メガファウナとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > メガファウナの意味・解説 

メガファウナ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/26 19:57 UTC 版)

メガファウナ(Megafauna)とは、体重が44 - 45キログラムを超える動物相を意味する言葉である[1][2][3]。この下限値は人間を中心として設定されている[4]。現代におけるメガファウナの多様性と分布は、中期更新世チバニアン)以降に発生してきた「第四紀の大量絶滅」およびそれ以降の完新世大量絶滅英語版)によって大きく減退してきた。

由来

直訳すると「巨大動物群」を意味しており[3]英語で「巨大な」を意味する「メガ(Mega)」と「動物相」を意味する「ファウナ(Fauna)」に由来する。この他にも、とくに大型の草食動物を「Megaherbivore英語版」、肉食動物を「Megacarnivore」[5]雑食動物を「Megaomnivore」[6]とそれぞれ「メガ(Mega)」を語頭に用いて呼ぶ。また、「メガファウナ」およびこれらの「メガ + 〇〇」という呼称は陸棲の哺乳類に限定して用いられるわけではなく、ウミガメ海鳥魚類なども含む水棲生物[6][7][8]爬虫類[7][9]鳥類[7][10]恐竜[5]などにも使われている。

また、自然保護においても大型の動物はたびたびアンブレラ種象徴種として一般大衆の関心を集めるのにも重要な役割を担っており、そのようなメガファウナはカリスマ性を持つことから「カリスマティック・メガファウナ英語版」とも呼ばれている。

これらに対して、大型の植物相には「メガフローラ英語版」、特定の地域において通常よりも大型になる傾向が見られる一部のハーブには「メガハーブ英語版」と言った呼称が存在する。

生態系上の役割

氷河期イベリア半島の北方系の陸棲メガファウナ(マンモス動物群)の例。
現代では、大型の陸棲動物のほとんどはアフリカ大陸アジアの南方などに限定して生息しており、他の地域では「第四紀の大量絶滅」を経て大部分が人類の到来に付随する時期に大量絶滅を迎えている[1][11][12][13]
人類の到達以降に各大陸や島々におけるメガファウナなどの大量絶滅が付随する形で発生してきた[11]

これらの大型の動物は生態系エンジニア[14]キーストーン種[15][16]として、生態系において植生などの攪乱、種子散布などの多様な影響を及ぼす重要なニッチを担っており、小型の動物や魚類や植生の多様性なども恩恵を受けている[11]。大型動物の存在はリンなどの栄養素の循環[8]山火事[2]メタン[17]二酸化炭素の抑制などの副次的なメリットも提供してきた[13][18]

中期更新世チバニアン)以降は気候変動とそれによる植生の激変、または人類の出現と拡散。またはこれらの複数の要因の相乗効果に伴った多様な生物相の大量絶滅が発生し続けており[18][11][19]アフリカ大陸ユーラシア大陸の南部以外では標準体重が1トンを超える大型の陸棲動物は全て滅んでいる[1][12]。大型動物は人類から優先的に狩猟の対象とされるだけでなく、成長速度や繁殖率も遅く、必要とする餌や土地などの条件もより大規模である。この時期に集中して絶滅した動物相には、それまでのいくつもの氷期間氷期のサイクル(気候変動)を乗り越えてきたにも関わらず、人間の当該地域への到来と付随するかのように大量絶滅を迎えている。また、それまでの自然発生してきた大量絶滅とは異なり、メガファウナが集中的に絶滅しているのも特徴の一つである[11][12][13]

また、この大量絶滅によって大型動物だけでなく、中型や小型の生物相や植生においても、多様性の減少、絶滅、地域絶滅英語版などの分布自体の縮小なども発生しており、いわゆる共絶滅英語版が引き起こされてきたと考えられている[20]。また、これまでの群集生態学のコンセプトも、これらの絶滅したメガファウナの影響力が欠如して構築されてきたことが指摘されている[21]。なお、頂点捕食者の減少による草食動物の増加による弊害がクローズアップされることが目立つが[13]、頂点捕食者の再導入が必ずしも好転的な効果をもたらすわけではなく、また土着の頂点捕食者がそもそも存在しない環境も存在していたり、頂点捕食者や人為的な間引きが存在しなくても草食動物などの個体数が自然にコントロールされる事例も判明している(ニホンオオカミ#絶滅の弊害と導入計画を参照)。

近年では、メガファウナが大量に生態系から失われたことの弊害[22][23]を軽減し、機能不全を起こしている生態系のニッチの補充を行うために、これらの生物相が絶滅した地域に同種または近縁種の再導入、いわゆる「再野生化英語版」/ リワイルディング(Rewiliding)と呼ばれる環境保護運動や、補充する生態系の範囲を更新世まで遡って対象に含める「更新世再野生化英語版の議論が活発になりつつあり、実際に導入が開始されている事例も見られる[14][15][16][24]。中にはすでに外来種帰化種となっている生物を駆除対象とするのではなく保護することで得られるメリットを指摘する声も増加してきている[18][25][26][27]。また、このような野生導入のために絶滅動物、たとえばオーロックスターパンなどの特徴を持つ品種を人為的に作り出す再現育種も行われている[15]

関連項目

脚注

注釈

出典

  1. ^ a b c 本川裕 (2006年8月7日). “図録:大型動物(メガファウナ)の大陸別絶滅数・生存数”. 社会実情データ図録. 2025年7月8日閲覧。
  2. ^ a b GrrlScientist (2023年5月13日). “更新世後期、巨大動物は2度大量絶滅した 菌類の胞子から判明”. フォーブス. 2025年6月18日閲覧。
  3. ^ a b 特別展「氷河期展~人類が見た4万年前の世界~」”. TBSチケット(TBSテレビ (2025年). 2025年6月9日閲覧。
  4. ^ Moleón, Marcos; Sánchez-Zapata, José A.; Donázar, José A.; Revilla, Eloy; Martín-López, Berta; Gutiérrez-Cánovas, Cayetano; Getz, Wayne M.; Morales-Reyes, Zebensui et al. (2020-03-11). “Rethinking megafauna”. Proceedings of the Royal Society英語版. B: Biological Sciences (王立協会) 287 (1922): 20192643. doi:10.1098/rspb.2019.2643. ISSN 0962-8452. PMC 7126068. PMID 32126954. https://royalsocietypublishing.org/doi/pdf/10.1098/rspb.2019.2643 2025年5月9日閲覧。. 
  5. ^ a b “'Mega-Carnivore' dinosaur discovered”. BBC. (2017年10月26日). https://www.bbc.co.uk/newsround/41764018 2025年7月22日閲覧。 
  6. ^ a b Andrew S. Maurer、Tomo Eguchi、Garrett E. Lemons、Robin A. LeRoux、Erin L. LaCasella、Calandra N. Turner Tomaszewicz、Megan E. Hanna、Jessica Curran、Bryant Chesney、Sheila V. Madrak、Jeffrey A. Seminoff (2024-11-03). “Resource selection by a megaomnivore in a marine foraging habitat”. Ecology and Evolution英語版 (Wiley-Blackwell英語版) 14 (11). doi:10.1002/ece3.70132. 
  7. ^ a b c 獣医学部の山本准教授ら国際研究チームが海洋大型動物の行動海域を特定、海洋保全の目標実現に向け科学的な道筋示す”. 麻布大学 (2025年7月4日). 2025年7月22日閲覧。
  8. ^ a b “大型動物の「ふん」激減、人間による乱獲、環境汚染の蔓延で。地球の栄養循環にも影響”. AFPBB News (フランス通信社). (2015年10月27日). https://www.afpbb.com/articles/-/3064355 2025年7月22日閲覧。 
  9. ^ Søren Bay Kruse Thomsen (2020年12月25日). “Islands - New Caledonia”. The Extinctions. 2025年7月22日閲覧。
  10. ^ フリンダース大学 (2024年6月4日). “Giant skull of Australian megafauna bird reveals a prehistoric 'giga-goose'”. Phys.org. 2025年7月22日閲覧。
  11. ^ a b c d e Hannah Ritchie (2022年11月30日). “Did humans cause the Quaternary megafauna extinction?”. Our World in Data英語版. 2025年7月8日閲覧。
  12. ^ a b c 北村雄一『謎の絶滅動物たち』佐藤靖、慶昌堂印刷、歩プロセス、小泉製本、大和書房、2014年5月25日、3-5頁。 ISBN 978-4479392583 
  13. ^ a b c d 高橋瑞樹 (2022-07-08). “マンモス、サーベルタイガー…人類の祖先が壁画に描いた巨大動物「メガファウナ」はなぜ大絶滅したのか”. プレジデントオンライン (プレジデント社). https://president.jp/articles/-/59252 2025年7月22日閲覧。. 
  14. ^ a b アンスコム江莉奈、上原裕美子(編)「どこまで「野生」になれるのか?──自然界のエンジニアことバイソン(と人間)が推し進める、再野生化プロジェクトの序章」『WIRED』、コンデナスト・パブリケーションズ、2023年4月5日、2025年6月9日閲覧 
  15. ^ a b c 杉浦奈実 (2025年7月18日). “400年前に絶滅したはずが… 自然取り戻すリワイルディングの現場”. 朝日新聞. https://www.asahi.com/articles/AST7G1HZ3T7GUTFL00JM.html 2025年7月19日閲覧。 
  16. ^ a b ポルトガルに野生のバイソンを再導入…なんと1万年ぶり”. らばQ (2024年6月11日). 2025年6月9日閲覧。
  17. ^ 小坪遊、竹野内崇宏(著)、大牟田透(編)「北極圏の永久凍土に巨大な穴 温暖化で解けてメタン放出、温室効果が加速する懸念」『朝日新聞グローブ』、朝日新聞、2022年10月4日、2025年6月17日閲覧 
  18. ^ a b c Erick J. Lundgren、Daniel Ramp、John Rowan、Owen Middleton、Simon D. Schowanek、Oscar Sanisidro、Scott P. Carroll、Matt Davis、Christopher J. Sandom、Jens-Christian Svenning、Arian D. Wallach (2020-03-23). James A. Estes. ed. “Introduced herbivores restore Late Pleistocene ecological functions” (pdf). 米国科学アカデミー紀要 (米国科学アカデミー) 117 (14): 7871-7878. doi:10.1073/pnas.1915769117. 
  19. ^ Adrian M. Lister、Anthony J. Stuart (2019-01-18). “The extinction of the giant deer Megaloceros giganteus (Blumenbach): New radiocarbon evidence”. Quaternary International英語版 500: 185–203. doi:10.1016/j.quaint.2019.03.025. 
  20. ^ John Llewelyn、Giovanni Strona、Matthew C. McDowell、Christopher N. Johnson、Katharina J. Peters、Daniel B. Stouffer、Sara N. de Visser、Frédérik Saltré、Corey J. A. Bradshaw (2021-12-13). “Sahul's megafauna were vulnerable to plant-community changes due to their position in the trophic network”. Ecography英語版 (Nordic Society Oikos(Oikos英語版)、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ) 2022 (1). doi:10.1111/ecog.06089. 
  21. ^ Skjold Alsted Søndergaard、Camilla Fløjgaard、Rasmus Ejrnæs、Jens-Christian Svenning (2025-02-05). “Shifting baselines and the forgotten giants: integrating megafauna into plant community ecology”. Oikos英語版 (ジョン・ワイリー・アンド・サンズ) 2025 (5). doi:10.1111/oik.11134. 
  22. ^ Lisa Lock、Robert Egan (2025年6月13日). “How the disappearance of mastodons still threatens native South American forests”. Phys.org. バルセロナ自治大学. 2025年6月17日閲覧。
  23. ^ Marco Davoli、Sophie Monsarrat、Rasmus Østergaard Pedersen、Paolo Scussolini、Dirk Nikolaus Karger、Signe Normand、Jens-Christian Svenning (2023-11-17). Jacquelyn Gill. ed. “Megafauna diversity and functional declines in Europe from the Last Interglacial to the present”. Global Ecology and Biogeography英語版 (ジョン・ワイリー・アンド・サンズ) 33 (1): 34-47. doi:10.1111/geb.13778. 
  24. ^ Jeremy Hance (2019年10月21日). “Why is Europe rewilding with water buffalo?”. Mongabay英語版. 2025年6月17日閲覧。
  25. ^ Emma Marris (2017-10-07). “These Giant Invasive Beasts May Actually Be Good for the Planet”. ナショナルジオグラフィック (ナショナル ジオグラフィック協会). https://www.nationalgeographic.com/science/article/invasive-species-camels-horses-hippos-extinction-environment 2025年6月17日閲覧。. 
  26. ^ 麻薬王がのこした「コカイン・カバ」自然環境に貢献?」『ナショナルジオグラフィック』、ナショナル ジオグラフィック協会日経BP、2020年4月27日、2025年6月17日閲覧 
  27. ^ Meredith Root-Bernsteina、Mauro Galettid、Richard J. Ladle (2017). “Rewilding South America: Ten key questions” (pdf). Perspectives in Ecology and Conservation (ScienceDirectエルゼビア)) 15 (4): 271-281. doi:10.1016/j.pecon.2017.09.007. 



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  メガファウナのページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「メガファウナ」の関連用語

メガファウナのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



メガファウナのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのメガファウナ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS