ダイアウルフ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/12 06:51 UTC 版)
ダイアウルフ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
約30万 - 約1万年前 (新生代第四紀更新世中期 - 完新世初期) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Aenocyon dirus (Leidy, 1858) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Canis dirus | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ダイアウルフ ダイアオオカミ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Dire wolf |
ダイアウルフ(異称:ダイアオオカミ、学名:Aenocyon dirus、英語名:Dire wolf)は、約30万- 約1万年前(新生代第四紀更新世中期- 完新世初期)のアメリカ大陸に棲息していた、ネコ目(食肉目)イヌ科に分類される絶滅種であり、既知のイヌ亜科では最大の種である。種小名の dirus はラテン語で「恐ろしい」の意。Aenocyon dirus dirusとAenocyon dirus guildayiの2亜種が知られている。
分類
従来、ダイアウルフは骨の形態の似たタイリクオオカミと近縁と思われていて、イヌ属に分類されCanis dirus(カニス・ディルス)とされていた。しかし、2021年1月に発表されたダイアウルフのゲノムを解析した論文では、ダイアウルフはタイリクオオカミとはそれほど近くなく、系統樹ではセグロジャッカルやヨコスジジャッカルよりも基部で分岐したと推定されている。約570万年前にタイリクオオカミの祖先から枝分かれした系統であるという[1][2][3]。この論文では、ダイアウルフをイヌ属(Canis)でなく1918年に提案されたAenocyon属に分類することが提案された。
特徴
分布
北アメリカ大陸南部と南アメリカ大陸北部の、草原から山林に渡る広範囲に棲息していた。近年では中国北東部のハルビン市付近からも産出例が報告されており、これは(北緯42度線以北での化石の発見が存在しなかったため)従来の仮説であった寒冷気候と北米大陸の氷床がダイアウルフの移動を制限していたという説を覆す発見となった[4]。しかし、この標本が実際にダイアウルフに属するかについては疑問視する研究もある[5]。
ダイアウルフは、マンモスステップの主要な捕食者でもあった。
形態
頭胴長約125センチメートル、尾長約60センチメートル、体高約80センチメートル。現生のタイリクオオカミの大型の亜種に近いサイズだが、よりどっしりとした体つきで、平均体重は現生の北米のタイリクオオカミの平均より重かったと推定されている。A. d. dirusはA. d. guildayiより四肢が長い。雄は現生のイヌ科の種に比べて際立って大きな陰茎骨を持っていた。頭部は幅広く、側頭窓と頬骨弓の拡大によって咬筋に大きな付着部を与えていた。また、顎は頑丈であり、タイリクオオカミより大きな歯を持っていた。
生態
本種は群れを形成する捕食者であったと推測されている。また、スミロドンの食べ残しも利用していたであろう事も考えられている。しかし、頭蓋骨や歯の形態から、骨を噛み砕くことはあまりなかったと考えられる[6]。歯や骨格に性的二形があまりないため、タイリクオオカミのように一夫一妻であったと考えられる[7]。
カリフォルニア州ロサンゼルスにあるラ・ブレア・タールピットにおいてスミロドンなどの他の動物とともに多数の化石が発見されている。タールに足をとられた草食動物を集団で襲い、同様に足をとられたものと思われる。
絶滅
ダイアウルフは最終氷期後に絶滅したとされる。ダイアウルフの最も年代が新しい化石は、ミズーリ州で発見された約9,440年前のものである。絶滅の要因として大型草食獣の絶滅、気候変動、ヒトを含む他種との競合などが考えられているが、はっきりしていない。
遺伝子工学による「復活」
2025年に、アメリカ・Colossal Biosciences社が遺伝子操作されたオオカミの仔3頭(en:Romulus, Remus, and Khaleesi)を誕生させ、「ダイアウルフの復活」として報道された。
タイリクオオカミに対し14の遺伝子に変異を20箇所導入することで[8]、ダイアウルフに似た形質が付与されている。白い毛皮、大きな体、強靭な肩、広い頭、大きな歯と顎、筋肉質な脚、特徴的な発声(特に遠吠えと鼻鳴き)が特徴とされる[9]。
公開されているダイアウルフ由来の変異箇所は以下の通りである[10]。
- CORIN
- セリンプロテアーゼ。色素沈着に影響し、変異により毛色を薄くする。
- 複数遺伝子に影響するエンハンサー領域
- HMGA2(体の大きさに影響) MSRB3(耳や頭蓋骨の形状に影響)など複数の遺伝子に関与する。
- LCORL
- 体の大きさに影響する。
一方、ダイアウルフに存在する色素遺伝子(OCA2, SLC45A2, MITF)の変異は聴覚障害や失明につながるため見送られ、代わりに明るい毛色を可能にするMc1rとMFSD12の欠失によりダイアウルフ様の外見を実現している(実際のダイアウルフは赤毛であったという仮説があるが、Colossal社のCEOはこれを否定し白であったと考えている[11])。
MFSD12の第一エクソンへのミスセンス突然変異は、アフガン・ハウンドなど多くのイヌ品種で見つかっており、白色〜クリーム色の体毛をもたらすことが知られていた[12]ため選定されたと考えられる。
一方、Mc1rの機能低下バリアントはシベリアン・ハスキー、アラスカン・マラミュートや複数の古代イヌDNAから見つかっているが、タイリクオオカミからは見つかっておらず[13]、ダイアウルフに関する報告もない。
ヒトの機能喪失型MC1rバリアントであるR151Cは、赤毛と白い肌をもたらす一方で、黒色腫とパーキンソン病のリスク増加につながることが知られている[14]。
更新世オオカミ
シベリアに生息していたタイリクオオカミの系統のオオカミ。ダイアウルフとは系統が異なる。
日本列島で発見された大型のオオカミの化石(青森県と静岡県)は、この系統と考えられる[15]。
ギャラリー
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復元図(現生のタイリクオオカミとの比較)
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人とのサイズ比較
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ランチョ・ラ・ブレア・タールピッツから発見されたダイアウルフの頭蓋骨化石の展示
(米国カリフォルニア州、ジョージ・C・ペイジ博物館)
脚注
- ^ ANDREA ANDERSON (2021年1月16日). “絶滅オオカミ「ダイアウルフ」、実はオオカミと遠縁だった”. ナショナルジオグラフィック 2021年1月16日閲覧。
- ^ GrimmJan. 13, David (2021年1月13日). “The legendary dire wolf may not have been a wolf at all” (英語). Science | AAAS. 2021年1月24日閲覧。
- ^ Perri, Angela R.; Mitchell, Kieren J.; Mouton, Alice; Álvarez-Carretero, Sandra; Hulme-Beaman, Ardern; Haile, James; Jamieson, Alexandra; Meachen, Julie et al. (2021-01-13). “Dire wolves were the last of an ancient New World canid lineage” (英語). Nature: 1–5. doi:10.1038/s41586-020-03082-x. ISSN 1476-4687 .
- ^ A late Pleistocene fossil from Northeastern China is the first record of the dire wolf (Carnivora: Canis dirus) in Eurasia(DanLuab:2020)
- ^ Ruiz-Ramoni, Damián; Wang, Xiaoming; Rincón, Ascanio D. (2022-01-01). “Canids (Caninae) from the Past of Venezuela”. Ameghiniana 59: 448. doi:10.5710/AMGH.16.09.2021.3448 .
- ^ Anyonge, W.; Baker, A. (2006). "Craniofacial morphology and feeding behavior in Canis dirus, the extinct Pleistocene dire wolf". Journal of Zoology. 269 (3): 309–316.
- ^ Van Valkenburgh, Blaire; Sacco, Tyson (2002). "Sexual dimorphism, social behavior, and intrasexual competition in large Pleistocene carnivorans". Journal of Vertebrate Paleontology. 22: 164–169.
- ^ “Science” (英語). Colossal (2025年4月7日). 2025年4月8日閲覧。
- ^ Kluger, Jeffrey (2025年4月7日). “The Return of the Dire Wolf” (英語). TIME. 2025年4月7日閲覧。
- ^ “Press Release Service: Colossal Announces World’s First De-Extinction: Birth of Dire Wolves” (英語). CRISPR Medicine. 2025年4月8日閲覧。
- ^ “Spotify”. open.spotify.com. 2025年4月11日閲覧。
- ^ “[https://omia.org/OMIA002197/9615/ OMIA:002197-9615: Coat colour, phaeomelanin dilution, MFSD12-related in Canis lupus familiaris (dog) - OMIA - Online Mendelian Inheritance in Animals]”. omia.org. 2025年4月11日閲覧。
- ^ Ollivier, Morgane; Tresset, Anne; Hitte, Christophe; Petit, Coraline; Hughes, Sandrine; Gillet, Benjamin; Duffraisse, Marilyne; Pionnier-Capitan, Maud et al. (2013). “Evidence of coat color variation sheds new light on ancient canids”. PloS One 8 (10): e75110. doi:10.1371/journal.pone.0075110. ISSN 1932-6203. PMC 3788791. PMID 24098367 .
- ^ Ye, Qing; Wen, Ya; Al-Kuwari, Nasser; Chen, Xiqun (2020). “Association Between Parkinson's Disease and Melanoma: Putting the Pieces Together”. Frontiers in Aging Neuroscience 12: 60. doi:10.3389/fnagi.2020.00060. ISSN 1663-4365. PMC 7076116. PMID 32210791 .
- ^ 長谷川善和, 木村敏之, 甲能直樹, 2020年, 日本産後期更新世の巨大狼化石 (pdf), 群馬県立自然史博物館研究報告, 24, 1-13頁
関連項目
ダイアウルフ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/12/15 14:50 UTC 版)
「王の道 (ゲーム・オブ・スローンズ)」の記事における「ダイアウルフ」の解説
本エピソードにはダイアウルフの登場するシーンが非常に多い。そのため、実際の狼を使用することが考慮されたが、イギリスの法律や子役と演技することを考えて断念した。代わりに、エスキモー犬が使用された。 本エピソードでは、犬が主要キャラクターと絡む必要があり、難しいシーンがあった。ショーン・ビーンは、最後のレディを殺すシーンでは、犬が脅えてじっとすることができなかったと語っている。犬が安心するまでリハーサルを繰り返さざるを得ず、数分のシーンに3時間が費やされた。 レディ役の犬のザンニは、レディの飼い主であるサンサ・スタークを演じたソフィー・ターナーの家に引き取られた。
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固有名詞の分類
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