エレベーター
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歴史
エレベーターは既に紀元前から存在し、古代ギリシアのアルキメデスがロープと滑車で操作するものを開発していた。ローマ時代に入ると、ローマ皇帝ネロは、宮殿内に設置した人力エレベーターを使用していたほか、コロッセオには剣闘士と戦う猛獣を闘技場のあるフロアまで運ぶ人力エレベーターが用意されていた[3]。
中世ヨーロッパでも、滑車を用いた巻上機があり、一部で利用されていた。17世紀に入ると、釣り合いおもり(カウンターウェイト)を用いたものが発明された。
今日でもこれ等に連なる舞台用の人力迫は現役で使われているが、電動が主流になっている。
19世紀初頭には、水圧を利用したエレベーターがヨーロッパに登場し、工場などで実際に使用された。また1835年に蒸気機関を動力として利用したものが現れた。動力式エレベータは最初にイングランドで導入され、1840年代にはアメリカの工場やホテルでも導入が広がった[4][出典無効]。ただし、水力や蒸気機関を用いたエレベーターは、非常に速度が低く、安全性にも問題があった。
これに解決の糸口を与えたのは、アメリカのエリシャ・オーチス (Elisha Graves Otis、1811-1861) である。彼は、1853年のニューヨーク万国博覧会にて、逆転止め歯形による落下防止装置(調速機、ガバナーマシン)を取り付けた蒸気エレベーターを発表した。エレベーターという名称もこのときオーチスによって命名された[5]。オーチスは、来場客の面前で、吊り上げたエレベーターの綱を切ってみせ、その安全性をアピールした。このエレベータはニューヨーク水晶宮に設置されていた[6]。
水力式や蒸気機関式は、冬季に水が凍結すると運行に支障が出た。1882年、最初の電動式エレベーターがニューイングランドの綿工場に設置されると[5]、その後1889年ごろより高速運転可能な装置が考案され、電気の供給安定とともにエレベーターの動力源として電動式が主流となった。
電動式エレベーターは制御機構の高度化と建物内の高速な垂直方向の流通アクセス性の向上により、超高層建築物の建設に追い風をもたらした。
1880年代以降はアメリカ合衆国のシカゴとニューヨークで高層ビルの建築競争が始まる。特に1920年代にはニューヨーク市マンハッタン地区ではクライスラー・ビルディングが高層ビルとして初めてエッフェル塔の高さを上回るほどとなり、世界一のビルの高さを競う新築超高層ビルの建設ラッシュが起き、この動きはのちに世界的に広がった。
- 1857年3月23日、オーチスの旅客用エレベータがニューヨークの488 ブロードウェイに初めて採用される。これが世界初の実用エレベーターを設置した事例となる。
- 1859年、ニューヨークのブロードウェイに建てられたホテルに、オーチスのエレベーターが採用される。それまでホテルの上方階は、荷物の上げ下ろしが大変なので、不人気で料金も安かった。しかし実用的なエレベーターの登場以降、環境のよい上方階は宿泊客の人気を呼ぶようになった。
- 1861年、オーチスは蒸気エレベーターの特許を取り、オーチス・エレベータ・カンパニー (Otis Elevator Company) を設立。
- 1870年、ニューヨークのエクイタブル生命ビルが旅客用エレベータを設置した世界初のオフィスビルとして建設される[7]。
- 1875年、日本における最初のエレベーターとされる水圧式の荷物用エレベーターが王子製紙十条工場に設置された。
- 1880年、ドイツ国(ドイツ帝国)のヴェルナー・フォン・ジーメンスが世界初の電動式エレベータを開発[8]。
- 1887年、アメリカのアレクサンダー・マイルスが自動ドアの付いたエレベータの特許を取得。
- 1889年、パリのエッフェル塔に水圧式エレベーターが設置される。
- 1889年、オーチス・エレベータ社が電動式エレベーターを開発。ニューヨークのビルに世界で初めて採用される。以降、ニューヨークの摩天楼化に拍車がかかっていく。
- 1890年11月10日、東京浅草の凌雲閣に、藤岡市助と三宅順祐が設計した日本初の乗用エレベーターが設置された。エレベーターは地階に据え付けた7.5馬力の直流電動機1基に対し、M字状にロープで連結したかご2機を同時に運転し(交走式)、1階か8階だけに止まる独自の構造をしていた。速度は15 m/min程度の一段速度制御であった。2機のエレベーターは3畳敷の大きさで、かご内には布団を敷いた腰掛けが設置されていた。減速装置は平歯車を何段か組み合わせた歯車減速機で、ベルトが何本か見えることから運転方向の切換えは正逆1組のベルトをベルトシッパーで切換える方式であったと考えられる。なおロープは麻ロープが使われていた。構造が不完全で故障が多く、警視庁から派遣された技術者に「危険なり」との理由で運転停止を言い渡されて、のちに撤去された。また、当時は「エレベートル」と表記されていた。
- 1896年、オーチス・エレベータ社のエレベータが日本銀行に取付けられた。速度が30 m/minの貨幣運搬用水圧式荷物用エレベーターで、米貿の日本国への輸入1号機となった。
- 1901年、大阪府東区の日本生命保険本店にオーチス・エレベータ社のロープコントロール式の24 m/minのエレベーターが設置された。このエレベーターは1961年まで稼働していたが、法令上の理由で撤去され、その時の機器一式が1966年に国立科学博物館に寄贈された。国立博物館では一時館内で公開展示をしていたが、その後展示品は解体され2006年時点では部品状態で国立科学博物館に保管中である。部品の保管状態は良好で、稼働可能な状態で現存する国内最古のエレベーター機器と考えられる。
- 1915年、日本初の製作が国産化された乗用エレベーターとなった東松式エレベーターと呼ばれる、押しボタン式全自動エレベーターが大阪府本町の伊藤丸紅呉服店に設置された。製作は機械技術の東松孝時が経営する東松工作所(後の旧日本エレベーター製造)によるものだった。
- 1919年、東松孝時は日本最初のエレベーター製作の法人組織日本エレベーター製造を設立した。(後述)
- 1927年、東洋オーチス・エレベータ社(現:日本オーチス・エレベータ)が本格的に開業。
- 1961年8月、210 m/min (=12.6 km/h)のエレベーター(三菱電機製)を有する京都国際ホテルが開業。当時日本最高速。
- 1968年4月12日、300 m/min (=18 km/h) のエレベーター(日立製作所製)を有する霞が関ビルディングが開業。当時日本最高速。
- 1974年3月、540 m/min (=32.4 km/h) のエレベーター(日立製作所・三菱電機製)を有する新宿住友ビルディングが開業。当時世界最高速タイ。
- 1978年4月6日、600 m/min (=36 km/h) のエレベーター(三菱電機製)を有するサンシャイン60が開業。当時世界最高速。
- 1993年3月、川崎市にある川崎ハローブリッジに日本で初めてとなる立体横断歩道橋に整備されたエレベーターが完成[9]。
- 1993年7月16日、750 m/min (=45 km/h) のエレベーター(三菱電機製)を有する横浜ランドマークタワーが開業。当時世界最高速。
- 2003年、長崎市道相生町上田町2号線に日本で初めて公道に整備されたエレベーターが完成。
- 2004年12月31日、1,010 m/min(=60.6 km/h)のエレベーター(東芝エレベータ製)を有する台北国際金融センター(通称TAIPEI101)が開業。ランドマークタワーの導入機は世界第2位となった。ただし、1,010 m/minの速度が出るのは昇りのみで、降りではランドマークタワーが最速。かご内の気圧制御などの初の実用例となっている。
- 2006年1月17日、東芝エレベータが磁石を使って姿勢を安定させるエレベーターを開発した。昇降路に取り付けられたガイドレールとかごが接触しないため振動や騒音が抑えられる。
- 2006年3月1日、日立製作所が2列の昇降路を最上部と底部でつなぎ、複数のかごを循環運転させる循環型エレベーターの実証実験に成功したと発表。
- 2016年、1,080 m/min(=64.8 km/h)エレベーター(三菱電機製)を有する上海中心が一部開業。ランドマークタワーの導入機は世界第3位となった。ただし、1,080 m/minの速度が出るのは昇りのみで、降りではランドマークタワーが最速。
- 2014年4月21日、日立製作所が従来よりモーター出力を向上し、ロープ重量の30 %軽量化による世界最速となる1,200 m/min(=72 km/h)のエレベーターの開発に成功したと発表。2016年に中国広州の高層ビルに設置。
なお、1890年11月10日に東京・浅草の展望台「凌雲閣」に日本初の電動式エレベータが設置されたことにちなみ、日本エレベータ協会は、11月10日を「エレベータの日」としている[10]。ただし、この国産エレベータは安全性に問題があるという理由で約半年後に当時の警視庁から運転が差し止められた[11]。
日本で現存最古のエレベーターは東華菜館(京都市)に1926年設置された米オーチス社製。これの見学を兼ねて来店する客もいる。蛇腹扉の開閉や昇降運転は手動式で、店員が行う。
人でなく物を運ぶ昇降機で保存されている最古のものは、偕楽園(茨城県水戸市)内にある水戸藩主別邸「好文亭」に1842年設置された。食事を入れた箱を、滑車に回したヒモを引いて1階と2階の間で上げ下げした[12]。
古い物では他に永平寺大庫院の1930年設置などが稼働している。
注釈
- ^ これはJIS独自のものではなく、国語審議会が審議して内閣が定めた内閣告示に基づいている。外来語の表記は『内閣告示第二号』(平成3年6月28日)によって定められており、その「用例集」には、「エレベーター/エレベータ」の両方が記載されている。JIS C 3408「エレベータ用ケーブル」などのJIS規格では、「エレベータ」を採用している。
- ^ 高齢者や障害者の来訪も想定される、公共性の高い施設(病院、老人ホーム、市・町・村役場、ショッピングセンターなど)であれば、2階〜5階建でもエレベーターの設置がほぼ必須となる。
- ^ これは日本での話であり、英語版Wikipediaでもdumbwaiter項はそのままである。
- ^ 火災発生時に消火活動で放水する水が直接駆動装置等にかかる恐れがあるため。
- ^ 平成27年12月28日 国土交通省告示第1274号 特殊な構造又は使用形態のエレベーター及びエスカレーターの構造方法を定める件の一部改正
- ^ a b 2016年10月3日から2018年5月31日までは日本オーチス・エレベータの子会社のオーチス・エレベータサービス(2018年6月1日に日本オーチス・エレベータに吸収合併された企業)が行っていた。
出典
- ^ “神東エレベータ株式会社 -豆知識-”. shintoh-ev.co.jp. 2024年3月28日閲覧。
- ^ JIS Z 8301 「規格票の様式及び作成方法」附属書G(規定)文章の書き方、用字、用語、記述符号及び数字 6.2 c および表G.3
- ^ “Colosseum killing machine reconstructed after more than 1,500 years” (英語). The Telegraph (2015年6月5日). 2024年3月28日閲覧。
- ^ Landau & Condit 1996, p. 35; Abramson 2001, p. 84
- ^ a b 平凡社『アメリカを知る辞典』エレベーターp.95
- ^ "Skyscrapers," Magical Hystory Tour: The Origins of the Commonplace & Curious in America (September 1, 2010).
- ^ Equitable Life Assurance Society of the United States (November 1901). “The Elevator Did It”. The Equitable News: An Agents' Journal (23): 11 2012年1月10日閲覧。.
- ^ “The History of Elevators From Top to Bottom” (英語). ThoughtCo. 2024年3月28日閲覧。
- ^ “川崎ハローブリッジ”. かわさき区の宝物シート. 川崎市川崎区. 2021年8月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月2日閲覧。
- ^ “一般社団法人 日本エレベーター協会|昇降機百科|エレベーターの歴史・変遷”. www.n-elekyo.or.jp. 2024年3月28日閲覧。
- ^ 三井宣夫・前島正裕 2007, pp. 23–32.
- ^ 【くらし物語】エレベーター 日本の技の今昔/速さだけじゃない 宇宙へも参ります『日本経済新聞』朝刊2018年3月17日(NIKKEIプラス1)。
- ^ “ロープ3本が切れてエレベータが落下、目視外観検査の限界が露呈”. 日経BP(日経クロステック) (2012年3月29日). 2020年6月27日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “国総研プロジェクト研究報告 第37号(第2章)”. 国土技術政策総合研究所. 2018年1月25日閲覧。
- ^ 建築基準法施行令第129条の6の解説設計上の留意事項
- ^ 野口みな子 (2020年1月14日). “エレベーターで「車いす用」「一般用」を両方押したら起きること”. withnews.jp. 2021年9月30日閲覧。
- ^ a b “教えて国土交通省!”. 国土交通省. 2021年10月9日閲覧。
- ^ “The History of Lifts”. Axess2 (2014年2月3日). 2014年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月21日閲覧。
- ^ “エレベーター計画・セキュリティ 横浜三井ビルディング”. 三井不動産. 2021年12月11日閲覧。
- ^ “2005-352660号 セキュリティ評価装置及び方法”. j-platpat. 2021年12月11日閲覧。
- ^ “エレベーター内にて暴れなどの異常事態が発生した場合、防犯カメラの画像をリアルタイムで解析・検知するサービス「モーションサーチ」を開始” (PDF). 三菱電機ビルテクノサービス (2006年3月9日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “世界一速いエレベーターは?ランキングTOP3”. アイニチ株式会社 (2015年12月1日). 2022年10月28日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL. “日立エレベーターギネスに 時速75キロ、中国の高層ビル”. 産経フォト. 2022年12月13日閲覧。
- ^ “下り「世界最速」のエレベーターと言えばココ…時速45キロでビューン”. 読売新聞オンライン (2022年4月9日). 2022年10月28日閲覧。
- ^ “一般社団法人 日本エレベーター協会|よくあるお問い合わせ”. www.n-elekyo.or.jp. 日本エレベーター協会. 2022年10月28日閲覧。
- ^ “エレベーターの定員は、1人あたり何kgで計算されている?”. アイニチ株式会社 (2015年5月8日). 2022年10月28日閲覧。
- ^ 日立評論1970年EX号:260人乗り日立超大型油圧式乗用エレベータ
- ^ さいたま市防犯ガイドブック9頁
- ^ エレベーター部品供給停止のお知らせ 三菱電機ウェブサイト
- ^ 部品供給停止のお知らせ 日立製作所ウェブサイト
- ^ 電力変換器 (Inverter current INVT)東芝エレベータウェブサイト
- ^ マシンルームレスタイプの非常用エレベーターの販売について東芝エレベータウェブサイト ニュースリリース
- ^ 日立機械室レス非常用エレベーターカタログp.2。
- ^ “総合エレベーターメーカーのクマリフト株式会社”. クマリフト株式会社 総合エレベーターメーカー. 2023年2月14日閲覧。
- ^ “フィンランド・コネ社との昇降機事業における資本提携について”. 東芝エレベータ株式会社. 2023年2月15日閲覧。
- ^ “フジテック|エレベータ・エスカレータの新規設置、メンテナンス、リニューアル”. www.fujitec.co.jp. 2023年4月26日閲覧。
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- ^ 「エレベーターの保守管理等に関する実態調査」の結果について 国土交通省2009年7月7日報道発表資料
- ^ “メンテナンスに関するご質問”. 2019年7月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月8日閲覧。
- ^ エレベーター所有者の管理義務三菱日立ホームエレベーター公式サイト
- ^ ホームエレベーター/小型エレベーター 総合カタログ(新商品1418フォレスト掲載版)
- ^ “エス・イー・シーエレベーターと昇降機の保守事業で業務提携”. 東芝エレベータ株式会社. 2023年2月15日閲覧。
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