ベンガルヤマネコ
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ベンガルヤマネコ | |||||||||||||||||||||||||||
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ベンガルヤマネコ
Prionailurus bengalensis |
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保全状況評価[1][2][3] | |||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) |
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Prionailurus bengalensis (Kerr, 1792)[4][5] |
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シノニム | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ベンガルヤマネコ[8][9] | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Mainland leopard cat[4] Leopard cat[5][9] |
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分布図
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ベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis)は、哺乳綱食肉目ネコ科ベンガルヤマネコ属に分類される食肉類。
分布
アフガニスタン、インド、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ王国、大韓民国、中華人民共和国(香港含む)、台湾、朝鮮民主主義人民共和国、日本(対馬、西表島)、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ブータン、ベトナム、マレーシア?、ミャンマー、ラオス、ロシア東部[3]。
日本列島には亜種のツシマヤマネコとイリオモテヤマネコが分布している他にも、栃木県佐野市、埼玉県さいたま市(真福寺貝塚)、神奈川県横浜市(野島貝塚)、山口県山口市などから年代が後期更新世や縄文時代に該当する「ヤマネコ」の可能性のある化石が発見されており[10]。タイワンヤマネコ(P. b. chinensis)と識別されている標本も存在する[11]。
形態
額から肩にかけて4 - 5本の暗色の縞模様が入る。耳介の後方は黒い体毛で被われ、白い斑点が入る(虎耳状斑)[9]。
なお、本種とイエネコの交雑種にベンガルという品種が存在する。
分類
かつては亜種であるツシマヤマネコ(アムールヤマネコ)やイリオモテヤマネコを独立種とする説もあった[12]。亜種ツシマヤマネコと本種の南アジア個体群とのアイソザイムの分子系統推定では、遺伝的距離が小さいことから本種の亜種とする説が有力とされる[12]。亜種イリオモテヤマネコと本種の東南アジア個体群とのミトコンドリアDNA内の12SやリボソームRNA・チトクロムbの分子系統学的解析が一致あるいはほぼ一致することから本種の亜種とする説が有力とされた[12]。チトクロムbの塩基置換速度および多様度から、亜種イリオモテヤマネコと他亜種は200,000年前に分岐したと推定されている[12]。
以下の分類は主にMSW3 (Wozencraft, 2005) に、分布はIUCN SSC Cat Specialist Group (2017) に従う[4][5]。一方でMSW3では亜種イリオモテヤマネコを独立種としている[13]。
- Prionailurus bengalensis bengalensis (Kerr, 1792)
- インド、タイ王国、ミャンマー、インドシナ半島
- Prionailurus bengalensis alleni Sody, 1949
- 海南島
- Prionailurus bengalensis borneoensis Brongersma, 1936
- ボルネオ島
- Prionailurus bengalensis chinensis (Gray, 1837) タイワンヤマネコ[11][14]
- 中華人民共和国
- Prionailurus bengalensis euptilurus (Elliot, 1871) ツシマヤマネコ、アムールヤマネコ Amur cat[15][6]
- 大韓民国、中華人民共和国北東部、朝鮮民主主義人民共和国、日本(対馬)、ロシア南東部[16][6]。済州島では絶滅[15]。
- 体長60 - 83センチメートル、尾長25 - 44センチメートル、体重3 - 6.8キログラム。全身は長い体毛で密に被われる。毛衣は灰褐色で、不明瞭な暗褐色の斑紋が入る。額から頭頂部にかけて4本の暗色の縞模様と、2本の白い縞模様が入る。尾に暗褐色の輪状斑が入る[7]。
- Prionailurus bengalensis heaneyi Groves, 1997
- パラワン島
- Prionailurus bengalensis horsfieldi (Gray, 1842)
- ネパール、ブータン、カシミール地方
- Prionailurus bengalensis iriomotensis (Imaizumi, 1967) イリオモテヤマネコ Iriomote cat[17][18]
- 日本(西表島)[19]固有亜種
- 体長50 - 60センチメートル[19]。尾長23 - 24センチメートル[19]。体重オス3.5 - 4.5キログラム、メス2.5 - 3.5キログラム[18]。尾背面には不規則に暗褐色の斑点が入るが、尾腹面に斑紋が入らない[7]。
- Prionailurus bengalensis javanensis (Desmarest, 1816)
- ジャワ島、バリ島
- Prionailurus bengalensis rabori Groves, 1997
- セブ島、ネグロス島、パナイ島
- Prionailurus bengalensis sumatranus (Horsfield, 1821)
- スマトラ島
- Prionailurus bengalensis trevelyani Pocock, 1939
- カシミール地方、バロチスタン
スンダ列島・フィリピン個体群を独立種P. javanensisとして分割する説も提唱されている[4]。狭義の本種は大きく南北で2つの系統に分かれるという解析結果が得られている[4]。以下の分類・分布はIUCN SSC Cat Specialist Group (2017) に従う[4]。
- Prionailurus bengalensis bengalensis
- パキスタンから南アジア・中華人民共和国にかけて
- 亜種P. b. alleni、P. b. chinensis、P. b. horsfieldi、P. b. trevelyaniはシノニムとされる。
- Prionailurus bengalensis euptilurus
- 中華人民共和国北東部、台湾、日本(対馬、西表島)、ロシア南東部
- 亜種イリオモテヤマネコはシノニムとされる。
生態
哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫などを食べる[9]。例として西表島個体群はクマネズミ・クビワオオコウモリ・リュウキュウイノシシの幼獣などの哺乳類、オオクイナ・カルガモ・コノハズク・シロハラ・シロハラクイナなどの鳥類、キシノウエトカゲ、カエル、マダラコオロギ、サワガニ類などを食べる[7][17][19]。
繁殖様式は胎生。西表島個体群は12 - 3月に発情期を迎え、4 - 6月に出産・育児を行う[18]。1 - 3頭の幼獣を産む[9]。
人間との関係
1977年にネコ科単位でワシントン条約附属書IIに掲載され、1995年に基亜種のインド・タイ・バングラデシュ個体群がワシントン条約附属書に掲載されている[2]。
日本国内では1970年に東山動植物園が初めて本種の飼育下繁殖に成功した[9]。
- P. b. euptilurus ツシマヤマネコ
- 対馬での方言名としてトラゲ・トラネコがある[6]。
- 日本では主に上島北部に分布するとされていたが、南部へ分布が拡大し下島でも報告例がある[15]。一方で1990年代までは減少傾向、2000 - 2010年代は生息数は安定あるいは減少していると考えられている[15]。広葉樹林の伐採や針葉樹の植林・河川改修・交通事故により生息数が減少し、ニホンジカの増加や移入されたイノシシによる植生の変化や攪乱・ノイヌや猟犬による捕殺・イエネコからの猫免疫不全ウイルス (FIV) や猫白血病ウイルスなどの感染症による影響が懸念されている[15]。生息密度は増加傾向にある地域が多いが、一方で生息密度が非常に高かった地域では減少し平均化していると推定されている[15]。1949年に狩猟が禁止され、1971年に国指定の天然記念物に指定されている[15]。1994年に種の保存法により国内希少野生動植物種に指定されている[15]。対馬での2000年代前半の生息数は80 - 100匹、2010年代前半の生息数は70 - 100匹と推定されている[15]。
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絶滅危惧IA類 (CR)(環境省レッドリスト)[15]
- P. b. bengalensis イリオモテヤマネコ
- 方言名としてヤママヤー・ヤマピカリャーがある。
- リゾート開発や農地開発・道路改修による低地の生息地の破壊、交通事故、イヌによる捕食などにより生息数は減少している[18]。観光客増加による攪乱、ノネコ(イエネコが野生化したもの)との競合や交雑・感染症も懸念されている[18]。以前は生息数は安定していると考えられていたが、近年は減少傾向にあり特に低地で顕著(1994 - 2008年の減少率は7 - 8 %で低地では9 %)とされる[17][18]。日本では1972年に国指定の天然記念物、1977年に特別天然記念物に指定されている[17]。1994年に種の保存法により国内希少野生動植物種に指定されている[17]。1994における生息数は108 - 118匹、2008年における生息数は100 - 109匹と推定されている[17]。
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絶滅危惧IA類 (CR)(環境省レッドリスト)[17]
脚注
注釈
- ^ インド・タイ・バングラデシュの個体群はワシントン条約附属書I。
出典
- ^ 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約 (2017). Appendices I, II and III<https://cites.org/eng> valid from 4 October 2017 (Accessed 28/10/2017)
- ^ a b 国際連合環境計画 (2017年). “Prionailurus bengalensis”. Species+. 世界自然保全モニタリングセンター. 2017年10月28日閲覧。
- ^ a b Ross, J., Brodie, J., Cheyne, S., Hearn, A., Izawa, M., Loken, B., Lynam, A., McCarthy, J., Mukherjee, S., Phan, C., Rasphone, A. & Wilting, A. (2015). “Prionailurus bengalensis”. レッドリスト (国際自然保護連合) (2015). doi:10.2305/IUCN.UK.2015-4.RLTS.T18146A50661611.en.
- ^ a b c d e f IUCN SSC Cat Specialist Group (2017). Genus Felis. “A revised taxonomy of the Felidae : The final report of the Cat Classification Task Force of the IUCN Cat Specialist Groupe”. Cat News (国際自然保護連合) (Special Issue 11): 26-29 .
- ^ a b c W. Christopher Wozencraft (2005). “Order Carnivora”. In Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.). Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference (3rd ed.). ジョンズ・ホプキンズ大学出版局. pp. 532-628
- ^ a b c d 成島 1991, pp. 157–158.
- ^ a b c d 成島 1991, pp. 151.
- ^ 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志 「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
- ^ a b c d e f 成島 1991, pp. 157.
- ^ 春成秀爾「[研究ノート] 『直良信夫コレクション目録』の訂正ほか」(pdf)『国立歴史民俗博物館研究報告』第206巻、国立歴史民俗博物館、2017年3月、103-110頁、doi:10.15024/00002336、ISSN 0286-7400。
- ^ a b NariNari (2018年). “栃木県の化石リスト”. TrekGEO. 2025年7月20日閲覧。
- ^ a b c d 増田隆一「日本産食肉目の種名検討」(pdf)『哺乳類科学』第37巻第1号、1997年、87-93頁、doi:10.11238/mammalianscience.37.87。
- ^ 本川雅治、下稲葉さやか、鈴木聡「日本産哺乳類の最近の分類体系 ―阿部(2005)と Wilson and Reeder(2005)の比較―」(pdf)『哺乳類科学』第46巻第2号、2006年、181-191頁、doi:10.11238/mammalianscience.46.181。
- ^ 楊淑閔「台北の動物園、タイワンヤマネコの赤ちゃんの名前募集 生後1カ月半の雌2匹」『フォーカス台湾』荘麗玲、中央通訊社、2025年5月9日。2025年7月20日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j 石井信夫 「ツシマヤマネコ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、24-25頁。
- ^ 加藤陸奥雄、沼田眞、渡辺景隆、畑正憲監修 『日本の天然記念物』、講談社、1995年、716-720頁。
- ^ a b c d e f g 石井信夫 「イリオモテヤマネコ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、26-27頁。
- ^ a b c d e f 伊澤雅子 「イリオモテヤマネコ」『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編-』、沖縄県文化環境部自然保護課編 、2017年、97-98頁。
- ^ a b c d 小原秀雄 「イリオモテヤマネコ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、131頁。
参考文献
外部リンク
ベンガルヤマネコ
「ベンガルヤマネコ」の例文・使い方・用例・文例
- ベンガルヤマネコという動物
固有名詞の分類
ワシントン条約付属書II類 |
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