を口に戻す。そうして、咀嚼をし直すのが反芻のメカニズムである。反芻を行う動物は、蹄の数が偶数である、偶蹄目の中に含まれる。偶蹄類の中で反芻を行うものは、反芻類や反芻亜目と呼ばれる。反芻は、心理学の用語としても使用される。人間の記憶が、何度も思い出されてしまうことを指した言葉である。本来は脳の深いところに仕舞われ、そのまま忘れられるはずの記憶が思い出される様子を、草食動物の反芻に例えた比喩表現だ。心理学において、人の反芻は、鬱病などの疾患に繋がりかねないものと考えられている。また、精神疾患が原因で、引き起こされる反芻もある。
また、人が特定の記憶を定着させるために、何度も同じ内容について考えることを、反芻と呼ぶ場合もある。学生の試験勉強やビジネスシーンでは、限られた時間内に知識を身に付けるために、反芻が重要視されることが多い。
「反芻」の熟語・言い回し
反芻するとは
「反芻する」は、「反芻」を動詞形にした表現である。「反芻」は、草食動物が食べたものを胃から口に戻して噛み直すことや、人が同じ記憶を繰り返し思い出したりすることを表す名詞だ。そのため、「胃から口に戻して噛み直す」「同じ記憶を思い出す」といった動詞として使用する場合は、「反芻する」という表現を使用する必要がある。
反芻する癖とは
「反芻する癖」は、人が同じ記憶を思い出してしまうことが、癖になっている状態を示す表現だ。無意識の内に嫌な記憶が何度もフラッシュバックしたり、暇になると同じ記憶を思い出そうとしたりすることは、「反芻する癖」と表現できる場合が多い。
言葉を反芻するとは
「言葉を反芻する」は、人が頭の中で、記憶としての言葉を何度も思い出してしまうことを示す表現である。反芻では、言葉だけでなく、映像や画像などを思い出すことも多い。その中から言葉を思い出すことに限定するために、「言葉を反芻する」という表現が用いられる。
頭の中で反芻するとは
「頭の中で反芻する」は、人が脳内で、同じ記憶を繰り返し思い出すことを示す表現だ。同じ記憶を思い出す反芻は、頭の中で行われる。そのため、心理学における「反芻する」は、「頭の中で反芻する」と同義の表現として扱われる。
反芻思考とは
「反芻思考」は、人が同じ記憶を思い出してしまうことを指す言葉である。心理学における反芻は、反芻思考とほぼ同義のものとして扱われる。
反芻的とは
「反芻的」とは、何度も繰り返してしまう性質を指す言葉である。主に、人が同じ記憶を繰り返し思い出してしまう性質を指す。ただ、反芻類の動物のような性質を表すために使用することも不可能ではない。
反芻されるとは
「反芻される」は、「反芻する」の受け身表現である。人が繰り返し思い出す記憶や考え、反芻類の動物が食べたものなどが主語となる場合、「反芻する」ではなく「反芻される」を使用する。
「反芻」の使い方・例文
反芻類の動物が、食べたものを胃から口に戻して噛み直すことを指す場合、「反芻」は次のように使用できる。「この動物は反芻をするため、周囲には独特の臭いが漂っている」
「あの動物は牛に似ているが、反芻はしない」
「牧場の牛の中に数頭、上手に反芻ができていないものがいるそうだ」
人が同じ記憶を思い出してしまうという意味で使用する場合は、以下の表現となる。
「彼女は良くない記憶を反芻する傾向があるため、常にストレスを感じている」
「反芻思考を止めるために、心理カウンセラーに助言を求めようと思う」
「彼は、心理学で反芻を専門的に研究している」
「彼女は嫌な記憶を反芻しないよう、身体トレーニングに集中している」
ものごとを繰り返して頭に定着させるという意味であれば、以下のように使うことができる。
「今日覚えたことを忘れないよう、頭の中で反芻させているところだ」
「彼は反芻をする習慣がないから、大事なことをすぐに忘れてしまう」
「今日の講義では、教師が学生に対して、反芻して記憶を定着させる方法をレクチャーした」
反芻
反芻とは、反芻の意味
反芻とは、牛や羊などが一度飲み込んだ食物を胃から口の中に戻し、再び噛んでからまた飲み込むこと。転じて、言葉や経験についてくり返し考え、よく味わうことである。読み方は「はんすう」である。英語では、 rumination と表現する。反芻の「反」は「かえ(る)・かえ(す)」とも訓じ、くり返すといったニュアンスが含まれている。「芻」は「まぐさ・わら」とも訓じ、牛馬の飼料という意味合いがある。
反芻は「牛が草を反芻する」「反芻動物(牛や羊など)」「反芻胃」などの用法のほか、「思い出を反芻する」のように思考を繰り返すといった意味合いでも用いられる。
反芻の使い方、例文
反芻の類語
何度も思い出して考えるといった意味合いの「反芻」の類語には、「咀嚼(そしゃく)」や「思い出す」などの表現が挙げられる。反芻は、繰り返すという意味合いであるのに対し、「咀嚼(そしゃく)」は食物を歯で噛み砕くことである。転じて、細かくして分かりやすくするといったニュアンスもある(例:子どもでもわかるように文章を咀嚼して伝える)。「反芻」は何度も思考を繰り返すのに対し、「思い出す」は突発的に頭に浮かぶといったニュアンスでも用いられる(例:クラスメートの名前を思い出した)。反芻を用いた複合名詞の一つである「反芻思考」は、ネガティブなことを思い悩み続けることを指す。「反芻思考」が長引くと抑うつ状態などに陥ってしまう傾向にあることから、「抑うつ的反芻(rumination:ルミネーション)」とも呼ばれる。
反芻
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/11 21:21 UTC 版)

反芻(はんすう、rumination)は、偶蹄目の草食動物の多くが行う食物の摂取方法。
まず食物(通常は植物)を口で咀嚼し、反芻胃に送って部分的に消化した後、再び口に戻して咀嚼する、という過程を繰り返すことで食物を擦り潰し消化する。
反芻動物
反芻を行う動物を反芻動物(Ruminant)といい、二つの亜目がある:
反芻亜目(狭義の反芻動物)の胃は4つの部屋から出来ており、それぞれ第一胃(こぶ胃:ルーメン、ミノ)、第二胃(蜂の巣胃:レティキュラム、ハチノス)、第三胃(葉胃:オマスム、センマイ)、第四胃(しわ胃:アボマスム、ギアラ)という。
ラクダ亜目(核脚類)の胃は上記の第三胃が無く、計3室から成る。ラクダ亜目は偶蹄類の中でも最も早くに分岐し、反芻亜目とは遠縁な関係にあることが近年の研究により判明した[注 1][注 2]。そのため両者の反芻の獲得は平行進化の結果と考えられている。
また、マメジカ科も計3室からなり、ラクダと合わせて pseudoruminants と呼ばれる場合がある[1]。
霊長類のコロブス亜科も、同様に複数の胃室を持ち、植物を共生微生物の働きにより消化吸収する。2010年頃、テングザルが反芻に極めて類似した行動を行うことが発見された[2]。
有袋類では、カンガルー型類が擬反芻(偽反芻、pseudo-rumination)と呼ばれる偶蹄類の反芻に似た採食行動を示すことが知られている[3]。なお、反芻亜目でみられる吐き戻し時に咀嚼を行わず嚥下する現象も同じく偽反芻と呼ぶ[4]。
反芻による消化吸収
第一胃と第二胃で食物は唾液と混ぜ合わせられ(両者は反芻胃と呼ばれる)、固形分と液体成分に分けられる。唾液には尿素など、共生微生物の成育を促進するものが含まれている。多くの動物では第一胃が最も大きい。
第一胃に留まった固形分は「食い戻し」と呼ばれる丸い塊になって口に戻り、再びよく咀嚼して繊維質を細かく砕きつつ、唾液と混ぜ合わせられた後、再び第一胃へ戻される。細かく砕かれた繊維(セルロースやヘミセルロースなどを含む多糖類)および植物細胞質成分は、反芻胃の中に共生する微生物(細菌と原生動物、それに菌類)が分解・吸収する[注 3]。
反芻胃内は嫌気性であるため、この代謝過程(発酵)で低級脂肪酸(酢酸やプロピオン酸、酪酸など)を主体とした低分子有機物が生産される。ただし、植物の構成成分としてセルロースと共に大量に含まれるリグニンはほとんど分解されず、栄養として利用されない[注 4]。また、生成された低分子有機物のうちメタン等の水に溶解しないものはゲップなどで外部に放出されるため、これらも利用されない。
発酵が終了した食物残渣は共生微生物菌体(およびその代謝産物)と共に第三胃へ送られ、水分を除去された後に第四胃へ送られる。
第四胃では分泌される胃液(酸性)により共生微生物菌体(およびその代謝産物)は消化され、その後小腸へ送られ栄養として吸収される[注 5]。
このように、反芻動物は、植物そのものを自身の力で直接消化吸収しているわけではない[注 6]。
反芻しない草食動物
ウマ、ウサギ、ゾウ、サイ、カバなどは、反芻動物とは異なり、反芻胃を持たず反芻しない。
反芻せずに、どのように消化するかというと、盲腸内に共生している微生物が存在し、同様に繊維質成分がそこで分解された栄養分となり、盲腸・結腸は消化吸収される。このような消化プロセスを後腸発酵と呼び、それらを行う動物を後腸発酵動物と呼ぶ。消化管が長くなりやすい傾向から、大型の種になりやすい[5]。また、成長速度も反芻動物より比較的速くなる[6]。
ウサギやハムスターなどの小型の後腸発酵動物(盲腸発酵動物)では、一度の発酵では栄養が取れないため盲腸糞と呼ばれる柔らかい糞を糞食する[7]。
なお、ウサギ類の自己糞食行動が1940年代に「擬反芻」という用語で呼ばれたことがあるが、今日では一般的な用法ではない[8]。
雑食動物・肉食動物
なお、多くの雑食動物・肉食動物では、盲腸における繊維質成分の分解は、ほぼ機能せず、栄養分として吸収されない。ただしブタ(イノシシ亜目)は分解・吸収がよく機能する。
宗教
ユダヤ教のカシュルート(en:Kashrut、コーシェル、コーシャ。食事に関する規定)では、食べて良い陸棲動物は「反芻するもの」に限られている。 『レビ記』では不浄な生き物として以下を挙げている。
心理学
何度も同じ事柄について思考をめぐらせることを、心理学などにおいて「反すう」と表現する[9][注 8]。
脚注
出典
- ^ “Ruminant” (英語). www.britannica.com (2025年3月2日). 2025年3月11日閲覧。
- ^ Matsuda I, Murai T, Clauss M, Yamada T, Tuuga A, Bernard H, Higashi S.Regurgitation and remastication in the foregut-fermenting proboscis monkey(Nasalis larvatus). Biol Lett. 2011 Mar 30. 外部リンクも参照のこと
- ^ 増井光子「動物の進化と食性:動物の食行動はいかに環境に順応してきたか」『日本味と匂学会誌』第6巻第2号、日本味と匂学会、1999年、149-155頁、doi:10.18965/tasteandsmell.6.2_149。
- ^ 岡本全弘「反芻行動とその消化生理学的意義に関する研究」『北海道立農業試験場報告』第30号、北海道立農業試験場、1979年、1-72頁。
- ^ ニック・カルーソ、ダニー ラバイオッティ『動物学者による世界初の生き物屁事典: ヘビってオナラするの?』 File18 ゾウ
- ^ Evans, Alistair R. (2012年3月13日). “The maximum rate of mammal evolution” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences. pp. 4187–4190. doi:10.1073/pnas.1120774109. 2025年3月11日閲覧。
- ^ 七条, 宏樹、近藤, 祐志、坂本, 信介、樫村, 敦、高橋, 俊浩、森田, 哲夫「盲腸切除がトリトンハムスターの食糞行動に及ぼす影響」2013年、doi:10.11257/jjeez.24.51。
- ^ 平川浩文「ウサギ類の糞食」『哺乳類科学』第34巻第2号、日本哺乳類学会、1995年、109-122頁、doi:10.11238/mammalianscience.34.109。
- ^ 西川大志, 松永美希, 古谷嘉一郎、「【原著論】反すうが自動思考と抑うつに与える影響」 『心理学研究』2013年 84巻 5号 p.451-457, doi:10.4992/jjpsy.84.451。
注釈
- ^ ラクダ類より、反芻をしないイノシシ類やカバ・クジラ類の方が反芻類により近い関係にある。
- ^ 従来、偶蹄類中でも反芻亜目とラクダ亜目はどちらも反芻をすることから特に近縁と考えられていた。
- ^ この過程はシロアリが木を消化するのと同じである。
- ^ シロアリの多くの種では体外共生菌を通して利用される。
- ^ 反芻動物はそれらを吸収し、好気呼吸の基質とすると共に脂肪などの再合成を行う。
- ^ 哺乳類が消化吸収できる成分は反芻胃で共生微生物が事実上すべて利用してしまっている。
- ^ あくまで宗教上の定義であって、実際のウサギやイワダヌキは食べた物を胃から口へ戻す能力を持たない。
- ^ 反芻(反すう)思考、ぐるぐる思考とも呼ばれている。
関連項目
外部リンク
反芻
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/30 09:47 UTC 版)
ウシ目(偶蹄目)の動物(ウシ・シカ・ヤギなど)は、多くが一旦飲み込んで胃内に入れた食べ物を、胃から口中に戻して再び噛む反芻と呼ばれる動作を行う。また、4つの胃を持ち、第1胃には繊毛虫と細菌類が大量に住み、摂取した食物の分解発酵をしている。これらの消化機構により、他の哺乳類が消化吸収できないセルロースなどを栄養として取り込むことが出来る。
※この「反芻」の解説は、「消化」の解説の一部です。
「反芻」を含む「消化」の記事については、「消化」の概要を参照ください。
反芻
「反芻」の例文・使い方・用例・文例
- 改めて反芻してると、何だか恥ずかしいぞ。
- 彼は先生のことばをくり返し反芻した.
- (反芻動物について)咀嚼(反芻食塊)
- 反芻動物に驚くべき反芻の力がある
- 瞑想にふけっている間、牛が反芻するようにぐるぐると思いめぐらしながら彼は目前の静水域に目を休ませた
- 反芻する
- 牛は反芻する
- (反芻動物または豚のように)肢の末端にある2つの部分に分かれた蹄
- 反芻しない有蹄動物:馬
- 偶数の機能的な爪先を持つ、正獣下綱(ブタ、ペッカリー、カバ、および反芻亜目の動物を含む)の有蹄の哺乳動物の目
- 胃が4つ(時に3つ)の区画に分割された様々な反芻を行う有蹄類の総称
- 反芻動物の胃の最初の区画
- 反芻動物の第二胃
- 反芻動物の胃の3番目の部分
- 反芻動物の胃の4番目の房
- 空洞の角を持つ反芻動物
- ヤギの同類で、羊毛で覆われたたいてい角を持つ反芻哺乳動物
- 羊の近縁だが鬚とまっすぐな角を有する非常に多くの敏捷な各種の反芻動物
- 長い脚と上後方に向いた角を有する、旧世界産の優美な反芻動物
- 北米西部の平原地帯にいる駿足のカモシカに似た反芻動物で、小さくて枝分かれした角を持つ
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