ほたるのはか【火垂るの墓】
火垂るの墓
(蛍の墓 から転送)
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『火垂るの墓』(ほたるのはか)は、野坂昭如の短編小説で、野坂自身の戦争体験を題材とした作品である。兵庫県神戸市と西宮市近郊を舞台に、戦火の下、親を亡くした14歳の兄と4歳の妹が終戦前後の混乱の中を必死で生き抜こうとするが、その思いも叶わずに栄養失調で悲劇的な死を迎えていく姿を描いた物語。愛情と無情が交錯する中、蛍のように儚く消えた2つの命の悲しみと鎮魂を、独特の文体と世界観で表現している作品。
注釈
- ^ 昭和20年9月22日午後。主人公・清太の死の翌日である。
- ^ 清太・節子一家が住んでいたとされるのは、武庫郡御影町大字御影字上中・字上西。現在の神戸市東灘区御影本町六丁目・八丁目あたりである。
- ^ 貯水池は、現在の夙川公園北東部付近にある貯水池(ニテコ池)がモデル。防空壕は、ニテコ池のほとりに実在した壕。野坂自身もたびたび避難したという。
- ^ 本来映画用語では"アフレコに際して絵も全くなく担当する部分を色の線の長さや形状等で示した状態での収録"を指す。なお画像を全く持たない状態からの収録をするプレスコでは極普通の手法である。
- ^ アニメ用語では本来"彩色のない原動画を絵コンテ等に合わせて完成アニメと同じタイミングで撮影したもの"を指す。
- ^ 新潮社との契約が満了した2008年(平成20年)8月以降はブエナビスタから再発売された。2012年(平成24年)4月にはBlu-ray Disc版が発売された。
- ^ ただし、空襲時の警防団員の描き分けや警察官の制服の生地色や正肩章の装着、佩剣が乗馬勤務者用のものであり釣環の数も多い、略帽を着用していないなど、資料が偏る傾向もみられる。
- ^ 文化人形の一種。本作ではボンネットにピンク色の服を着た、節子のお気に入りの人形として登場
- ^ 『小さなユリと』に描かれていたのは、入院中の妻に代わって幼い子供の面倒を見る父親の様子だった。育児という慣れない状況に戸惑い自分を情けなく思う父と、無邪気な子供。山本は、この父子の関係性に清太と節子を重ねて読んだという
- ^ 『蛍』、『焼夷弾』、『母の遺骨』、『幽霊となった節子(清太に触れる瞬間)』など清太の視点で死を象徴するものは赤く光った描かれ方をしている。
- ^ 冒頭に出てくる2人と、新しくなるドロップの缶は幽霊になったイメージ、幽霊の節子が三宮の駅で倒れる過去の清太の所に行こうとしたのをもう1人の清太が制止するのは「自分も(幽霊になり)ここにいるから心配しなくていい」という意味、電車に乗り叔母の家まで行くのは「過去を思い出しに行く」とも言えるシーンで、「死人に口なし」ということもことわざもあるように幽霊の清太は冒頭とラストを除きしゃべらない。
- ^ 宮崎駿は稲葉振一郎『ナウシカ読解』インタビューで「幽霊というのは死んだ時の姿で出てくるのでガリガリに痩せてお腹が減った状態で出てこないとおかしい」と幽霊の2人の状態に矛盾を指摘しているが、この矛盾点について、著書「出発点」270Pでは、兄妹が先に死んだ母の幽霊と出会っていないことをあげ、考察を行っている。ここで宮崎は兄妹の幽霊の姿について「二人は幸福な道行きの瞬間の姿のまま、あそこにいる」「二人の絆だけで完結した世界に、もはや死の苦しみもなく、微笑みあい、漂っている」のだと述べている。
- ^ 日本のアニメの収録では、出来上がった絵に後から声を当てるアテレコが一般的とされる[15]。
- ^ 節子と海に行った帰りにおんぶを要求された際にはうんざりした様子でため息をついている。
- ^ 近藤喜文が書いたイメージボードでも家から持ってきた荷物を整理する清太の横で母のおべべ(着物)を大事そうに抱く節子が描かれている。
- ^ 実際の野坂が疎開した先の叔母は映画のように態度が悪くなっていない。
- ^ 史実において、当時神戸に所在していたのは商船学校ではなく、高等商船学校(高等商船学校神戸分校。神戸商船大学の実質的な前身)である。
- ^ 1996年8月23日にも放送予定であったが、渥美清の逝去による放映作品変更の影響で翌年に延期となった(8月23日には8月9日に放映予定であった『スタンド・バイ・ミー』に差し替え)。
- ^ 終戦記念日である8月15日に放送した事例はない(4回目の放送は8月15日が金曜日になる年であったが、1週間早い8月8日に前倒しで放送されている。また、7回目の放送では同じく8月15日が金曜日になる年であったが、1週間遅い後送りで放送されている。)。
- ^ 軍隊や戦闘が演出される作品は他にもあるが、太平洋戦争など、史実に伴う戦争を取り扱った作品は当作のみ。ただし「風立ちぬ」や「君たちはどう生きるか」などにも太平洋戦争が語られている。
- ^ 9回目は清太の命日にあたる9月21日に放送されている。
- ^ 13回目は高畑の死去に伴う緊急追悼放送のため、例外的なケースである。
- ^ この日放送予定だった『名探偵コナン から紅の恋歌』は4月20日に、20日に放送予定だった『パシフィック・リム』は5月11日に、それぞれ延期となった。
- ^ 原作者の野坂の没後としても初放送。
- ^ 綿矢りさの『かわいそうだね?』に『火垂るの墓』への言及があり、この映画を小さい時に観てトラウマになっているという。
- ^ ニテコ池へは阪神西宮駅より阪神バスの山手線もしくは鷲林寺線で「満池谷(まんぢだに)」下車すぐである(ここには巨大な墓地と火葬場がある)。舞台の1つである阪急三宮駅(神戸阪急ビル)は阪神・淡路大震災により建物が全壊し、別設計の駅舎が再建されている。
- ^ これは原作においても過去を思い出す人物がいないとは言え、清太が亡くなるところから始まるので、現在進行形での展開はその意味でも初めてでもある。
- ^ 家に預かるということを、原作やアニメ映画版とテレビドラマ版では最初から承知していたが、実写映画版はなぜか知らなかった様子である。
出典
- ^ 『シネマトゥデイ』(2012年11月24日付)
- ^ 徳永淳 2020, pp. 27, 35.
- ^ 徳永淳 2020, p. 35.
- ^ a b 徳永淳 2020, p. 36.
- ^ 徳永淳 2020, pp. 35–36.
- ^ 徳永淳 2020, p. 38.
- ^ a b 尾崎秀樹「解説」(文庫版『アメリカひじき・火垂るの墓』)(新潮文庫、1972年。改版2003年)
- ^ a b c d e f g h i j 「第58回直木賞(昭和42年度下半期)選評」(オール讀物 1968年4月号に掲載)
- ^ 朝日新聞デジタル - 「火垂るの墓、原点の地 野坂昭如さん過ごした防空壕確認」 編集委員・永井靖二 2016年12月2日10時05分
- ^ a b c d 野坂昭如「私の小説から 火垂るの墓」(朝日新聞 1969年2月27日号に掲載)。のち『アドリブ自叙伝』(筑摩書房、1980年。日本図書センター、1994年と2012年に復刊)に所収
- ^ 野坂昭如「プレイボーイの子守唄」(婦人公論 1967年3月号に掲載)
- ^ 野坂昭如「五十歩の距離」(『野坂昭如エッセイ集1 日本土人の思想』)(中央公論社、1969年)
- ^ a b 野坂昭如『アドリブ自叙伝』(筑摩書房、1980年。日本図書センター、1994年と2012年に復刊)
- ^ 88分26秒19コマ
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 週刊現代2022年8月27日号「熱討スタジアム」第442回・映画「火垂るの墓」を語ろうp138-141
- ^ 叶精二『宮崎駿全書』フィルムアート社、2006年、p113
- ^ 叶精二『宮崎駿全書』フィルムアート社、2006年、p123
- ^ 鈴木敏夫『映画道楽』ぴあ、2005年、p101-p102
- ^ a b c 高畑勲「『火垂るの墓』から、はや二十四年」『アニメーション、折にふれて』岩波書店、2013年、pp.122 - 126(初出は『百瀬義行 スタジオジブリワークス』一迅社、2011年)
- ^ 鈴木敏夫『映画道楽』ぴあ、2005年、p107-p108
- ^ 鈴木敏夫「出会ってから40年。高畑さんとは本当に不思議な関係だったと思います」『キネマ旬報』2018年6月上旬特別号、キネマ旬報社、pp.14 - 17(取材・構成:金澤誠)
- ^ 『魔女の宅急便』TV初公開時の宮崎駿の発言
- ^ “作品の著作権表示”. 株式会社スタジオジブリ. 2022年10月22日閲覧。
- ^ a b “Netflix、スタジオジブリの21作品放映権獲得(日本と北米以外で)”. ITmedia(2020年1月20日作成). 2020年1月21日閲覧。
- ^ “トトロやもののけ姫、千と千尋の神隠しがHBO Maxに、ジブリ全21作品がストリーミング配信”. TechCrunch(2019年10月18日作成). 2020年1月21日閲覧。
- ^ “Netflix、2月からジブリ作品を世界配信 日本・北米除く”. 日本経済新聞(2020年1月20日作成). 2020年1月21日閲覧。
- ^ “外堀徐々に埋まる! Netflix、カナダでのスタジオジブリ作品の配信を開始”. GAME Watch (2020年6月24日). 2020年6月26日閲覧。
- ^ 『スタジオジブリ作品関連資料集II』スタジオジブリ
- ^ 朝日新聞デジタル -『空襲の経験、きちんと映画に 「火垂るの墓」高畑勲監督 』2015年8月12日17時09分掲載インタビュー
- ^ 『アニメージュ』1988年5月号に掲載インタビュー
- ^ 高畑勲『映画を作りながら考えたこと』(徳間書店、1991年)471頁。
- ^ 『アニメージュ1988年5月号』徳間書店、1988年5月10日。
- ^ 2015年8月12日付朝日新聞web記事「空襲の経験、きちんと映画に 「火垂るの墓」高畑勲監督」
- ^ 竹熊健太郎編『庵野秀明 パラノエヴァンゲリオン』太田出版、1997年、p69-p70
- ^ “宮崎駿が企てた「火垂るの墓」クーデター計画”. エキサイトニュース. (2013年10月22日)
- ^ The 500th Bomb Group,B-29 Memorial 2019年4月11日閲覧
- ^ a b 小山 2018, p. 135.
- ^ 渡辺 1982, p. 327.
- ^ 渡辺 1982, p. 328.
- ^ 1988年5月号『アニメージュ』の高畑勲監督の発言、ジブリレイアウト展の音声解説より
- ^ a b 映画『火垂るの墓』パンフレット
- ^ 「トトロ」Blu-ray発売で、サツキとメイが当時を回想 AVウォッチ2012年7月18日
- ^ “文科省唱歌「かたつむり」。”. 音楽ウェブサイト「d-score」. 2022年9月29日閲覧。
- ^ “英誌&タランティーノ監督が選んだ「第2次世界大戦映画ベスト50」”. 映画.com. (2014年12月8日) 2014年12月8日閲覧。
- ^ “米誌選出「大人向けアニメ映画ベスト10」 日本映画最上位は「AKIRA」の4位”. 映画.com. (2016年8月17日). オリジナルの2016年8月17日時点におけるアーカイブ。
- ^ “高畑勲監督 : 日テレで『火垂るの墓』「おもひでぽろぽろ」2週連続放送 新作「かぐや姫〜」特別映像も”. 毎日新聞デジタル. (2013年11月1日)
- ^ 高畑作品は『おもひでぽろぽろ』や『平成狸合戦ぽんぽこ』などの他のジブリ作品や『セロ弾きのゴーシュ』など、ジブリ作品以外にもあるわけであり、本作でなくてもよかったはずである。
- ^ 『金曜ロードSHOW!』 “夏はジブリ”で高畑勲監督3作品を放送 - オリコンニュース2015年7月31日
- ^ kinro_ntvの2018年4月6日のツイート、2018年4月23日閲覧。
- ^ 野坂昭如「アニメ恐るべし」(初出は『小説新潮』1987年9月号、アニメ映画版パンフレットに再録。『火垂るの墓』(文春ジブリ文庫・ジブリの教科書4、2013年)のpp.78 - 81にも掲載。
- ^ 竹熊健太郎編『庵野秀明 パラノエヴァンゲリオン』太田出版、1997年、p72
- ^ 日経BP社技術研究部 『進化するアニメ・ビジネス―世界に羽ばたく日本のアニメとキャラクター』日経BP社、2000年、47頁。ISBN 4822225542
- ^ ラジオ「ジブリ汗まみれ」の鈴木敏夫の発言。
- ^ “Anime Abandon: Grave of the Fireflies”. Channel Awesome. (2012年6月27日)
- ^ “英語版ウィキペディア:『火垂るの墓』”. wikipedia.org. (2014年3月28日)
- ^ “cracked.com:『もっとも理解されてない20作の映画』”. cracked.com. (2014年11月3日)
- ^ “tvtropes.org:『火垂るの墓』(アニメ映画版)”. tvtropes.org. (2012年7月11日)
- ^ Steven Jay Schneider 総編集、野間 けい子 翻訳 『改訂新版 死ぬまでに観たい映画1001本』 p.762、p.944 ネコ・パブリッシング 2011年8月31日発行 ISBN 978-4-7770-5308-7
- ^ “ジブリ高畑勲監督が逝去 海外レビューサイトで最も評価されている作品とは?”. 2023年7月23日閲覧。
- ^ “海外のネットユーザーが選んだ「もう二度と見たくない映画」”. 2023年7月23日閲覧。
- ^ “「火垂るの墓」を見た中国人「泣けなかった」と語る理由”. 2023年7月23日閲覧。
- ^ ワシントンでの日本アニメ上映は「韓国の努力に冷や水 - Focus-Asia 2015年8月23日
- ^ 劇中でのなつの語りにより言及している。
- ^ 劇中で、清及び清太が「海軍大佐(読みは「たいさ」ではなく「だいさ」)」というセリフを口にしているシーンがある。
- ^ “ロケ実績”. ふくやまフィルムコミッション. 福山観光協会. 2017年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月5日閲覧。
- ^ a b c 野坂昭如「アニメ恐るべし」(アニメ映画版パンフレットに収録)
- ^ (日本語) 火垂るの墓 撮影風景(西脇小学校) 2024年2月17日閲覧。
- ^ (日本語) 松田聖子に群がる 火垂の墓 撮影風景/旧西脇尋常高等小学校 国の重要文化財に指定へ2021.5.21 2024年2月17日閲覧。
- ^ 混声合唱組曲『火垂るの墓』初演リーフレット表紙
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