教育 教育と社会

教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/21 04:21 UTC 版)

教育と社会

教育問題

教育に関わる問題、とりわけ教育が社会に関わる問題のことを教育問題という。特にその深刻さを強調する場合には、教育病理または教育危機とも呼ぶ。教育活動は複数の人間が集まって行われる以上、そこに必然的に社会が生まれる。学校や学級などはその例である。そこにおいて何らかの問題が生じることがあり、いじめ不登校学級崩壊教員児童生徒学生との権力関係などがここに含まれる。

政治・経済・地域社会・文化などは教育活動に大きな影響を与えているが、こうした影響が問題を生じさせることがある。例えば、国の諸政策マスコミによる報道などは、学校教育はもちろん家庭教育社会教育にも大きな影響を与えている。

学校教育を含む教育活動は、社会一般に対しても大きな影響を与える。狭義で教育問題とは、この局面で生じる問題を指すことがある。学歴管理教育偏差値非行少年犯罪学力低下など学習者、特にこどもを通じて結果として社会に与える影響の他にも、教師のあり方や学校大学のあり方、学閥などの問題として、教育問題は広く社会病理の一領域をなしている。

教育社会学

教育社会学では、教育が社会に及ぼす効果として、経済・政治・社会などに与えるものが議論されている。

教育を行った結果としてどのようなことが起こるかについては、個人に与える影響と社会に与える影響の両面がある。エミール・デュルケームは、近代における教育の機能を「方法的社会化」であると捉え、政治社会と個々人の双方が必要とする能力態度の形成であるとした[10]。なお、教育が適切な効果・機能を果していない場合には、「教育の機能不全」、教育がむしろ否定的な効果・機能を果している場合には「教育の逆機能」と呼ばれることがある。

学校軍隊病院監獄などと同様の近代特有の権力装置であるとしたミシェル・フーコー [11]、学校教育が近代社会に支配的な国家イデオロギー装置であると論じたルイ・アルチュセール[12]、教育が文化的階級的・社会的な不平等格差再生産または固定化する機能を果しているピエール・ブルデューバジル・バーンスタインサミュエル・ボールズハーバート・ギンタス、教育は家父長制を再生産しているとのフェミニズムからの議論、教育は社会の多数派の文化を押し付けているという多文化主義からの議論、などが有名である。

また、政治面では、開発学においては識字率の上昇が民主化に寄与すると考えられることが多いが、識字率と民主化との間の相関は一般に考えられている程には高くなくむしろその反例も見つかることから、この考えは「西欧市民社会の誤謬である可能性」を指摘する見解がある[13]。そのほか社会的な面においては、教育の普及が男女階級平等に寄与するといった主張や、教育水準の上昇が幼児死亡率や衛生状態の改善に寄与するといった主張などがある。

人間の幸福になれる、幸福になれないというのは、知能指数(IQ)ではなく、他の人々の気持ちが分かる、などといった感情指数(EQ)のほうが、影響が大きいということが、近年の研究で明らかになってきている[14]。それどころか、卒業後の人生を追跡調査してみると、IQばかりが高い人は、EQが高い人と比べてその後の人生では、職業や家族などの点で恵まれず、当人も幸福を感じる割合が低かった。端的に言えば、知能ばかりを上げることを目標とした教育を受けても、教育は幸福の役に立つどころか、かえって人を不幸にしてしまう[14]

教育者の政治的傾向

政治面では、各国において教育年数が長いほどおおむね個人主義的・革新的価値観を持つ者が増えることが明らかになっている[15]

アメリカ教員の政治的傾向

アメリカ合衆国の教育機関における教員の政治的傾向の調査によれば、リベラル保守より優勢であり、特に大学でこの傾向が強く、大学の人文学専攻での割合は共和党支持者1人に対して民主党支持者5人、社会科学系では共和党支持者1人に対して民主党支持者8人にのぼった[16][17]。アメリカの四年制大学の教授を対象とした調査では、50%が民主党、39%が支持政党なし、11%が共和党支持で[18]、二年制大学を含む全大学教授を対象とした調査では、51%が民主党、35%が支持政党なし、14%が共和党だった[19]。リベラル優勢の傾向は、エリート校になるにつれ高まり、四年制のリベラルアーツ系大学と博士課程を持つエリート大学の方が、コミュニティカレッジよりも、リベラルの割合が高い[20]。また、K-12(幼稚園から高校)の教育でも同様で、K-12の公立校の先生の支持政党は、45%が民主党、30%が共和党、25%が支持政党なしという結果だった[21][17]

米国教育者の政治的傾向(政党支持率)[17]
民主党 共和党 支持政党なし
四年制大学教員 50% 11% 39%
二年制大学を含む全大学教員 51% 14% 35%
K-12(幼稚園から高校)教員 45% 30% 25%

日本の学歴別政党支持率

前節で説明した通り、アメリカの大学教員における政治的傾向では民主党支持者(左派リベラル)が50%で共和党支持者(保守)が11%と、リベラルが優勢である[17]

これに対して、日本では自民党は学歴問わず最も支持される政党である[22]。ただし、学歴が高いほど自公支持率は低くなる傾向が見られ、支持政党なしが選択される傾向にある[22]明るい選挙推進協会による2017年(平成29年)10月22日第48回衆議院選挙の調査[22]、および令和元年(2019年)の第25回参議院議員通常選挙調査でも概ね同傾向にあった[23]

学歴別政党支持率(2017)[22]
自民党 民進党 立憲民主党 公明党 希望の党  共産党 維新の会 自由党 社民党 その他の党 支持政党なし
中学卒 43.4 3.5 8.2 10.2 1.2 5.5 3.9 0.8 1.6 0.4 16.8
高校卒 38 2.1 10.2 4.5 0.9 3.3 2.3 0.2 0.9 0.4 31.1
短大・高専・専門学校卒 32.3 2.4 6.3 3.4 0.7 1.9 1.5 0 0.5 0.2 42.7
大学・大学院卒 35.9 2.2 9 2.8 0.9 2.1 2.6 0 1.2 0.2 39.2


学歴別政党支持率(2019)[23]
自民党 公明党 立憲民主党 国民民主党 共産党  維新の会 社民党 れいわ N国党 その他の党 支持政党なし
中学卒 48.8 6.1 13.4 0.6 1.2 1.8 1.2 0.6 0 0.6 16.5
高校卒 37.9 4.7 9.7 1.5 4.2 4.1 1.7 0.9 0.9 0.2 26.3
短大・高専・専門学校卒 29.9 4.1 6.1 0 2.9 4.5 0.3 1 0 1 40.4
大学・大学院卒 34.6 3.1 10.4 1.6 2 3.1 0.6 2.2 0.4 0.4 35

註釈

  1. ^ 聖書では子を教えるのは親の責任とされている(申命記(口語訳)#6:4-7
  2. ^ a b 家庭教育のうち人間社会において基礎的な価値観・態度をこどもに示すことは特にしつけと呼ばれる。
  3. ^ 例えば、昭和50年代の日本の製造業において、教育水準の高まりが1%ポイントほど経済成長の高まりに寄与した。参照、労働省 『昭和59年 労働経済の分析(労働白書)』第II部1(1)1)
  4. ^ 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第十三条 1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。
  5. ^ 例えば、男性標準労働者の生涯賃金(2004年)は、中卒2億2千万円、高卒2億6千万円、大卒・大学院卒2億9千万円。(独立行政法人労働政策研究・研修機構 『ユースフル労働統計―労働統計加工資料集―2007年版』 2007年 ISBN 978-4-538-49031-1 p. 254)

出典

  1. ^ a b c d e f ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
  2. ^ 分析哲学の影響を受けたリチャード・ピーターズによる。Peters, R. S. Ethics and Education London, Allen and Unwin, 1966.
  3. ^ アリストテレスニコマコス倫理学』・『政治学
  4. ^ J・デューイ 『民主主義と教育』など
  5. ^ I・カント 『教育学講義』
  6. ^ プラトン国家
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 川本亨二『教育原理』日本文化科学社、1995年。 
  8. ^ Enhancing Education”. 2016年2月1日閲覧。
  9. ^ Perspectives Competence Centre, Lifeling Learning Programme”. 2014年10月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月1日閲覧。
  10. ^ E・デュルケーム 『教育と社会学』 佐々木交賢誠信書房 1922=1976年 (新装版 1982年 ISBN 978-4-414-51703-3
  11. ^ M・フーコー監獄の誕生――監視と処罰』 田村俶訳 1975=1977年
  12. ^ L・アルチュセール 『国家とイデオロギー』
  13. ^ 藤原郁郎 「民主化指標の考察と検証―識字率との相関分析を通じて―」『国際関係論集』(立命館大学) 第4号(2003年度) 2004年4月 pp.67-95.
  14. ^ a b ダニエル・ゴールマン『EQ こころの知能指数』講談社 1996年
  15. ^ Wiekliem, D. L. 'The effects of education on political opinions: An internationalstudy' International Journal of Public Opinion Research Vol.14 2002 pp.141-157.
  16. ^ Gross and Simmons 2007,p33,Rothman et al.2005,p6,Klein and Stern2009
  17. ^ a b c d ブライアン・カプラン、月谷真紀訳 『大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学』みすず書房、2019,pp.346-350.
  18. ^ Rothman et al.2005,pp5-6
  19. ^ Gross and Simmons 2007,pp31-32.
  20. ^ Cardiff and Klein,2005,p243,Gross and Simmons 2007
  21. ^ Moe,2011,pp84-87.
  22. ^ a b c d 第48回衆議院議員総選挙 全国意識調査」財団法人明るい選挙推進協会,平成30年7月,p.53-54
  23. ^ a b 第 25 回参議院議員通常選挙全国意識調査令和2年、財団法人明るい選挙推進協会,p.54-55.
  24. ^ 国際協力開発事業団 国際協力総合研修所 『開発課題に対する効果的アプローチ』2002年5月 p.23.
  25. ^ フランス政府の公式ページ
  26. ^ a b 中島さおり『なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル』講談社 2010[要ページ番号]
  27. ^ ドイツ教育費無料ってほんと?
  28. ^ a b c 1年間の授業料「900万円」でも入学希望殺到…超富裕層向け「全寮制スクール」の実態
  29. ^ 勝間和代 『自分をデフレ化しない方法』 文藝春秋〈文春新書〉、2010年、180頁。
  30. ^ a b c ブライアン・カプラン、月谷真紀訳 『大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学』みすず書房、2019,pp.2-10,285-305.
  31. ^ OECD 2014, p. 103.
  32. ^ 例えば、山田昌弘希望格差社会筑摩書房 2004年 ISBN 978-4-480-42308-5中野雅至 『高学歴ノーリターン』 光文社 2005年 ISBN 978-4-334-93370-8
  33. ^ The Commercialization of Education,The Ney York Times.Commercialization in Education:https://doi.org/10.1093/acrefore/9780190264093.013.180
  34. ^ デレック・ボック、 宮田由紀夫訳 「商業化する大学」 玉川大学出版部2003
  35. ^ 上山降大 2010 『アカデミック・キャピタリズムを超えて~アメリカの大学と科学研究の現在~』 NTT出版,Slaughter. S,Leslie. L1997,Academic Capitalism politics,policies, and entrepreneurial university,The Johns Hopkins University Press.
  36. ^ 大場淳「日本における高等教育の市場化」 日本教育学会『教育学研究』第 76 巻第 2 号(平成 21 年 6 月)185-196,堀谷有史「高等教育における商業化についての考察― アカデミック・キャピタリズムと知識の公共性―」早稲田大学大学院教育学研究科紀要 別冊19号2,2012.
  37. ^ 「国立大学法人化は失敗だった」 有馬朗人元東大総長・文相の悔恨
  38. ^ 林寛平「グローバル教育政策市場を通じた「教育のヘゲモニー」の形成 ──教育研究所の対外戦略をめぐる構造的問題の分析─」『日本教育行政学会年報』42巻、2016年、147–163頁。
  39. ^ 林寛平「比較教育学における「政策移転」を再考する ―Partnership Schools for Liberia を事例に―」『教育学研究』86巻2号、2019年、213–224頁。






品詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「教育」の関連用語

教育のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



教育のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの教育 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS