エラスモテリウムとは? わかりやすく解説

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エラスモテリウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/20 08:59 UTC 版)

エラスモテリウム
生息年代: 後期中新世–後期更新世
Є
O
S
D
C
P
T
J
K
Pg
N
Elasmotherium caucasicum の全身骨格
地質時代
新生代第四紀更新世前期から後期更新世
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
: 奇蹄目 Perissodactyla
: サイ科 Rhinocerotidae
: エラスモテリウム属 Elasmotherium
学名
Elasmotherium
J. Fischer1808
  • E. sibiricum (模式種)
  • E. inexpectatum
  • E. pei
  • E. caucasicum
エラスモテリウム属の分布図

エラスモテリウムElasmotherium)は後期中新世から後期更新世ユーラシア大陸の広域に生息したサイの属であり、とくに E. caucasicum中新世以降のサイ科全体でも最大級の種であった[1]

分類

1808年ゴットヘルフ・フィッシャー・フォン・ヴァルトハイムによって報告・記載された[2]学名は、の痕跡の丸みを帯びた形状から「皿の獣」という意味を持つ。

シベリア開発中に発見された本属の化石から、一時は本属がユニコーンの正体であり[3]、ユニコーンが実在した証拠と騒がれたこともある[2]マルコ・ポーロが日記に記した「ユニコーン」もジャワサイを指しているともされている[4]

2021年に発表された説では、ケブカサイなどを含む Rhinocerotinae とのの遺伝的な関連性は以下のようになる[5]

Elasmotheriinae

エラスモテリウムElasmotherium

エラスモテリウム亜科
Rhinocerotinae

クロサイ (Diceros bicornis)

シロサイ (Ceratotherium simum)

インドサイ (Rhinoceros unicornis)

ジャワサイ (Rhinoceros sondaicus)

スマトラサイ (Dicerorhinus sumatrensis)

ケブカサイ (Coelodonta antiquitatis)

メルクサイ英語版 (Stephanorhinus kirchbergensis)(ニッポンサイ

サイ亜科

分布

当時の東アジア中国東部)から西アジア[3]バイカル湖の近辺を含めたシベリアコーカサス東ヨーロッパに見られた広大な草原地帯「マンモス・ステップ英語版」に生息しており[1][2]ケブカサイも含めたこれらのを代表するメガファウナ英語版と共に当時の動物相(マンモス動物群)を構成した。ただしケブカサイよりは分布は限定的であり[6]、当時のヨーロッパは森林地帯に覆われていたこともあり、より草原に適応していただろうエラスモテリウムの個体数はあまり多くはなかった[3]

また、エラスモテリウムやケブカサイなどの当時のサイ科は、ベーリング地峡を通って故郷の可能性がある北アメリカ大陸[7][8]に達することはなく[6]、ケブカサイは祖先であるチベットケサイの生息地であったチベット高原に戻ることもなかった[2]

特徴

長い角を持っていたと仮定した場合の E. sibiricum の全身骨格の復元想像図。

比較的に姿がよく判っているケブカサイとは異なり[9]、エラスモテリウムの標本は数自体が少なく、それらの多くは化石が残りやすい頭骨や歯が中心的であり、体の骨が発見された事例は非常に少ない。しかし、かなりの大型種であったことは判明しており、ケブカサイよりも20-30%またはそれ以上に大きかったと考えられている[2]。身体は頑丈であり、四肢も長く草原での疾走に適していた[10]

最大の種類 E. caucasicumパラケラテリウムなどには劣るが中新世以降に存在した最大のサイであり、体長5メートル、全高2-2.5メートル、体重は3.6-5トンに達したとされる[1]。また、資料によっては推定体長が6メートルと長鼻目に匹敵する大きさを持っていたと記している場合も見られ、この大きさも理論上はあり得るとも指摘されている[2]

草食動物であり、水際に生える草や根が主な餌であった。歯はサイ科全体で比較しても非常に頑丈でケブカサイの歯よりも強固であったとされており[2]、切歯は消失し、唇で植物をむしり取っていた。臼歯の歯冠は高くなり、エナメル質の うねが複雑な模様を形成しており、硬いイネ科などの草に適応していたと思われる。歯が硬い草や砂利や土などからの摩耗に耐える極度の長冠歯英語版であったことからも植物の根を主食の一つとしてマンモス・ステップ英語版に適応していたことが示唆されている[1][2]デンプンが豊富で栄養価の高いスゲ属アシガマArundinaria の根などを好んでいたが、最も北方で確認されてきた化石が河川に臨した峡谷で発見されていることからも、エラスモテリウムはケブカサイやウマと異なって餌となる植生が季節的に不足すると高地のステップなどを経て南方や他の水系のある地域へと移動していた可能性がある[1]。また、首や背部の構造から他の多くの草食動物とは異なってより高い位置にある木の葉を食べることは難しかったと考えられている[3]

他のサイが中新世には脳を発達させて現生種に繋がる優れた特性(方向感覚、反応速度、運動能力)を体現していたのに対して、エラスモテリウムの脳は比較的に未発達であることが特徴的であった。このため、ケブカサイ以降に出現した種類はエラスモテリウムよりも知能と反応速度で上回り、エラスモテリウムよりも素早く攻撃的であったとも考えられている[11]

頭骨は長さが95-100センチメートルケブカサイ(平均74センチメートル前後)やクロサイシロサイ(平均50-60センチメートル)を凌駕する大きさであった[2]眼窩上部、前頭骨端()に台座状の直径が40センチメートル以上になる大きな隆起を持つ。この上部は表面がざらざらした粗面になっており、ここにシロサイとの比較から長さ1.5-2メートルに及ぶと推定される、体毛が固まった角があった。他のサイでは角は鼻骨(の上)にあるため、この構造が最大の相違点となる[1][2]

しかし、例外的な事例であるケブカサイとは異なり、サイ科の角は毛でできているために通常は化石が残らない。エラスモテリウムの角も実物が発見されていないために実際の形状や大きさは不明であり、近年では他のサイとは異なる太く短かい角を持っていたという説も出始めている[1]。一本角である点はジャワサイインドサイなどと同様にサイ科では少数派の部類であるが、鼻先でなく額から角が生えていたという点はジャワサイやインドサイなどとも異なるエラスモテリウムの特徴である。この原因としては、進化の過程で当初は2本あった角の鼻先に位置していたものが、大きさと重さゆえに生じる首への負担を軽減するために後退し、結果的に額にあった後部の角と融合したとも考えられている[2]

フランスルフィニャック洞窟英語版には2本角であるケブカサイを描いた洞窟壁画が多く遺されているが、1頭だけ長い1本角を持つサイが描かれており、これがエラスモテリウムであったとも考えられているが[2]、上述の通り、近年ではエラスモテリウムの角は太く短い形状をしていたという説も存在する[1]

絶滅

エラスモテリウムの厳密な絶滅の原因は不明である[2]

従来の説では約35-20万年前に絶滅を迎えたと考えられていたが、その後の調査でシベリアカザフスタンでは初期の人類と同時代まで生存していたことが判明している[4]。時期的には「第四紀の大量絶滅」に該当しており、本属も個体数や分布や繁殖速度などに優れていたわけではなく[3]気候変動による植生の変化とマンモス・ステップ英語版などの草原の減少に翻弄された[2][3][10]、または(人間が原因ではないという報道も行われたが[3])そのような状況下で拡散してきた当時の人類との接触の影響が何らかの影響を及ぼした可能性も指摘されている[12]

関連画像

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i Roman Uchytel、Alexandra Uchytel. “Elasmotherium caucasicum”. Uchytel Prehistoric Fauna Studio. 2025年7月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 北村雄一『謎の絶滅動物たち』佐藤靖、慶昌堂印刷、歩プロセス、小泉製本、大和書房、2014年5月25日、22-28頁。ISBN 978-4479392583 
  3. ^ a b c d e f g h 「シベリアのユニコーン」、初期の人類と共存 新研究」『CNN』2018年11月28日。2025年7月14日閲覧。
  4. ^ a b Emily Reynolds、Kaori Yonei、Hiroko Gohara/Galileo「人類が目撃していたかもしれない「ユニコーン」」『WIRED』2016年3月31日、2025年7月15日閲覧 
  5. ^ Liu, S.; Westbury, M.V.; Dussex, N.; Mitchell, K.J.; Sinding, M.-H.S.; Heintzman, P.D.; Duchêne, D.A.; Kapp, J.D. et al. (2021). “Ancient and modern genomes unravel the evolutionary history of the rhinoceros family”. Cell 184 (19): 4874–4885.e16. doi:10.1016/j.cell.2021.07.032. hdl:10230/48693. PMID 34433011. 
  6. ^ a b Tristan Rapp (2024年11月21日). “The Lost Rhinos of Europe”. The Extinctions. 2025年7月15日閲覧。
  7. ^ Rhinoceroses”. フロリダ自然史博物館英語版. 2025年1月24日閲覧。
  8. ^ Sara Novak (2022-11-07). “The Last Of North America’s Great Rhinos That Evolved 55 Million Years Ago”. ディスカバー. https://www.discovermagazine.com/planet-earth/the-last-of-north-americas-great-rhinos-that-evolved-55-million-years-ago 2025年1月24日閲覧。. 
  9. ^ Roman Uchytel、Alexandra Uchytel. “Woolly rhinoceros (Coelodonta antiquitatis)”. Uchytel Prehistoric Fauna Studio. 2025年7月14日閲覧。
  10. ^ a b 丸山貴史『も〜っと わけあって絶滅しました 世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑』今泉忠明(監修)、サトウマサノリ、ウエタケヨーコ、いわさきみずき 絵、ダイヤモンド社、2020年7月8日、31頁。 ISBN 978-4-478-11068-3 
  11. ^ Roman Uchytel、Alexandra Uchytel. “Elasmotherium”. Uchytel Prehistoric Fauna Studio. 2025年7月14日閲覧。
  12. ^ Kosintsev, P.; Mitchell, K. J.; Devièse, T.; van der Plicht, J.; Kuitems, M.; Petrova, E.; Tikhonov, A.; Higham, T. et al. (2019). “Evolution and extinction of the giant rhinoceros Elasmotherium sibiricum sheds light on late Quaternary megafaunal extinctions”. Nature Ecology and Evolution英語版 (Nature Portfolio英語版シュプリンガー・ネイチャー) 3 (1): 31–38. Bibcode2018NatEE...3...31K. doi:10.1038/s41559-018-0722-0. hdl:11370/78889dd1-9d08-40f1-99a4-0e93c72fccf3. PMID 30478308. https://ora.ox.ac.uk/objects/uuid:ae9eac15-c4a7-4adc-9ac2-ff3345b59489. 

参考文献

外部リンク


エラスモテリウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 08:06 UTC 版)

プレヒストリック・パーク 〜絶滅動物を救え!〜」の記事における「エラスモテリウム」の解説

毛に覆われた1本角のサイ氷河時代にてナイジェルマーサの餌のサンプル採取ついでに連れてきた。性別オス

※この「エラスモテリウム」の解説は、「プレヒストリック・パーク 〜絶滅動物を救え!〜」の解説の一部です。
「エラスモテリウム」を含む「プレヒストリック・パーク 〜絶滅動物を救え!〜」の記事については、「プレヒストリック・パーク 〜絶滅動物を救え!〜」の概要を参照ください。

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エラスモテリウム

出典:『Wiktionary』 (2021/08/21 03:17 UTC 版)

名詞

  1. 分類学》 ウマ目サイ科(wp)分類される絶滅奇蹄類タクソン分類群(wp)エラスモテリウム属」に属する総称4種知られる
  2. 一般》 エラスモテリウム属の中でも、特に、一般人最もよく知られているElasmotherium sibiricumを指す場合多い

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