ちゃんこ鍋 ちゃんこ鍋の概要

ちゃんこ鍋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/18 06:38 UTC 版)

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ちゃんこ鍋
ちゃんこ鍋
種類 鍋料理
発祥地 日本
誕生時期 江戸時代 - 明治時代
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起源

明治終盤以前には力士の食事は個々に配膳されていたが、明治42年の旧両国国技館完成の頃[4]に名横綱である常陸山の人気で出羽海部屋への入門者が一気に増え、個々に配膳していてはとても間に合わなくなったので、常陸山により1つの鍋を皆で囲んで食べる形式が考え出された。それ以降、相撲界では鍋料理が定番として定着している[5]

概要

明治終盤、横綱常陸山谷右エ門以降の相撲部屋で鍋料理が広く取り入れられ、鍋料理は相撲部屋の食事の代名詞となっていった(ただし、常陸山以前にも力士が鍋料理を食べることがまったくなかったわけではない[6][7]。江戸時代までの力士の食生活については記録がないため、不明である[4])。一度に簡易かつ大量に調理できるうえに栄養のバランスが良く、材料を加熱しているために伝染病や寄生虫などの心配も少なく(ただし、佐渡ヶ嶽部屋フグ中毒事件の様に素人調理が原因となる死亡事故も発生している)、鍋を囲むことで連帯感も生まれるため、力士の食事に適している[4]。町の料理屋で食べられるちゃんこ鍋は、引退した力士が自らの育った相撲部屋伝統の鍋料理を一般向けに提供して広まっていったものである[8]。相撲部屋では1種類の鍋だけが食べられているわけではなく、ちり鍋やソップ炊きなどさまざまな種類や味付けの鍋料理が作られている。それらの相撲部屋で作られる種類の鍋を、まとめて「ちゃんこ鍋」という。一般向けに出されているものは寄せ鍋風が多く、魚も肉も一緒に入るものがあるが、相撲部屋で作られる鍋料理には本来は魚と肉を一緒に入れる鍋はない[8]天龍源一郎大相撲力士であった頃の二所ノ関部屋のちゃんこはニンニクがたっぷりであり、その匂いは強烈であったという[9]

食料事情が良くなかった昭和40年代頃までの角界においては、下位の力士たちは大抵、関取たちが食べ終えたちゃんこの残り汁と漬物だけをおかずに米の飯を掻き込んでいたという。時津風部屋出身の元関脇蔵間竜也によると、彼の新弟子時代には、関取たちの食事が終わった後には米の飯すら残らない有様で、彼が煎餅を食べて空腹を紛らわせていたところ、兄弟子から「煎餅を食べるならチャンコを食べろ」と注意されたといい、当時はいかにちゃんこが重要視されていたかがうかがえる[10]。番付社会の悲哀の象徴として、「若い衆が鍋に残っている具を箸で取ろうとしたら、汁に映った自分の目だった」という古い逸話がある。大鵬は若い頃、鍋が煮立つのを待つ間にどんぶり飯を2杯食べたというが、これは鍋が煮えるまで待っていては米すらも残らなくなるという意味である[11]。なお、現在では食糧事情の充実や「新弟子の頃は寧ろ食べて身体を作るべき」という意識の変化もあり、最下位の新弟子であっても十分なちゃんこを口にすることができる[6]

力士は食べることも仕事のうちや稽古のうちとされ、相撲部屋において食事の場であるちゃんこ場は稽古場の次に大事な場所とされる[5]。ほとんどの相撲部屋において、ちゃんこ場は稽古場の隣に存在する[5][12]。角界には「ちゃんこの味が染みる」という言葉があり、これは入門した新米力士が稽古に励み、精神的にも肉体的にも相撲界に馴染んできた様子を表している[13]。力士が力をつけてくると、「ちゃんこの味が染みてきたな」というのが褒め言葉になっている[14]。また、元横綱・初代若乃花二子山親方の口癖は「おまえら、まだちゃんこの味が染みていないな」だったといい、力士が強くなるのは稽古とちゃんこの2つだとされている[15]

相撲部屋ではちゃんこ長のもと、ちゃんこ番の力士が作る。ちゃんこ番は大人数を擁する部屋では3 - 4人の班を作っての交代制であるが、小規模の部屋では全員で作ることもある[16]。普通は各部屋とも幕下以下の力士による番が務められており、稽古に支障が出ないように日替わりで担当する[17][18]。また、相撲教習所を卒業したばかりの新米の部屋力士が担当することもある[19]。幕下以下の古株の力士が長を務め、献立の決定や買い出し、調理および給仕を取り仕切る[16]。ちゃんこ番は自分の稽古が終わると台所に入り、関取が稽古を続けている間に調理を進める[17]。ちゃんこ番として料理の腕を磨いておくと、引退や廃業した後にその腕を活かして飲食店を開業する道が開けるとされる[17]

ちゃんこを食べる順番は、最初に親方と来客、次に関取衆、最後に取的である[20]が、関取がいない部屋や、小規模な部屋などは車座になって一斉に食べることもある。

大相撲では朝食抜きの1日2食が原則である[21]。ただし、力士が個別に朝食を外食で済ませることもあり、臥牙丸は引退後の2021年7月場所13日目のABEMA大相撲中継の解説を務めた際、実況の清野茂樹アナウンサーからかつては九州で大好物のラーメンを13玉食べていたというエピソードを振られると、それが前日の18時から飲み明かした後に6時に摂った朝食であり、その後朝稽古に向かったと明かしている[22]

2018年の琴剣淳弥の記事によると、ちゃんこ鍋は弟子がきちんと食事稽古を行っているかを部屋の師匠が見渡すのに合理的な食事形態であるといい、本場所中は反省会的な意味を込めて親方が本場所の職務を終えて帰ってきてから夜の時間帯にちゃんこ鍋を食べるという[23]

外国人力士は得てしてちゃんこに馴染めない傾向があり、初の外国人力士である元関脇高見山大五郎などはケチャップをかけることでようやく問題なく食べられるようになったという。ブルガリア出身の元大関琴欧洲勝紀もなかなか米に対応できず、ヨーグルトやチーズをかけて食したと伝わっている。ちゃんこに馴染んだ外国人力士であっても相撲の常識を覆す食べ方をする者が多く、横綱昇進後の朝青龍明徳は自身の希望で部屋の食事に馬乳(正確には馬乳酒)入りちゃんこを用意させたことがあり、若い衆は同じメニューを食するのに手を焼いたという。ムスリム(イスラム教徒)である大砂嵐金崇郎に至っては、いわゆる食のタブーから、大嶽部屋所属の他の力士と別メニューのもの(豚肉やその副産物、アルコール類を含むものが一切入っていないもの)を食すこともあり、断食月であるラマダンの時期には、時間帯も日没後にずらして食している。

北の富士の著書によると、2016年時点の相撲部屋のちゃんこは学生相撲出身者が2、3年ほどちゃんこ番の仕事をかじっただけで作るので、あまりおいしくないという。同じ著書で北の富士はまた、イワシを皮や骨ごとすり潰したつみれを「舌触りが悪い」と言って今日日の相撲部屋では食べられることがないこと、インスタントラーメンや肉ばかりがちゃんこ鍋に使用されることなどを嘆いている[24]

ちゃんこ鍋は増量を行うための料理でもあるが、それ自体が肥満の原因になるのではない。力士の体重が増えるのは、あくまでも空腹で稽古した後にちゃんこ鍋をスープ代わりにたらふく食べてすぐ昼寝する生活が原因である。鍋自体には野菜やきのこ類、豆腐、肉や魚がバランスよく入り、煮込んでいるために消化が良く、身体も温まって代謝も上がる。このように、ちゃんこ鍋は料理として健康的なメニューと言える[25]

大勢で食卓を囲む形式の食事であり3つの密の内「密集」に該当する[26]ので感染症の拡大リスクが高く、新型コロナウイルス流行を受けて対策としてちゃんこ形式の食事スタイルが自粛されることとなった[27]

調理法

ちゃんこ鍋の味としては、ちり鍋風のものと寄せ鍋風のものの2系統があるとされる[1]。また、水炊き(ちり鍋)[6]、だし汁あるいはスープ炊き(鶏のソップ炊きなど)[6]、塩炊き(寄せ鍋系)、味噌炊き(牡蠣の土手鍋など)[6]の4系統に分類されることもある[28]。他にも煮ぐい(砂糖と醤油で食材を煮込む)と呼ばれるすき焼き風のちゃんこもある[6]

相撲部屋においては魚系のちゃんこ鍋では8割方がちり鍋で[29]、鶏のソップ炊きも相撲部屋でよく食べられる鍋料理である[30]

元横綱大鵬幸喜はちゃんこの基本はソップ炊きだと言い、鶏のソップ炊きは一例では鶏がらを煮込んでスープを作り、鶏のモモ肉と玉ねぎを入れ、醤油、砂糖、酒で甘めに味をつける。鶏肉と玉ねぎが煮えたら野菜類と油揚げなどを入れる[31]

相撲部屋では毎日のように鍋を食べるが、日毎に材料も代わり、味付けもさまざまなものがあるので、飽きることはないという[32]。ちゃんこ場では野菜は手でちぎって入れ、肉や魚も大まかに切り、ドバっと入れて豪快に作るのが相撲界ならではという[33][34]

人間と同じように二本脚で立つ鶏から縁起を担ぐ意味で、肉は鶏が最も多く用いられている。かつては「四つん這い」=「手をついて負け」という連想から、牛や豚などの四足動物の肉は避けられていたが、昭和40年頃からはこれらもよく使われるようになり[4]、現在ではこのように縁起を担ぐことはほとんどない[6]。ただし、2021年時点でも正月料理としては験担ぎに鶏ちゃんこを食べる文化がある[35]


注釈

  1. ^ 鍋の名称については、資料によって「サンコ鍋」[2]、「鏟鍋【チャングォ】」[4]、「チャンクオ」[6][36]、「砂(沙)鍋【シャーコオ】」[39]とまちまちである。

出典

  1. ^ a b 『料理食材大事典』主婦の友社 p.527 1996年
  2. ^ a b c d e 岡田哲著『たべもの起源事典』東京堂出版 p.347 2003年
  3. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、pp.15
  4. ^ a b c d e f g h i j 窪寺紘一(1992) 162-164頁
  5. ^ a b c 琴剣淳弥 著『琴剣の「ちゃんこ道場」』 ベースボール・マガジン社 2003年 、p.18
  6. ^ a b c d e f g h i 『大相撲ジャーナル』2017年6月号69頁
  7. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、pp.20-21
  8. ^ a b 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、pp.17-19
  9. ^ 天龍源一郎が語る“新生活” 相撲部屋へ上京したら「警視庁」へ!? 元横綱・曙をプロレスに勧誘したことも! AERAdot. 2021.3.28 07:00 (2021年3月28日閲覧)
  10. ^ 『大相撲を101倍楽しむ法』(蔵間竜也、1991年、勁文社)
  11. ^ コラム 悲しい「逆縁」と「コロナ後」 若林哲治の土俵百景(3/3ページ) 時事ドットコム 2020.5.28(2020年6月16日閲覧)
  12. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、p.33
  13. ^ 金指基(2002) 212頁
  14. ^ 琴剣淳弥 著『琴剣の「ちゃんこ道場」』 ベースボール・マガジン社 2003年 、p.137
  15. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、p.36
  16. ^ a b 琴剣淳弥 著『琴剣の「ちゃんこ道場」』 ベースボール・マガジン社 2003年 、p.20
  17. ^ a b c 澤田一矢(2001) 123-124頁
  18. ^ 金指基(2002) 211-212頁
  19. ^ 和歌森太郎『相撲今むかし』隅田川文庫、2003年、126-127頁。ISBN 4-434-03261-5
  20. ^ 『大相撲ジャーナル』2017年6月号69頁
  21. ^ 田中亮『全部わかる大相撲』(2019年11月20日発行、成美堂出版)p.102
  22. ^ 臥牙丸のラーメン大食い13玉は“朝ラー”だった「稽古の前に食べました」にファン大笑い「朝からやべえw」 ABEMA TIMES 2021.07.17 07:00 (2021年7月18日閲覧)
  23. ^ 「ちゃんこってなんですか?」ド素人の質問を元力士&漫画家の琴剣淳弥さんにぶつけてみた【相撲メシ】メシ通 2018-03-30 (リクルート、2018年4月12日閲覧)
  24. ^ 北の富士勝昭、嵐山光三郎『大放談!大相撲打ちあけ話』(新講舎、2016年)p193-194
  25. ^ ちゃんこ鍋 太りそうなイメージは大きな誤解と相撲通が力説 2015年1月20日 7時0分 NEWSポストセブン
  26. ^ 新型コロナ 3密 稽古場は密閉/ちゃんこで密集/土俵で密接 相撲部屋が対策全力 会員限定有料記事 毎日新聞2020年4月16日 東京朝刊(2020年4月24日閲覧)
  27. ^ 【大相撲】コロナ対策で「ぶつかり稽古」「ちゃんこ」禁止 東スポWeb 2020年4月14日 11時30分(2020年4月24日閲覧)
  28. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、pp.61-63
  29. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、p.61
  30. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、p.26
  31. ^ 琴剣淳弥 著『琴剣の「ちゃんこ道場」』 ベースボール・マガジン社 2003年 、p.30
  32. ^ 琴剣淳弥 著『琴剣の「ちゃんこ道場」』 ベースボール・マガジン社 2003年 、p.50
  33. ^ 山本保彦 著『ちゃんこ風土記』スポーツニッポン新聞社出版局、1976年、p.23
  34. ^ 琴剣淳弥 著『琴剣の「ちゃんこ道場」』 ベースボール・マガジン社 2003年 、p.46
  35. ^ 相撲部屋の「験担ぎ」 正月に鶏肉ちゃんこ鍋食べる理由は? NEWSポストセブン 2021.01.04 16:00 (女性セブン2021年1月7・14日号より、2021年1月5日閲覧)
  36. ^ a b 澤田一矢(2001) 123頁
  37. ^ 琴剣淳弥 著『琴剣の「ちゃんこ道場」』 ベースボール・マガジン社 2003年 、p.14
  38. ^ チャンコの意味は“父子”だった!? 力士も知らない「大相撲の謎」 - 日刊大衆(週刊大衆)2017年5月25日
  39. ^ 金指基(2002) 211頁
  40. ^ 半藤一利『大相撲こてんごてん』ベースボール・マガジン社、1991年、162頁。ISBN 4-583-02896-2
  41. ^ 金指基(2002) 191-192頁
  42. ^ a b c ベースボールマガジン社「週刊プロレス」2003年12月19日発売号 P78より。
  43. ^ ベースボールマガジン社「週刊プロレス」2003年12月19日発売号 P73、P77より。
  44. ^ ベースボールマガジン社「週刊プロレス」2004年12月22日号 P72より。






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