非核三原則 非核三原則の概要

非核三原則

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/16 01:07 UTC 版)

1967年(昭和42年)12月に内閣総理大臣佐藤栄作によって表明された『核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則』[1][2]、この3項目の表現は「持ち込まさず」・「持ち込ませず」の2通りがある。1964年の中国の核武装を受けて、日本の核武装を主張していたはずの佐藤が1968年1月に国際的な核の脅威に対しては、「日米安全保障条約に基づくアメリカの核抑止力に依存する」と答弁している。背景には当時の一部自民党支持層にもアメリカ管轄下として核兵器の持ち込みが自由にされていると考えられたことで、核兵器が配置されたままでの小笠原諸島や沖縄など返還へ反対意見があったからである。沖縄返還を控えた1971年11月には、非核三原則を守るべきとする衆議院決議が採択され、歴代政権は表向きのみ三原則を堅持する立場を取ってきた[3]。ただし、実態は冷戦下の安全保障の実務においては無いものとされ、非核三原則以降も日本へのアメリカの原潜などの寄港・通過・補給が行われてきた。そのため、日本による核兵器の直接的保持・生産はされていないものの、アメリカの核の傘を利用するため、日本政府のスタンスは1971年以降どの政権も「日本独自の核武装や敵の自国国土侵略時に使用可能な戦術核の共有はしない」「非核三原則を守るのか、国民の命を守るのかという厳しい状況になった時、この判断を時の政権がして、議論自体は縛ってはいけない」という具合になっている[4][5]

核共有でアメリカから共有される核兵器は爆撃機で投下するような、自国領土[注 1]内で起爆させる射程の短い戦術用核兵器であるため、戦略核兵器保有国の核兵器のように距離の離れた他国ヘの報復には使用出来ないので、核抑止力を持たない単なる実用兵器との意見もある。理由として核共有とは、冷戦時のヨーロッパにおける旧ソ連との全面戦争を想定し、通常の実用兵器と同感覚で大量に使用する方針であり、核共有した同盟国の領土への攻撃時に、核の発射判断と責任を核保有国に委ねる仕組みとなっていたからである[6]。1968年7月1日のNPTによって、署名時点で核兵器未保有国家独自の核の保持・製造は禁止されているが、同条約は署名国が「条約に基づく核保有国」と核兵器を共有することは違反ではないため、ドイツやイタリアなどNATO加盟国を中心に締結国も「核の傘」だけでなく「核の共有」を行ってきているが[7]、1950年代後半から1960年代前半にかけて議論された、戦略核共有する多角的核戦力構想(MLF:The Multilateral Force)は頓挫している。MLFは多国間で共有する方法なので、類似制度を日米両国の間で運用しても結局日本領土・領海外への攻撃時には単独の意志で使用することは出来ない[6]。そのため、NPTの第10条1項で「自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する」と核武装の禁止の例外を許可していることから、国際法に従った日本独自の核武装論もある[8]。日本政府も2010年の民主党政権(菅直人政権、外務大臣である岡田克也の国会答弁)、2014年の自民党政権時でも、平時には非核三原則を堅持するものの、有事に国家の存立危機となった場合の日本への同盟国の核の持ち込みには反対しないと表明している[5][9]


注釈

  1. ^ 西ドイツによる東ドイツが侵略してきた際の東独管轄地域への核攻撃を含む
  2. ^ 条約では「国際航行に使用されている海峡」について定められている。
  3. ^ 通過通航権を認める海峡には例外規定がある。

出典

  1. ^ 非核三原則”. 2024年5月16日閲覧。
  2. ^ a b c d 外務省「非核三原則に関する国会決議
  3. ^ 「核を求めた日本: 被爆国の知られざる真実」p21 ,NHK スペシャル取材班 ,2012 年
  4. ^ a b 「核を求めた日本: 被爆国の知られざる真実」p23 ,NHK スペシャル取材班 ,2012 年  
  5. ^ a b 高市早苗氏、ウクライナ侵攻は「遠いところの話ではない」 非核三原則「持ち込ませず」は「党内で議論を」(スポニチアネックス)”. Yahoo!ニュース. 2022年3月6日閲覧。
  6. ^ a b 核兵器シェアリングへの誤解と幻想(JSF) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2022年2月28日閲覧。
  7. ^ 「核を求めた日本: 被爆国の知られざる真実」p46 ,NHK スペシャル取材班 ,2012 年
  8. ^ 「サルでもわかる日本核武装論」p24, 田母神俊雄 , 2009
  9. ^ 日本の「非核三原則」堅持を希望 中国外交部報道官 - 中華人民共和国駐日本国大使館”. www.mfa.gov.cn. 2022年2月28日閲覧。
  10. ^ 第19回国会本会議第29号議事録、1954年4月5日 - 参議院議事録情報
  11. ^ 野崎哲「非核三原則の形成過程について(メモ)
  12. ^ 1957年(昭和32年)2月5日衆議院本会議 11国務大臣(岸信介君)
  13. ^ 1957年(昭和32年)2月8日衆議院予算委員会 5国務大臣(岸信介君)
  14. ^ 1957年(昭和32年)5月7日参議院予算委員会 161国務大臣(岸信介君)
  15. ^ チアン & ハリデイ, p. 148
  16. ^ 回收生物返回舱”. 雷霆万钧 (2005年9月19日). 2008年7月24日閲覧。[リンク切れ]
  17. ^ a b c 春名幹男「『偽りの平和主義者』佐藤栄作」『月刊現代』2008年9月号,講談社。
  18. ^ 国会議事録検索システム
  19. ^ 1967年(昭和42年)12月11日衆議院予算委員会 議事録
  20. ^ 1968年1月30日衆議院本会議議事録
  21. ^ 1968年2月10日 朝日新聞
  22. ^ “【政治部遊軍・高橋昌之のとっておき】佐藤元首相の密約文書(上)当時はやむをえない決断 (3/4ページ)”. MSN産経ニュース (産経デジタル). (2009年12月26日). オリジナルの2009年12月29日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20091229165749/http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091226/plc0912261802012-n3.htm 
  23. ^ 長崎新聞 2010年3月10日
  24. ^ 参議院事務局 (31 March 2016). 第190回国会参議院外交防衛委員会会議録第10号 (PDF). 外交防衛委員会. 参議院. p. 14. 2017年5月15日閲覧
  25. ^ 参議院議員立木洋君提出核兵器廃絶に関する質問に対する答弁書 - 参議院
  26. ^ 衆議院事務局 (25 November 2016). 第192回国会衆議院安全保障委員会会議録第4号 (PDF). 安全保障委員会. 衆議院. p. 12. 2017年5月15日閲覧
  27. ^ a b c 中露艦艇が「津軽海峡」を通過!?…日本と対立関係にある国の軍艦が通ってもOKな理由とは” (Japanese). 神戸新聞NEXT (2021年11月13日). 2022年2月28日閲覧。
  28. ^ a b c “核通過優先で5海峡の領海制限 元外務次官証言”. 47NEWS. 共同通信 (全国新聞ネット). (2009年6月21日). https://web.archive.org/web/20090628203901/http://www.47news.jp/CN/200906/CN2009062101000321.html 2010年3月15日閲覧。 
  29. ^ “核通過見込み5海峡で領海3カイリ 「密約」で政府判断”. 中国新聞ヒロシマ平和メディアセンター. (2009年6月22日). https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=1221 
  30. ^ 【島人の目】ノーベル平和賞”. 琉球新報デジタル. 2022年2月28日閲覧。
  31. ^ “外務省が二・五原則化を模索 非核三原則堅持の内閣に重い課題 密約参考人質疑”. MSN産経ニュース (産経デジタル). (2010年3月19日). http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100319/plc1003192026024-n1.htm 2010年3月20日閲覧。 [リンク切れ]
  32. ^ ウクライナ最高議会「ウクライナ主権宣言」ウクライナ語(2007年5月21日時点のアーカイブ)・英語(2006年3月25日時点のアーカイブ
  33. ^ 在ウクライナ日本国大使館「ウクライナ概観(2010年5月更新)」(2010年5月27日時点のアーカイブ
  34. ^ グレンコ・アンドリー『プーチン幻想 「ロシアの正体」と日本の危機』PHP研究所、2019年、第3章2節






非核三原則と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「非核三原則」の関連用語

非核三原則のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



非核三原則のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの非核三原則 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS