ニンニク ニンニクの概要

ニンニク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/28 12:52 UTC 版)

ニンニク
ニンニク
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ヒガンバナ科 Amaryllidaceae
亜科 : ネギ亜科 Allioideae
: ネギ属 Allium
: ニンニク A. sativum
学名
狭義: Allium sativum L. 'Nipponicum' (1973)[1]

標準: Allium sativum L. (1753)[2]

シノニム
英名
Garlic

概要

ニンニクの鱗茎

鱗茎(球根)の部分は世界各国で用いられる香辛料で、強烈な香りと風味を持つことから、肉食の習慣がある地域で普及している。古くから、疲労回復、強壮作用があることが知られており、古代エジプト古代ギリシアでは、薬として使われていたといわれる[10]

日本ではニンニクやノビル(野蒜)など鱗茎を食用とする臭いの強い(ネギ属の)植物を総称して蒜(ひる)と呼び、特にノビルと区別する場合にはオオヒル(大蒜)とも称した。漢方薬生薬名は大蒜(たいさん)。ニンニクの語源は、困難を耐え忍ぶという意味の仏教用語「忍辱」(にんにく)とされる[6]英語名のガーリック (garlic) でもよくよばれ、フランス語では ail(アオユ/アイユ)、イタリア語では aglio(アッリョ/アーリョ)という[11]。ニンニクの標準学名は、Allium sativum L. であるが、狭義のニンニクの学名は Allium sativum L. 'Nipponicum' とされる[1]

5月ごろに白い小さな花を咲かせるが、栽培時には鱗茎を太らせるために花芽は摘み取る。摘み取った茎は柔らかい物であれば野菜として利用される。一般に市場に通年流通しているにんにくは、鱗茎を収穫後、乾燥して貯蔵したものである[10]。また、初夏には「新にんにく」が出荷されている[10]。にんにくが持つ強い香りは、加熱調理することによって香ばしい香りへと変化する[10]

一般的に見かけるニンニクは分球ニンニクがほとんどで、代表種は鱗茎が6片集まって1個になった「ホワイト六片」「福地ホワイト」が知られている[10][11]。一片種と呼ばれる中国のプチニンニクなどの品種もある[11]。系統を大別すると、暖地系品種(壱岐早生、上海など)と寒地系品種(福地ホワイトなど)に分けられる[11]。なお、ジャンボニンニクあるいは無臭ニンニクと呼ばれるものはニンニクとは別種であり、リーキ(ポロネギ)の1変種である。

ニンニクは自然状態ではアリインを多量に含み、鱗茎がすりおろしなどで加工されて分解されるとアリシンに変化するが、どちらも非常に強力な成分であり、生で1日1片、加熱調理で1日3片を超えて摂取すると有害な副作用が現れる[12][13]

歴史

江戸時代の農業百科事典『成形図説』 (1804年)

原産地は中央アジアと推定されるが[4]、既に紀元前3200年頃には古代エジプトなどで栽培・利用されていた。また、紀元前1550年ごろにエジプトで書かれたという、現存する最古の医学書『エーベルス・パピルス』には薬としても記載されている。中国へは紀元前140年ごろに伝わり、日本には中国を経て8世紀ごろ(平安時代)には伝わっていたと見られる[14]

日本では、禅宗の禅寺の戒壇石に「不許葷酒入山門」(くんしゅさんもんにいるをゆるさず)と刻まれるように、強壮作用が煩悩(淫欲)を増長するとされて仏教僧侶の間ではニラネギ等とともに五辛の一つとして食が禁じられた。漢字表記の「蒜」「大蒜」は漢語に由来する一方、仏教用語の「忍辱(にんにく)」がニンニクの語源となったとされる[14]。『大和本草』巻之五 草之一 菜蔬類では、悪臭甚だしくとも効能が多いので人家に欠くべからざるものと評価された。

古代日本では上記の通り禁葷食となったほか、肉や油を摂る習慣のなかった当時は食材としては刺激が強すぎるため、薬や強壮剤として用いることが主だったとされる[15]江戸時代に入り徐々に食材として用いられるようになり、料理書『料理物語』にはたぬき汁鹿汁の添え物として、『江戸料理集』には鳥肉汁の薬味タニシの和え物として使われた記述がある[15]。近代に入り栄養面の研究が進むも、食後の口臭体臭が忌避され続けたため食材としては長らく活用されなかったが、第二次世界大戦後の食の西洋化・多様化により需要が高まった[15]


注釈

  1. ^ 最新のAPG体系での分類はヒガンバナ科であるが、古いクロンキスト体系新エングラー体系ではユリ科に分類された[2]
  2. ^ 体中からアリルメルカプタンの臭いを消し去る効果的な方法は発見されていない。

出典

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium sativum L. 'Nipponicum' ニンニク(狭義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月11日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium sativum L. ニンニク(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年11月12日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium sativum L. var. japonicum Kitam. ニンニク(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年11月12日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 168.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n 金子美登 2012, p. 214.
  6. ^ a b 木村秀次・黒澤弘光『大修館現代漢和辞典』大修館出版、1996年12月10日発行(436ページ)
  7. ^ 中国語-日本語 人肉”. www.peoplechina.com.cn. 人民中国. 2022年4月17日閲覧。
  8. ^ にんにくたっぷり!定番&変わり種「スタミナ炒め」はいかが?毎日新聞クックパッドニュース(2018年7月27日)2018年11月27日閲覧。
  9. ^ ニンニクの芽(茎にんにく):特徴と旬の時期や産地フーズリンク 旬の食材百科(2018年11月27日閲覧)。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 主婦の友社編 2011, p. 250.
  11. ^ a b c d e f g h i j k l 講談社編 2013, p. 110.
  12. ^ 日本テレビ放送網株式会社. “まさかアレの食べすぎで体調不良”. 日本テレビ. 2021年12月4日閲覧。
  13. ^ 豆知識”. www.kanazawa-market.or.jp. 2021年12月4日閲覧。
  14. ^ a b 林輝明「薬になる動植物:第38回葫(ニンニク)」『漢方医薬新聞』2009年12月10日、3面。
  15. ^ a b c 源氏物語でも“難物”だったニンニクのにおいJBPRESS(2013年3月15日)2019年12月29日閲覧
  16. ^ 東北農政局 青森県内にんにく生産ベスト5市町村(平成21年)”. 2012年3月21日閲覧。
  17. ^ にんにくについて” (PDF). 田子町. 2010年1月26日閲覧。
  18. ^ 新品種「たっこ1号」愛称決定【美六姫】(みろくひめ)田子町(2019年12月29日閲覧)
  19. ^ Azeite de oliva extra virgem | Prosperato | Brasil” (ポルトガル語). Tecnoplanta. 2021年12月4日閲覧。
  20. ^ a b c カルロス・トシキ、ブラジルで“ニンニク王”に 種苗会社で球種開発/デイリースポーツ online”. デイリースポーツ online. 2021年12月4日閲覧。
  21. ^ a b c 帰国後は経営者として成功、カルロス・トシキが懐かしむ「1986年からの5年間」 : 音楽 : エンタメ・文化 : ニュース”. 読売新聞オンライン (2021年4月3日). 2021年12月4日閲覧。
  22. ^ a b c INC, SANKEI DIGITAL (2017年3月9日). “カルロス・トシキさん、現在はブラジルでにんにくを作っていた!”. イザ!. 2021年12月4日閲覧。
  23. ^ a b c d e f g h i j k l m n 主婦の友社編 2011, p. 251.
  24. ^ 【家庭菜園のプロ監修】ニンニク栽培のコツとは?プランターで育てる方法も! | AGRI PICK”. 農業・ガーデニング・園芸・家庭菜園マガジン[AGRI PICK]. 2021年1月17日閲覧。
  25. ^ 主婦の友社編 2011, p. 254.
  26. ^ 漬物の製造法”. 全日本漬物協同組合連合会. 2022年4月8日閲覧。
  27. ^ 市丸雄平、鳥居美佳子、高山覚 ほか、第6次産業開発健康食品「黒ニンニク」が生体におよぼす影響 (1)東京家政大学生活科学研究所研究報告』36, 33-36, 2013-07
  28. ^ 「黒にんにく 仏で新境地」『日本経済新聞』朝刊2019年12月8日(NIKKEI The STYLE)14面
  29. ^ エムケー精工、「黒にんにくメーカー」自宅で熟成、臭いも軽減『日本経済新聞』朝刊2019年6月1日(長野経済面)2019年12月29日閲覧
  30. ^ 「国産のニンニクを生の状態ですりおろし、すぐに冷凍凍結させると緑色に変色するケース、変色しないで乳白色のままのケースがある。緑に変色させる物質が何なのか、どう処理すると変色を防ぐことができるのかを知りたい。」(国立国会図書館支部農林水産省図書館農林水産技術会議事務局つくば分館) - レファレンス協同データベース(2019年12月29日閲覧)
  31. ^ 『農産加工だより』第50号 平成22年9月30日 - 地方独立行政法人 青森県産業技術センターPDF
  32. ^ Yamazaki Y, Yamamoto T, Okuno T (2012). “Causes and Remedies for Green Discoloration of Processed Garlic Puree : Effects of Storage Conditions on Ingredient Bulbs”. Food science and technology research 18 (2): 187-93. doi:10.3136/fstr.18.187. NAID 10030917829. 
  33. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  34. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)
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  36. ^ 『七訂増補日本食品標準成分表文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会
  37. ^ 山下政三『鴎外森林太郎と脚気紛争』日本評論社、2008年、459-460頁
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  43. ^ 大澤俊彦「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』2009年 20巻 1号 p.11-16, doi:10.2740/jisdh.20.11
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  53. ^ 「角川日本地名大辞典」編纂委員会 編 編『角川日本地名大辞典 8 茨城県』角川書店、1983年12月8日、1253頁。 全国書誌番号:84010171
  54. ^ arukakat. “チャッティースガルが熱い! | これでインディア エクスプレス”. 2019年9月14日閲覧。


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