【高射砲】(こうしゃほう)
航空機などの飛翔体を地上・水上から撃墜するための火砲。「高角砲」とも。
その性質上、機動力で航空機に著しく劣るため、主に防御・迎撃といった防勢対航空作戦に用いられる。
構造的にはカノン砲(速射砲)や機関砲・ガトリングガンとほぼ同じで、極めて高い仰角で砲弾を撃ち出し、敵機付近で炸裂させて破片や火炎でバイタルパートを損傷させ、制御を奪って墜落せしめる。
関連:機関砲 速射砲 FLAK AAA MIRACL CIWS
高射砲の発達史
初期の高射砲は、砲弾の起爆装置に時限信管を採用していた。
これは敵機の針路・高度・対地速度などを事前に予測・計算し、指定した時期・位置で爆発させるものである。
当初はこの方式でも相応の戦果を挙げたものの、当時の技術力では、実戦で期待できる命中精度を実現することは極めて困難で、航空機の技術改良に伴って撃破は困難になっていった。
後年、レーダーやコンピュータ・近接信管の登場によってこれらの欠点は解消に向かい、命中精度は格段に向上した。
近年では、爆薬に頼らずに徹甲弾を直撃させるほど優れた火器管制装置を備えるものも出現した。
しかしながら、目標となる航空機の技術改良も同様に進展し、また、同様の目的を持つ兵器である戦闘機・地対空ミサイルの改良も進んだことから、現代ではミサイルや戦闘機による初期迎撃の失敗に備えたCIWS、あるいは対地・対水上火器を兼ねる(詳細は後述)ように役割分担がなされている。
例えば、地対空ミサイル部隊は自身が航空攻撃を受けた時の防御用にCIWS搭載車両が随伴する。
同様に、空母、航空基地、イージス艦などもCIWSによる近接防御を必要とする。
対地・対水上火器としての活路
高射砲は本質的に機関砲・速射砲の一種であり、独自の構造はそれほど要求されない。
よって、標的は航空機のみに限られず、状況に応じて地上や水上への攻撃も十分可能である。
そして実際、その用法によって多数の車両・施設・艦艇・兵士を撃破し、その有効性が実戦で証明された。
皮肉な事に、本来の任務ではなく、臨時に投入された砲兵の代役として活躍したのである。
野砲の代用として
第二次世界大戦から朝鮮戦争にかけて、高射砲は野砲・歩兵砲・対戦車砲の代用として広く用いられた。
そうした間接砲撃は当時の戦争の主要な死因であり、兵士から「挽肉製造器」として大いに恐れられた。
航空機の破壊を想定した高射砲弾は、当時の旧式戦車を撃破し得るだけの性能を有していた。
いわんや生身の兵士に向けて撃とうものなら、「挽肉」と呼ぶに相応しい酸鼻な光景が待っていた。
航空機には対応しづらかった命中精度も、その10分の1以下の速度で地上を這う標的を撃つには十分なものである。
また、高射砲は自走砲の形態をとるものが多く、歩兵による撃退は極めて困難であった。
艦載砲として
陸軍と同様、海軍でも高射砲を様々な用途に活用する試みが行われてきた。
(当時の支配的な海軍戦略・戦術思想であった)大艦巨砲主義とそれに立脚した艦隊決戦において、高射砲は十分な破壊力を持つ兵器とはみなされなかった。
しかしそれでも、駆逐艦やフリゲート程度の薄い装甲であれば貫通して致命傷を与え得る。
また、浮上中の潜水艦に命中させれば潜水不能状態に陥れる事ができた。
さらに、ペイロードが限られた小型艦艇では、一門で艦艇にも航空機にも対応できる高射砲は実に手頃な兵器だった。
こうしたことから、駆逐艦・フリゲート・河用砲艦などの小型艦は高射砲を主砲とする事が多かった。
また、航空母艦、輸送艦・測量艦・工作艦などの支援艦艇、徴用商船などの自衛用火器にももっぱら高射砲が採用された。
これは後に両用砲へと発展的解消を遂げ、現代では水上戦闘艦艇の標準的な艦載砲になっている。
レーダー・艦載機・対艦ミサイルの発達により、大口径の艦載砲は不要になったためである。
主な高射砲の一覧
- アメリカ
- ロシア
- フランス
- イタリア
- M1934 75mm高射砲
- M1935 75mm高射砲
- M39/41 90mm高射砲
- M1934 75mm高射砲
- ドイツ
- 7.5cm FlaK
- 8.8cm FlaK18/36/37
- 8.8cm FlaK41
- 10.5cm FlaK38/39
- 12.8cm FlaK40
- 12.8cm FlaK40 Zwilling
- 7.5cm FlaK
- 日本
高射砲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/12 15:20 UTC 版)
高射砲(英語: anti-aircraft gun[注 1])は、空中目標を主として射撃する火砲[1]。防衛省規格(NDS)では対空砲と同義とされている[1]。
概要
普仏戦争中の1870年、偵察や弾着観測用の軍用気球を狙い撃つため、クルップ社が開発してプロイセン軍が用いた軽量砲架の小口径砲が、高射砲の祖形である[2]。第一次世界大戦にかけて航空機が発達すると、各国で高射砲が開発されていったが、多くは野砲など速射砲に大仰角を与えて高角射撃ができるようにしたものであった[3]。その後、航空機の高速化に伴って、高射砲においては、高角射撃のほかにも、高初速や大発射速度、また旋回・俯仰の迅速さなどといった特質も求められるようになり、各国ともこれらの要求を満たす砲の開発にしのぎを削るようになった[4]。
また高射砲においては有効に作動する信管も重要であり、当初は火薬燃焼式の時限信管が用いられていたが、第一次大戦中に改良が重ねられたにもかかわらず、信頼性の問題に悩まされ続けていた[5]。大戦末期には、ドイツのクルップ社が機械式の時限信管を実用化し、この時点ではあまりに複雑・高価で長射程の榴弾砲で使われたのみであったが、戦間期には高射砲にも用いられるようになった[6]。しかし第二次世界大戦中の経験から、ドイツ空軍は時限信管の使用を中止し、着発信管に切り替えた[7]。これに対し、アメリカ合衆国では近接信管(VT信管)を実用化し、高射砲の有効性は著しく向上した[8]。
一方、1930年代頃からは、低高度を飛行する目標に対しては高射砲では捕捉困難という問題が生じ、これを補完するために対空機関砲も注目されるようになった[9]。また航空機の性能向上が続くにつれて、中・高高度目標についても高射砲では対応困難となっていき、地対空ミサイル(SAM)が台頭したが[4]、高射砲も、電子攻撃(EA)を受けてレーダーが使えない場合でも目視照準で発砲できるなどのメリットがあり、特に東側諸国では引き続き使われた[10]。
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クルップの対気球砲
高角砲
艦砲においては、高い仰角を与えられる砲を高角砲(英語: high-angle gun, HA gun)と称し[注 2]、第一次世界大戦以降のイギリス海軍では、高角砲架には「HA」の記号を付すこととした[12]。大戦中、各国の主要な艦艇には高角砲が搭載されたものの、この時点では洋上での航空機の運用は限定的で、真剣な脅威とはなっていなかった[13]。
高角砲において、最大仰角を増すと砲耳を高くしなければならず、砲塔の機構も複雑化するため重量が増大し、また再装填にも機力補助が必要になる[14]。このため、戦間期のイギリス海軍では、艦内の容積や甲板の面積に余裕が少ない駆逐艦では専用の高角砲は搭載せず、既存の砲架の設計を修正して仰角をわずかに増した程度の平射砲と、高角射撃に対応した重機関銃のみを対空兵器としている場合もあった[15]。
これに対し、アメリカ海軍では対空・対水上射撃に兼用できる両用砲 (Dual-purpose gun) の搭載を志向しており、1926年起工の重巡洋艦「ペンサコーラ」の副砲を25口径5インチ高角砲として両用化を実行、次に駆逐艦の主砲として38口径5インチ両用砲を開発、戦艦・巡洋艦や航空母艦の副砲としても広く搭載した[16]。またイギリス海軍でも、第二次大戦劈頭のノルウェーおよびダンケルク撤退作戦での戦訓から、上記のような構成や既存の高角砲では増大する経空脅威に対抗できないと判断して、両用砲の搭載を模索したものの、完全な両用砲化はバトル級駆逐艦を待つこととなった[17]。
主要な高射砲の一覧
- M3 3インチ高射砲(3-inch Gun M1918)
- M1 90mm高射砲
- M1 120mm高射砲
- M51 75mm高射砲
- M1922-1924・1927 75mm高角砲
- M1926 90mm高角砲
- M1930 100mm高角砲
- M1945 100mm高角砲
- M1934 75mm高射砲
- M1935 75mm高射砲
- M39/41 90mm高射砲
- M1931 76.2mm高射砲
- M1938 76mm高射砲
- M1939(52-K) 85mm高射砲
- M1944 85mm高射砲
- 7.5 cm FlaK
- 8.8 cm FlaK 18/36/37
- 8.8 cm FlaK 41
- 10.5 cm FlaK 38/39
- 12.8 cm FlaK 40
- 12.8 cm FlaK 40 Zwilling
- 陸軍(高射砲)
- 海軍(高角砲)
- 四十口径三年式八糎高角砲
- 五年式短八糎砲
- 四十口径十一年式八糎単装高角砲
- 九八式八糎高角砲(長8サンチ高角砲)
- 五十口径八八式一〇糎高角砲
- 九八式十糎高角砲(長10サンチ高角砲)
- 四十五口径十年式十二糎高角砲
- 四十口径八九式十二糎七高角砲(12.7サンチ高角砲)
- 短十二糎砲
- 短二十糎砲
- 六〇口径三年式十五糎五高角砲
- 五式十二糎七高角砲
脚注
注釈
出典
- ^ a b 防衛省 2009, p. 2.
- ^ Hogg 1982, p. 7.
- ^ 佐山 2008, pp. 194–217.
- ^ a b 猪口修道「高射砲」『日本大百科全書』株式会社DIGITALIO〈コトバンク〉 。2022年10月19日閲覧。
- ^ Hogg 1982, pp. 24–25.
- ^ Hogg 1982, pp. 60–65.
- ^ Hogg 1982, pp. 120–123.
- ^ Hogg 1982, pp. 136–138.
- ^ ワールドフォトプレス 1986, pp. 70–84.
- ^ Dunnigan 1992, pp. 188–190.
- ^ Sandy McClearn. “Canadian Navy Gun Systems”. 2022年11月1日閲覧。
- ^ Friedman 2011, p. 37.
- ^ 堤 2006.
- ^ Friedman 2012, pp. 22–35.
- ^ Friedman 2009, pp. 213–216.
- ^ 中名生 1996.
- ^ Friedman 2012, pp. 108–131.
参考文献
- Dunnigan, James F.「第8章 防空」『新・戦争のテクノロジー』岡芳輝 (訳)、河出書房新社、1992年(原著1988年)、185-201頁。doi:10.11501/12678411。
- Friedman, Norman (2009). British Destroyers From Earliest Days to the Second World War. Naval Institute Press. ISBN 978-1-59114-081-8
- Friedman, Norman (2011). Naval Weapons of World War One - Guns, Torpedoes, Mines, and ASW Weapons of All Nations. Naval Institute Press. ISBN 978-1848321007
- Friedman, Norman (2012) [2006]. British Destroyers & Frigates: The Second World War & After. Naval Institute Press. ISBN 978-1473812796
- Hogg, Ian V.『対空戦』陸上自衛隊高射学校 (翻訳)、原書房、1982年(原著1978年)。doi:10.11501/12675660。
- 佐山二郎『大砲入門―陸軍兵器徹底研究』光人社〈光人社NF文庫〉、2008年。ISBN 978-4769822455。
- 堤明夫「砲熕兵装 (特集・対空兵装の変遷)」『世界の艦船』第662号、海人社、78-83頁、2006年8月。 NAID 40007357719。
- 中名生正巳「艦砲発達の節目をプロットする (特集・艦砲 昔と今)」『世界の艦船』第518号、海人社、69-75頁、1996年12月。NDLJP:3292302。
- 防衛省『火器用語(火砲)』防衛装備庁〈防衛省規格〉、2009年。NDLJP:11719358 。
- ワールドフォトプレス 編『世界の重火器』光文社〈ミリタリー・イラストレイテッド〉、1986年。doi:10.11501/12671592。
関連項目
高射砲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 15:52 UTC 版)
「陸上自衛隊の装備品一覧」の記事における「高射砲」の解説
陸上自衛隊において2020年現在は現役で運用されている高射砲は存在していない(予備装備としてのみ保有されている)。 名称愛称(※は部隊内通称)画像調達数注釈12.7mm高射機関砲 M55 ※四連装 12.7mm重機関銃M2を4連装銃架に載せたもの。M55として供与されたものの他、M16自走高射機関砲の退役後に銃座部分のみが取り外されて台車に載せたものが予備装備として保管されている。 40mm高射機関砲 M1 ※40AAG、ボフォース 傑作高射機関砲として名高いスウェーデンのボフォース社製40mm機関砲をアメリカでライセンス生産したもの。1951年より供与され、方面隊直轄の高射特科群で使用。1982年退役。 90mm高射砲 M1 ※90AG、90高(キュウマルコウシャ) 北部方面隊の高射特科を中心に配備された。M1のほかに改良型のM2(画像下)も使用。1956年より供与開始、1974年退役。 75mm高射砲 M51 ※75AG、75高(ナナゴコウシャ) レーダー射撃管制装置、自動装填装置を備えた高度な対空速射砲。1958年より供与開始、1987年退役。 35mm2連装高射機関砲 L-90 ※L-90、35AAG、エリコン スイス、エリコン社製GDF-001 35mm連装機関砲システムを共同開発により改良し導入、ライセンス取得により国産化。1969年導入開始、2009年退役。
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