抑止力
抑止力とは、抑止力の意味
抑止力(よくしりょく)とは、「相手の活動をやめさせる力」「相手を行動に移させないようにする(未然に防ぐ)力」を意味する語。抑止する力、思いとどまらせる力。特に法律・刑罰や、防衛・国家安全保障などの文脈で用いられることの多い語だが、「思いとどまらせるためのもの」という意味では日常会話の中でも用いられる。抑止力の使い方
「抑止力」という言葉は、もっぱら相手の行動を未然に抑え込むことのできる要素を指す意味で用いられる。その要素は、相手の行動がもたらす被害や影響に対し、同等かそれ以上の影響をもたらす力が求められる。仮に相手が行動を起こした場合、報復措置が行われ、その報復によって相手は甚大な不利益や損害を被ることになる。「行動を起こすと大変なことになる」「行動しない方がましだ」と相手に判断させることによって、抑止力が抑止力として機能する。たとえば法律における刑罰の規定や、警察による啓発・取り締まり活動は、犯罪行為に対する抑止力として機能している側面がある。また、平和主義を標榜する国家が多大な軍事費・国防費を投じて軍を維持しているのは、他国に対して軍事的な抑止力が必要だからという側面がある。
防衛の分野における「抑止」の概念について、防衛省は次のような定義を紹介している。 一般に、抑止とは、「相手が攻撃してきた場合、軍事的な対応を行って損害を与える姿勢を示すことで攻撃そのものを思いとどまらせる」軍事力の役割とされる。―― 平成22年版防衛白書
もっと俗な文脈では、たとえば「財布に入れておくお札は新札にしておくと浪費の抑止力になる。ピン札がもったいなくて無駄に使いたくなくなるから」というような使い方もされる。
抑止力の類語と使い分け
「抑止力」の類語としては「抑制」「阻止」「ブレーキ」などが挙げられる。抑制(よくせい)は「抑えとどめること」を意味し、特に「抑制が効かない」というような表現において「抑止力」と同様の意味で用いられる。「阻止」や「ブレーキ」は「相手を食い止める力」という意味で抑止力の類義語となり得る。ただし「未然に防ぐ」というニュアンスは希薄である。抑止力の語源
抑止力は「抑止+力」の2要素からなる語である。「抑止」は「抑」と「止」という類義語を並べた一般的な形の漢語である。中国語にも「抑止」という語彙がある。仏教では、衆生が犯そうとする悪を(仏が)あらかじめ抑えることを「抑止(おくし)」という。すでに犯してしまった悪を仏が赦すことを「摂取(せっしゅ)」といい、合わせて「抑止摂取」という。
よくし‐りょく【抑止力】
抑止力
【抑止力】(よくしりょく)
「国家が、軍隊・警察などの物理的な強制力を保持・運用することにより、戦争や犯罪の発生を未然に抑える」
ことを骨子とした、現代の安全保障の最たる考え方。
冷戦時代においては代理戦争こそあったものの、世界大戦規模の戦争は核兵器の抑止力により起こることが無かった。
関連:相互確証破壊
抑止力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 15:18 UTC 版)
抑止力(よくしりょく、英: deterrence)とは、抑止する力であり、つまり相手に有害な行動を思いとどまらせる力、作用[1]。なにかをしようと思っている者にそれを行うことを思いとどまらせる力。やろうかと思っている活動をやめさせる力[2]。
安全保障における抑止力
安全保障分野で抑止力は、一方が他方に軍事力の行使を行えば、被攻撃国は攻撃国に報復攻撃を行い、攻撃国は利得に見合わない損害を被ることをあらかじめ明白に認識させることで、軍事力行使を思いとどまらせることを言う[2][3]。抑止力にはさまざまな形があるものの、その中核部分は、相手に恐怖を与える威嚇であり[4]、報復の脅しによる「懲罰的抑止」である[1][3]。相手国が望ましくない行動をすることを思いとどまらせて、現状を維持し変更させないことを目的とする[3]。
抑止力が成立するには、次の3つの要件を満たしている必要がある[1][3]。
- 1.相手が耐えがたいまたは受け入れがたい効果的な報復攻撃の能力
- 2.相手に対する報復の意思の明示
- 3.相手に1および2を信憑性をもって伝達し、相手がそれらを認識し信頼すること[5]
具体例
- 日米韓3ヶ国と北朝鮮の例
- 北朝鮮に対する日米韓3ヶ国の抑止力 - 日米韓3ヶ国側は、通常戦力の優位性を北朝鮮に示し、またアメリカの核戦力も明示することで、北朝鮮が大規模な挑発的軍事行動に出ることを思いとどまらせる作用を維持している[1]
- アメリカに対する北朝鮮の抑止力 - 北朝鮮側は、同様に、核・ミサイルによる攻撃能力や局地戦能力の高さを宣伝することで、アメリカが北朝鮮に対して軍事介入することを思いとどまらせる作用を成り立たせようとしている[1]。2017年にアメリカのマティス国防長官が記者会見で「北朝鮮問題を軍事的に解決しようとすれば、想像を絶する規模の悲劇が生じる」と指摘した[6]が、これは北朝鮮の報復能力への一定の理解を背景にした発言である[1]。
両方とも上述の「抑止力の3条件」の維持あるいは成立に取り組んでいる[1]。
- インドとパキスタンの例
- インドは1974年に、パキスタンは1998年に核実験を行い、両国とも核保有国となり互いに報復を恐れ核兵器の使用は行っていない。なお小規模紛争を抑止することはできず、2000年代に入っても両国の紛争は続いた[7]
脚注
- ^ a b c d e f g 神保 2017.
- ^ a b 大辞泉【抑止力】
- ^ a b c d 後瀉 2015.
- ^ 山本 2021, p. 126.
- ^ 山本 2021, p. 127.
- ^ “北朝鮮問題の軍事的解決、「想像絶する悲劇」引き起こす=米国防長官”. ロイター. (2017年5月20日)
- ^ 核抑止の失敗に向かう印パ紛争
参考文献
- 神保謙 (2017年5月31日). “抑止力成立の3条件: 報復能力・意思と相手の理解”. キャノングローバル戦略研究所. 2023年9月6日閲覧。
- 後瀉桂太郎「抑止概念の変遷: 多層化と再定義」『海幹校戦略研究』第5巻第2号、海上自衛隊幹部学校、2015年12月、ISSN 21871868。
- 山本哲史「抑止理論における認知について」『エア・アンド・スペース・パワー研究』第7巻、航空自衛隊幹部学校、2021年3月、 ISSN 24362395。
関連項目
- 罰、制裁、脅し
- 核抑止力
- Massive Ordnance Air Blast bomb - 核兵器はいろいろな意味で被害が大きすぎて使えない、ということで開発された爆弾。核兵器ではないので放射能汚染は無く実際に使えるが、猛烈な破壊力を持つ爆弾。
- ダイナマイト - 発明者のアルフレッド・ノーベルは強力な爆弾であるため、各国が使用を躊躇し戦争抑止になると期待していたが、実際には戦争の激化を招いた。
- 敵基地攻撃能力
- サダム・フセイン - 報復力、抑止力を持たず米国に滅ぼされた。
- ムアンマル・アル=カッザーフィー -報復力、抑止力を持たず米国に滅ぼされた。
- チベット - 報復力、抑止力を持たず中国共産党にすっかり侵略された。
- 台湾 - 大陸の中国共産党側から侵略のターゲットにされつづけている。現状は台湾単独では十分な報復能力つまり抑止力を持たず、米国や日本が中国に対するしっかりとした報復能力つまり強烈な攻撃能力を持ち、もし台湾を侵略すれば中国の中枢に対して報復するとの意思も明示することで抑止力を持たないと、2025年~2026年前後には台湾は中国によって侵略され半導体生産なども中国に握られてしまう、と米国の分析官などから指摘されている。
- アメリカ同時多発テロ事件 - イスラーム側からの米国に対する報復能力の明示と意思の明示。米国の軍事展開(イスラーム側から見た侵略)に対する抑止の試み。
- 新しい戦争 - 近年の戦争は国家対国家という枠にはおさまらない、という指摘を含んだ概念。古典的な抑止の仕組みからはずれている。
抑止力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 01:18 UTC 版)
現在の世界の存続を図る、カタチのない力。集合的無意識(本作での使われ方は超個体に近いもの)が生んだ安全装置。世界を保護するという点で優先対象の異なる二つの抑止力が存在し、地球という星を守るためならば人間という種を滅ぼすこともためらわない「ガイアの抑止力」と、人の世の存続のためならば星を食い潰すこともためらわない「アラヤの抑止力」(霊長の抑止力)とがある。無意識から発生した力であるため、大抵の場合、その場にいる誰にも気づかれない、誰の意識にも止まることのない自然な形で発動する。例えば、世界の安定を脅かす危機を排除するため、それと敵対する存在(大抵は無力な唯の一般人)を後押しして力を与え、絶対に勝利できるように導く(これを「世界との契約」という)。ちなみにアラヤと契約した場合、その人間は英雄となり、死後英霊としてアラヤに取り込まれることになる。
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