教育 教育社会学

教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/05 07:54 UTC 版)

教育社会学

教育社会学では、教育が社会に及ぼす効果として、経済・政治・社会などに与えるものが議論されている。

教育を行った結果としてどのようなことが起こるかについては、個人に与える影響と社会に与える影響の両面がある。エミール・デュルケームは、近代における教育の機能を「方法的社会化」であると捉え、政治社会と個々人の双方が必要とする能力態度の形成であるとした[13]。なお、教育が適切な効果・機能を果していない場合には、「教育の機能不全」、教育がむしろ否定的な効果・機能を果している場合には「教育の逆機能」と呼ばれることがある。

学校軍隊病院監獄などと同様の近代特有の権力装置であるとしたミシェル・フーコー [14]、学校教育が近代社会に支配的な国家イデオロギー装置であると論じたルイ・アルチュセール[15]、教育が文化的階級的・社会的な不平等格差再生産または固定化する機能を果しているピエール・ブルデューバジル・バーンスタインサミュエル・ボールズハーバート・ギンタス、教育は家父長制を再生産しているとのフェミニズムからの議論、教育は社会の多数派の文化を押し付けているという多文化主義からの議論、などが有名である。

また、政治面では、開発学においては識字率の上昇が民主化に寄与すると考えられることが多いが、識字率と民主化との間の相関は一般に考えられている程には高くなくむしろその反例も見つかることから、この考えは「西欧市民社会の誤謬である可能性」を指摘する見解がある[16]。そのほか社会的な面においては、教育の普及が男女階級平等に寄与するといった主張や、教育水準の上昇が幼児死亡率や衛生状態の改善に寄与するといった主張などがある。

そのほか、政治面では、各国において教育年数が長いほどおおむね個人主義的・革新的価値観を持つ者が増えることが明らかになっている[17]。この傾向は日本においても基本的に同様で、学歴が高いほど投票率が高まる半面、政治への満足度は逆に下がり、また、学歴が高まるほど自民党支持が減って、立憲民主党支持や支持政党無しの者が増えることが知られている[18]

人間の幸福になれる、幸福になれないというのは、IQ(知能指数)ではなく、他の人々の気持ちが分かる、などといった能力(EQ)のほうが、影響が大きいということが、ここ数十年の研究で明らかになってきている[19]。それどころか、卒業後の人生を追跡調査してみると、IQ(知能)ばかりが高い人は、EQが高い人と比べてその後の人生では、職業や家族などの点で恵まれず、当人も幸福を感じる割合が低かった。端的に言えば、知能ばかりを上げることを目標とした教育を受けても、教育は幸福の役に立つどころか、かえって人を不幸にしてしまう[19]


註釈

  1. ^ 聖書では子を教えるのは親の責任とされている(申命記(口語訳)#6:4-7
  2. ^ 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第十三条 1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。
  3. ^ ひと組のカップルから生まれる子供が2人以上になっている。
  4. ^ 家庭教育のうち人間社会において基礎的な価値観・態度をこどもに示すことは特にしつけと呼ばれる。
  5. ^ 家庭教育のうち人間社会において基礎的な価値観・態度をこどもに示すことは特にしつけと呼ばれる。
  6. ^ 例えば、昭和50年代の日本の製造業において、教育水準の高まりが1%ポイントほど経済成長の高まりに寄与した。参照、労働省 『昭和59年 労働経済の分析(労働白書)』第II部1(1)1)
  7. ^ 例えば、男性標準労働者の生涯賃金(2004年)は、中卒2億2千万円、高卒2億6千万円、大卒・大学院卒2億9千万円。(独立行政法人労働政策研究・研修機構 『ユースフル労働統計―労働統計加工資料集―2007年版』 2007年 ISBN 978-4-538-49031-1 p. 254)

出典

  1. ^ a b c d e f ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
  2. ^ 分析哲学の影響を受けたリチャード・ピーターズによる。Peters, R. S. Ethics and Education London, Allen and Unwin, 1966.
  3. ^ フランス政府の公式ページ
  4. ^ a b 中島さおり『なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル』講談社 2010[要ページ番号]
  5. ^ ドイツ教育費無料ってほんと?
  6. ^ アリストテレスニコマコス倫理学』・『政治学
  7. ^ J・デューイ 『民主主義と教育』など
  8. ^ I・カント 『教育学講義』
  9. ^ プラトン国家
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 川本亨二『教育原理』日本文化科学社、1995年。
  11. ^ Enhancing Education”. 2016年2月1日閲覧。
  12. ^ Perspectives Competence Centre, Lifeling Learning Programme”. 2014年10月15日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2016年1月1日閲覧。
  13. ^ E・デュルケーム 『教育と社会学』 佐々木交賢誠信書房 1922=1976年 (新装版 1982年 ISBN 978-4-414-51703-3
  14. ^ M・フーコー監獄の誕生――監視と処罰』 田村俶訳 1975=1977年
  15. ^ L・アルチュセール 『国家とイデオロギー』
  16. ^ 藤原郁郎 「民主化指標の考察と検証―識字率との相関分析を通じて―」『国際関係論集』(立命館大学) 第4号(2003年度) 2004年4月 pp.67-95.
  17. ^ Wiekliem, D. L. 'The effects of education on political opinions: An internationalstudy' International Journal of Public Opinion Research Vol.14 2002 pp.141-157.
  18. ^ 財団法人明るい選挙推進協会「第19回参議院議員通常選挙の実態」(2002年3月発行)、「第20回参議院議員通常選挙の実態」(2005年3月発行)などhttp://www.akaruisenkyo.or.jp/seach/index.html
  19. ^ a b ダニエル・ゴールマン『EQ こころの知能指数』講談社 1996年
  20. ^ 国際協力開発事業団 国際協力総合研修所 『開発課題に対する効果的アプローチ』2002年5月 p.23.
  21. ^ OECD 2014, p. 103.
  22. ^ 例えば、山田昌弘希望格差社会筑摩書房 2004年 ISBN 978-4-480-42308-5中野雅至 『高学歴ノーリターン』 光文社 2005年 ISBN 978-4-334-93370-8






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