ウシ
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肉牛の一生
家畜としての牛は、主に肉牛と乳牛に分けられる。(ヨーロッパに多い乳肉兼用種というのもある)[18]
- 乳牛(ホルスタインなどの乳用種)については、#乳牛の一生を参照。
肉用牛には3種の区分があり、それぞれ「肉専用種(和牛)」「乳用種(乳牛から生まれた雄)」「交雑種(F1:乳牛雌に肉専用種雄を交配した種)」と呼ばれている[19]。
繁殖農家で生まれた子牛は、1カ月齢~3カ月齢で、人為的に母子分離及び離乳が同時に行われるのが一般的である。これは子牛にとって強いストレスとなる。そのため、子牛にトゲの付いた鼻輪を装着させ、子牛が乳を吸おうとすると母牛が嫌がるようにしむけ、離乳を先に行い、のちに母子分離をするという手法がとられることもある[20]。
子牛は250-300kgになる10か月齢から12か月齢まで育成され、「素牛(もとうし)」(6か月齢〜12か月齢の牛)市場に出荷され(2-4か月齢で出荷されるスモール牛市場もある)、肥育農家に競り落とされる。競り落とされた素牛は肥育農家まで運ばれる。長距離になると輸送の疲れで10kg以上やせてしまうこともある[21]。
その後、「肥育牛」として肥育される。飼育方法は、繋ぎ飼い方式・放牧方式などがあるが、日本では数頭ずつをまとめて牛舎に入れる(追い込み式牛舎)群飼方式が一般的である。運動不足による関節炎の予防や蹄の正常な状態を保つためには放牧又は運動場への放飼が必要であるが、国内では88%が放牧あるいや放飼を行っていない[22]。そのため日本の77%の農家が削蹄を行っている。削蹄は年2回が望ましいが、年に1回もしくは1回未満の農場が78%を占める[23][24]。
肥育前期(7か月程度)は牛の内臓(特に胃)と骨格の成長に気をつけ、粗飼料を給餌される。肥育中期から後期(8-20か月程度)にかけては高カロリーの濃厚飼料を給餌され、筋肉の中に脂肪をつけられる(筋肉の中の脂肪は「さし」とよばれ、さしの多いものを霜降り肉と言う)。
肉用牛は、生後2年半から3年、体重が700kg前後で出荷され、屠殺される。
肉牛を産むための雌牛(繁殖用雌牛)は、繁殖用として優れた資質・血統をもつ雌牛が選ばれる。繁殖用雌牛は、生後14か月から16か月で初めての人工授精(1950年に家畜改良増殖法が制定され、人工授精普及の基盤が確立し、今日では日本の牛の繁殖は99%が凍結精液を用いた人工授精によってなされている)[25]が行われ、約10か月(285日前後)で分娩する。生産効率を上げるため、1年1産を目標に、分娩後約80日程度で次の人工授精が行われる。8産以上となると、生まれた子牛の市場価格が低くなり、また繁殖用雌牛の経産牛の肉としての価格も低くなる場合があるため[26]、標準的には6-8産で廃用となり、屠殺される。また、受胎率が悪かったり、生まれた子牛の発育が悪かったりすると、早目に廃用となる。
注釈
出典
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