暦 暦の概要

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/28 04:23 UTC 版)

ベリー公のいとも豪華なる時祷書(3月)

細分すると、

  • 日を記録するものを暦(こよみ、calendar
  • 暦による日付の並びを表形式等で表示した暦表・カレンダー (calendar)
  • 暦の方法論である暦法新暦旧暦)(calendar)
  • 天象の予報・天体の軌道を記述するものを天体暦(れき、ephemeris
  • 一年間の日ごとに天象に加えて行事や占い曜日などを総合して記述したものを生活暦 (almanac)
  • 航海用に一年間の天象・天体の視位置を記述した航海暦nautical almanac
  • 紀年法、すなわち西暦和暦など (calendar era)

となる。

語釈

「こよみ」の語源は、江戸時代の谷川士清の『和訓栞』では「日読み」(かよみ)であるとされ、定説となっており、一日・二日...と正しく数えることを意味する。ほかに、本居宣長の「一日一日とつぎつぎと来歴(きふ)るを数へゆく由(よし)の名」、新井白石は「古語にコといひしには、詳細の義あり、ヨミとは数をかぞふる事をいひけり」などの定義がある。

単位

暦は、地球の自転を元にした、月の公転を元にした、地球の公転を元にしたなど、いくつかの単位に細分化されている[1]

このうち古代の人々がまず最初に気づいたのは太陽の出没、すなわち1日であった。また、季節の推移と、それが一定の周期で一巡することにも気付き、年の概念が現れる。さらに周期的な月の満ち欠けに気付き、これがおよそ12回繰り返すと季節の一巡することに気づいた[2]。こうして日・月・年の単位が成立した[3]。暦月が月の満ち欠けと一致するのは太陰暦だけで、太陽暦と月の動きは全く関連付けられていないが[4]、それでも多くの言語で暦月と月の名称に関連があり、また太陽暦でも通常1ヶ月が30日前後となっているのは太陰暦の名残であると考えられている[5]

天体の運行に基づいた年月日とは異なり、は自然現象に起源を持たない。月と日の間の計測単位は各文明によってさまざまで、例えば古代中国では月を3分し10日を1単位としたという単位を用いており、これは現代日本でも使用される[6]。また、古代ローマでは7日制以前には8日を1周期とする週が使用されていたほか、4日や5日、6日、15日など、多くの周期が用いられていた[7]。週と曜日の起源は古代メソポタミア文明にさかのぼる。メソポタミア文明では7が聖数であったため、当時判明していた地球以外の7つの天体(月・火星水星木星金星土星・太陽)にそれぞれ1日を割り当て、7日で1周期となるようにした[6]。ただし、7日周期に関しては古代エジプトが発祥であるとする文献もある[8]。いずれにせよ古代オリエントにおいて1週間7日制が成立し、これが周辺文明に伝えられ、ヨーロッパではローマ帝国期に一般的に使用されるようになった[9]。このため各曜日の名称は本来天体名に由来するが、周辺文明においてはあとから取り入れられた概念であるため天体と曜日の結びつきが薄く、例えばヨーロッパ諸言語においては太陽(日曜日)と月(月曜日)は天体由来名が残ったものの、惑星由来の5曜日については独自の名称が取り入れられ、天体との関係が消滅した[8]。週は中国を経由して日本にも伝わり、10世紀末からは七曜として暦に記載されるようになったが、これは主に吉凶を判ずるためだった。その後、明治に入りグレゴリオ暦を採用すると、週は生活の上で重要な位置を占めるようになった[10]

暦法

古代の人々は生活の中で季節の存在やそれにともなう自然現象の推移に徐々に気づいていき、その体験を元にある程度の「月」を定めて農業や狩猟などの目安とするようになった。これが暦の起こりであると考えられている。その性質上、原始的な暦は1ヶ月の長さが不定であり、また後世の暦のように1年が正確に繰り返されるような性質のものでもなかった。こうした原始的な暦は自然暦と総称されている[11]。こうした自然暦には、かつてイヌイットが周辺の環境変化に基づいて作成した暦[12]や、オーストラリア・アボリジニのヨロンゴ人が風向に基づいて使用していた暦[13]など、さまざまな種類が存在する。

次いで、の満ち欠けの周期が暦として使用されるようになった。太陰暦である。太陰暦では「何日」と月のみかけの形が一致するためわかりやすく[14]、また月齢潮の干満が対応しているため漁業には適している[15]ものの、完全な太陰暦においては一年が約354日であり、太陽暦に比べ11日短くなるため、3年間で33日、つまり1か月ほどずれてしまい、実際の季節と大きく食い違ってしまう。このため太陰暦が使用されはじめたころは、1年の終わりと翌年の始まりの間に何日かの空白があったと考えられている[16]。また季節がずれていく性質上、農業での使用には適していないため、完全太陰暦の使用例は歴史上極めて少ない[17]。21世紀において完全太陰暦を使用しているのはイスラム教圏で採用されているヒジュラ暦のみである[18]。ヒジュラ暦は閏月を排除し、完全に月の満ち欠けのみによった完全太陰暦であるが、このためイスラム暦は太陽暦に比べ毎年11日程度短く、33年でほぼ1年のずれを生じる[19]

やがて、月の運行と季節のずれを調整する方法として太陽暦を補助的に使用し、閏月を挿入することで実際の季節と暦とのずれを修正する方法がとられるようになった[20]。これが太陰太陽暦である。閏月の挿入は、導入当初は社会の指導者たちが状況に応じ適宜挿入を決定したと考えられているが、やがて天文学の発達によって正確な置閏法が定められ、決められた時期に閏月が挿入されるようになった[14]。置閏法としては、19年に7度の閏月を挿入するメトン周期がギリシアで使用されており、また中国でもこの方法で閏月が挿入されていた[14]。太陰太陽暦は多くの世界で採用され、バビロニア暦[21]ユダヤ暦[22]ローマ暦[23]ヴィクラム暦[14][24]中国暦[25]など多くの暦法が存在する。

これに対し、太陽が黄道上のある点を出てその場所に戻ってくるまでの周期、いわゆる太陽年を暦として使用するのが太陽暦である[14]。太陽暦は太陰暦に比べずれが非常に小さいものの、正確な太陽年は365.2422日である[26]ため、適切な間隔で閏日をおかない限り、やがて季節とのずれが生じる。太陽暦が最初に制定されたのは古代エジプトで、ナイル川の氾濫の時期とシリウスの動きの周期が近似していることから考案されたとされる。これはシリウス暦と呼ばれ1年が365日となっていたが、閏日が制定されていなかったため長い年月のうちに季節と暦のずれが生じるようになった。このためプトレマイオス朝期に4年に1度の閏年が設けられるようになり、これがユリウス・カエサルによって共和政ローマに持ち込まれ、ユリウス暦として長く使用された[27]。またイランにおいてはイスラム教伝来後も、ヒジュラ暦が季節を示す役割を持たなかったため、農業上や行事上の要請から旧来の太陽暦が存続・発展し、イラン暦として現代でも使用されている[28][29]。このほかにも、エチオピア暦[30]、シャカ暦やコッラム暦といったインドのいくつかの暦[14]は太陽暦となっている。

ユリウス暦はかなり正確なものであり、暦と太陽年のずれは128年に1日に過ぎなかったものの、ユリウス暦施行から1000年以上経つとそのずれは無視できないほどにまで広がっていた。そこで1582年にローマ教皇グレゴリウス13世によって改暦が行われ、より正確なグレゴリオ暦が導入された。グレゴリオ暦はカトリック圏ではほぼ即座に採用され、プロテスタント圏では18世紀、ギリシア正教圏では20世紀に入ってから導入された。また1873年の日本を皮切りに非西欧諸国でも相次いでグレゴリオ暦が採用されるようになり、21世紀にはほとんどの国でグレゴリオ暦が使用されている[31]


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  2. ^ 暦の大事典, p. 1.
  3. ^ 暦を知る事典, pp. 2–3.
  4. ^ ホルフォード・ストレブンズ 2013, p. 31.
  5. ^ 暦を知る事典, p. 3.
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  9. ^ 暦を知る事典, pp. 34–35.
  10. ^ 渡邊 2012, p. 29.
  11. ^ 暦を知る事典, pp. 4–6.
  12. ^ 「世界の暦文化事典」p362-363 中牧弘允編 丸善出版 平成29年11月25日発行
  13. ^ 「世界の暦文化事典」p404-406 中牧弘允編 丸善出版 平成29年11月25日発行
  14. ^ a b c d e f 暦を知る事典, p. 13.
  15. ^ 「日本史を学ぶための古代の暦入門」p34 細井浩志 吉川弘文館 2014年7月10日第1刷発行
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  17. ^ 「日本史を学ぶための古代の暦入門」p32-34 細井浩志 吉川弘文館 2014年7月10日第1刷発行
  18. ^ 渡邊 2012, p. p63.
  19. ^ 暦を知る事典, pp. 24–26.
  20. ^ 中村士岡村定矩『宇宙観5000年史 人類は宇宙をどうみてきたか』東京大学出版会、2011年12月26日、8頁。 
  21. ^ 暦の大事典, pp. 47–48.
  22. ^ 暦の大事典, p. 69.
  23. ^ 暦を知る事典, pp. 29–31.
  24. ^ 暦の大事典, p. 191.
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  26. ^ 暦を知る事典, p. 7.
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  30. ^ 暦を知る事典, pp. 9–10.
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