石鹸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/27 14:06 UTC 版)
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一般用語としての石鹸と化学用語としての石鹸は重なり合うことが多いが、化学的には石鹸ではないものが一般的に石鹸と呼ばれている場合や、その逆の場合がある。
概要
界面活性剤であり、油や油を含む汚れを水に分散させる作用により洗浄能力を発揮する[1]。
また、細菌やウイルスを洗い落とすことにより物理的に除去する「除菌作用」があるが、これは菌を殺す「殺菌」とは別である。全ての石鹸が細菌やウイルスに対する「殺菌作用」を持つわけではないが、殺菌を目的とした逆性石鹸や一部の薬用石鹸は殺菌作用を有する。
石鹸の主成分は脂肪酸塩であり、牛脂・羊脂・豚脂・硬化油・ヤシ油・綿実油などの油脂を水酸化ナトリウムなどの塩基で鹸化することによって作ることができる[2]。成分が脂肪酸塩だけで、添加物を含まない石鹸を指す特に純石鹸と呼ぶが、多くの石鹸は純石鹸ではなく、炭酸塩や香料などが添加されている。
石鹸は古代から手作りされてきた。現代でも家庭で容易に手作りすることができるが、市販品のほとんどは工業的に作られている。
一般には水を溶媒として溶かして使用するものであるが、水なしで使えるよう工夫されたドライシャンプーもあり、介護や災害時、宇宙ステーションでも使用されている[3]。
なお石鹸は硬水では泡立たず、石鹸かすを形成するため洗浄効果が低下する[4][5]。
分類
成分による分類
ナトリウム・カリウムなどのアルカリ金属塩のアルカリ石鹸と、アルカリ金属以外の金属塩の金属石鹸に分類され、石鹸といえば通常は前者を指す。
アルカリ石鹸は水溶性で表面活性が著しく、起泡力をもち洗浄力がすぐれる。
使用するアルカリ金属の種類によって、石けんの性状が異なる。水酸化ナトリウムから作られるナトリウム石鹸は固形で、水酸化カリウムから作られるカリウム石鹸は軟らかく、液状であることが多い。リチウム石けんも硬い傾向がある。リチウム石けんは、もっぱらグリースとして用いられる。
用途による分類
身体用石鹸
- 人の身体に用いる石鹸である。各国で薬事法などの規制を受ける[6]。浴用石鹸(ボディーソープ)、洗顔用石鹸、手洗い用石鹸(ハンドソープ)、薬用石鹸などがある。固形・粉石鹸はナトリウム石鹸で、液体石鹸・ボディーソープ・シャンプーは溶解度の大きいカリウム石鹸である。また、ナトリウム石鹸・カリウム石鹸を併用したものもある。なお「合成固形石鹸」は石鹸ではなく、日本の医薬品医療機器等法では「化粧品」として扱われている。
- なお、一般に「化粧石鹸」という言葉が使われることがあるが、これには明確な定義はない[6]。身体用の固形石鹸を「化粧石鹸」と呼ぶこともあれば、「洗顔石鹸」と「浴用石鹸」をひっくるめて「化粧石鹸」と呼ぶこともある[6]。いずれの場合も「化粧石鹸」は通常固形石鹸だけを指し、液体石鹸は含まれない[6]。
- 薬用石鹸
- 日本薬局方薬用石ケン
身体以外用石鹸
- 洗濯用石鹸
- 台所用石鹸
工業用石鹸
工場などの機械部品についた油汚れの除去を目的とする。汚れの程度が強いため、木材粉やパーライトなどの研磨剤を含むものが多い。
形状による分類
鹸化に使用するアルカリによって固まりやすさが変わるため、固形と液体は製造段階で分かれる。水酸化カリウムで鹸化したものはカリ石鹸(脂肪酸カリウム)、水酸化ナトリウムで鹸化したものはナトリウム石鹸(脂肪酸ナトリウム)と呼ばれ、カリ石鹸はナトリウム石鹸より融点が低い。
固形石鹸(Bar soap)
- ナトリウム石鹸を手に収まるサイズに成形したもの。ただし、洗濯石鹸ではキログラム単位のものもある。乾燥するとひび割れる事から、防湿包装される。プラスチック包装が普及するまではパラフィン紙(グラシン紙)が用いられた。
紙石鹸
- 固形石鹸を紙のように薄く削いだもので、手洗い一回分として携帯可能である。もともとは子供向けで駄菓子屋などで売られていた[注釈 1]。
- 近年は売り上げ下火となっていたが、新型コロナウイルスの流行に伴い手指の洗浄や除菌への関心が高まり、再び注目されつつある[11][12][13]。
粉末石鹸
- 主に洗濯用石鹸の形状。必要量を計量しやすく、溶かしやすい。
液体石鹸
- 常温でゼリー状から粘液状になるカリ石鹸を適度に加水したもの。ホテルなど宿泊施設では減った分だけ補充すればよい点が管理に有利なため普及している。手洗い用(ハンドソープ)と浴用(ボディソープ)があり、前者は殺菌と洗浄を、後者は香料や保湿を重視している。液状以外にゲル状、泡状(プッシュ式容器による)の製品がある。
石鹸ではないもの
界面活性剤として脂肪酸塩を利用していないため石鹸ではないが、一般に、または法令上「石鹸」とされているものがある。
逆性石鹸(陽性石鹸)
- 界面活性剤として脂肪族アミン(第四級アンモニウムイオン)を用いる。界面活性を持つイオンが陽イオンであるため、陽イオン界面活性剤に分類される。石鹸の脂肪酸イオンは陰イオンであり、性質が逆なので逆性石鹸と呼ばれる。
- 洗浄力は低いが殺菌力が強く、殺菌剤や消毒薬として利用される。なお、石鹸と混合すると界面活性剤同士が中和反応を起こして相殺し、効果が減じる。
- 塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムが外用の消毒薬として器具や手などの消毒に用いられている。
両性石鹸
- 両性イオン界面活性剤に分類される殺菌剤。消毒薬に利用される。普通の石鹸と混合しても殺菌力がある程度維持される。
ステンレスソープ
- 金属のイオン性を利用した臭い消し製品。作用原理が全く異なる。

歴史
起源
石鹸の歴史は紀元前3000年代に始まるといわれている[14]。
古代から水だけで落ちにくい汚れに対して粘土や灰汁、植物の油や種子[注釈 2]などが利用されていたが、やがて動物の肉を焼くときに滴り落ちた脂肪と薪の灰の混合物に雨が降り、アルカリによる油脂の鹸化が自然発生して石鹸が発見されたと考えられている。石鹸の「鹸」は「灰汁」や「塩基(アルカリ)」を意味する字であり(鹸性=塩基性、アルカリ性)、石鹸を平たく解釈すれば「固形塩基」「固形アルカリ」となる。
伝説では神への供物として羊を焼いたときの脂と灰で石鹸らしきものが誕生したとされ、それが古代ローマの「サポーの丘」での出来事であり soap の語源になったとされている[14][15]。一方、シュメール粘土板に薬用石鹸の記述がみられる。中東では現在でも石鹸が地場産業となっている地域(ナーブルスやアレッポなど)がある[16]。
普及
ヨーロッパではプリニウスの博物誌の記載が最初で、ゲルマン人とガリア人が用いていたこと、すでに塩析が行われていたことが記されている。その後いったん廃れるが、アラビア人に伝わり生石灰を使う製造法が広まると8世紀にスペイン経由で再導入され、家内工業として定着していった。12世紀以降、それまでのカリ石鹸に替わりオリーブ油を原料とする固形のソーダ石鹸が地中海沿岸を中心に広まり、特にフランスのマルセイユは9世紀以降主要な集散地から生産の中心地となった。
18世紀末には産業革命のもとで原料のアルカリ剤の大量生産が可能となったことで、石鹸も大量生産されるようになり普及した[14]。医学の進歩ともあいまって、皮膚病や多くの経口伝染病が減少した[17]。
1916年にはドイツで世界初の合成洗剤が誕生[14]。1933年にはアメリカで世界初の家庭用合成洗剤が発売された[14]。
日本
日本には安土桃山時代に西洋人により伝えられたと推測されている[18]。最古の確かな文献は、1596年(慶長元年8月)、石田三成が博多の豪商神屋宗湛に送ったシャボンの礼状である。
最初に石鹸を製造したのは、江戸時代の蘭学者宇田川榛斎・宇田川榕菴で、1824年(文政7年)のことである。ただし、これは医薬品としてであった[19]。
最初に洗濯用石鹸を商業レベルで製造したのは、横浜磯子の堤磯右衛門である[19]。堤磯右衛門石鹸製造所は1873年(明治6年)3月、横浜三吉町四丁目(現:南区万世町2丁目25番地付近)で日本最初の石鹸製造所を創業、同年7月洗濯石鹸、翌年には化粧石鹸の製造に成功した。1877年(明治10年)、第1回内国勧業博覧会で花紋賞を受賞。その後、香港・上海へも輸出され、明治10年代の前半に石鹸製造事業は最盛期を迎えた。1890年(明治23年)、時事新報主催の優良国産石鹸の大衆投票で第1位になったが、全国的な不況のなかで経営規模を縮小した。翌年創業者の磯右衛門が死去。その2年後の1893年(明治26年)、廃業した。彼の門下が花王、資生堂などで製造を続けた。
日本で一般に石鹸が普及したのは1900年代に入ってからである[14]。
銭湯では明治10年代から使用され始め、洗濯石鹸のことを「洗い石鹸」、洗面石鹸のことを「顔石鹸」と称していた[18]。また、艦上で真水が貴重だった大日本帝国海軍ではそれぞれセンセキ、メンセキと呼んでいたという。
第二次世界大戦直前には、原料油脂の入手が困難となったことから石鹸の規格や価格の統一化が段階的に進み、結果的に1940年には各石鹸ブランドが一時的に消滅した。名称も化粧石鹸から浴用石鹸へ、さらに洗濯石鹸と統合されて家庭用石鹸となった。1943年には、ベントナイトを混入した戦時石鹸が登場。さらに翌1944年には2号石鹸としてカオリンの混入、3号石鹸として混和物を80%まで認めた石鹸が製造された。これらは泥石鹸と呼ばれたが、戦争終結後はさらに劣悪な石鹸が流通した[20]。なお、当時、混和材として用いられたベントナイトやカオリンは、戦後に登場したクレンジング用の洗顔石鹸などに敢えて利用されることがある。
注釈
出典
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- ^ Cleancult. “What's The Difference Between Soap and Detergent” (英語). Cleancult. 2022年5月26日閲覧。
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