プルトニウム 同位体とその利用特性

プルトニウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/03 06:13 UTC 版)

同位体とその利用特性

人類の利用の観点で重要な同位体は 239Pu(核兵器と原子炉燃料に適)および 238Pu(原子力電池に適)である。これらは遅発中性子による臨界制御が可能である。一方、同位体 240Pu239Pu の中性子捕獲により生成するが、この核種は非常に容易に自発核分裂を起こす。このため 240Pu は核兵器で使用されるプルトニウムにおいて不純物として重要である。240Pu は自発核分裂により中性子をランダムに放出するため、計画した瞬間に正確に連鎖反応を開始させるような制御ができない。つまり爆弾の信頼度および出力を減少させてしまう。

核兵器原料としてのプルトニウム

プルトニウムを生産する際に239Pu のみ生成させることはできず、必ず複数の同位体が混在してしまう。前述の通り 240Pu は極めて容易に自発核分裂を起こすが、核兵器において 240Pu が一定量以上存在すると、自発核分裂により核兵器の内部に設計よりも早く核分裂連鎖反応が始まる部分が生じ、そのエネルギーでプルトニウム全体が核分裂を始める前にばらばらに吹き飛んでしまう(過早爆発)。爆縮レンズを用いたインプロージョン型核兵器では 240Pu が10 %程度以上混入すると過早爆発となるが、ガンバレル型の場合は 240Pu が1 %前後混入しただけで過早爆発が起きる。このため、プルトニウムを用いる核兵器ではインプロージョン型設計の採用が必須となる。実際に、第二次世界大戦中のアメリカ合衆国による原子爆弾開発(マンハッタン計画)では、ガンバレル型プルトニウム原爆シンマンも設計されていたが、過早爆発を防ぐのは困難として開発が中止されている。結局、核兵器原料とするプルトニウムは 240Pu の含有量を10 %以下とする必要があるが、これは軽水炉では実現困難なため黒鉛炉を使用して生産される。

240Pu の混入という課題は核兵器開発において2つの側面を持つ。一つは混入による過早爆発対策として爆縮レンズ技術を開発する必要が生じ、マンハッタン計画に遅れと障害をもたらしたこと、もう一つは爆縮レンズ技術自体が極めて高度な技術であり、容易に獲得できるものではないため、他国の核開発における技術障壁になったことである。なお 239Pu の同位対比が約90 %を越えるプルトニウムは兵器級プルトニウム英語版と呼ばれる。アメリカ国内で生産された兵器級プルトニウムは、工場によりプルトニウムの同位体比が下表のようになっていた[13]

製造工場
ハンフォード・サイト 0.05 %以下 93.17 % 6.28 % 0.54 % 0.05 %以下
サバンナ・リバー・サイト 92.99 % 6.13 % 0.86 %
ロッキーフラッツの土壌 極微量 93.6 % 5.8 % 0.6 % 極微量

原子炉

一般的な商用原子炉である軽水炉から得られたプルトニウムは少なくとも20 %の 240Pu を含んでおり、原子炉級プルトニウムと呼ばれる[14]

原子炉級プルトニウムでも核兵器の製造は可能であるが[15][16]、不安定な原子炉級プルトニウムでは爆発装置の製造が兵器級プルトニウムに比べて困難であり、兵器としての信頼性にも欠けるため、通常は核兵器に用いられることはない。だが、原子炉級プルトニウムを高速増殖炉(日本には「常陽」「もんじゅ」がある)に装荷して原子炉の運転をすると、その炉心の周囲にあるブランケットという部分で高純度の兵器級プルトニウムが生産できる。これまでに「常陽」のブランケットには 239Pu 同位体純度99.36 %のプルトニウムが22 kg、「もんじゅ」のブランケットには97.5 %のプルトニウムが62 kg生成されている。これを再処理工場で取り出すだけで原子爆弾30発以上を製造できる量になるとの主張もある[17]

原子力電池

プルトニウムの同位体の一つであるプルトニウム238は半減期が約84年と非常に短く、その分単位時間あたりの崩壊熱が非常に大きい。そのため温度勾配を利用した熱電発電用の発熱体として利用することで、電源として利用することができる。宇宙探査機や寒冷地の灯台用の電源として利用される。


出典

  1. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds Archived 2012-01-12 at the Wayback Machine., in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  2. ^ BNL-NCS 51363, vol. II (1981), pages 835ff
  3. ^ Clark, David L.; Hobart, David E. (2000). "Reflections on the Legacy of a Legend: Glenn T. Seaborg, 1912–1999". Los Alamos Science 26: 56–61, on 57.
  4. ^ 高岡宏「スポーケンを包む自然背景―大地と水―」『Mukogawa literary review』第44号、武庫川女子大学英文学会、2008年、 25-40頁、 doi:10.14993/00001942ISSN 13409441NAID 120006940011
  5. ^ 西松裕一「資源・エネルギー問題試論」『Journal of MMIJ』第129巻第1号、資源・素材学会、2013年1月、 1-10頁、 doi:10.2473/journalofmmij.129.1ISSN 18816118NAID 10031141144
  6. ^ Q:プルトニウムが敷地内で検出されたようですが、大丈夫でしょうか? (PDF) 北海道大学工学研究院(2021年7月31日閲覧)
  7. ^ 「プルトニウム保有量46トンに 削減方針後、初めて増加」朝日新聞デジタル(2021年7月9日)2021年7月31日閲覧
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  11. ^ Baker, Richard D.; Hecker, Siegfried S.; Harbur, Delbert R. (Winter–Spring 1983). “Plutonium: A Wartime Nightmare but a Metallurgist's Dream”. Los Alamos Science (Los Alamos National Laboratory): 148, 150–151. http://library.lanl.gov/cgi-bin/getfile?07-16.pdf. 
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  13. ^ Samuel, Glasstone; Leslie M., Redman (1972年6月). An Introduction to Nuclear Weapons. https://nige.files.wordpress.com/2009/10/glasstone-introduction-to-nuclear-weapons-72a.pdf 
  14. ^ 原子炉級プルトニウム”. ATOMICA. 2021年3月20日閲覧。
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  16. ^ 「使用済み核燃料から核兵器できる? 製造可能、米は実験成功」『日本経済新聞』2013年11月10日15面。実験成功は1962年、秘密解除は1977年7月。
  17. ^ 槌田敦「日本核武装によるアジア核戦争の恐怖」『核開発に反対する物理研究者の会通信』第42号(2006年12月)
  18. ^ a b National Academy of Sciences, Committee on International Security and Arms Control (1994). Management and Disposition of Excess Weapons Plutonium.
  19. ^ 松岡理『Plutonium』1993年1月第一号(原子燃料政策委員会発行)
  20. ^ 今中哲二「セラフィールド再処理工場からの放射能放出と白血病」原子力資料情報室通信』369号(2005年3月1日)
  21. ^ Lawrence Livermore National Laboratory (2006). Scientists resolve 60-year-old plutonium questions. Retrieved on 2006-06-06. http://www.sciencedaily.com/releases/2006/06/060607084030.htm
  22. ^ 長崎県原爆被爆者対策課発行『放射能Q&A
  23. ^ a b c プルトニウムの人体影響 : 高等学校 : あとみん-原子力・エネルギー教育支援情報提供サイト
  24. ^ 「相次ぐヨウ素やプルトニウム検出―我々の生活はどのぐらい危険か」ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』
  25. ^ a b 松岡理 「プルトニウム物語」
  26. ^ a b c プルトニウムの毒性と取扱い 原子力百科事典 ATOMICA
  27. ^ a b c 京都大学原子炉実験所 小出裕章:プルトニウムという放射能とその被曝の特徴 (PDF) (2006年7月15日)
  28. ^ a b プルトニウム - 丸善出版公式サイト内のPDFファイル。
  29. ^ 原子力安全委員会資料『原子力安全白書』
  30. ^ 20 years for liver and 50 years for skeleton アイダホ大学
  31. ^ 実効線量係数
  32. ^ 内部被ばくに関する線量換算係数 (財)原子力安全研究協会
  33. ^ プルトニウムの被ばく事故 - 原子力百科事典ATOMICA
  34. ^ あとみん (3)発がん性
  35. ^ 最小臨界量”. ATOMICA (2007年2月). 2021年3月20日閲覧。
  36. ^ Crooks, William J. (2002). Nuclear Criticality Safety Engineering Training Module 10 - Criticality Safety in Material Processing Operations, Part 1. Retrieved on 2006-02-15.
  37. ^ Matlack, George: A Plutonium Primer: An Introduction to Plutonium Chemistry and It's Radioactivity (LA-UR-02-6594)
  38. ^ Eileen Welsome, The Plutonium Files: America's Secret Medical Experiments in the Cold War、邦訳『プルトニウムファイル』上・下(翔泳社

注釈

  1. ^ 物性物理学における超臨界とは意味が異なることに注意。原子力工学では核分裂連鎖反応が時間とともに増加することを意味する。





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