ニッチ
「ニッチ」とは、ビジネスシーンで大手の企業が参入していない小さい市場や商品のことをニッチ市場・ニッチ商品などと表現する際に用いられる隙間のことを意味する表現。
ニッチとは、ニッチの意味
ニッチ(niche)とは「隙間」を意味する言葉であり、とりわけ「大手が狙わないような小規模で見逃されやすい事業領域」を指す意味で用いられることの多い語。いわゆるスキマ産業。「ニッチ産業」「ニッチな商品」「ニッチな趣味」といった表現で用いられることも多い。ニッチの語源は英語の niche である。英語の niche に複数の語義がある。日本語の「ニッチ」の意味も文脈によって大きく異なる。一般的な文脈では「人の能力に応じた適所や得意分野」を意味することもある。建築用語では「壁のくぼみ(壁龕)」、地学用語としては「岩などのくぼみ」、生物学の用語としては「生態的地位」といった意味で用いられる。
ニッチの語源と根本的な意味
「ニッチ」の語源は英語の niche である。英語の発音は「ニッチ」あるいは「ニッチェ」に近い。英語の niche の語源はフランス語である。英語の niche(ニッチ)も、建築用語においては「花瓶や彫刻などを設置する目的で作られた壁のくぼみ」、地学用語では「岩のくぼみや割れ目」、生物学用語では「生態系の中におけるある生物の生態的地位」という意味で用いられる。
ニッチのそもそもの意味は、西洋建築における壁のくぼみ、である。壁や柱を円形もしくは四角くくりぬき、その部分に花瓶や彫刻などを置いて飾れるようにした飾り棚を指す意味が「ニッチ」の根本的な語意である。
20世紀前半に、生物学の分野で、いわゆる「生態的地位」を指す意味で「ニッチ」という表現が用いられるようになった。生態的地位とは、生存競争によって適応する特有の生息場所のことである。つまり、狭いが競争者のいない領域である。
そして「ニッチ」は経済分野における「隙間産業」の意味や、いわゆる「マニアックな分野」を指す意味でも用いられる語となっている。
一般的な文脈で「ニッチな趣味」という場合の「ニッチ」のニュアンス
一般的に「ニッチな~」と叙述する文脈では、「ニッチ」は「広く認知されていない」とか「一部の人にのみ興味を抱かれる」といった意味ニュアンスで用いられる。
たとえば「ニッチな趣味」は、おおむね良い意味で「風変わりな趣味」「マニアックな趣味」という意味で用いられる。「ニッチな人」といえば「風変わりな人」「マニアックな人」という意味になる。基本的に「良い意味で個性的」というニュアンスで使われることが多い。
「ニッチ」の語は経済用語、マーケティング用語として用いられている
経済・マーケティングの分野で用いられる「ニッチ」とは、おおむね「大資本が手につけなかったような隙間市場」を意味する。つまり「ニッチ市場」である。ちなみに英語でもニッチ市場(niche market)という表現は用いられる。ニッチ市場は、市場の中において一般的ではなく、客層や需要が特定の方面に限られている小規模な市場である。市場規模がどうしても小さく、収益性は低い。潜在的な需要を開拓する必要もあり、それでも需要の規模の拡大には限りがある。こうしたニッチ分野には大企業は参入したがらない。
大企業は資本力に物を言わせて収益性の大きい大規模な市場で事業を行おうとする。 顧客の需要(ニーズ)は多種多様であるが、小規模な需要をひとつひとつ拾い上げて対応しようとする方針では、投資に見合った収益が得られるとは限らない。大企業は、小規模な市場への参入は消極的にならざるを得ない。
市場シェアが最も多い企業(マーケットリーダー)は、大多数に受け入れられ必要とされるニーズを狙う。2番手、3番手の企業も大多数のニーズに応えるために競争をする。その結果、小規模のニーズは取り残されることになる。そのため、潜在的に需要はあるものの大企業が手をつけてこなかった「市場のスキマ」が生まれる。そうしたスキマに中小企業が生き残りをかけて参入する。
ニッチな産業分野には、規模こそ少ないものの需要が高い(待ち望まれている)場合もある。価格が相対的に高くなっても対価を払う顧客がいる、という場合は珍しくない。
大企業が手をつけなかった分野や需要の開拓がなされていない分野に着目して戦略的に狙うことを「ニッチ戦略」もしくは「ニッチマーケティング」という。こうした隙間市場に目をつけていち早く参入した企業は、他社の競争による体力の消耗もなく、円滑な事業の展開を図りやすい。
ニッチ戦略によって提供されるサービスや商品は「ニッチ商品」「ニッチサービス」と呼ばれる。また、こうした商品やサービスを提供するビジネスが「ニッチ産業」「ニッチビジネス」などと呼ばれる。
ニッチ戦略によって成功を収めている企業は多い。たとえばコンビニエンスストアも「営業時間の長さ」や「立地条件」といった要素において潜在的需要を喚起し、つまりニッチを突くことによって、スーパーマーケットや既存の小売店よりも高めの価格設定ながら、他を出し抜く成長を遂げたわけである。
ニッチ
ニッチとは、市場や分野において、特定の需要や興味を持つ限られた層を対象とした狭い範囲である。一般的な大衆向けの商品やサービスとは異なり、ニッチ市場では特殊なニーズを満たすことを目的としている。これにより、競合他社との差別化が図られ、独自の価値提案が可能となる。
ニッチ市場の特徴は、ターゲットとなる顧客層が明確であること、競合が少ないこと、顧客の要求に応じた商品やサービスが提供されることが挙げられる。また、ニッチ市場においては、顧客との密接な関係が構築されやすく、顧客満足度が高まることが期待される。
niche
「niche」とは、適所・得意分野のことを意味する英語表現である。
「niche」とは・「niche」の意味
「niche」とは、適所・生かし所・得意分野の意味を持つ名詞として使われている英語表現である。また生物学においては、自然環境で生物が獲得した生存条件がそろっている場所のことを示す言葉である生態的地位の意味でも使われている。生態的地位は「niche」だけではなく、「ecological niche」と表記する場合もある。生物種は適した環境を獲得するために、種間の存続競争に勝つか、過酷な環境を耐え抜くなどの過程を経ている。また生態的地位を獲得するために、特定の形態もしくは習性を持つように進化した種も多く存在している。日本語で書くと生態的地位となるが、「ニッチ」や「エコロジカル・ニッチ」、「生態学的ニッチ」という言葉が使われる場合もある。さらに建築で「niche」を使う場合には、壁龕の意味となる。これは像やかめなどを置くために作られた壁のくぼみを指す言葉である。地学用語として使う場合は、裂け目・割れ目・くぼみのことを示している。
「niche」のスラングとしての意味
カタカナ英語で「ニッチ」と使う場合、「隙間産業」の意味で使われることがある。これは和製英語というわけではなく、英語の「niche」でも同じような意味で使われている。例えば「niche market」は、日本語だと「ニッチマーケット」もしくは「隙間産業」のことを指し、大きな市場ではないものの一定数のニーズが存在している市場のことを示す言葉である。「market」をつけずに「niche」のみでも、「隙間産業」の意味で使われるケースも見られる。また隙間産業を狙ってビジネスを行いたいことを示す場合、「niche marketing」という英語表現が使われている。これは「ニッチマーケティング」もしくは「隙間産業販売戦略」と訳せる。「niche marketing」は「niche market strategy」と言い換えることもできる。
「niche marketing」の類語には、「blue ocean strategy(ブルーオーシャン戦略)」があげられる。「niche marketing」が隙間産業を狙って競争を避ける戦略を示すのに対し、「blue ocean strategy」は今までなかった市場を作り出して競争を避ける戦略を示す言葉である。一方競争の激しい市場でビジネスを行う戦略のことは「red ocean strategy(レッドオーシャン戦略)」と表現する。
「niche」の発音・読み方
「niche」における発音記号は、「nítʃ」である。カタカナで表記する場合は、「ニッチ」が表記されることも多く、「ニッチ」の意味でカタカナ英語として使われる場合もある。ただし「ニッチ」ではなく「ニィチュ」と表記したほうが実際の発音に近い。「niche」の語源・由来
「niche」における語源は、ラテン語の「nidus(巣、巣窟)」である。「nidus」がフランス語に転じて「niche」と表記されるようになると、西洋建築における壁面のくぼみを指す壁龕や避難所などの意味で使われるようになる。そしてフランス語の「niche」から英語の「niche」に転じた際に、くぼみから連想できる「隙間」、くぼみにオブジェを飾るところから連想できる「適所」などの意味が加わった。「niche.(ブランド)」とは
「niche.(ブランド)」とは、メンズ向けの商品を扱っている日本のアパレルブランドのことである。ディスタイムインクのメインレーベルという形で、2007年から通販サイトを中心に商品の発売が開始されている。またブランドにおけるコンセプトは「毎日来たい服」と「気が付けば来ている服」である。またアルゼンチンやメキシコ、アメリカ中南米諸国に息づくカルチャーが、ブランドのベースとなっている。「niche」の使い方・例文
「niche」における使い方には、以下のような例文があげられる。・She changed jobs and found a niche.
彼女は転職して適所を見つけた。
・To survive, the company decided to compete in a niche market.
生き残りをかけて会社はニッチマーケットで勝負をすることにした。
・They found a niche in the computer market and developed a product.
彼らはコンピュータ市場で隙間を見つけて、商品開発を行った。
・In order to find niche market, it is necessary to change the way of thinking.
隙間産業を見つけるためには、発想の転換も必要になる。
・I searched for an object that fits the niche in the wall.
壁のくぼみに合うオブジェを探した。
ニッチ
「ニッチ」とは、隙間・窪み・生態的地位のことを意味する表現である。
「ニッチ」とは・「ニッチ」の意味
「ニッチ」は、「隙間」「窪み」「生態的地位」などを意味する言葉であり、使用する場面によって意味が大きく異なる。一般的に使用されるニッチは、隙間という意味である。そして、隙間のように狭い範囲という解釈から、少数派であることや、他人から受け入れられにくいことを表す言葉として、ニッチが使用される。ニッチは、ネット用語としても使用されることが多い。誰からも理解されない趣向や、携わっている人が少ない学問などが、ネット上でニッチであると表現されることは、決して珍しくない。また、答えを知っている人が非常に少ない、ニッチな分野に関する質問が、専門的な知識を持つ人が集まるYahoo!知恵袋に投稿されることもよくある。
隙間という意味のニッチは、ビジネス用語としても使用される。ビジネスにおけるニッチは、手を付けられていない市場を指す。需要はあるものの、大きな利益が見込めないため、大企業が進出していない市場や、開拓そのものがまだされていない市場などである。既に手を付けられている数多くの市場の中に存在する、隙間のような市場ということで、ニッチ市場と呼ばれる。
ニッチ市場は、真っ向から大企業に立ち向かうことが難しいベンチャー企業や中小企業の経営戦略において、重要視されることが多い。大企業と争うことを避けるために、ニッチ市場を狙う形だ。そして、隙間であるニッチ市場を狙うビジネスは、隙間産業と呼ばれることもある。
ビジネスにおいて、ニッチの対義語となるのは、「マス」である。そして、狭い範囲をターゲットにするマーケティングをニッチマーケティングと呼ぶのに対して、消費者全体をターゲットにしたマーケティングは、マスマーケティングと呼ばれる。また、あまり知られていない少数派という意味合いでニッチを使用する場合、有名であることを意味する「フェイマス」が対義語として使用されることもある。
窪みという意味のニッチは、建築に関する用語として使用される。住宅の内装の壁面に設ける窪みが、ニッチである。ニッチは、写真立てや絵画、花などを飾ると、インテリアスペースとして活用できる。また、キッチンで調理器具を収納したり、トイレでトイレットペーパーのストックを置いたりするなど、機能性のあるスペースとして設けられるニッチも多い。
生態的地位という意味のニッチは、動物生態学における基本的な考え方である。食物連鎖において、生物が置かれている立ち位置や役割が、ニッチである。例を挙げると、アフリカで暮らすㇴ―のニッチは、生えている草を食べ、ライオンなどに捕食されることだ。
「ニッチ」の語源・由来
「ニッチ」は、「隙間」「窪み」「生態的地位」などを意味する英単語「niche」を、カタカナで表記したものだ。「niche」の元となったのは、「巣」を意味するラテン語「nidus」である。それが、「隙間」や「窪み」といった意味のフランス語「niche」となり、最終的に英語の「niche」となっている。「ニッチ」の熟語・言い回し
ニッチすぎるとは
「ニッチすぎる」は、範囲が狭すぎたり、規模が小さすぎたりすることを意味する言葉である。
ニッチな人とは
「ニッチな人」は、物好きな人や風変わりな人、個性的な人を指す言葉である。
ニッチな趣味とは
「ニッチな趣味」は、あまり一般的ではない趣味を指す言葉である。万人受けしにくい趣味、という意味合いで使用されることも多い。
ニッチなとは
「ニッチな」は、ニッチを形容詞として使用する場合の表現である。一般的に使用されるニッチは、名詞であるので、目的語をそのまま繋げると不自然な表現となってしまう。そのため、「ニッチな」という形に変化させる必要がある。
ニッチな商品とは
「ニッチな商品」は、ターゲットとなる消費者が少ない商品を指す言葉だ。万人受けすることを目指さず、限られた目的のために販売される商品を指す場合もある。
ニッチビジネスとは
「ニッチビジネス」は、ニッチ市場に展開するビジネスを指す言葉である。大量の需要を求めるのではなく、市場における限られた範囲内で、特定の需要のみを獲得することを目的としたビジネスだ。ベンチャー企業や中小企業が、大企業が取りこぼしている需要を獲得するために、ニッチビジネスを展開することが多い。ビジネス用語として使う場合がほとんどであり、「あのコンビニは、北海道だけに展開するというニッチビジネスで成功を収めた」「大企業が手を付けられていない分野を見つけた。これはニッチビジネスのチャンスかもしれない」という風に用いる。
「ニッチ」の使い方・例文
「ニッチ」を隙間という意味で使用する場合、例文は、「私の趣味はニッチであるため、理解してくれる人が少ない」「彼は、ニッチな学問の教授である」「これはニッチな商品であるため、いつ販売停止になってもおかしくはない」といった形となる。ビジネス用語としての使用例は、「このニッチ市場を狙うのであれば、今しかないだろう」「事業内容を決めるために、市場におけるニッチを探している」のような形だ。窪みという意味であれば、「今日は、住宅の施工担当者と、ニッチの形状について相談する予定となっている」「私の生活スタイルを考えると、新築の住居にニッチは必要ないだろう」「私が家を建てる時には、友人の住宅にあるニッチを参考にしようと思う」のように使用する。
生態的地位という意味だと、「彼女は、ホッキョクグマのニッチについて研究している」「アフリカにおいて、シマウマとガゼルのニッチはほぼ同じである」といった使い方をする。
ニッチ
「ニッチ(英: niche)」とは「隙間」(すきま)を指す意味で用いられる語である。一般的には、マーケティングの分野における隙間市場・隙間産業の意味で用いられることが多い。要は、需要(市場規模)が小さく、競合(強大な競争相手)がいないような「穴場」のことである。
【ニッチの語源】
ニッチというカタカナ語は英語の「niche」に由来する。もともとはフランス語で、「巣窟」や「避難所」といった意味の語である(英語のnestに相当する)。英語のnicheの語源は仏語のnicheであるが。仏語のnicheは「ニーシュ」に近い発音である。英語のnicheの発音は「ニッチ」に近い。
【ニッチの種類】
ニッチはもともとは建築物の内壁の凹部を指す語である。日本語では「壁龕」ともいう。ニッチは西洋建築における飾り棚の一種であり、花瓶を置いたり、聖像や聖画を安置したり、あるいは間接照明に用いられたりする。
生物学においては、特定の種が生態系の中で位置している(占めている)位置や役割をニッチという。日本語では「生態的地位」ともいう。
マーケティングの分野では、趣向や需要が特定方面に特化していて、既存の市場がうまく需要に応えきれていない(取りこぼしている)ような分野を指してニッチということが多い。このようなすきま的な分野は需要の規模が小さく、資本力のある大手企業は参入したがらない。需要があること自体まだ気づかれていない、という場合もある。
産業分野におけるニッチは「ニッチ産業」といい、産業などにおけるニッチな市場を「ニッチ市場」、ニッチ市場を開拓していくマーケティング戦略を「ニッチ戦略」という。
マーケティング戦略におけるニッチは、たいていの文脈では「すきま」の意味で用いられているが、生物学における「生態的地位」になぞらえた意味で用いられる場合もあり得る。生態的地位になぞらえて捉えられるニッチとは、市場における自社の立ち位置と棲み分けを意識したマーケティング戦略のようなものと解釈できる。
マーケティング関連の話題以外にも、マイナーでマニアックな趣味や嗜好を「ニッチな」と形容する場合がある。
ニッチ【niche】
ニッチ
ニッチ
適所。競争が激化している成熟マーケットにあって、競合他社が狙わない隙間のこと。そういう市場をニッチマーケットという。自動車メーカーはプラットホームの共用化やコンピューター化された車両開発システムなどにより、ニッチ商品づくりはやりやすくなっている。近年のクロスオーバー商品ブームは、こうした背景を反映している。
ニッチ
ニッチ
ニッチ
ニッチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/16 01:56 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動![]() | この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。2010年12月) ( |
ニッチ(英: niche、フランス語読み:ニーシュ)は、生物学では生態的地位を意味する。1つの種が利用する、あるまとまった範囲の環境要因のこと[1]。
概要
地球上のさまざまな場所に生物が生息できる環境があり、そこに生息する種はそれぞれ異なっている。食物連鎖やエネルギーの流れを考えれば、生産者がいて、それを利用する消費者がいて、さらに二次消費者がいる。このような多様な生物の存在は、地球上のどこでも普遍的に見られるものである。これらをニッチという。
地上の生態系であれば、生産者としては種子植物が主体となり、それを食べる大型草食動物がいるうえ、その草食動物を狙う大型肉食動物もいる。気候や地域が異なれば、生態系を構成する個々の生物種は異なるが、同じような図式を描くことができる。
例
- ヌーやライオンなど - アフリカ草原
- ヤギュウやアメリカライオンなど - 北アメリカ
- カンガルーと、フクロオオカミ(後に外来のディンゴに取って変わられ、ヨーロッパ人の入植後に絶滅) - オーストラリア
このように、草原で草を食べる大型草食動物として、ヌーとヤギュウとカンガルーが同じニッチを占めるという。同様に、それらを狙う大型肉食動物として、ライオンとアメリカライオンとフクロオオカミが同じニッチを占めるという。
ただし、一つの地域に存在する草食動物と言っても一般的に一種だけではない。複数の草食動物は、実際には食べる植物の種類(草か灌木かなど)、草の食べ方(葉先を食うか根元を食うかなど)、採食の時間(昼間食うか夜食うかなど)といった違いがある。つまり、大まかな見方では同じニッチに見えても、その中にはさらに細かいニッチがある。
語源
元来、像や装飾品を飾るために寺院などの壁面に設けた窪み(壁龕:へきがん)のことを指すが、これが転じてある生物が適応した特有の生息場所、資源利用パターンのことを指すようになった。
棲み分け
生物を見れば、同じ場所で同じものを食べているように見えても、種類が違えば何かしら違ったやり方で食べたり、時間をずらしたりして、互いの活動が完全にぶつからないようになっていることが多い。これは、一見同じニッチに見えても、それぞれ少し異なるニッチを占めていると見ることができる。
同じようなニッチを占める2種が、少し場所をずらせることで共存する場合がある。たとえば、渓流釣りの対象となる魚であるヤマメとイワナはいずれも上流域に生息するが、イワナの方がやや冷水を好む。それぞれが単独で生息する川ではどちらの魚も上流域を占有するが、両者が生息する川では混在することなく、最上流域をイワナが、そして上流域のある地点を境に、それより下流をヤマメが占有する。
このように、時間・空間的に活動範囲を分けることで2種が共存することを棲み分け(Habitat segregation)という。
生態学者の今西錦司は、河川の水生昆虫の分布からこのような生物種間で生息域をずらせる現象を指摘して棲み分けと呼び、独自の棲み分け理論を展開した。これは今西の生物社会論と結びついており、必ずしも自然科学との折り合いが良いわけではない。今西によると、生物は同種個体によって組織された一つの種社会を作っており、同様に近縁種間には社会関係があるとする。互いに共通の資源を求めるものは近縁なものであるので、それらは同位社会を構成し、競争が避けられるならば棲み分けが成立するという。したがって、後年考えられているような単純な意味での非競争的棲み分けだけを考えているわけではなく、明示的な競争・競争排除・棲み分けがありえる中で、生物のニッチ分化を考察したのが棲み分け理論である。
自然科学の立場からも棲み分けの事実は認められているが、その現象の説明はまったく異なった形で与えられている。多くの場合、そのような2種は競争関係にあると見なし、それぞれの種には最適環境やさまざまな耐性に差があることから、その説明をおこなう。たとえば、先のヤマメとイワナの場合では、イワナがやや冷水を好むため、水温の低い最上流ではイワナが競争に勝ち、ある程度水温が高くなるとヤマメが有利になるために棲み分けが起きるという風に説明する。
今西の説と現在の一般的な棲み分け現象についての説明の違いは、最初から競争・非競争的な種間関係両方がありえるとするのか、競争関係から進化的にさまざまなバリエーションが派生したと見るかである。
競争排除
棲み分けは微小な環境差を使い分けることで2種が共存する仕組みであるが、共存するためにはそのような環境の差が存在する必要があるとも見える。逆に、共存しているよく似た2種は、環境に対する要求に何らかの差を持っているはずだとも言える。
一般に同じ資源(餌や営巣のための場所など)を必要とする生物同士は、一か所に長期間共存することはできないと言われる。1つのニッチを複数の種が共有することはできないため、その環境によって適応した種が生存し、環境への適応という点で劣る種は排除されてゆく。この過程ないし現象を競争排除といい、競争排除が起こるメカニズムのことを競争排除則(ガウゼの法則)という。
この現象が進行する様子は、具体的には帰化生物が進入した場合に見られる。
通常、ある生態系の中の構成員は、長い年月を経る間にそのあたりの調節が働いて(うまく行かなかった種は絶滅したはず)、現在見るものはそれぞれが異なったニッチを占めており、安定した状態にあると考えられる。しかし、外部からある生物が持ち込まれた場合、多くはその生物が進入しようとするニッチにすでに住んでいる在来種との間で衝突が起きる。よそから入ったものの方が強く(適応度が高く)生息域を広げると、在来種が圧迫されてゆくのがはっきり分かることが多い。
このような競争の結果、餌の食い分けや棲み分けが起こって両者の共存(ニッチ分化)が可能になることもある。たとえば、北アメリカに生息するアメリカザリガニ(Orconectes属)のO. immunisとO.virilisは、それぞれ単独で生息する環境では両者とも川底に石が多い環境を好むが、両者が同所的に生息している場合はO. immunisが泥底に生息場所を移すことで共存を実現している。
また、昼行性のワシ・タカと夜行性のフクロウは共通の餌を昼と夜で食い分けることにより、共存を実現している。すなわち、時間的なニッチにおいて棲み分けがなされているのである。
しかし、在来種が絶滅する可能性が常にあり、これを予測することは困難であるため、生態系や種の保全という観点からは外来生物の侵入は防ぐべきであるとされる。
食い分け
よく似た餌を求めながら、食物選択や採食法の差のある種が共存することを食い分けという。たとえば、アフリカの草原における多数の草食獣は木を中心に食べるものや草を中心に食べるものの差があり、草を食べるものでもそれぞれに草の食べ方が異なっているという。
ただ、空間を区分して使う棲み分け、それぞれに別の食物を選ぶ食い分けと、時間を区分する棲み分けや異なる採食法を使う食い分けは、まったく異なる意味を持つことに注意すべきである。前者は資源そのものを区分して使い分けることであり、それがうまく行けば、その後は競争は生じない。そのため、シマウマ(稲の穂先のみ食べる)とヌー(穂先を食われた茎・葉を食べる)のように共同で群れを作って行動する例まである。
しかし、後者の場合に求める資源はまったく同じである。たとえば、タカとフクロウが時間を分けて狩りをするからといって、タカが昼間に小鳥を取り尽くせば、フクロウは食べるものがなくなるのである。このような食い分けは、また違った理由を考えなければならない。
方法の違いによる食い分けについては、アフリカのタンガニーカ湖の魚の例がある。そこには一群の魚鱗食性 (Scale eater) の魚がいる。これは、生きた魚の体表から鱗をかじりとって生活するものである。鱗を食われた魚は、しばらくすれば鱗を再生できるが、囓られるのは嫌がる。この時、どうやって鱗を狙うかが種によって異なる。あるものはすれ違いざまに鱗を囓り、またあるものは岩陰に隠れて近づいた魚を襲う。大形魚の陰に隠れて接近するものもいる。また、左右どちらから襲うかも決まっているため、これらの魚では口が横に曲がっている。このような区別がどのような意味があるかであるが、よく言われるのは餌である魚に備えができないようにする効果がある、というものである。襲い方が決まっていれば、襲われる方はそれに対して防御の方法を発達させることが可能になる。しかし、さまざまなやり方で襲われれば、その方法が発達させられないというものである。
脚注
- ^ Pocheville, Arnaud (2015). “The Ecological Niche: History and Recent Controversies”. In Heams, Thomas; Huneman, Philippe; Lecointre, Guillaume et al.. Handbook of Evolutionary Thinking in the Sciences. Dordrecht: Springer. pp. 547–586. ISBN 978-94-017-9014-7
関連項目
ニッチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 17:19 UTC 版)
「ダイオウウミサソリ科」の記事における「ニッチ」の解説
活動的な捕食者とされるプテリゴトゥス(1枚目)とイェーケロプテルス(2枚目)、ジェネラリストな捕食者とされるエレトプテルス(3枚目)、および待ち伏せ捕食者/腐肉食者とされるアキュティラムス(4枚目) ダイオウウミサソリ科の各属は一見お互いにほぼ共通の姿をしており、長らく全般的に機動性が高く、特定の獲物(主に魚類)に向けて高度に特化した上位捕食者と考えられた。しかし本群は必ずしもそうとは限らず、種類によってはジェネラリスト的な捕食者や待ち伏せ捕食者/腐肉食者まで多岐にわたり、それぞれが異なるニッチ(生態学的地位)に収まっていたと思われる。これは各属での鋏角と複眼の相違点によって示唆される。 複眼の個眼数と隣接する個眼の光軸間の角度(interommatidial angle、略してIOA)の比率という、節足動物の視力とニッチを区別するのに使われる数値を本群に応用し、そのニッチを推測した研究は主に Anderson et al. 2014 と McCoy et al. 2015 の2つが挙げられる。Anderson et al. 2014 では、ウミサソリとして本群のアキュティラムス(Acutiramus)と別系統のユーリプテルス(Eurypterus)の数値が比較され、本群は全般的にアキュティラムスのように、活動的な捕食性に不向きであったと考えられた。しかし McCoy et al. 2015 では、アキュティラムスとユーリプテルスだけでなく、本群のプテリゴトゥス(Pterygotus)、イェーケロプテルス(Jaekelopterus)とエレトプテルス(Erettopterus)、および本群に近縁であるスリモニア(Slimonia)まで分析対象とされ、以下の結論を出していた。 プテリゴトゥス、イェーケロプテルス: これらの大型属(最大2.5m)の複眼は、低いIOA値(1°を超えない)と多数(3,000 - 4,000前後)の個眼をもち、活動的で優れた視覚をもつ現生の捕食性節足動物の値に近い。その鋏角は頑強で顕著に特化した歯があり、カニの鋏脚やサソリの触肢のように強い把握力と粉砕力に特化したことを示唆する。これらの属は従来の推測通り、優れた視覚に頼る活動的な捕食性に特化した捕食者であったと考えられる。 エレトプテルス: この中型属(1mを超えない)の複眼は、やや高いIOA値(1°以上)と多数(4,000前後)の個眼をもち、中間的な視力にあることを示唆する。この数値はユーリプテルス(IOA値1°以上、個眼数3,000 - 6,000以上)とスリモニア(IOA値1.5°前後、個眼数4,000前後)に近い。鋏角の歯は同科の別属より均一で、可動指の先端が二股状になった場合もあり、これは特定の摂食方法にこだわらない特徴と考えられる。本属(およびユーリプテルスとスリモニア)は捕食者であったものの、ジェネラリストで、プテリゴトゥスとジェケロプテルスほどには特化していなかったと考えられる。 アキュティラムス: この大型属(最大2m)の複眼は、高いIOA値(約1.5° - 3°)と少数(1,000前後)の個眼をもち、比較的に低い視力にあることを示唆する。本属の鋏角はやや華奢で不動指に鋸歯状の長い歯をもち、柔らかい物を削るもしくは切断する機能に適したとされる。本属は視力・鋏角の機能とも前述の属とは大きく異なり、優れた視力と高い機動性を依存しないニッチ(夜行性で待ち伏せ捕食性もしくは腐肉食性)に収まっていたと考えられる。 また、本群の中で視力が低いとされるアキュティラムスだが、そのIOA値と個眼数は小型の個体ほど同科の別属に近い(IOA値が低く、個眼数が多くなる)。そのため、ダイオウウミサソリ科のそれぞれの属は、おそらく幼生では似た視力をもち、成長に連れて段々と各自のニッチに向く特徴を発達させたと考えられる。
※この「ニッチ」の解説は、「ダイオウウミサソリ科」の解説の一部です。
「ニッチ」を含む「ダイオウウミサソリ科」の記事については、「ダイオウウミサソリ科」の概要を参照ください。
ニッチ
「ニッチ」の例文・使い方・用例・文例
- 何時どこでニッチビジネスのアイディアに遭遇するかは分からない。
- マスマーケティングは幅広い客層を相手に売り込み、ニッチマーケティングは特定のターゲットグループに売り込む。
- それらが生態的ニッチを占めるような、元々有機体の同種の群からの多数の異なった形態の発達
- ニッチ戦略というマーケティング戦略
- ニッチャー企業という,ニッチ戦略をとる企業
- 10月7日,錦(にし)織(こり)圭(けい)選手(22)が東京でのジャパン・オープン・テニスの決勝でミロシュ・ラオニッチ選手(カナダ)を破った。
- 7月1日,第10シードの錦織選手は4回戦で第8シードのミロシュ・ラオニッチ選手(カナダ)と対戦した。
- ラオニッチ選手が4-6,6-1,7-6,6-3で錦織選手を破り,錦織選手は準々決勝に進めなかった。
- ラオニッチ選手は強烈なサーブを打つことで知られている。
- 錦織選手は最初のゲームでラオニッチ選手のサーブをブレークし,続けて第1セットを奪った。
- しかし,それ以降ラオニッチ選手は攻めのプレーをし,最終的に35本のサービスエースを決めて試合に勝利した。
- カナダのミロシュ・ラオニッチ選手との錦織選手の4回戦は,4時間19分かかった。
ニッチと同じ種類の言葉
- ニッチのページへのリンク