第四紀の大量絶滅とは? わかりやすく解説

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第四紀の大量絶滅

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/12 05:41 UTC 版)

第四紀の大量絶滅 は、新生代第四紀に起こった古生物とくに大型動物相「メガファウナ(英語版)」の大量絶滅である。本項においては後期更新世の同時多発的な絶滅を中心に解説する。

第四紀の中では完新世、すなわち1万年前から現在の期間においてもホモ・サピエンスの環境破壊による大量絶滅が進行中であり、地球上の生物の少なくとも50%以上の生物種が絶滅する見込みであるが、これについては本項での記述の対象としない[注釈 1]

概要

過去13万2千年における体重が10kg以上の陸棲動物の絶滅の分布図。
最終間氷期英語版)のヨーロッパの陸棲のメガファウナ(英語版)と植生の一部。

第四紀の大量絶滅は、更新世の後半、おおむね最終氷期とその終了後(約7万年前-1万年前)に起こった。主に絶滅の対象となったのは「メガファウナ(英語版)」と呼ばれる大型動物相(哺乳類爬虫類鳥類)である。

現在(21世紀)の時点で、人類に匹敵またはそれ以上の大きさを持つ大型陸棲動物のほとんどはアフリカ大陸ユーラシア大陸の南方に多く、それ以外のたとえばヨーロッパや(日本列島を含む)アジアの中・高緯度地域、北米大陸南アメリカ大陸オセアニアマダガスカルなどでは現生の大型陸棲動物は少なく、大量絶滅も南北アメリカ大陸やオーストラリアを筆頭に世界規模で発生していた。対照的に、海洋生物ではこの様な大量絶滅はこの時期には発生してこなかった。

ゾウ目ではデイノテリウム科・マストドン科・ステゴドン科・ゴンフォテリウム科が全滅し、最後に残ったゾウ科マンモス属が滅び、アフリカゾウアジアゾウマルミミゾウのわずか3種のみが生き残った。

北米大陸南米大陸で繁栄した異節上目も、メガテリウムグリプトドンなどの大型種が絶滅し、地上性のナマケモノなどが全滅した。北米大陸はラクダ科ウマ科バク科の故郷でもあるが、これらの全てが北米大陸から消え去った[注釈 2]

オセアニアで繁栄した有袋類も、ディプロトドンプロコプトドンなどの大型種が絶滅した。また、北米大陸や南米大陸に生き残っていたマクラウケニアトクソドンなどが絶滅したため、滑距目南蹄目などが消滅した。

ネコ目スミロドンダイアウルフホラアナグマアメリカライオンなどの大型肉食獣が絶滅した。

鯨偶蹄目のジャイアントムース(英語版)・スタッグムース(英語版)・ステップバイソンウマ目エラスモテリウムなど大型草食獣も数多く絶滅した。バイソン属も故郷のアジアでは絶滅し、アメリカバイソンヨーロッパバイソン北米大陸と大陸側のヨーロッパで生存した。

日本列島英語版)ではナウマンゾウケナガマンモスバイソン属[注釈 3]オーロックススイギュウ[6]サイガ[7]ゴーラル属または大型のカモシカ属[注釈 4]ヘラジカヤベオオツノジカ、中・小型のシカ[注釈 5]モウコノウマを含むウマ科[12][13][14]本州以南のヒグマ更新世の大型オオカミ英語版[15]トラヒョウオオヤマネコベンガルヤマネコ[16]、オオヤマリクガメ[17]や他のカメ類[注釈 6]ステラーカイギュウなどが後期更新世以降に姿を消している[3][注釈 7]

その他にも、爬虫類ではメイオラニアなどの大型のカメ類、メガラニア鳥類テラトルニスコンドルなどが絶滅した。

ヒト属についても、サピエンスが急速に全世界に拡散し、ホモ・エレクトスネアンデルタール人などの化石人類が駆逐され絶滅した。

原因

現生人類の拡散の略図。
グリプトドンを狙う人類。
コロンビア北西部で発見された岩絵エレモテリウムなどが描かれている。

第四紀の大量絶滅が起こった原因については、全世界に広がったサピエンス乱獲や道具として持ち込まれた「」や生息域を巡る人類との競合などにより滅ぼされたとする「人類原因説」と、氷期と間氷期を繰り返した更新世の急速な気候変動により滅びたとする「気候変動説」が対立しており、現在もにぎやかに議論が続いている。どちらの説も、絶滅の時期や動物相と一致しない部分があり、十分な説得力を持てていない。

しかし、近年では(野生動物と人類との接触の期間がより長かった)アフリカ大陸ユーラシア大陸の南部に現生の陸棲大型動物の大半が生き残っていることや、人類の各大陸や島々への到達の時期と該当地域における大量絶滅などの時期の付随性などが目立ったり、幾度かの気候変動を乗り越えてきた数々の種類が後期更新世完新世で急に絶滅している事例も目立つことから、最終氷期に伴う気候と植生の変動によって生息数や分布が減少する事例も存在したものの、最終的な絶滅の決定打としては人類による影響が最も重大な影響を及ぼしたとする言説を支持する声が増加しており、種類によっては「人類原因説」と「気候変動説」などが多角的に作用したともされている[21][22][23][24]

一説には、この大量絶滅において人類の影響で絶滅した大型の陸棲動物(体重44キログラム以上)は178種またはそれ以上に渡るとされており[25]、既存の群集生態学の知見にもこの大量絶滅のコンセプトが欠落してきた可能性もある[26]

なお、マンモスをふくむ一部については伝染病により絶滅したとの説もあり、狩猟・気候変動・伝染病などの複合的な要因により大量絶滅が起こったという玉虫色の説明を行う学者も多い。

疑似科学では、オーストリア人アレクサンダー・トールマンの「超古代彗星衝突説」がある。彼の主張によれば、9,500年前に地球に氷彗星が衝突した。この際の大津波により、聖書の記述どおりノアの洪水が起き、プラトンの記述どおりアトランティス大陸が沈み、その他世界各地の神話どおりの大災害を起こして回ったという。さらに舞い上がった塵により寒冷期が訪れ、マンモスなどの大量絶滅が起こったという。この説は、欧米の創造論者や超古代文明信奉者に一定の支持を得ている。

なお、定向進化説においては、しばしば「マンモスの長すぎる牙」や「ギガンテウスオオツノジカの大きすぎる角」を取り上げ、これらの動物は大きすぎる牙や角のせいで滅びたと説明される場合もある[27]

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 現在進行形の大量絶滅に関しては、生物多様性#生物多様性への脅威を参照。
  2. ^ 北米大陸はサイの故郷でもあるが、テレオケラスAphelopsなどを最後に、はるか以前の鮮新世に消え去った[1][2]
  3. ^ ハナイズミモリウシステップバイソン、ホクチヤギュウ(英語版)など[3]。これら以外のバイソン属が日本列島に生息していたのかは不明である[4][5]
  4. ^ 鹿間時夫栃木県から Naemorhedus nikitini を報告していたが[7]、後年の調査では「ニキチンカモシカ」としてカモシカ属への再分類が提示されている[8]
  5. ^ トナカイ[9]、カトウキヨマサジカ、ニホンムカシジカ、アキヨシムカシジカ、カズサジカ、ナツメジカ、リュウキュウジカミヤコノロジカ[10]リュウキュウムカシキョン[3][11]
  6. ^ ニホンハナガメやミヤタハコガメやヤベイシガメ等[17][18][19]
  7. ^ ここにはたとえばアケボノゾウやシガゾウやステゴドン(トウヨウゾウ・ハチオウジゾウ)やナルバダゾウBibos亜属シフゾウ属サンバー属アクシスジカジャコウジカキバノロ、ライデッカーイノシシ、ドールヨウシトラホラアナライオン)、マチカネワニなどの前・中期更新世まで日本列島に見られた動物相は含んでいない[3][20]

出典

  1. ^ Rhinoceroses”. フロリダ自然史博物館. 2025年1月24日閲覧。
  2. ^ Sara Novak (20022-11-07). “The Last Of North America’s Great Rhinos That Evolved 55 Million Years Ago”. ディスカバー. https://www.discovermagazine.com/planet-earth/the-last-of-north-americas-great-rhinos-that-evolved-55-million-years-ago 2025年1月24日閲覧。. }
  3. ^ a b c d 春成秀爾更新世末の大形獣の絶滅と人類」『国立歴史民俗博物館研究報告』第90巻、国立歴史民俗博物館、2001年3月30日、1-52頁、doi:10.15024/00000978ISSN 0286-7400 
  4. ^ 長谷川善和、奥村よほ子、立川裕康「栃木県葛生地域の石灰岩洞窟堆積物より産出した Bison 化石」(PDF)『群馬県立自然史博物館研究報告』第13号、群馬県立自然史博物館、2009年、47-52頁、NDLJP:10229193 
  5. ^ 木村方一、2007年、『太古の北海道―化石博物館の楽しみ 改訂版』, 「第9章 そのほかの化石の紹介 - 3. 野牛(バイソン)の化石/八雲町郷土資料館」、ISBN 978-4894534193, 北海道新聞社
  6. ^ 近藤洋一、中尾賢一「鳴門海峡海底からスイギュウ化石の発見」(PDF)『徳島県立博物館研究報告』第31号、徳島 : 徳島県立博物館、2021年3月、1-6頁、 CRID 1520853834654156160ISSN 09168001国立国会図書館書誌ID: 031423510 
  7. ^ a b 仲谷英夫「日本産の更新世ウシ科化石」(pdf)『化石研究会会誌』第19巻第2号、化石研究会、1987年3月、48-52頁、2025年6月12日閲覧 
  8. ^ 樽野博幸、石田克、奥村潔「岐阜県熊石洞産の後期更新世のヒグマ、トラ、ナウマンゾウ、カズサジカ、カモシカ属の化石」(pdf)『大阪市立自然史博物館研究報告』第72号、大阪市立自然史博物館、2018年3月31日、81-151頁、2025年6月12日閲覧 
  9. ^ 長谷川善和氏(日本列島2000万年の進化史―とくに日本産哺乳類化石に関する研究)”. 日本哺乳類学会. 2025年6月12日閲覧。
  10. ^ 後期更新世大型シカ類の動物考古学的研究 科学研究費助成事業、体系的番号:JP18K12567、2018-04-01 – 2023-03-31
  11. ^ 薄井重雄、高橋啓一、阿部勇治、松本みどり「冠状縫合を使った鮮新統-更新統産の三尖の角を持つシカ類の分類について」『化石』第95巻、日本古生物学会、2014年、7-17頁、 CRID 1390001204437333504doi:10.14825/kaseki.95.0_7ISSN 00229202 
  12. ^ 松井章「遺跡出土の動物化石が語る人類文化」(pdf)『化石研究会会誌』第30巻第1号、化石研究会、1997年、1-6頁、2025年6月9日閲覧 
  13. ^ 辻村千尋 (2013年7月1日). “小さな島が「自然エネルギー」で埋め尽くされようとしています。”. 日本自然保護協会. 2025年6月9日閲覧。
  14. ^ 麻柄一志「第6回 先史時代のヒトと自然」(pdf)『富山市民大学 《立山黒部ジオパークを知る》』2021年11月17日、2025年6月9日閲覧 
  15. ^ 長谷川善和、木村敏之、甲能直樹「日本産後期更新世の巨大狼化石」(PDF)『群馬県立自然史博物館研究報告』第24号、群馬県立自然史博物館、2020年3月、1-13頁、 CRID 1521136281181354624ISSN 13424092 
  16. ^ 春成秀爾[研究ノート] 『直良信夫コレクション目録』の訂正ほか」『国立歴史民俗博物館研究報告』第206巻、国立歴史民俗博物館、2017年3月、103-110頁、doi:10.15024/00002336ISSN 0286-7400 
  17. ^ a b 髙橋亮雄、池田忠広、真鍋真長谷川善和沖縄島の更新世港川人遺跡から発見された淡水生および陸生カメ類化石」(pdf)『群馬県立自然史博物館研究報告』第22号、群馬県立自然史博物館、2018年3月、51-58頁、 ISSN 13424092 
  18. ^ 佐野市葛生化石館 (2019年11月26日). “ミヤタハコガメ”. 佐野市. 2025年6月12日閲覧。
  19. ^ 平山廉千葉県袖ケ浦市の下総層群清川層 (中期更新統) より産出したカメ類化石 (続報)」(pdf)『千葉中央博自然誌研究報告』第11巻第1号、佐野市、2010年5月、29-35頁、2025年6月12日閲覧 
  20. ^ 河村善也「日本の第四紀哺乳動物の生物地理」(pdf)『哺乳類科学』43・44、日本哺乳類学会、1982年、99-130頁。 
  21. ^ Rhys Taylor Lemoine、Robert Buitenwerf、Jens-Christian Svenning (2023-12). “Megafauna extinctions in the late-Quaternary are linked to human range expansion, not climate change”. Anthropocene (エルゼビア) 44: 100403. doi:10.1016/j.ancene.2023.100403. ISSN 2213-3054. 
  22. ^ Christopher Sandom、Søren Faurby、Brody Sandel、Jens-Christian Svenning (2014-07-22). B: Biological Sciences. “Global late Quaternary megafauna extinctions linked to humans, not climate change”. Proceedings of the Royal Society英語版 (王立協会) 281 (1787). doi:10.1098/rspb.2013.3254. 
  23. ^ 魚津埋没林博物館「ナウマンゾウとオオツノジカ」(pdf)『うもれ木(魚津埋没林博物館広報誌)』第41巻、魚津印刷株式会社、2014年7月7日、2025年6月9日閲覧 
  24. ^ Adrian M. Lister、Anthony J. Stuart (2019-01-18). “The extinction of the giant deer Megaloceros giganteus (Blumenbach): New radiocarbon evidence”. Quaternary International英語版 500: 185–203. doi:10.1016/j.quaint.2019.03.025. 
  25. ^ Hannah Ritchie、2022年11月30日、Did humans cause the Quaternary megafauna extinction?Our World in Data
  26. ^ Skjold Alsted Søndergaard、Camilla Fløjgaard、Rasmus Ejrnæs、Jens-Christian Svenning (2025-02-05). “Shifting baselines and the forgotten giants: integrating megafauna into plant community ecology”. Oikos英語版 (ジョン・ワイリー・アンド・サンズ) 2025 (5). doi:10.1111/oik.11134. 
  27. ^ 丸山貴史 (2018年8月11日). “「○○に栄養をとられて絶滅しちゃいました」オオツノジカがせつない絶滅原因を語る”. ダイヤモンド・オンライン. 2025年6月9日閲覧。




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