教育 教育の概要

教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/28 14:09 UTC 版)

マダガスカルでの初等教育の風景
FIRST Robotics Competitionにおける学生徒弟
  • 教え育てること[1]
  • 知識技術などを教え授けること[1]
  • 人を導いて善良な人間とすること[1]l。
  • 人間に内在する素質、能力を発展させ、これを助長する作用[1]
  • 人間を望ましい姿に変化させ、価値を実現させる活動[1]

定義

語源・語義からの定義

漢語としての「教育」は、『孟子』に「得天下英才、而教育之、三楽也」(天下の英才を得て、而して之を教育するは、三の楽しみなり)とあるのが初めである。

語源・語義からの定義の例を挙げると、「英語: education」や「フランス語: éducation」は、ラテン語: ducere(連れ出す・外に導き出す)という語に由来することから、「教育とは、人の持つ諸能力を引き出すこと」とする。

リチャード・ピーターズの定義

リチャード・ピーターズ(en:Richard Stanley Peters)は、「教育を受けた者」という概念の内在的な意味を探求し、自由教育(教養教育)の立場から「教育」を次の3つの基準を満たす活動として限定的に定義した[2]

  1. 教育内容 - 価値あるものの伝達
  2. 教育効果 - ものの見方が広がる
  3. 教育方法 - 学習者の理解を伴う

高等動物では教育またはしつけに近い行動が見られる例があり、などの肉食獣では子供に狩りの練習をさせるために弱らせた獲物をあてがう。以下では、人間社会における教育について述べる。

歴史

最古の大学ともされるボローニャ大学での講義風景

教育に関する歴史教育史と呼ぶ。家庭教育社会教育も念頭に置けば、教育は人類の有史以来存在してきたものと考えることができる[註 1]

制度化された教育について、西洋では古代ギリシアまで遡ることが一般的である。高等教育機関は古代より世界各地に存在してきたが、現代の大学につながる高等教育機関が成立したのはヨーロッパの中世においてであって、11世紀末にはイタリアボローニャボローニャ大学が成立していたという。近代教育につながる教育学の祖形は、17世紀にコメニウスによって作られた。18世紀に入るとジャン=ジャック・ルソーが「エミール」を著し、この影響を受けたヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチによって学校教育の方法論が確立された。またペスタロッチは主に初等教育分野に貢献したのに対し、彼の影響を受けたフリードリヒ・フレーベルは幼児教育に、ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルトは高等教育に大きな足跡を残した。19世紀に入ると産業革命以降の労働者の必要性から、民衆に対する教育の必要性が強く叫ばれるようになり、多くの国で公教育が導入され、初等教育については義務化される国が現れ始めた。この義務教育化の流れは産業化された国々を中心に広がっていったものの、多くの国で国民に対する一般教育公教育として施行されるようになったのは、20世紀に入ってからである。また、特にヨーロッパや南アメリカのカトリック圏諸国においては、初等教育を国家ではなく教会が担うべきとの意見が根強く、19世紀における主要な政治の争点のひとつとなった。この論争は20世紀に入るころにはほとんど国家側の勝利となり、ほとんどの国で初等教育は基本的に国家が担うものとなっていった。第二次世界大戦後に独立したアジアアフリカの新独立国においても教育は重視され、各国政府は積極的に学校を建設し、教育を行っていった。これにより、世界の識字率は20世紀を通じて上昇を続け、より多くの人々に公教育が与えられるようになっていった。

文献上で確認できる日本で初めて作られた教育制度は、701年大宝律令である。その後も貴族武士を教育する場が存在し、江戸時代に入ると一般庶民が学ぶ寺子屋が設けられるようになった。初等教育から高等教育までの近代的な学校制度が確立するのは明治時代である。第二次世界大戦後の教育は、日本国憲法教育基本法に基づいている。

教育の理論

教育学

教育を研究の対象とする学問教育学と言う。教育学は、哲学心理学社会学歴史学などの研究方法を利用して、教育とそれに関連する種々の事物・理念を研究する。教育哲学教育社会学教育心理学・教育史学などの基礎的な分野のほか、教育方法論臨床教育学教科教育学などの実践的分野がある。各国における教育学のあり方は、その国の教員養成のあり方とも密接に関わっている場合が多い。

教育哲学

教育の目的(教育目的又は教育目標)をどうとらえるかで2つの立場が存在してきた。

  1. 道徳主義 - 政治社会道徳倫理と言った教育の外にあるものから教育目的を定めるもの(例 アリストテレス[3]
  2. 機能主義 - 教育それ自体が上手くいくように教育目的を定めるもの(例 ジョン・デューイプラグマティズム[4]

道徳主義の教育目的では、伝統的に、個人発達幸福のためとするか、社会の維持・発展のためとするかで論争がある。前者は教養教育・自由教育の立場で、人が一人の人間として豊かで幅広い教養を身につけることで、人が人間らしく生きることができるという考えである。こうした考え方は、一部の中等教育高等教育リベラルアート教育として実現している。他方、教育の目的を社会的な必要という観点から捉え、実学を重視する立場もある。専門学校専門職大学院などはこの現れである。

教育を行う理由のことを、教育の正当性と呼ぶことがある[要出典]。これには、教育の必要性と教育の可能性の二面から論じられることが多い。

なぜ教育が欠けてはならないのかという問題について、イマヌエル・カントは「人は教育によって人間になる」と述べ、人間らしく生きるために教育が必要であると論じた[5]学びの意欲を喪失した若者が多いといわれる現代において、なぜ教育が必要かが改めて問われる状況にある。

しかし教育が必要であるとしても、それが人間にとって可能なものでなければ、教育はやはり正当性を失うことになる。例えば、プラトンは「は教えうるか」と問い、哲人統治者としての自然的素養を重視した[6]。現在において教育可能性が問題となるのは、「教育がいかに可能か」という教育方法の問題や、「教育がどこまで可能か」という教育の限界の問題としてである場合が多い[要出典]


註釈

  1. ^ 聖書では子を教えるのは親の責任とされている(申命記(口語訳)#6:4-7
  2. ^ a b 家庭教育のうち人間社会において基礎的な価値観・態度をこどもに示すことは特にしつけと呼ばれる。
  3. ^ 例えば、昭和50年代の日本の製造業において、教育水準の高まりが1%ポイントほど経済成長の高まりに寄与した。参照、労働省 『昭和59年 労働経済の分析(労働白書)』第II部1(1)1)
  4. ^ 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第十三条 1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。
  5. ^ 例えば、男性標準労働者の生涯賃金(2004年)は、中卒2億2千万円、高卒2億6千万円、大卒・大学院卒2億9千万円。(独立行政法人労働政策研究・研修機構 『ユースフル労働統計―労働統計加工資料集―2007年版』 2007年 ISBN 978-4-538-49031-1 p. 254)

出典

  1. ^ a b c d e f ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
  2. ^ 分析哲学の影響を受けたリチャード・ピーターズによる。Peters, R. S. Ethics and Education London, Allen and Unwin, 1966.
  3. ^ アリストテレスニコマコス倫理学』・『政治学
  4. ^ J・デューイ 『民主主義と教育』など
  5. ^ I・カント 『教育学講義』
  6. ^ プラトン国家
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 川本亨二『教育原理』日本文化科学社、1995年。 
  8. ^ Enhancing Education”. 2016年2月1日閲覧。
  9. ^ Perspectives Competence Centre, Lifeling Learning Programme”. 2014年10月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月1日閲覧。
  10. ^ E・デュルケーム 『教育と社会学』 佐々木交賢誠信書房 1922=1976年 (新装版 1982年 ISBN 978-4-414-51703-3
  11. ^ M・フーコー監獄の誕生――監視と処罰』 田村俶訳 1975=1977年
  12. ^ L・アルチュセール 『国家とイデオロギー』
  13. ^ 藤原郁郎 「民主化指標の考察と検証―識字率との相関分析を通じて―」『国際関係論集』(立命館大学) 第4号(2003年度) 2004年4月 pp.67-95.
  14. ^ a b ダニエル・ゴールマン『EQ こころの知能指数』講談社 1996年
  15. ^ Wiekliem, D. L. 'The effects of education on political opinions: An internationalstudy' International Journal of Public Opinion Research Vol.14 2002 pp.141-157.
  16. ^ Gross and Simmons 2007,p33,Rothman et al.2005,p6,Klein and Stern2009
  17. ^ a b c d ブライアン・カプラン、月谷真紀訳 『大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学』みすず書房、2019,pp.346-350.
  18. ^ Rothman et al.2005,pp5-6
  19. ^ Gross and Simmons 2007,pp31-32.
  20. ^ Cardiff and Klein,2005,p243,Gross and Simmons 2007
  21. ^ Moe,2011,pp84-87.
  22. ^ a b c d 第48回衆議院議員総選挙 全国意識調査」財団法人明るい選挙推進協会,平成30年7月,p.53-54
  23. ^ a b 第 25 回参議院議員通常選挙全国意識調査令和2年、財団法人明るい選挙推進協会,p.54-55.
  24. ^ 国際協力開発事業団 国際協力総合研修所 『開発課題に対する効果的アプローチ』2002年5月 p.23.
  25. ^ フランス政府の公式ページ
  26. ^ a b 中島さおり『なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル』講談社 2010[要ページ番号]
  27. ^ ドイツ教育費無料ってほんと?
  28. ^ a b c 1年間の授業料「900万円」でも入学希望殺到…超富裕層向け「全寮制スクール」の実態
  29. ^ 勝間和代 『自分をデフレ化しない方法』 文藝春秋〈文春新書〉、2010年、180頁。
  30. ^ a b c ブライアン・カプラン、月谷真紀訳 『大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学』みすず書房、2019,pp.2-10,285-305.
  31. ^ OECD 2014, p. 103.
  32. ^ 例えば、山田昌弘希望格差社会筑摩書房 2004年 ISBN 978-4-480-42308-5中野雅至 『高学歴ノーリターン』 光文社 2005年 ISBN 978-4-334-93370-8
  33. ^ The Commercialization of Education,The Ney York Times.Commercialization in Education:https://doi.org/10.1093/acrefore/9780190264093.013.180
  34. ^ デレック・ボック、 宮田由紀夫訳 「商業化する大学」 玉川大学出版部2003
  35. ^ 上山降大 2010 『アカデミック・キャピタリズムを超えて~アメリカの大学と科学研究の現在~』 NTT出版,Slaughter. S,Leslie. L1997,Academic Capitalism politics,policies, and entrepreneurial university,The Johns Hopkins University Press.
  36. ^ 大場淳「日本における高等教育の市場化」 日本教育学会『教育学研究』第 76 巻第 2 号(平成 21 年 6 月)185-196,堀谷有史「高等教育における商業化についての考察― アカデミック・キャピタリズムと知識の公共性―」早稲田大学大学院教育学研究科紀要 別冊19号2,2012.
  37. ^ 「国立大学法人化は失敗だった」 有馬朗人元東大総長・文相の悔恨
  38. ^ 林寛平「グローバル教育政策市場を通じた「教育のヘゲモニー」の形成 ──教育研究所の対外戦略をめぐる構造的問題の分析─」『日本教育行政学会年報』第42巻、2016年、147–163頁。
  39. ^ 林寛平「比較教育学における「政策移転」を再考する ―Partnership Schools for Liberia を事例に―」『教育学研究』第86巻第2号、2019年、213–224頁。






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