技術的特異点とは? わかりやすく解説

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技術的特異点

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 23:40 UTC 版)

技術的特異点(ぎじゅつてきとくいてん、英語: technological singularity〈テクノロジカル・シンギュラリティ〉)またはシンギュラリティ (singularity) とは、科学技術が急速に「進化」・変化することで人間生活も決定的に変化する「未来」を指す言葉[1][2][注 1]発明家にして思想家レイ・カーツワイル[3]によれば特異点とは、技術的「成長」が指数関数的に続く中で人工知能が「人間の知能を大幅に凌駕する」時点であり[4]、すなわち「哲学的、宗教伝統」における「神の概念」への「進化」であり[2]、これを推進することは「本質的にスピリチュアルな事業」だと言う[5]。その意味で、「意識」とは「真実」とされる[6]。特異点では「われわれが超越性(トランセンデンス)──人々がスピリチュアリティと呼ぶものの主要な意味──に遭遇する」のであり[7]、「特異点に到達すれば、われわれの生物的な身体と脳が抱える限界を超えることが可能になり、運命を超えた力を手にすることになる」ともカーツワイルは述べている[8][注 2]


注釈

  1. ^ 以下は人工知能研究開発者・中島秀之の論文からの引用[1]
    シンギュラリティというのは数学用語で,関数の値が定まらない特異点のことだ. … カーツワイルの呼ぶシンギュラリティが数学的な意味で正しいものだとすれば(そうは思えないのだが),シンギュラリティ以降は現在の我々の知的営みは残らないことになるし,その後を考えることも無駄だということだ. … 本稿ではカーツワイルの定義に従って議論を進めよう.
    特異点とはなにか。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来のことだ(レイ・カーツワイル:シンギュラリティは近い─人類が生命超越するとき(Kindle の位置,No.249-250)Kindle 版).
  2. ^
  3. ^ 例えば、アナログカオスな現象を扱う気象予測は、最新のスーパーコンピュータを投入し続けてようやく予測精度の向上が達成される分野である。
  4. ^ 2020年3月に分散型コンピューティングを行うFolding@homeプロジェクトが世界で初めてexaFLOPSの壁を突破した。
  5. ^ 以下はカーツワイルの自著の内容:「人間の知能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピューターでは10年以内に、パーソナル・コンピュータ程度のサイズの装置ではその次の10年以内に得られる。2020年代半ばまでに、人間の知能をモデル化した有効なソフトウェアが開発される。」「ハードとソフトの両方が人間の知能を完全に模倣できるようになれば、2020年代の終わりまでには、コンピューターがチューリングテストに合格できるようになり、コンピュータの知能が生物としての人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。」(『ポスト・ヒューマン誕生』p.40、2005年)。
    カーツワイルが想定する2045年の世界のシナリオは、1000ドルのコンピューターが人間の脳の100億倍の演算能力を持ち、技術的特異点への土台ができている、というものであり、コンピューター一台が人間(人類)の知能を超えた瞬間に激変が起きるとは言っていない。

出典

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  5. ^ a b カーツワイル 2007, p. 521.
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