目
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/02 17:27 UTC 版)
眼の疾患
水晶体が濁って起こる白内障や網膜神経節細胞が死滅する緑内障、網膜から神経網膜が剥がれる網膜剥離、結膜にできる炎症である結膜炎など、目を患部とする疾患は数多く存在する。特に眼球部分を患部とする疾患の場合、症状の進行によって失明することもある。目を扱う医学の診療・研究分野は眼科学と呼ばれる。また、目において屈折異常が起きると近視や乱視、遠視などといった症状が現れる。こうした屈折異常を根本的に治療することは困難であるが、眼鏡やコンタクトレンズといった矯正器具を使用することでほとんどの屈折異常は生活上問題のない程度まで症状を緩和することが可能である。
眉毛と目の組み合わせを左に90度回転させると「10」に見えることから、毎年10月10日は「目の愛護デー」とされており、眼科医などが目の異常などの早期受診などを呼びかける啓発行事を実施している[9]。同様な理由で、1001=10月1日は「眼鏡の日」となっている。
動物の眼
動物の眼は、発生起源が皮膚の表層部である表皮であるものと、中枢神経系である脳の一部から生じるものの2つに大別できる。無脊椎動物の眼は皮膚由来であり、脊椎動物の眼は脳由来である[10]。
光受容器
原生生物のミドリムシは、鞭毛基部に感光部を持つ。多細胞生物のうち、光に応答するが、光を受容するための特別の構造を有さない動物は、体表の細胞に感光性色素を持つ。これらの構造は、光受容のために分化した構造ではない。
散在性視覚器
最も原始的な眼は環形動物であるミミズのような明暗を感知するだけの「明暗視」が可能なものが体表面に分布する形態のものである。このような体の各部に分布する眼は「散在性視覚器」(さんざいせいしかくき)と呼ばれ、ミミズでは表皮の表皮細胞の間に単独の視細胞がまばらに分布している[10]。ミミズの光受容性表皮細胞は、例外的に光受容膜に類似した微絨毛を持つ。
眼点

視細胞が集まったものが「眼点」(がんてん)である。眼点は体表の視細胞が色素を含んだ支持細胞に裏打ちされることで「網膜」を形成するが明暗視だけが可能であり光の方向は判別できない。腔腸動物のクラゲや扁形動物のプラナリアなどが眼点を持つ。プラナリアや軟体動物のホタテガイなどごく少数の無脊椎動物では視神経が光の入射側になる「背向性眼」であり、これらは無脊椎動物の眼としては例外的である[10]。
杯状眼
視細胞と支持細胞から成る網膜組織が体表面から陥凹し、杯状となりレンズを備えない構造を形成したものが「杯状眼」(はいじょうがん)である。杯状になることで光の入射方向を判別できる。腹足類のカタツムリ[10]やカサガイなどが杯状眼を持つ。
窩状眼
杯状眼では光の入射方向の判別精度があまり高くなく、それと比べて杯の入口が狭くなって穴となったものが「窩状眼」(かじょうがん)である。杯状眼でもコロイド状分泌物で凹部を満たすものもあるが、窩状眼でも穴となった内部に硝子体を備えることで性能を高めるようになっている[10]。
水晶体眼
窩状眼では網膜へ光線を絞って投影できるが、光の入射口が狭く多くの光を無駄にすることになる。光を屈折させる専用のレンズである水晶体を備え、前面にはそれを保護する角膜を持ったものが「水晶体眼」である。無脊椎動物としてはホラガイのような貝類から水晶体眼を持つようになり、脊椎動物の眼も水晶体眼である。イカやタコといった頭足類の眼は無脊椎動物の中でも特に発達した水晶体眼であり、脊椎動物の眼と形態がかなり似る[注釈 2]までに進化を遂げているが、発生過程では眼の組織が表皮から生じるため、眼胞と呼ばれる眼の組織が表皮細胞から分化して生じてその前壁部分が厚みを帯びて水晶体後半となり、表皮細胞から再びせり出して眼胞を覆った部分の中央が外側に向かって膨らみ水晶体前半となる。頭足類ではこれら2つが融合して水晶体となる。ただし他の大多数の無脊椎動物の眼と同様に「背向性眼」(=反転眼)ではない。発生においては無脊椎動物の眼はすべてが表皮由来であるが、脊椎動物の外側眼は網膜組織と色素上皮層の2層構造などが脳由来であり角膜の外層と水晶体が表皮由来である。脊椎動物の頭頂眼は脳由来の網膜だけの1層構造である。また脊椎動物の外側眼は背向性眼(反転眼)であり、視神経乳頭による盲点があるが、頭頂眼は反転眼ではない[10]。
目の形態
眼を形態で大きく分類すると単眼・複眼・カメラ眼の3つに分けられる[12]。
単眼
光受容細胞が杯状の構造を形成し、その外層にレンズを備える構造を単眼と呼ぶ。単眼は、レンズと網膜を備えるが、ピント調節や絞りなどの機能はない。環形動物、多くの軟体動物、節足動物は単眼を持つ。
複眼

複眼は、個眼の集合体である[12]。この個眼がたくさん集まり半球状に配列されたものが複眼である[12]。
個眼は外層から個別のレンズ、円錐晶体、視細胞層から成り立つ。個眼同士は光を通さない隔壁で分かれている。視細胞層はミツバチの場合、外部からの光を直接受ける中心の感棹と周囲に8つ並ぶ光受容細胞からなる。光受容細胞はミツバチの場合、紫外線に最も高い感度をもつもの2つ、青に感度を示すもの2つ、緑に感度を示すもの4つから成り立つ。
レンズを小さくすることで焦点距離を短く出来るため、体のスペースがほとんどない小さな生物に適した構造である。また動きを捉えることに適している[12]。その一方で、対象を精細に見る上では限界がある。画像を捉えるための細胞が、人間では網膜上に1億以上あり脳への伝達細胞も約100万ある。しかし複眼は各個眼をそれほど多く備えることが難しく、比較的多いトンボでも数万でしかない[12]。また遠くのものを見る機能にも劣り、昆虫の視力は0.01程度でしかない[12]。
カメラ眼

カメラ眼とは、ピントの調整を行える可動な1枚の大きなレンズまたは水晶体、取り込む光量を調整する機能、そして網膜のような面積が広い光受容組織を供えた、いわゆるカメラと基本的に同じ構造を持つ目である。これは大型の動物でも比較的小さな目で視力を持つのに適し、すべての脊椎動物が備えている[12]。角膜やレンズを持った事で像を結ぶ点に優れ、さらにレンズを動かす筋肉を発達させたため遠くを見る事でも有利である[12]。
また、軟体動物門頭足綱のタコやイカは、いわゆるカメラ眼を持つ[12]。カメラ眼はピント調節が可能である点では、脊椎動物の眼光学系に類似する。しかし、網膜の構造や機能は脊椎動物とは大きく異なる。脊椎動物の網膜は脳や神経になる体内の層が進化して形作られたが、タコなどの光受容体は皮膚層がくびれて体内に取り込まれて形成されている[12]。また、脊椎動物の視細胞は光に過分極応答するが、イカやタコの視細胞は光に脱分極応答する。
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i j k 解剖学第2版、p.148、第9章 感覚器系 1.視覚器
- ^ 解剖学第2版、p.135-146、第8章 神経系 4.末端神経系
- ^ a b c d e f 佐藤・佐伯(2009)、p.245-247、第12章 感覚、2.視覚visual sensation、1)眼球の構造と働き
- ^ "The size of a human adult eye is approximately 24.2 mm (transverse)" Bekerman, et al. (2014) Variations in Eyeball Diameters of the Healthy Adults.
- ^ "Transverse (s-s) 24.156 ± 1.9 Max 26.8 Min 21.5" Bekerman, et al. (2014) Variations in Eyeball Diameters of the Healthy Adults.
- ^ "The average corneal diameter was 11.71 ± 0.42 mm." Rufer et al. (2005). White-to-White Corneal Diameter.
- ^ "males was 11.77 ± 0.37 mm, whereas in females it was 11.64 ± 0.47 mm. ... the mean values of males and females were not significantly different" Rufer et al. (2005). White-to-White Corneal Diameter.
- ^ 医学大辞典(医学書院、ISBN 4-260-13651-8)
- ^ 目の愛護デー(日本眼科医会)
- ^ a b c d e f g h 岩堀修明著、『感覚器の進化』、講談社、2011年1月20日第1刷発行、ISBN 9784062577
- ^ “Scallops’ amazing eyes use millions of tiny, square crystals to see” (英語). Science News (2017年11月30日). 2022年3月31日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t ニュートン (2012-6) p.94-99 知られざる眼のヒストリー
- ^ 佐藤・佐伯(2009)、p.249-251、第12章 感覚、2.視覚visual sensation、3)視覚の性質と調整
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