硝酸
硝酸は、化学式HNO3で表される無機酸の一種である。窒素、酸素、水素の3つの元素から構成され、無色透明の液体である。硝酸は強酸であり、水に非常によく溶ける性質を持つ。また、濃硝酸は強い酸化力を持ち、有機物と反応して発煙や発火することがあるため、取り扱いには注意が必要である。
硝酸は、硝酸塩の製造に広く用いられる。硝酸塩は、肥料や火薬、爆薬などの製品に利用される。硝酸はまた、金属の表面処理や、有機化合物の合成にも使用される。硝酸と金属が反応すると、硝酸塩と水素が生成される。この反応は、金属の腐食を引き起こすことがあるため、金属の保護には適切な対策が必要である。
硝酸の製造方法には、アンモニアを酸化するオストワルト法が一般的である。この方法では、アンモニアを触媒の存在下で酸素と反応させ、一酸化窒素を生成する。一酸化窒素はさらに酸素と反応し、二酸化窒素になる。二酸化窒素は、水と反応して硝酸と一酸化窒素に分解される。この反応は、硝酸の工業的な製造において重要なプロセスである。
硝酸は、生態系においても重要な役割を果たす。大気中の窒素が酸化されることで、硝酸や硝酸塩が生成される。これらは、植物の成長に必要な窒素源となる。しかし、過剰な硝酸塩の流出は、水質汚染や富栄養化を引き起こすことがある。富栄養化は、水生生物の生息環境を悪化させ、生態系のバランスを崩すことがあるため、硝酸塩の適切な管理が求められる。
硝酸は、生物の体内でも生成される。生物は、アミノ酸の代謝によってアンモニアを生成し、これを尿素回路を通じて尿素に変換する。尿素は、腎臓を通じて尿として排出される。硝酸は、アンモニアを酸化する微生物の働きによって、尿素から生成される。硝酸は、生物の窒素代謝において重要な役割を果たす。
硝酸
英語:nitric acid
「硝酸」とは、化学式「HNO3」で表される無色透明で強い酸化作用をもつ有毒かつ有腐食性の液体もしくはその水溶液のことである。オストワルト法(アンモニアを酸化する手法)によって工業的に生産され、酸化剤などに利用されている。
硝酸の特徴
硝酸は常態では無色透明の液体で、刺激臭を発する。塩酸や硫酸と同じく強酸としての性質を持ち、強い酸化作用をもつ。腐食性もあり人体に有毒。「消防法」では危険物(第6類)に、「毒物及び劇物取締法」においては「劇物」(法定劇物)に指定されている。硝酸の用途
硝酸は化学産業における重要な物質である。典型例としてはニトログリセリンの生成が挙げられる。液体燃料ロケットでは液体燃料(ヒドラジン等)と混合される酸化剤に硝酸が用いられる。ごく低濃度の硝酸は肥料の原料としても用いられている。硝酸の種類
硝酸(の水溶液)のうち硝酸の濃度の高いものを「濃硝酸」といい、同じく濃度の低いものを「希硝酸」ということがある。何パーセントから濃硝酸・希硝酸に該当するのかという数値的な明確な線引き(定義)があるわけではないが、おおよそ20~30パーセント程度以下の濃度なら希硝酸と呼ばれることが多く、60~70パーセント以上の濃度なら濃硝酸と呼ばれることが多い。派生
・硝酸エステル:硝酸のエステル。硝酸とアルコールから生成される。・硝酸塩:硝酸の塩(えん)。硝酸イオンが結合した塩類の総称。
しょう‐さん〔セウ‐〕【硝酸】
硝酸
硝酸
硝酸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/27 10:08 UTC 版)
硝酸 | |
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共鳴構造式
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Nitric acid |
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識別情報 | |
3D model (JSmol)
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ChEBI | |
ChEMBL | |
ChemSpider | |
ECHA InfoCard | 100.028.832 |
EC番号 |
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Gmelin参照 | 1576 |
KEGG | |
MeSH | Nitric+acid |
PubChem CID
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RTECS number |
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UNII | |
国連/北米番号 | 2031 |
CompTox Dashboard (EPA)
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特性 | |
化学式 | HNO3 |
精密質量 | 62.995642903 g mol-1 |
外観 | 無色の液体 |
密度 | 1.5129 g cm-3 |
融点 | -41.6 °C, 232 K, -43 °F |
沸点 | 82.6 °C, 356 K, 181 °F (68 % 溶液は 121 °Cで沸騰) |
水への溶解度 | 完全に溶解 |
酸解離定数 pKa | -1.4 |
屈折率 (nD) | 1.397 (16.5 ℃) |
2.17 ± 0.02 D | |
危険性 | |
GHS表示: | |
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Danger | |
H272, H290, H314, H331 | |
P210, P220, P280, P303+P361+P353, P304+P340+P310, P305+P351+P338 | |
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド) | |
引火点 | 不燃性 |
致死量または濃度 (LD, LC) | |
半数致死濃度 LC50
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138 ppm (ラット, 30分)[1] |
NIOSH(米国の健康曝露限度): | |
PEL
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TWA 2 ppm (5 mg/m3)[1] |
REL
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TWA 2 ppm (5 mg/m3) ST 4 ppm (10 mg/m3)[1] |
IDLH
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25 ppm[1] |
安全データシート (SDS) | ICSC 0183 |
関連する物質 | |
その他の 陰イオン |
亜硝酸 |
その他の 陽イオン |
硝酸ナトリウム 硝酸カリウム 硝酸アンモニウム |
関連物質 | 五酸化二窒素 |
出典 | |
ICSC | |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
硝酸(しょうさん、英: nitric acid、独: Salpetersäure)は窒素のオキソ酸で、化学式 HNO3 で表される。代表的な強酸の1つで、様々な金属と反応して塩を形成する。有機化合物のニトロ化に用いられる。硝酸は消防法第2条第7項及び別表第一第6類3号により危険物第6類に指定され、硝酸を 10 % 以上含有する溶液は医薬用外劇物にも指定されている。
濃硝酸に二酸化窒素、四酸化二窒素を溶かしたものは発煙硝酸、赤煙硝酸と呼ばれ、さらに強力な酸化力を持つ。その強力な酸化力を利用してロケットエンジンの酸化剤や推進剤として用いられる。
概要


五酸化二窒素(無水硝酸、N2O5)を水に溶かすと得られる、一価の強酸性の液体で、金属と反応して硝酸塩(水に可溶)を作る。任意の割合で水に溶け、通常「硝酸」という場合には水溶液を指す。
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芳香族ニトロ化反応 純硝酸の性質
純粋な遊離酸も 0 ℃で硝酸カリウムと純硫酸を反応させ、真空蒸留により単離することが可能である。
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オストワルト法の実験器具 アンモニアを白金触媒の存在下で 900 ℃ 程度に加熱すると一酸化窒素が得られる。この反応においては触媒とアンモニアの接触時間が重要であり、接触時間が長いとアンモニアと一酸化窒素とが反応して窒素が生成されてしまう[12]。触媒にはこのほかに CuO-MnO2 系や、Fe2O3-Bi2O3 系などの金属酸化物触媒も、かつては用いられたことがあったが、触媒活性で劣っていたり、反応中に触媒が微粉化してしまうため、現在では、白金に 10 % ほどのロジウムを加えた金網状の触媒が用いられている。白金-ロジウム触媒を用いた際には反応温度 800 °C、接触時間 0.001 秒の反応条件で一酸化窒素への転化が起こり、その収率は 95 – 98 % である[12]。そのほかに粘土によっても酸化に成功した事例もあるが、収率は半分以下である。
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硝酸イオン(しょうさんイオン、NO3−, nitrate)は硝酸およびその化合物の電離、分解によって主に生じる1価の陰イオン、窒素化合物であり、硝酸塩中にも存在し、平面正三角形型構造で N−O 結合距離は硝酸三水和物中において 124.7 – 126.5 pm である[9]。
硝酸は強い酸化剤であり、多くの金属と反応するため多種の塩を生成する。また一般に、金属の硝酸塩は水に溶解しやすい。
希薄水溶液中における標準酸化還元電位は以下の通りである。
消防法により硝酸塩類は危険物 第1類 酸化性固体に分類される。硝酸イオンは本来無色透明であるが、遷移金属イオンを含むものは有色であることが多い。
- 硝酸カリウム (KNO3)
- 硝酸ナトリウム (NaNO3)
- 硝酸アンモニウム (NH4NO3)
- 硝酸ウラニル (UO2(NO3)2)
- 硝酸カルシウム (Ca(NO3)2)
- 硝酸銀 (AgNO3)
- 硝酸鉄(II) (Fe(NO3)2)
- 硝酸鉄(III) (Fe(NO3)3)
- 硝酸銅(II) (Cu(NO3)2)
- 硝酸鉛(II) (Pb(NO3)2)
- 硝酸バリウム (Ba(NO3)2)
硝酸塩鉱物
水溶性であるため雨量の多い日本国内での産出は確認されていないが、南米チリが主な原産国である。
生態系における硝酸
硝酸は好気性菌によって生物の屍骸等からアンモニア、亜硝酸を経て生成される。さらに嫌気性菌によって窒素等に分解され空気中等に放出されていく。なお、アクアリウムの生態系において嫌気性菌の発生は困難であり、水槽中に硝酸が分解されないまま溜まっていくので、高濃度となる以前の適度な水換えが必要となる。ただし一般的に、アクアリストにとって硝酸はアンモニアや亜硝酸との比較において毒性の低い物質と認識されている。 アンモニウム塩、亜硝酸塩、硝酸塩は溶存無機態窒素 (DIN)であり、水域の植物プランクトンや藻類等の窒素源として重要な栄養塩の1つである。
脚注
注釈
- ^ 濃度は特に定義されているわけではないが、実験室で用いる希硝酸は通常 6 mol/dm3 (32 %, d = 1.19 g · cm-3)、あるいはそれ以下のものであることが多い。
出典
- ^ a b c d NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0447
- ^ “Safety Data Sheet”. fishersci.com. Fisher Scientific International. p. 2 (2015年3月23日). 2022年9月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年10月4日閲覧。
- ^ a b c FA コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年,原書:F. ALBERT COTTON and GEOFFREY WILKINSON, Cotton and Wilkinson ADVANCED INORGANIC CHEMISTRY A COMPREHENSIVE TEXT Fourth Edition, INTERSCIENCE, 1980.
- ^ D.F.SHRIVER, P.W.ATKINS, INORGANIC CHEMISTRY Third Edition, 1999.
- ^ シャロー 『溶液内の化学反応と平衡』 藤永太一郎、佐藤昌憲訳、丸善、1975年
- ^ D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982)
- ^ 山崎一雄他 『無機溶液化学』 南江堂、1968年
- ^ 化学大辞典編集委員会 『化学大辞典』 共立出版、1993年
- ^ a b 『改訂4版化学便覧基礎編Ⅱ』 日本化学会編、丸善、1993年
- ^ 田中元治 『基礎化学選書8 酸と塩基』 裳華房、1971年
- ^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
- ^ a b c d e 米田幸夫 著、化学大辞典編集委員会(編) 編『化学大辞典』 1巻(縮刷版第26版)、共立、1981年10月、531-532頁頁。
参考文献
関連項目
外部リンク
硝酸
「硝酸」の例文・使い方・用例・文例
- 硝酸銀 《棒状》.
- 硝酸銀.
- 硝酸.
- 亜硝酸.
- 硝酸ナトリウム.
- 硝酸塩
- 硝酸銀
- 稀硝酸
- 黄金を試すには硝酸を用いる
- 有機化合物を硝酸エステルに変えるため、硝酸で処理する
- ニトログリセリンは、グリセリンを硝酸処理することによって得られる
- 硝酸塩で(土を)処理する
- 特にニトロバクテリアの作用で、硝酸、亜硝酸または硝酸塩に変化する
- 硝酸塩を減少させ、植物の茎にこぶを作る、小さい運動性の細菌性桿状体
- アンモニアや硝酸塩を酸化させる通常棒状のバクテリア:硝化バクテリア
- 亜硝酸塩を硝酸塩に変える土壌細菌
- アンモニアを亜硝酸塩に酸化させる土壌細菌
- 亜硝酸塩を酸化して硝酸塩にする硝化バクテリアのどれか
- アンモニアを酸化させ亜硝酸塩にする硝酸菌の総称
- この硝酸塩は、特定の状況の下でオパールのような光を放つ
硝酸と同じ種類の言葉
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