テナルディエ一家
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テナルディエ モンフェルメイユにあった宿屋『ワーテルローの軍曹』の主だった男。コゼットを引き取り、虐待していた。コゼットがヴァルジャンに引き取られてから宿屋をたたみ、金持ちであるヴァルジャンを一家で追いかけ、パリで偽札作りや詐欺など悪逆三昧を繰り返す日々を送っていた。ジャン・ヴァルジャンを監禁したり、コゼットを誘拐したりしようとした結果、警察に逮捕された挙げ句に脱獄してしまい、死刑を宣告されてしまう。 1833年の晩夏、政治家になりすまして娘のゼルマとジルノルマン邸に行き、マリユスと談判して、アメリカでもらえる2万フランの手形と数枚の紙幣をせしめることに成功する。 その後、自由と金が待っているアメリカに渡った。 ゼルマ・テナルディエ テナルディエの次女。1815年生まれ。『レ・ミゼラブル』では《アゼルマ》と呼ばれている。赤毛でやせぎすだが、大柄で骨ばった体つきをしている。普段は笑わないが笑うと大きな歯が見えるため、寒気がするような笑みになってしまう。それらはすべて母親譲りである。姉エポニーヌや母とつるんでコゼットを《ヒバリ》と呼んで虐待していた。しかし、生活は一変。パリの街頭に立って客引きや売春を行うなど転落した人生を送るようになる。 パリを離れ、アメリカに逃げなければならなくなったとき、その苦悶を過去と一緒にコゼットにぶつける。姉はどうしてマリユスに裏切られたのか、なぜ自分たちが転落し《ヒバリ》だったコゼットが人生の勝ち組になったのか……彼女の問いはコゼットを恐怖のどん底へ突き落とす。そんなことが軽々とできるのは、彼女が父親の持っていた“ごろつき”の要素と母親の“人でなし”の要素を持ち合わせた最低な人物だからであるため。 のちにニューオーリンズでエミール=シャルル・トゥシャールと出逢い、結婚。エポニーヌ(のちのエポニーヌ=オルターンス)とコリーヌというふたりの娘に恵まれる。しかし、せっかく2万フランの大金を受け取ったにも関わらず、アメリカでの生活は悲惨なもので、破産を経験する。 ルイ・ナポレオンと肉体関係を持ち、エポニーヌ=オルターンスというご落胤を産んでいたことを知った彼女は、家族を連れてフランスに帰国していた。1848年、エポニーヌを《プリンス大統領の娘》として認知してもらい、第二帝政が始まると、皇帝ナポレオン3世から《トゥルスボワ伯爵夫人》の名をもらう。 自分自身の幸せのためなら、金のためなら、娘だろうと憎む相手の息子でも何でも利用する、本物の愛を知らない哀れな女。 コゼットへの復讐を果たそうと常々考えている。最初は「過去をばらす」とポンメルシー夫妻にたかってみせたがうまくいかず、彼女は夫妻の息子ジャン=リュックを《ポンメルシー夫妻が軽蔑する人間》に改造しようと考える。 その目論見は当たり、家族が離散するなかでパリに残ったジャン=リュックは積極的に自分を頼り、働かずに金をせしめ、その日その日を楽しく暮らす人情味のない人間に仕立て上げることに成功する。さらに、パリでもアメリカで散々な目にあった経験から、今度こそ金に困らない生活を手に入れるため、次女コリーヌをアルセーヌ・ユヴェと結婚させ、アルセーヌの父親に取り入ろうとする。 しかし、貧民としてあえぎ苦しむ日々を送っているだろうコゼットは彼女の知らぬところで女優ニコレット・ローリオの付き人として生活には不自由しない金を手に入れ、ジャン=リュックはエポニーヌ・オルターンスと離婚してしまう。 エミール=シャルル・トゥシャール ゼルマの夫。品格はあるものの気骨がない男。いわゆる“ヘタレ”。ゼルマの言いなりになっている。 エポニーヌ=オルターンス 1837年に生まれたトゥシャール夫妻の長女。ジャン=リュックの妻で、彼との間に長女ルイーズをもうける。ゼルマの薄幸の姉エポニーヌと、ルイ・ナポレオンの母オルタンス・ド・ボアルネから名前をもらった。実は、ルイ・ナポレオンがニューヨーク滞在時、当時は金持ちだった母ゼルマが取り巻きのひとりになって彼と寝たときにできた娘。ルイ・ナポレオンの子供として認知された。 黒い目が父にそっくりな、つんとすましたワガママ娘で、少女時代は母親のことを「母ちゃん」と呼んだり、髪を噛んだりする悪癖があった。成長して《皇帝の娘》として認知されても、人を小ばかにしたような性格とはねっ返りな性分は治らず、何かあると《皇帝の娘》という地位と『結婚』に逃げようとする。《皇帝の娘》という地位には権威があり、おまけに金がもれなくついてくる。結婚してしまえば母の束縛から逃げられ、人生を面白おかしく暮らせると思ったからである。しかし、現実はそうはいかなかった。 やがてジャン=リュックと豪華な結婚式を挙げるが、彼は次々と愛人を作り、大事にしてもらえなかったため、次第に不満を抱くようになる。娘のルイーズを使って積極的に彼の気を引こうとするも失敗。ルイーズを放置するようになってしまう。結局、夫婦ともども不倫に走るようになってしまい、別居生活に入る。彼女もまた、母と同じく本物の愛を知らない哀れな女で、愛についての議論を大いに好む。 ルイーズ ジャン=リュックとエポニーヌ=オルターンスの娘。ルイ・ナポレオンとゼルマの孫にあたり、ヴァランティナの異母姉にあたる。名前は母方の祖父にちなんで名づけられた。 両親の間に愛がなかったため、最終的には誰からも心からの愛情を受けることができないまま育ってしまう。子供らしい生活を送れないままだった彼女の唯一の味方は、父方の叔母ファンティーヌだけだった。 コリーヌ トゥシャール夫妻の次女。祖父テナルディエに似て怠惰で、何かを文句を言うとむくれる傾向がある。しつけがなっておらず、子供時代は爪を噛むクセがあった。成長してからは姉同様、みちがえるほど美しくなり、それが姉妹間に嫉妬と緊張の糸を生んでいた。だが、姉ほどはねっ返りでもなければ、愚かでもない。 のちにジャン=リュックの悪友で姉の愛人のひとりでもあるアルセーヌ・ユヴェと“金のために”結婚する。 アルセーヌ・ユヴェ ジャン=リュックのアンリー4世中等学校在学時の同級生で悪友。魅力がなく、人の目をうかがうようなびくびくした性根の持ち主だが、実のところ抜け目がなく、金を使って《虎の威を借る狐》を地で行く青年。ジャン=リュックを退学に追い込む原因を作った。 父親はクレモン・フェランで雑貨商を営み、砂糖大根と塩漬肉で儲けている富豪。パリのショセ・ダンタンの高級住宅街に住む伯母と称する人物のもとから学校に通学していた。 のちにゼルマの次女コリーヌと結婚する。 [ 目次へ移動する | 先頭へ移動する ]
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テナルディエ一家
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「レ・ミゼラブル 少女コゼット」の記事における「テナルディエ一家」の解説
夫妻と子供3人(長女エポニーヌ・次女アゼルマ・長男ガヴローシュ)の5人家族。 1828年、借金のためにガヴローシュを除く4人がモンフェルメイユを離れ、パリに移り住む。最初の1年はホームレス状態だった。後にゴルボー屋敷の、マリウスの隣の部屋に住む。ジャン監禁事件でエポニーヌを除く3人が逮捕された。その後、テナルディエが脱獄。エポニーヌは革命で戦死し、ガヴローシュはコゼットと共に暮らし、おかみとアゼルマは出獄後モンフェルメイユに戻る。 テナルディエ 声 - 矢部雅史 モンフェルメイユの宿屋「ワーテルロー亭」の主。 金への執着心が人一倍強い、強欲で執念深い男。真っ当な仕事をする気はなく、他人からせびり取った金で毎日酒を飲んでいる。その一方、妻子(ガヴローシュを除く)には本人なりに愛情を抱いてはいる。 かつて、ワーテルローの戦いに従軍し、国家と将軍を護ったと自称するが、実際は戦死者の懐から金をくすねており、ポンメルシーを助けたのもその延長線上に過ぎなかった。だが、ポンメルシーはそうとも知らずにテナルディエに感謝し、テナルディエはポンメルシーから盗んだ金で「ワーテルロー亭」を開いた。 金づる目的でコゼットを預かり、ファンティーヌから送られてくる養育費を懐に入れていたが、彼女の遺志を継いだジャンに無償でコゼットを引き取られてしまう。それから4年後、借金が祟って「ワーテルロー亭」は廃業、鍛冶屋に預けているガヴローシュを残し家族でパリに夜逃げした。パリでは、ジョンドレットという偽名でゴルボー屋敷に住み、偽名で書いた手紙を資産家に送っては金を得るという「仕事」という名目の犯罪を犯して生活していた。その後、パトロン=ミネットと手を組み、報復と金儲けのためにジャンを監禁。警察に捕まりながらも脱獄している。この頃になると、妻子のことも仕事の道具としか思わなくなり、脱獄する時も妻とアゼルマを置いていった上、モンフェルメイユに置き去りにしたガヴローシュと再会しても謝罪などはせず、犯罪に加担させようとした。 脱獄後は地下に身を潜めていたが、革命後はテナール男爵と名乗る。マリウスに情報を売り、彼が昔助けた将軍の息子であることを知り恩を返させようとするが拒絶され、最終的にはジャヴェールに逮捕された。 おかみ 声 - 堀越真己 テナルディエの妻。本名不詳。 黒髪でかなり太っている。夫のテナルディエ同様に金にうるさい上、ヒステリックな性格で暴力的。夫に対しては従順だが、金を増やすための賭けや借金には頭を痛めている。エポニーヌとアゼルマは女の子ということで溺愛するが、男の子であるガヴローシュのことは疎んでおり、コゼットに世話を押しつけており、彼女に対しては暴力を振るうこともあった。 パリに夜逃げしてからは自分たちに反抗的なエポニーヌに辛く当たるようになった。夫のジャン監禁に関与したため、夫とアゼルマ、パトロン=ミネットと共に逮捕される。夫の脱獄に関しては一切知らされず、結果的に見捨てられたことに愕然とし、同じ牢獄に収容されていたアゼルマに「家族一緒だったからこそ、悪行にも手を染め、辛い日々にも耐えていた」と心中を明かす。アゼルマの励ましで改心し、嫌っていたガヴローシュのことも気にかけるようになった。出獄後はアゼルマと共にモンフェルメイユに帰った。エポニーヌが他界したことを知っているようで、アゼルマには彼女の分まで幸せになってもらいたいと願っている。 エポニーヌ 声 - 笹本優子 / 大塚友稀(幼少期) テナルディエの長女。 4〜17歳。1815年生まれ。プライドが高く、自己主張が強い。母親と同様にヒステリックな面もある。ネズミが嫌い。 コゼットと出会った際には一緒に遊んだが、コゼットが使用人になってからは彼女をいじめるようになった。しかし、コゼットの芯の強さ(それでも辛かったことを本人は再会時に明かした)と理解者たちの存在から自身が惨めになっていった。それでもコゼットへのいじめは止まらず、コゼットがジャンに引き取られてモンフェルメイユを後にしても彼女への嫉妬は消えることはなかった。 家族と一緒に夜逃げしてからは憧れのパリで暮らし始めるが、理想とは正反対の荒んだ生活を送るようになる。根っからの貧乏人や犯罪者に落ちぶれることを嫌い、家族の悪行にも抵抗感を持つようになり、父の命令のせいで怪我をしたアゼルマを真っ先に手当てしたり、住んでいるゴルボー屋敷に咲いていたマリーゴールド(実はコゼットが植えたもの)を世話するなど、良心的な面も見せるようになった。家族が逮捕されてからは屋敷を離れ、独りで過ごすようになる。 1829年の晩秋、朝の水汲みで隣に住んでいたマリウスを見かけ好意を抱く。彼と面識はあるが片想いで、当のマリウスは彼女の仇敵・コゼットのことを思っていたことを知り、葛藤しながらもマリウスのためにコゼットを助けている。 コゼットと再会した際、コゼットをいじめていた本当の理由が「自分は母親から溺愛されていただけなのに対し、コゼットは母親と離れていても絆があった」ことを明かし、互いに本音を言い合った末、ガヴローシュがパリに来ていることをコゼットに教え、その場を後にした。 1832年6月5日の夜、バリケード内でマリウスを庇って銃で撃たれ、彼に想いを伝えた後、看取られながら安らかに息を引き取る。 エポニーヌの死はマリウスを通じて、コゼットとガヴローシュも知ることになり、エポニーヌが死に際にコゼットとガヴローシュとの和解を望んでいたことも聞かされ、2人はエポニーヌの死と遅すぎた和解に涙した。 アゼルマ 声 - 間宮くるみ / 鎗田千裕(幼少期) テナルディエの次女。 2〜16歳。1817年生まれ。無邪気な性格で甘えん坊。良心は人並みにあるが、自主性や自立心が欠け、「長いものには巻かれる」タイプ。母から寵愛されて育ったが、姉・エポニーヌのように母にコンプレックスは抱いていない。 当初はコゼットと打ち解け、彼女が使用人になってからも悪意を抱くことはなかったが、家族の影響で次第にコゼットをいじめるようになる。メイエが訪れた際にはコゼットのふりをした。コゼットがジャンに引き取られた後、姉とは対照的に寂しがっていたが、その後のコゼットを認知することはなかった。 姉のことは幼い頃は呼び捨てしていたが、パリに来てからは「お姉ちゃん」とも呼ぶようになる。パリに来て最初の1年の極貧生活がトラウマになっており、家族ぐるみの犯罪にも協力した。ジャンの監禁事件以降は両親と共に逮捕され、牢獄で過ごす。父親が脱獄した際は彼から解放されたことを喜び、母親を励ました。夢はモンフェルメイユに帰郷し、母・姉と3人で再び宿屋を営む事で、彼女らと一緒に平穏な日々を送りたいと願う。ガヴローシュのことも「あの子のことは嫌いじゃなかった」と発言した。出獄後は母と共にモンフェルメイユに帰郷する。 ワーテルロー亭時代は猫を飼っていたが、連れて行かなかったのか、亡くなったのか、パリでの生活には登場しなかった。 ガヴローシュ 声 - 小林由美子 テナルディエ夫妻の長男。末っ子。コゼットの最初の親友。 生意気な面もあるが、他人思いの元気で賢少年。0〜15歳(原作)。1819年生まれ。 赤ん坊の頃から家族に愛されず、厄介者扱いされていた。そんな彼にとって育ててくれたコゼットは母や姉のような存在で、一家で唯一コゼットに味方し、彼女の仕事を手伝う。コゼットの母親が彼女を迎えに来たら、一緒に行くことを約束していた。4歳(1823年)の冬に家計が立ち行かなくなると鍛冶屋に奉公に出される。その直後にコゼットがジャンに引き取られたが、ガヴローシュは鍛冶屋の夫婦から息子同然に可愛がってもらっていたため彼らに同行せず、村に残った。 コゼットと別れてから4年後、家族が夜逃げをした時は村に置き去りにされ、シュシュと一緒にパリに赴く。一方で、父親には「自分に生を与えてくれたことにだけは感謝している」と告げ、脱獄の手助けをした。長姉・エポニーヌの死と彼女の自身への思いをマリウスから伝えられた際には涙を流した。コゼットと共にモントメイユ・シュル・メールを訪れた際に自身の両親がコゼットの母・ファンティーヌに嘘の手紙で大金を送らせていたことを知る。 パリでは浮浪児となり、当たり屋などで生計を立てていた。ブレソールとユーグと出会ってからは替え歌で稼ぐようにもなる。子供たちが何の不自由もなく幸せに暮らせる社会を作るための革命に強く憧れ、マリウスらとともにシャンヴルリー通りのバリケードで政府と戦う。そこで負傷するが、コゼットに助けられ一命を取り留める。その後はブレソールとユーグと一緒にジャンの家に居候するようになり、ジャンが設立した学校では皆の手本になるほどの優等生になっていた。 シュシュ 利発な犬。名前はコゼットがつけた。フランス語で「かわいい」または「お気に入り」という意味である。 コゼットとガヴローシュが拾って内緒で育てていたが、後にテナルディエ一家にばれてしまう。常にコゼットとガヴローシュの味方となり、ガヴローシュが鍛冶屋に奉公に出てからは彼と行動を共にする。コゼットがモンフェルメイユを離れる頃には立派な成犬となっていた。 その後、コゼットと再会し、ガヴローシュ達が通う学校から彼らを見守るようになる。
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テナルディエ一家
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「コゼット (小説)」の記事における「テナルディエ一家」の解説
テナルディエ モンフェルメイユにあった宿屋『ワーテルローの軍曹』の主だった男。コゼットを引き取り、虐待していた。コゼットがヴァルジャンに引き取られてから宿屋をたたみ、金持ちであるヴァルジャンを一家で追いかけ、パリで偽札作りや詐欺など悪逆三昧を繰り返す日々を送っていた。ジャン・ヴァルジャンを監禁したり、コゼットを誘拐したりしようとした結果、警察に逮捕された挙げ句に脱獄してしまい、死刑を宣告されてしまう。 1833年の晩夏、政治家になりすまして娘のゼルマとジルノルマン邸に行き、マリユスと談判して、アメリカでもらえる2万フランの手形と数枚の紙幣をせしめることに成功する。 その後、自由と金が待っているアメリカに渡った。 ゼルマ・テナルディエ テナルディエの次女。1815年生まれ。『レ・ミゼラブル』では《アゼルマ》と呼ばれている。赤毛でやせぎすだが、大柄で骨ばった体つきをしている。普段は笑わないが笑うと大きな歯が見えるため、寒気がするような笑みになってしまう。それらはすべて母親譲りである。姉エポニーヌや母とつるんでコゼットを《ヒバリ》と呼んで虐待していた。しかし、生活は一変。パリの街頭に立って客引きや売春を行うなど転落した人生を送るようになる。 パリを離れ、アメリカに逃げなければならなくなったとき、その苦悶を過去と一緒にコゼットにぶつける。姉はどうしてマリユスに裏切られたのか、なぜ自分たちが転落し《ヒバリ》だったコゼットが人生の勝ち組になったのか……彼女の問いはコゼットを恐怖のどん底へ突き落とす。そんなことが軽々とできるのは、彼女が父親の持っていた“ごろつき”の要素と母親の“人でなし”の要素を持ち合わせた最低な人物だからであるため。 のちにニューオーリンズでエミール=シャルル・トゥシャールと出逢い、結婚。エポニーヌ(のちのエポニーヌ=オルターンス)とコリーヌというふたりの娘に恵まれる。しかし、せっかく2万フランの大金を受け取ったにも関わらず、アメリカでの生活は悲惨なもので、破産を経験する。 ルイ・ナポレオンと肉体関係を持ち、エポニーヌ=オルターンスというご落胤を産んでいたことを知った彼女は、家族を連れてフランスに帰国していた。1848年、エポニーヌを《プリンス大統領の娘》として認知してもらい、第二帝政が始まると、皇帝ナポレオン3世から《トゥルスボワ伯爵夫人》の名をもらう。 自分自身の幸せのためなら、金のためなら、娘だろうと憎む相手の息子でも何でも利用する、本物の愛を知らない哀れな女。 コゼットへの復讐を果たそうと常々考えている。最初は「過去をばらす」とポンメルシー夫妻にたかってみせたがうまくいかず、彼女は夫妻の息子ジャン=リュックを《ポンメルシー夫妻が軽蔑する人間》に改造しようと考える。 その目論見は当たり、家族が離散するなかでパリに残ったジャン=リュックは積極的に自分を頼り、働かずに金をせしめ、その日その日を楽しく暮らす人情味のない人間に仕立て上げることに成功する。さらに、パリでもアメリカで散々な目にあった経験から、今度こそ金に困らない生活を手に入れるため、次女コリーヌをアルセーヌ・ユヴェと結婚させ、アルセーヌの父親に取り入ろうとする。 しかし、貧民としてあえぎ苦しむ日々を送っているだろうコゼットは彼女の知らぬところで女優ニコレット・ローリオの付き人として生活には不自由しない金を手に入れ、ジャン=リュックはエポニーヌ・オルターンスと離婚してしまう。 エミール=シャルル・トゥシャール ゼルマの夫。品格はあるものの気骨がない男。いわゆる“ヘタレ”。ゼルマの言いなりになっている。 エポニーヌ=オルターンス 1837年に生まれたトゥシャール夫妻の長女。ジャン=リュックの妻で、彼との間に長女ルイーズをもうける。ゼルマの薄幸の姉エポニーヌと、ルイ・ナポレオンの母オルタンス・ド・ボアルネから名前をもらった。実は、ルイ・ナポレオンがニューヨーク滞在時、当時は金持ちだった母ゼルマが取り巻きのひとりになって彼と寝たときにできた娘。ルイ・ナポレオンの子供として認知された。 黒い目が父にそっくりな、つんとすましたワガママ娘で、少女時代は母親のことを「母ちゃん」と呼んだり、髪を噛んだりする悪癖があった。成長して《皇帝の娘》として認知されても、人を小ばかにしたような性格とはねっ返りな性分は治らず、何かあると《皇帝の娘》という地位と『結婚』に逃げようとする。《皇帝の娘》という地位には権威があり、おまけに金がもれなくついてくる。結婚してしまえば母の束縛から逃げられ、人生を面白おかしく暮らせると思ったからである。しかし、現実はそうはいかなかった。 やがてジャン=リュックと豪華な結婚式を挙げるが、彼は次々と愛人を作り、大事にしてもらえなかったため、次第に不満を抱くようになる。娘のルイーズを使って積極的に彼の気を引こうとするも失敗。ルイーズを放置するようになってしまう。結局、夫婦ともども不倫に走るようになってしまい、別居生活に入る。彼女もまた、母と同じく本物の愛を知らない哀れな女で、愛についての議論を大いに好む。 ルイーズ ジャン=リュックとエポニーヌ=オルターンスの娘。ルイ・ナポレオンとゼルマの孫にあたり、ヴァランティナの異母姉にあたる。名前は母方の祖父にちなんで名づけられた。 両親の間に愛がなかったため、最終的には誰からも心からの愛情を受けることができないまま育ってしまう。子供らしい生活を送れないままだった彼女の唯一の味方は、父方の叔母ファンティーヌだけだった。 コリーヌ トゥシャール夫妻の次女。祖父テナルディエに似て怠惰で、何かを文句を言うとむくれる傾向がある。しつけがなっておらず、子供時代は爪を噛むクセがあった。成長してからは姉同様、みちがえるほど美しくなり、それが姉妹間に嫉妬と緊張の糸を生んでいた。だが、姉ほどはねっ返りでもなければ、愚かでもない。 のちにジャン=リュックの悪友で姉の愛人のひとりでもあるアルセーヌ・ユヴェと“金のために”結婚する。 アルセーヌ・ユヴェ ジャン=リュックのアンリー4世中等学校在学時の同級生で悪友。魅力がなく、人の目をうかがうようなびくびくした性根の持ち主だが、実のところ抜け目がなく、金を使って《虎の威を借る狐》を地で行く青年。ジャン=リュックを退学に追い込む原因を作った。 父親はクレモン・フェランで雑貨商を営み、砂糖大根と塩漬肉で儲けている富豪。パリのショセ・ダンタンの高級住宅街に住む伯母と称する人物のもとから学校に通学していた。 のちにゼルマの次女コリーヌと結婚する。 [先頭へ戻る]
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テナルディエ一家 (Les Thénardier)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 23:16 UTC 版)
「レ・ミゼラブル」の記事における「テナルディエ一家 (Les Thénardier)」の解説
テナルディエ (Thénardier) 「テナルディエ」とは苗字であり、ファーストネームは不明。パリ郊外のモンフェルメイユで宿屋(安料理屋)を経営する根っからの小悪党。背が低く、やせぎすで病人のような男。小学校に行っており、文章は書けるものの、「サービス料」(Service) を「サーヴス料」(Servisse) と誤記するなど、言葉尻になまりが出てしまうのが欠点。 1815年6月のワーテルローの戦いでは軍曹だったと自称しているが、これは全くのでたらめで、酒保商人兼かっぱらいが本業であった。このときに戦死した軍人らの死体からかっぱらった遺品を質に入れた金で宿屋を開いた。 客室の鏡1枚にも客に宿賃をふっかけるほど、ラクに金を搾り取る方針で宿屋を経営していたが、コゼットを引き取った頃には早くも宿屋の経営に行き詰ってしまい、借金がかさみ始めていた。しかし、本気で商売に取り組もうとせず、コゼットの衣類を全部パリの質屋に入れ、幼い彼女を女中としてタダ働きさせて精神的に虐待する一方で、ファンティーヌに養育費と称して様々な理由をつけては金をせびり続けた。だが、コゼットを預かってから5年が過ぎた1823年のクリスマス・イヴに、白髪の謎の男が宿屋を訪れる。できる限り金を搾り取ろうと大金をふっかけるが、コゼットに関わることであればどんな法外な金額にも応じる謎の男ジャン・ヴァルジャンに驚き、コゼットを1500フランで引き渡す。しかし、15000フランでも応じたかもしれない金持ちらしき男に、当時抱えていた借金とほぼ同額の額面でコゼットを「売って」しまったことを、彼は後後まで後悔することになる。 その後1824年から1826年の間に宿屋が破産したため一家でパリに移住し、「ジョンドレット」(Jondrette) と名乗るようになる。ゴルボー屋敷の屋根裏部屋に住み、悪事を働く一方で、善人と思しき人物宛に手紙を書いては娘たちに届けさせるという、乞食まがいの生活をして暮らす。 1832年2月3日、手紙を読んで自宅を訪れた「ルブラン氏」ことヴァルジャンから大金をせびり取ろうと、モンパルナッス以外のパトロン=ミネットの主要メンバーとともに自宅に彼を監禁するが、ジャヴェールの手で家族や仲間とともに検挙されてしまう(ゴルボー屋敷待ち伏せ事件)。 パトロン=ミネットのメンバーとともにラ・フォルス監獄 (Prison de la Force) に収容されていたが、息子ガヴローシュらの助力で脱獄に成功する。のちに「男爵になり損ねた男・テナール (Thénard)」として、コゼットと結婚したマリユスの前に姿を現す。 最終的には作者ユーゴーですら「救われない」と言わしめた悪党となる。 脱獄を助けた息子ガヴローシュの顔を覚えていない上に(暗い中で見えなかったこともあるだろうが)、感謝の言葉ひとつかけなかった。その後は下水道に潜伏し、警察の追っ手から逃れていた。六月暴動で重傷を負ったマリユスを抱えたジャン・ヴァルジャンと交渉するときも、ヴァルジャンが持っていた金を「山分けしよう」と言いながら独り占めし、ヴァルジャンとの遭遇を自分が有利になるような口実にしようとした。 「テナール」と名乗った彼は、マリユスに嫌悪感をもって出迎えられた。妻と娘を連れて植民地の村へ向かうために2万フラン欲しいと言って、ジャン・ヴァルジャンの悪党ぶりを証明しようとする。しかし、かえってそれはヴァルジャンの偉業をたたえることになってしまい、彼の立場を悪くする結果につながる。それはマリユスを激昂させる結果となるが、アメリカでもらえる2万フランの手形と大量の紙幣をせしめることができた。その金で唯一生き延びた家族アゼルマと渡米するが、そこでも身を持ち崩し、最終的に奴隷貿易に身を投じることになる。 1815年、マリユスの父ジョルジュをワーテルローで助けたのは、兵士の遺留品をかっぱらっていた時に偶然生きていただけにすぎなかったからだった(そのとき、ジョルジュの持ち物もかっぱらっている)。なお、マリユスに教えられるまでは、命を助けた人物は将軍だと思い込んでいた。 テナルディエ夫人 (Madame Thénardier) テナルディエの妻(ファーストネームは不明)。宿屋のおかみ。ブロンドの髪(第1部での初登場時では赤毛となっていた)を持ち、赤あざでデコボコした顔に女性でありながら口ひげをはやした、口八丁手八丁の恰幅の良い大女。夫よりは12~15歳ほど年下である。窓ガラスや家具すら震え上がるほど響く声と、くるみを一打で叩き割るほどの怪力の持ち主。夫に負けず劣らずの悪党だが、息子ふたりを売るときに一抹の寂しさを覚えたこともあり、若干の良心は持っている模様。 自分の娘は可愛がるが、自分の息子や他人の子供には愛情を持てず、夫しか怖がらない偏った心の持ち主。それゆえに、里子のコゼットに無茶な肉体労働をさせたり、顔面を殴ったりするなど肉体的な虐待を加えた。ゆえにコゼットは彼女を極端なまでに恐れた。 1800年代初頭に有名だった作家ピゴー・ルブラン (Pigault-Lebrun) やデュクレー・デュミニル (François Guillaume Ducray-Duminil) の書いた、淫猥でくだらない小説をよく読み、娘たちに読んでいた小説の登場人物の名をつけ、おめかしさせて、荷馬車にぶらさがった大きい鎖でできたブランコで遊ばせていた。しかし、息子のガヴローシュが泣き続けても、彼女は「くさくさしちまう」と言って放置し続けた。 実はガヴローシュの弟をふたり産んでいるが、手持ち無沙汰であったため、1823年、パリ在住の悪女マニョンに月10フランの貸賃で息子たちを売った。 その後、夫や子供たちとともにパリに移住。娘たちには愛情を注いでいたが、夫への愛情は冷めていった。ゴルボー屋敷での一件で夫や娘たちとともにジャヴェールに逮捕され、みじめな最期を迎えることとなる。 ゴルボー屋敷待ち伏せ事件では、男たちが次々と降参する中、最後までジャヴェールに抵抗した。しかし、結局、先に逮捕されたふたりの娘の身の上を嘆きながら、夫と一緒に逮捕される。サディズムの語源となったサド侯爵も収監されたサン・ラザール監獄 (Prison Saint-Lazare) にて、予審中に獄死した。 エポニーヌ (Éponine) テナルディエの長女。フルネームはエポニーヌ・テナルディエ (Éponine Thénardier) 。エポニーヌはユリウス・サビヌスの妻の名、エポニーナ (Eponina) のフランス語形で、女神エポナに由来する。 テナルディエ一家のなかでフルネームが紹介されているふたりのうちのひとり、栗色の髪の毛の少女。1815年の終わりに生まれたので、コゼットとは同い年である。母親に溺愛されて育ち、コゼットを軽蔑した。幼い頃はきちんと教育も受け、村娘ではなく町娘と思われるほど綺麗な格好をしていたので愛らしかった。貧民としてパリに移り住んでからは、汚い格好をして、父親の悪事を手伝い何とか生きている。 1832年2月2日の夕刻、妹アゼルマと一緒に警察から「ずらかっている」最中に落とした手紙がきっかけでマリユスと知り合う。マリユスに恋心を抱くが、そのときすでに彼の目はコゼットに向けられていた。それでも彼女は、マリユスの恋の相手がかつて女中であったコゼットとは知らないまま、マリユスのために影となり、彼の恋の成就を手助けしたり、彼の知り合いの世話をしたりする。一度はプリュメ通りの家でコゼットとマリユスが会っていたときにテナルディエとパトロン=ミネットの4人の頭とブリュジョンが押し入ろうとしたところを命がけで守ったこともあった。 それらはすべてマリユスの笑顔が見たかったからなのであるが、その気持ちに気づかないマリユスは、彼女に笑顔を見せると約束していてもその約束などすっかり忘れ、笑うかわりに5フランを与えようとした。しかしそんなことがあっても決して彼への気持ちはさめなかった。その過程で、かつては口にしていた隠語も喋らなくなり、みずぼらしい身なりをしていても美しく見えるようになっていく。 ヴァルジャンに向けて「出て行け」と書かれた手紙を投げ渡した謎の人物の正体は、彼女である。彼女は作業服を盗み、男装して、プリュメ通りに現れた。マリユスに六月暴動への参加を促し、ロマルメ通りでコゼットからマリユスあての手紙を受け取ったのも、バリケードにすべりこんだマリユスを1発の銃弾から護るために身を挺したのも、すべて彼女であった。 彼女がマリユスを暴動に誘い出した背景には、「現世で結ばれないなら、同じ場所で死にたい」という、マリユスを愛する彼女のいじらしさが現れている。コゼットからの手紙をマリユスに渡したのも、彼の前では「行いの悪い貧乏人」ではなく、愛する人をあざむかない「純粋な女」であり続けたかったからであろう。 彼女の手のひらと胸を貫通した銃弾は致命傷となり、1832年6月5日の夜、最期のときに自分の思いを打ち明け、マリユスに看取られながら、本望のままこの世を去る。約束通りマリユスに自分の額に接吻してもらった。16歳という若さだった。 アゼルマ (Azelma) テナルディエの次女。褐色の髪の毛の少女。フルネームはアゼルマ・テナルディエ。母親に「ギュルナール」(Gulnare) と名づけられてそうになっていた。エポニーヌと共に母親から溺愛され、姉や母と同様にコゼットを見下した。貧しさで身を持ち崩した彼女は、姉と一緒に父親の悪事を手伝っていた。ヴァルジャンが家を訪れる前、窓ガラスに片手を突っ込まされて大怪我をしたこともある。しかし、その数時間後に発生したゴルボー屋敷待ち伏せ事件で、最初に逮捕される。 のちに逮捕されたエポニーヌと一緒にマドロンネット監獄 (Couvent des Madelonnettes) に収容され、証拠不十分として釈放された後、どう生きてきたか詳細は知られていない。しかし、姉のように真の愛を知らなかった彼女は悪の道に走っていたことだけは確かで、低俗な隠語を喋り、父にもぞんざいな口をきいていた。1833年のマルディ・グラ限定で警察の下司女(下級女役人)として働かされていた。 マルディ・グラの時、顔に黒いヴェールを身につけた下品な少女として登場。父の依頼を嫌々ながら引き受け、コゼットとマリユスの婚礼馬車の後をつけることになる。その後の詳細はテナルディエの項を参照のこと。 ガヴローシュ (Gavroche) パリの路上でたくましく生活する典型的な浮浪児。色白で、ひ弱そうだったが、陽気な性格でいつも歌を歌ったり、はしゃいだり、たえず人をからかったりしている。しかし、同時にこの上もなく暗くうつろな心を抱いている。 1820年の冬にテナルディエの長男として生まれる。エポニーヌとアゼルマの実弟だが、両親(とくに母親)に愛されず放置された。しかし彼はそのことを特には気にしていないらしい。別に誰も恨んではいなかったし、親とはいかなるものかを理解していなかった。それでもやはり親が恋しかったのか、父親の脱獄に手を貸したときには父親が自分に気がついてくれるのを期待して、しばらくそばの石に腰を下ろしていた。しかし、目もくれなかったため彼はそのまま立ち去って行った。 そんな親の愛を知らない哀れな子供ゆえ、家族とパリへ出てからはバスティーユ広場の巨大な象の建造物の腹の中が彼の住処となり、日の明るいうちは路上で過ごすようになる。3か月に1度くらいは家に帰ってくるのだが、歓迎されずにいるため、またもとの往来へと戻っていく。だが、ゴルボー屋敷待ち伏せ事件で、帰る家とそこにいるはずの家族をなくしてしまった。 冬でも麻のズボンをはき、大人物のどたどたと音のする靴を履いている。まったく大人を怖がらず、モンパルナッスをはじめとするさまざまな悪党や、ABCの友のメンバーたちと付き合っている。役者の知り合いもいて、姉のエポニーヌに芝居の切符をあげたりしている。ナヴェ (Navet) という浮浪児仲間もいる。 歌のレパートリーは幅広く、ラ・マルセイエーズ、流行のシャンソン、彼が作詞した即興替え歌、まったくのオリジナルなどをいつも歌っている。タンプル大通り (Boulevard du Temple) 界隈の大人たちからは「プティ・ガヴローシュ」(Petit Gavroche, ガヴローシュの小僧)と呼ばれ、邪険に扱われる。 ガヴローシュという名前は本当の名前ではなく、彼の父親が偽の名前を使っていたのをまねして「ガヴローシュ」と妙な名を名のっている。ユーゴーはこのことを「何らかの理由で素性を隠すため、本名を断ち切ってしまうのが惨めな家族の本能みたいなものである」と語っている。 一度床屋に施しものをねだっていた幼い7歳と5歳の兄弟に白パンをおごってやり、自分の住処であるバスチーユの象に泊まらせてやったのだが、実はその兄弟は自分の弟たちであった。結局、彼らはお互いにそのことを知らないまま別れてしまった。 1832年の六月暴動に参加する。 実はマリユスはガヴローシュを救おうとしていた。マリユスがエポニーヌから手紙を受け取った後の6月5日12時頃、自分の父を結果的に救ったテナルディエに報いるため、コゼット宛に書いた手紙をガヴローシュに持たせ、すぐにバリケードから出て翌朝コゼットに届けるよう指示、戦いの場から逃そうとする。しかし最後まで戦いたいガヴローシュは手紙をさっさと届けることにし、ロマルメ通りでたまたま出くわしたジャン・ヴァルジャンに手紙を厄介払いした後、田舎者から荷車を盗んだり、軍曹といざこざを起こしたりなど、好き勝手にやって、戻って来てしまう。 そして、1832年6月6日、「この防塞には10個ばかりの弾薬しか残らないだろう」というアンジョルラスのその言葉を聞いたガヴローシュは、カゴを手に、敵側の死体に残る弾薬を集めるために散弾が飛び交う中をバリケードから出て行った。初めはその小さい体と、霧のようにたなびいている硝煙のおかげで、敵に見つかることなく通りのかなり向こうまで進むことができたが、進みすぎてしまい、敵の格好の標的にされてしまう。しかし彼は少しもひるまず、帰ってこようとしなかった。 当時ひそかに流行していたシャンソンの替え歌のルソーやヴォルテールを愚弄する歌をうたい、敵の銃弾から華麗に身をかわしながらまるでギャマンの妖精のように弾を拾っていたが、途中で2発の銃弾を受けてしまう。1発目では何とか起き上がり、両手を高々と上げて、また歌を歌い始めたのだが、歌が終わらぬうちに、2発目を受け、絶命。まだ12歳であった。ガヴローシュの遺体と集めた弾薬は、マリユスらがバリケードへ持ち帰った。 彼が助けた実の弟たちは、浮浪児としてたくましく生きていくようになる。
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