リベラル
リベラルとは、リベラルの意味
リベラルとは、自由主義に基づいて多様性を重んじる世の中を支持する思想全般を意味する言葉である。わかりやすくいうと、自由主義者ということである。語源は英語の liberal である。なお、リベラルな思想の持ち主をリベラリストと呼ぶ。現代において、リベラルはしばしば政治的な左派と混同して語られている。そのため、保守派の論客からリベラルは仮想的にされることも多い。しかし、リベラルの本当の意味では、左翼思想と直接的な関係がない。あくまでも、個人の活動や信条に、国家が介入することを防ごうとする考え方がリベラルの定義である。リベラリストは伝統主義者と対極をなす思想の持主だといえる。もしも伝統的な価値観、古くからの体制に欠点があった場合、リベラリストは変革を厭わない。むしろ、彼らは停滞したシステムを引きずるよりも、抜本的な部分から再構築したほうが人々の幸福につながると考える。そのため、保守層とリベラル層は対立しやすい傾向にある。また、多様性を支持するリベラル層は、異なる価値観や民族にも寛容な姿勢を示す。基本的にリベラリストは反戦主義であり、日本国憲法の第九条にも肯定的である。結果的に、護憲派と呼ばれる人々の中にはリベラル層が多い。
1930年代以降、リベラリストによって、個人の経済活動の自由を無条件で認めるよう働きかける運動が起こった。これを「ネオリベラリズム(新自由主義)」と呼び、アメリカや日本で広く受け入れられている。ネオリベラリズムは、一般的なリベラリズムと別物である。
日本におけるリベラル派の政党
日本のような政党政治は、「リベラル派」「保守派」の対立構造で語られることも多い。2020年時点では、立憲民主党、日本共産党、社会民主党などが主なリベラル派政党として挙げられている。いずれも増税や外交などへの見解で食い違う部分は多い。ただ、護憲派の立場を貫いたり、社会保障の充実に向けて活動していたりする点は共通している。日本の政党政治でリベラルが果たす役割のひとつは、保守政権の監視である。日本では2012年以来、保守政党である自由民主党(自民党)政権が続いてきた。そうでなくても、政党政治が始まって以来、保守政党の議席数が多くなる傾向は顕著だった。しかし、保守政党だけが主導する国会では、偏った価値観に基づく政策ばかりが施行される危険性を否定できない。そこで、リベラル派は保守政党が暴走しないよう、逆の視点からの意見を国会で提言し続けている。
また、新自由主義への抑止力としてもリベラル派に意義はある。戦後の新自由主義では、国が企業や個人事業主に介入せず、柔軟性の高い経済活動が守られてきた。しかし、新自由主義は成功を収められなかった人間への自己責任論を助長しかねない。失業者や障害者、後期高齢者への保障を削減し、一部の富裕層にのみ有利な社会制度を生み出す可能性を持つ。リベラル派は、新自由主義で振り落とされた人々へのセーフティネットとなる政策を提言する。すなわち、リベラル派は寛容な世の中を維持するために国会での存在意義がある。
リベラルと保守との違い
保守とリベラルは多くの面で違いを表明している。まず、憲法改正について、保守派の多くは肯定的である。近隣諸国から攻め込まれる可能性、海外派遣された自衛隊員の自己防衛などを考慮し、保守派は日本が正式に攻撃力のある軍隊を持つよう望んできた。実際、保守政権のもとでは、憲法改正がたびたび大きな公約として掲げられている。一方、リベラルな考えに基づく人々は、憲法改正について反対の立場を示す。リベラル層は戦後日本で実施されてきた平和教育に、おおむね共感してきた。そのため、戦争放棄の核となる憲法九条の現状維持を望んでいる。日本で保守とリベラルの、戦争観の違いが顕著に表れている事例が靖国参拝である。保守派は、太平洋戦争の戦死者を英霊としてまつっている靖国神社参拝を積極的に行ってきた。しかし、リベラル派は戦争を肯定することにつながるとして、靖国参拝に否定的な態度をとり続けている。
次に、伝統的な慣習に対して、保守派は厳守の立場をとることが多い。夫婦別姓や同性婚について反対する保守層も目立つ。保守層は国体維持を大きな目標としているので、伝統を壊すような考え方には嫌悪感を抱きやすい。逆に、リベラル派は自由主義に基づき、伝統に柔軟な考えを持っている。夫婦別姓、同性婚に対しても、リベラル派は当人たちの幸福を優先的に考える。そのうえで、伝統が邪魔になっていると判断した場合、リベラル派は変革も厭わない。社会制度の撤廃、修正を求めるリベラル派は多い。そのほか、保守が国家の経済介入を最小限に留めるよう主張しているのに対し、リベラルはむしろ、積極的な介入を求める。
リベラルの語の対義語
しばしばリベラルの対義語は「保守」といわれてきた。しかし、実際には「パターナル(権威主義)」のほうが、より逆の意味に近い。パターナルは英語の「paternal」を語源としている。パターナルでは、権威が絶対的な力とみなされてきた。主従関係が肯定され、目上の者が目下の者に介入し、支配することが肯定される。また、パターナルにおける権威は往々にして世襲制であり、本人の能力に関係なく受け継がれているケースも多い。個人の自由を認めるリベラルとパターナルは大きくかけ離れた概念である。パターナルは、実力主義を内包しているネオリベラリズムとも使い分けるべきだといえる。レイシズムもリベラルの対義語のひとつである。レイシズムは英語で「racism」と表記し、人種差別主義を意味する。レイシズムは肌の色や国籍によって人間を差別することを肯定し、社会保障においても優劣をつけようとする。代表例は欧米で蔓延していた奴隷制度であり、現代でも当時の名残によって白人優位社会が形成されてしまった。リベラリズムはレイシズムに反対しており、人種平等の社会を実現させようと働きかけている。
そして、結束主義を意味するファシズム(fascism)もリベラルと反対の意味である。ファシズムでは、国民が国家のために奉仕するよう誘導される。そして、個人主義はファシズムの下で認められない。個人が自由に行動していいとする、リベラル思想とは大きな違いがある。ファシズムの類義語としてトータリタリアニズムやミリタリズムが挙げられる。
liberal
「liberal」とは、自由主義の・進歩的なということを意味する英語表現である。
「liberal」とは・「liberal」の意味
「liberal」は、形容詞として主に人の政治思想が自由主義の、進歩的なという意味がある。人の性格が寛大な、気前が良い、けちけちしないことを指す場合もある。ある物体や液体などの量がたっぷりの、豊富なという意味もある。また、名詞としては自由主義者、リベラリストを意味する。その他、カナダの自由党員という意味で使われることもある。「liberally」は、自由に、寛大にという意味の副詞である。「liberal」の発音・読み方
「liberal」の発音記号は「líb(ə)rəl」であり、カタカナ読みは「リベラル」となることが多い。「liberal」の語源・由来
「liberal」の語源は、ラテン語で自由な、解放されたという意味の「liber」である。その後に同じくラテン語の「liberalis」、古期フランス語の「liberal」となり、英単語の「liberal」の形となった。「liberal」の覚え方
「liberal」の覚え方として、「自由主義の男がリブロースを注文する」と語呂合わせで暗記すると良い。「liberal」と「liberty」の違い
「liberal」は、形容詞で自由主義の、気前が良い、度量が大きいという意味である。一方、「liberty」は自由、解放、権利を意味する名詞である。「liberal」の対義語
「liberal」の対義語には、いずれも形容詞の「authoritative」「conservative」がある。「authoritative」は、権威のある、権威主義の、厳然たるという意味である。また、「conservative」は保守的な、保守主義の、地味なという意味である。「conservative」を名詞として使う場合は保守主義者、イギリスの保守党員を指すこともある。「liberal」を含む英熟語・英語表現
「liberal arts」とは
「liberal arts」とは、リベラルアーツあるいは自由学芸の名称で広まっており、実用性や専門性、職業性などが低い学問を一括りにした概念である。「liberal arts」の本来の意味は、生きるために必要な力を身につける方法のことである。
「politically liberal」とは
「politically liberal」とは、政策面で自由主義のという意味である。自由主義思想を持っている人のことを指す場合もある。
「liberal attitude」とは
「liberal attitude」とは、寛大な態度、気前の良い対応という意味である。
「liberal democracy」とは
「liberal democracy」とは、自由民主主義という意味である。
「liberal father」とは
「liberal father」とは、寛大な父親、温厚な父親という意味である。
「liberal idea」とは
「liberal idea」とは、自由主義的な考えという意味である。
「liberal of money」とは
「liberal of money」とは、金銭を出し惜しみしない、太っ腹という意味である。
「liberal position on」とは
「liberal position on」とは、~に関する自由な意見という意味である。
「liberal reward」とは
「liberal reward」とは、十二分の報酬、不足の無い給料という意味である。
「liberal spending」とは
「liberal spending」とは、気前よく消費をするという意味である。
「liberal with」とは
「liberal with」とは、~に対して寛大であるという意味である。
「liberal」の使い方・例文
「liberal」の使い方「liberal」は、自由主義の思想に関することだけではなく、名詞の前に置かれ、出費をする際の気前の良さや寛大な性格、物が十分にある様子を表わすこともできる。
「liberal」の例文
On the main street in front of the station, on the first Sunday of every month, people with liberal ideas gather from all over the country and hold large-scale demonstrations.
駅前の大通りでは毎月第一日曜日になると自由主義思想を持つ人が各地から集まって大規模なデモ活動が行われている。
Please let me know your liberal opinion on environmental issues.
環境問題に対する自由な意見をどうか聞かせて。
Because he is liberal of money, he is liked by his colleagues and juniors.
あの人は金銭を出し惜しみしないから周りの同僚や後輩から好かれている。
If you want someone to rely on you, try to be liberal attitude with everyone and never get irritated.
あなたが誰かに頼りにされたければ、いつでもイライラすることなく、どのような人に対しても寛大な態度で接するように心がけた方が良い。
The idea of liberal democracy spread in Japan after the war, and various political activities were carried out in various places to create a society where many people could live comfortably.
自由民主主義の思想は戦後の日本で広まるようになり、各地では多くの人が暮らしやすい社会を作るために様々な政治活動が行われるようになった。
「liberal」の英語での説明
Liberal is a word that means free, generous in character, and big-hearted.It is a word that is used not only for political thought, but also for people's opinions and ways of thinking.リベラル【liberal】
リベラル
リベラル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/26 05:37 UTC 版)
自由主義 |
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リベラル(英: liberal)とは、「自由な」「自由主義の」「自由主義者」などを意味する英語[1][2]で、政治思想の分野では主に以下の3つの意味で使用されている。
- 自由主義(リベラリズム)の立場をとるさま。また、自由主義者(リベラリスト)[3][4]。「自由主義的」が「リベラル」と翻訳された[5]。自由主義的民主主義の政治体制を自由民主主義政体(リベラルデモクラシー)と呼ぶ[6][7][8][9]。西側陣営国家の右派(保守派)[6]、英米における二大政党の立場[3]であり、ソ連率いる社会主義体制に勝利した[10][6][8]。西側陣営は自由主義陣営とも言われる[11][12][13]。
- 1930年代以降のアメリカ合衆国の民主党の政治思想。新自由主義(ニューリベラリズム)とも呼ばれる。リベラリズムを支持し、その枠組の中で個人が自由であるには市場介入など政府の積極的役割が重要と考える立場(詳細は社会自由主義(ソーシャルリベラリズム))[14][3]。逆に共和党など米国の右派は自由主義の枠組みの中で更に強固なる自由を求める立場である[3]。米国左派の民主党はリベラル政党である一方で、ソ連崩壊による冷戦終結の前後には欧州における左派第一党の政党はプロレタリア独裁である社会主義政党から、議会制民主主義の社会民主主義政党へと変化した[15]。
- 日本では55年体制下で与党である自由民主党の宏池会が「リベラル」というように右派(保守)内におけるハト派に用いられる表現であり[16][17][18]、社会主義・共産主義など左派勢力は「革新[19][20][21]」と呼ばれていた。しかし、自由主義陣営の勝利・ソ連崩壊後に、国内の「左派陣営」に対する新呼称として米国二大政党の枠組みである「リベラル」という言葉が、用いられ始められた経緯がある[3][6][22][14]。ただし、以降も「保革」は広く用いられている[23][24][25][26]。
用語
「リベラル」とは、リベラリズムやリベラリストを指す用語である。
「リベラル」には、歴史的に大きく以下の二つの潮流がある[27]。
- 個人の自由や多様性を尊重する「リベラル」。当初は「権力からの自由」を重視した。ジョン・スチュアート・ミルは『自由論』で、他人に危害を加えた場合のみ自由は制限される、と共存のルールを示した。アダム・スミスは経済活動に対する国家の介入を批判し「小さな政府(レッセ・フェール)」を説いた[27]。
- 上記に対し、放任されれば本当に自由を享受できるのか、各人の自由な人生設計を可能にするため国家の支援が必要と考える「権力による自由」の発想。20世紀の先進諸国は社会保障や福祉国家を整備した。代表的著作には理論家ジョン・ロールズの『ロールズ 政治哲学史講義』がある[27]。
上記の二潮流は、英語では同じ単語(リベラル)だが、ヨーロッパでは1の潮流、アメリカ合衆国では2の潮流を通常示す[27]。日本では1の潮流を「自由主義」、2の潮流を「リベラリズム」と書き分けてきたが、「リベラル」や「進歩」は1990年代から日本の政治で多用され、従来の「保守 対 革新」に代わり「保守 対 リベラル」や「保守 対 進歩」が政治対立の構図を表現する言葉となった[27]。また、池上彰は「リベラルとは左翼と呼ばれたくない人たちの自称」と述べている[28]。
「リベラル」という言葉・シンボルの曖昧さや混乱は、「保守」など他の政治用語と同様に、言葉の理解や定義をめぐる政治的な論争や対立の結果であり、「本当のリベラル」を確定する試みはそれ自体が政治性を帯びて問題の解決にならない[27]。また、リベラルは特定の思想や政治勢力を意味するだけでなく、リベラルが重視する個人の自由や多様性は自由民主主義社会全体の原則でもある[27]。
リベラリズム
リベラリズム(自由主義)は、中世的な教会や諸領主による権威や宿命論に対して、「人間には自由に判断し決定する事が可能であり、自己決定権を持つ」という政治哲学であり、18世紀ヨーロッパで啓蒙主義として広まった。当初の主題は宗教改革での信教の自由であり、三十年戦争後のヴェストファーレン条約により近代的な主権国家が誕生して、国家単位での信教の自由が確立した。このため異なる宗教を持つ間で寛容や多様性の概念が重要となった(政治的リベラリズム、多元主義)。またプロテスタント内部よりリベラリズム(自由主義神学)が発生した。
またイギリスの清教徒革命・名誉革命、アメリカ独立革命、フランス革命などの市民革命(ブルジョワ革命)によってブルジョワジーが実権を握り、アダム・スミスに代表される個人主義的な私有財産権に基づいたレッセフェールによる経済的リベラリズム(古典的リベラリズム、自由主義経済、資本主義)が進展すると、伝統的な共同体の解体、都市への人口集中、プロレタリアートとの貧富拡大や劣悪な労働条件、世界恐慌の発生など社会不安が増大し、各種の社会主義の台頭(改良主義的な社会民主主義、私有財産権の制限・廃止と暴力革命を主張する共産主義などの集産主義)、あるいは植民地獲得競争やブロック経済などが進展した(帝国主義、ファシズム、統制経済)。ジョン・メイナード・ケインズらは、リベラリズムの立場から有効需要理論を唱え、政府による金融政策や、公共事業などの財政政策により非自発的失業を最小にできると主張した。またヨーロッパ諸国では福祉国家論などが進められた(修正資本主義、混合経済)。これらの社会的公正を重視したリベラリズムは、ニュー・リベラリズムやソーシャルリベラリズムと呼ばれるようになった。(後述のように、アメリカ合衆国では単に「リベラリズム」との呼称が普及した影響で、従来の古典的リベラリストの一部はリバタリアニズムを名乗るようになった。)その後、フリードリヒ・ハイエクなど、古典的リベラリズムの復権を主張してケインズ主義などを社会主義的と批判する立場は、新自由主義(ネオ・リベラリズム)とも呼ばれるようになった。
アメリカ政治のリベラリズム
背景
1930年代以降のアメリカ合衆国では、特に社会的公正や多様性を重視する自由主義の支持者が「リベラリズム」を名乗り、対立する古典的リベラリズムの一部は「リバタリアン」[30]などを名乗るようになった。この用法はアメリカ合衆国の以下の歴史的経緯などの特殊性による用法である。
- 1770年代の建国時に王党派が存在せず、リベラリズムが保守派となった
- 社会主義が有力な勢力とならず、政治的な二大潮流はいずれもリベラリズムを掲げた
- 1930年代、ニューディール政策など社会的公正を重視する自由主義の勢力が「リベラリズム」を自称して、「保守派(コンサーバティブ)」を批判した
- 1980年代、保守(古典的自由主義、新自由主義)を掲げる自由主義の勢力が、「リベラリズム」を大きな政府・社会主義的と批判した
日米欧の右派左派の違い
冷戦期にアメリカの左派政党である「民主党」は他国の左派とは異なり、社会主義や共産主義を否定する自由主義(リベラリズム)を他国の右派政党のように国の根幹思想として支持した。日本では冷戦期には社会主義や共産主義派には「革新」と呼称されていたが、ソ連崩壊前後から「左派勢力」全般に「リベラル」を新呼称として使うようになった。しかし、正確にはアメリカ民主党の立場である自由主義左派への呼称が「リベラル」である[3][15][14][22]。自由主義の枠のなかで、1930年代から民主党は政府による積極的経済政策・自由市場への一定の介入を支持する立場を取り、これが「リベラル」と呼ばれた。逆に、より強固な自由を求めるのが米国における「保守」の立場である[3]。欧州の左派政党は冷戦崩壊前後に社会主義や共産主義政党から、社会民主主義政党なった。社会民主主義政党は米国民主党と立場が異なるため、「リベラル」政党とは言わない。21世紀の欧州の社会民主主義政党は、リベラルと社会民主主義の間に揺れている。英国労働党のブレア政権時の政策は保守党の自由主義政策を一部引き継ぎ、リベラルでも社会民主主義でもない「第3の道」を標榜した[15]。
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左派 右派 ヨーロッパなど(16世紀~) リベラリズム 王党派など ヨーロッパや日本など(18世紀~) 社会主義、共産主義、社会民主主義 リベラリズム、保守主義、権威主義など アメリカ合衆国 リベラリズム(社会自由主義) - 民主党支持層 リベラリズム(古典的リベラリズム、リバタリアン、新自由主義) - 共和党支持層
歴史
アメリカ政治において、「リベラル」や「保守(コンサーバティブ)」との用語は、重い歴史を抱えており、複雑である[31]。
1929年からの大恐慌の頃から、ニューディール政策など政府主導の自由主義立て直しが図られ、それを実施した民主党の人々が自分達こそ自由主義を守る自由主義者(リベラル)と自称し、「リベラル」の意味が変わった[31] [32]。この考えでは、増税などで個人の自由や財産を犠牲にしても、貧困対策や医療保険制度などの拡充により、遠回りだが個人の自由を拡大するためリベラルと主張した。1950年代頃は「保守(派)」は軽蔑的な用語となった。「リベラル」を大きな政府で社会主義的と批判する立場は、ヨーロッパ的な王党派などの保守とも区別するため、リバタリアン(自由至上主義者、完全自由主義者[33])や古典的自由主義者と呼ばれるようになった[31]。
1955年 ルイス・ハーツが著作『アメリカ自由主義の伝統』(リベラル・トラディション・イン・アメリカ)を出版して「アメリカには自由主義(リベラリズム)の伝統しかない」と記した際に、この本の題名の「リベラル」は建国以来の自由主義を意味したが、当時の「リベラル」派は自分たちが正統派であると証明してくれたと誤解し、保守派はハーツが自分達を応援しなかったと誤解して失望した、との現象が発生した[31]。1950年代から1960年代にかけて「リベラル」は公民権運動など多様性を重視した運動を推進した。
ヨーロッパからアメリカ合衆国に移住したフリードリヒ・ハイエクは、エッセー「私はなぜ保守主義者ではないか」を記し、この用語の混乱はアメリカ合衆国とヨーロッパの政治伝統の違いにも起因しており、自分は保守主義者と呼ばれるがリベラル(自由主義者)であると主張した。ハイエクによると、自由主義と保守主義と社会主義はそれぞれ異なり、三角形の角のようなものである[31]。
1980年以降、ジョン・F・ケネディ、リンドン・ジョンソン政権時代のベトナム戦争での失策や、ジミー・カーター政権時代の内政・外交での失敗の後に、ロナルド・レーガン政権の頃から「保守」の意味が変化した。レーガンは、「ルーズベルト連合」と呼ばれた労働者・農民・黒人などの少数者連合を切り離し、保守連合を形成した。規制緩和や小さな政府をスローガンに経済を立て直し、共産圏に対する強硬姿勢が功を奏し冷戦終結に向かった。これらを背景に「保守」のイメージは向上し、「リベラル(進歩派)」は軽蔑語のようになっていった[31]。
しかし2003年以降のジョージ・W・ブッシュ政権のイラク戦争での失敗により、「保守」と「リベラル」のイメージが再び変化する可能性もある[31]。
思想
アメリカ合衆国の「リベラル」に大きな影響を与え、民主党の政策を支えていた思想家にはジョン・ロールズがいる[31]。
1958年、ロールズは論文『公正としての正義』を発表して「公正(フェアネス)」を基礎とする「正義(ジャスティス)」という概念を提示し始め、1971年の『正義論』を通じて発展していく「正義」の概念の二つの原理の原型を示した[31]。
- 人は他人の自由を侵さない限り、自由への最大限の権利を平等に持つ
- 経済的・社内的に不平等が許されるとすれば、それはすべての人の利益に繋がらなくてはならない。また、他と平等でない地位があれば、だれもがそれを得る機会を平等に持つべきだ。
1971年の『正義論』では、二番目の原理は「すべての人の利益」から「最も不遇な人々に最低限の利益」と定義が発展し、哲学書としては異例の20万部のベストセラーとなった。ロールズは、自由と平等という相容れない価値をなんとか結び付け、自由を重視するアメリカ社会が失いがちな公正さを担保しようとした[31]。
1960年代末から1970年代は、アメリカ・リベラリズムの頂点であり、没落の始まりであった。リベラル政治はケネディ政権で本格的に動き出し、ジョンソン、ニクソン政権で仕上げられた。1964年、ジョンソンは南北戦争後も南部に残る黒人差別を撤廃させる公民権法を政治手腕で成立させ、再選後に更に貧困との戦い、福祉拡大、環境保護など「偉大なる社会」の建設に突き進んだが、ベトナム戦争の泥沼に足を取られ、三選出馬を断念した。ジョンソン政権を引き継いだニクソンは共和党ながら、環境保護庁の設置、大気浄化法の強化、職業安全衛生法、包括雇用・職業訓練法や、南部の人種別学校の統合の進展、黒人の雇用促進のための積極的差別是正処置(アファーマティブ・アクション)、連邦政府事業を請け負う企業への黒人雇用義務付け、女性雇用差別解消、貧困家庭の養育費補助や学校給食などの福祉制度の大幅整備拡大など、リベラルな政策を進めた[31]。
1960年以降、自由と平等が進化したアメリカに現れたのは、それぞれに正統を主張してやまないグループであった。ロールズの問題意識は、争いの無い安定した「共存」へと収斂していった。1993年、ロールズは第二の主著とされる『政治的リベラリズム』で「相容れることのできない宗教、思想、倫理上の教義で深刻に分断されている自由で平等な市民の間で、安定した公正な社会を築き上げることは可能か」と問いかけ、その多元社会の安定には「重なり合う合意(オーバーラッピング・コンセンサス)」という考え方を使用し、最低限の共通基盤を維持することで、安定した状態で共存できるとし、その共通基盤の核として「公正としての正義」を置いた[31]。
ロールズの主張は、アメリカ社会の新たな形の分裂に対してリベラル側から回答を試みたもので、その回答は「アメリカの理念に立ち返っていく」ということであり、ある意味では保守的であった[31]。
教育者による支持
アメリカ合衆国の教育機関における教員の政治的傾向の調査によれば、リベラルは保守より優勢であり、特に大学でこの傾向が強く、大学の人文学専攻での割合は共和党支持者1人に対して民主党支持者5人、社会科学系では共和党支持者1人に対して民主党支持者8人にのぼった[34][35]。アメリカの四年制大学の教授を対象とした調査では、50%が民主党、39%が支持政党なし、11%が共和党支持で[36]、二年制大学を含む全大学教授を対象とした調査では、51%が民主党、35%が支持政党なし、14%が共和党だった[37][35]。リベラル優勢の傾向は、エリート校になるにつれ高まり、四年制のリベラルアーツ系大学と博士課程を持つエリート大学の方が、コミュニティカレッジよりも、リベラルの割合が高い[38][35]。また、K-12(幼稚園から高校)の教育でも同様で、K-12の公立校の先生の支持政党は、45%が民主党、30%が共和党、25%が支持政党なしという結果だった[39][35]。
民主党 | 共和党 | 支持政党なし | |
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四年制大学教員 | 50% | 11% | 39% |
二年制大学を含む全大学教員 | 51% | 14% | 35% |
K-12(幼稚園から高校)教員 | 45% | 30% | 25% |
脚注
出典
- ^ iberal - 研究社新英和中辞典、Eゲイト英和辞典、他
- ^ liberal - goo辞書
- ^ a b c d e f g 米国にとって「リベラル」と「保守」とは何か論座 朝日新聞デジタル
- ^ リベラル - 大辞林 第三版
- ^ “失われたリベラリズム、あるいはコーヒーを買ってきてくれるリベラリズム | 研究プログラム”. 東京財団政策研究所. 2024年9月28日閲覧。
- ^ a b c d “「リベラル」の逆は「保守」ではなく…歴史に耐えるものさしで、中島岳志さんと現代日本を読み解く政治学(江川紹子) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2024年9月28日閲覧。
- ^ “社会主義国家「ソビエト連邦」はなぜ消滅したのか”. 東洋経済オンライン (2022年5月19日). 2024年9月28日閲覧。
- ^ a b “社会主義国家「ソビエト連邦」はなぜ消滅したのか”. 東洋経済オンライン (2022年5月19日). 2024年9月28日閲覧。
- ^ 『ネクスト・デモクラシーの構想 - 彩流社』 。
- ^ 自由主義の再検討 - 岩波書店
- ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1962/s37-3-4.htm 外務省「西欧関係」
- ^ “自由世界(ジユウセカイ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年10月4日閲覧。
- ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1958/s33-1-2.htm外務省 二 わが国外交の基本的態度
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- ^ a b c “日本語の「自由主義」と「リベラリズム」は何がどう違うのか?”. ダイヤモンド・オンライン (2015年6月17日). 2024年9月28日閲覧。
- ^ “岸田政権が掲げる「新時代リアリズム外交」の意味(細谷雄一)”. Asia Pacific Initiative アジア・パシフィック・イニシアティブ. 2025年2月13日閲覧。
- ^ “歴史の転換点と宏池会の宰相”. 読売新聞オンライン (2023年7月13日). 2025年2月13日閲覧。
- ^ “ニュース知りたいんジャー:自民党「派閥」変わる役割”. 毎日新聞. 2025年2月13日閲覧。
- ^ 戦前は革新将校や革新官僚のように右派の中で「体制刷新派」への呼称であったが、戦後初期途中から「保守」に対する日本社会党・日本共産党・総評のような日本の社会主義体制化を求める左派勢力の総称に用いられるようになった。両党は革新政党と呼ばれた。
- ^ “政策研究フォーラム”. www.seiken-forum.jp. 2024年9月29日閲覧。
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参考文献
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- 吉原欽一『アメリカ人の政治』PHP研究所、1996年。 ISBN 978-4-569-70333-6。
- Root, Hilton L. (1994). The Fountain of Privilege: Political Foundations of Markets in Old Regime France and England. University of California Press. ISBN 978-0520084155
- Brown, Howard G.; Miller, Judith A. (2003). Taking Liberties: Problems of a New Order From the French Revolution to Napoleon. Manchester University Press. ISBN 978-0719064319
- 犬塚元 (2017年11月12日). “ひもとく - リベラルとは何か”. 朝日新聞: pp. 13
- ブライアン・カプラン、月谷真紀訳 『大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学』みすず書房、2019
- Gross,Neil and Solon Simmons 2007, The Social and Political Views of American Professors,Working Paper, Harvard University.
- Rothman,Stanley, Robert Lichter, and Neil Nevitte,2005,Politics and Professional Advancement among College Faculty,Forum3(1). DOI:10.2202/1540-8884.1067
- Moe,Terry ,2011,Special Intersett: Teachers Unions and America's Public Schools,Brookings Institution Press (2011)
関連項目
「リベラル」の例文・使い方・用例・文例
- 彼はその党のリベラル派に属している
- 保守派の人々は政府を「厳格な父親」と考え、リベラルな人々は政府を「慈しむ親 」だと考える。
- リベラル左派とはほとんど撞着語法である。
- 私はリベラルではなくむしろ保守派です。
- 民主党のリベラル派.
- これらのリベラル派は自らを「さきがけ」と称して自民党とたもとを分かった.
- 共和党員はリベラル派の民主党員を議会から追い払おうとしている
- あからさまにリベラルというわけではないが、それがこの本の全体的な流れだ
- リベラルな傾向に反対する英国国教会内の19世紀の運動
- 因襲的な小都市はリベラル派の政治家には絶対投票しない
- ネオリベラルという政治的立場
- ネオリベラルという政治的立場の人
- リベラルフェミニズムというフェミニズム思想
- リベラルフェミニズムという社会運動
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