誹謗中傷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/02 16:10 UTC 版)
概要
批判との相違点
批判意見と誹謗中傷は異なる[1][6][13]。日本政府は、誹謗中傷について、「根拠のない悪口」、「相手の人格を否定または攻撃する言い回し」と解説している[1]。批判とは、相手の行動や発言に対して、それと異なる意見を主張することを意味する[14]。誹謗中傷か批判の司法判断は、「人格攻撃の有無」で判断されることが多い[15]。「人格攻撃」と見なされるかは、言われた相手との関係性、タイミング、前後の文脈によって変化することもあるため、言葉の使い方に気をつける必要がある[16]。
言語学者の飯間浩明は、誹謗中傷を端的に言うと人格攻撃と説明している。彼は、誹謗中傷の場合は相手本人、又はその家族や所属先に対する人格否定・人格侮辱、場合によっては直接加害示唆を仄めかす内容である。飯間によると研究者たちの集まる学会の質疑応答では「この研究発表は水準が低い」と思っても質問者は発表者に「ゴミみたいな研究ですね」などと言う人格攻撃(誹謗中傷)は行わず、質問者は相手を尊重しながら相手の論理の適・不適を問う「批判」がきちんと行われている。[13]。
日経BP社元記者の加谷珪一によると、他者を批判する際に論理性に欠け、正当な批判と誹謗中傷の区別がついていない人が世の中には多い。本人は批判だと思っていいても、「曖昧」「非論理的」「具体的にどのようにすべきか内容が無い」なモノは誹謗中傷だと述べている。例として、インターネット上で相手の発言や文章を批判する際によく見かける「突っ込み所満載」などという具体性の無い表現はどこが誤りなのか詳細に指摘出来ておらず、相手が気に入らないことで印象操作したい感情が優先されており、誹謗中傷になっていると指摘している。加谷は、相手の意見への批判と自己の好嫌を意識的又は無意識的に混同し、相手の主張の中身を批判せずに、人格攻撃しだす人が多いことも明かしている[17]。
批判と混同されやすいが、批判とは「相手の行動や主張に対する評価、相手への反論」[10][8]、「相手の誤った箇所や悪い部分に対して、根拠を示し論理的に指摘、改善を求めること」[15]、またはこのように直すべきとした建設的な指摘やアドバイスすることである。つまり、「相手の誤った箇所や悪い部分に対して、根拠を示し論理的に指摘、改善を求めること」で必ずしもマイナスの意味を持っていない。根拠そのものに瑕疵がある場合、更には客観的事実を含む批判であっても脅迫又は容姿へのネガティブな指摘など批判の対象とすべきではない内容を含む場合は、相手の親告を受けて起訴された際には罪に問われる可能性がある[18][19][15]。
非難との相違点
非難は「改善点を提案することではなく、単にダメ出しをして相手を責めること」を意味する[15]。 アドバイスなど建設的な提案内容を伴なわずに、相手の落ち度や過失・欠点などを指摘して責め咎めること[注釈 1]である[19][18]。相手の親告を受けて起訴された際に非難の度が過ぎている場合には名誉毀損罪が成立し[20]、事実情報ではない場合に企業などからは信用毀損罪・業務妨害罪[21]、個人からは民事裁判の名誉毀損罪を問われる可能性がある[20]。
注釈
- ^ 非難は批判と異なり、なぜ問題なのか、どうすれば改善できるのかなどの提案的な内容を含まない。問題点と指摘されたものが実は問題とは言えず、指摘した側の単なる思い込みであるというケースもある。
出典
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