クライムバスターズ
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ロールシャッハ/ウォルター・ジョゼフ・コバックス(Rorschach/Walter Joseph Kovacs) 本作の狂言回し。違法に活動を続けている唯一のヒーロー。超能力こそ持たないものの、かつて体操競技やアマチュア・ボクシングに才能を見せた身体能力を武器とする。また、己の正義感に異常なまでに忠実であり、その在り方はニーチェの提唱した精神的「超人」に近い。その行動は暴力的であり、少なくとも2件の殺人容疑が掛けられており、正当防衛の殺人が5件はある。1977年にキーン条例が制定された時は、連続強姦魔の死体に「断る!」というメッセージを添えて警察署の前に放置した。 フェドーラの帽子、灰色のスカーフ、茶色のトレンチコート、同様の色の革手袋、紫色のストライプ、全く磨かれていないエレベーターシューズ、そしてロールシャッハ・テストを思わせる意匠のマスクをコスチュームとしている。マスクは白色の生地に挟まれた黒い液体が圧力や熱に反応して流動して模様が変わる「インクブロットマスク」。その他、ガス圧でフックを発射するワイヤーガンと日記を携帯しており、捜査状況や自警活動の内容を記録している。 正体は身長167cm、体重64kgの赤毛で無表情な男性として示される。無職であり、普段は「The End is Nigh(終末は近い)」と書かれた看板を持って街中を徘徊している。彼は自身の醜い顔の代わりに、覆面を「本当の顔」だとしている。風呂に入らず、洗濯もせず、部屋も掃除しないため、非常に不潔(本人は全く改善する気はない。)。また、激しい右翼主義者であり、幼少期の経験から女性や性行為に嫌悪感を抱いている。 幼少期を貧しい母子家庭で育ち、売春で生計を立てていた母親からは虐待を受けていた。その後自身が起こした暴力沙汰がきっかけで児童養護施設に引き取られることとなり、そこで様々な分野で才能を見せるとともに社会性の回復も認められ、出所後は縫製工場に勤務する。1964年3月、かつて顧客であった女性(キティ・ジェノヴィーズ)が殺害されたこと、大声で助けを求める彼女を誰も助けようとしなかったことを知ったことで人間の本性は無関心で破廉恥なクズだと悟り、キティのドレスの残骸でマスクを作成、ヒーローとして活動を開始する。 活動開始当初は理性を保った模範的なヒーローであり、1975年以前に犯罪者に重傷を負わせた記録は無く、殺さず拘束した犯人とともにロールシャッハテストの模様を書いたカードを残し警察に引き渡すというスタイルであった。また、1960年代は二代目ナイトオウルとチームを組んでギャングと戦っていた。しかし、1975年に発生したブレア・ロッシュ少女誘拐事件をきっかけに彼は変貌する。容疑者の男を追跡した先の小屋で男が少女を殺して死体を犬に喰わせた証拠を見つけたコバックスは、衝動的に犬の頭を包丁で叩き割り、帰ってきた男に犬の死体を窓から投げつけ、手錠をかけてストーブの灯油を撒き火を放った。人間や社会に対して抱いていたわずかな希望を打ち砕かれたコバックスは「生まれ変わり、無意味な白紙の世界に自分の考えを記そうと決意」、世の中を自らの価値観で極端なまでに善と悪で二分し、悪と見做したものを徹底的に断ずるロールシャッハとなった。 モデルは、スティーブ・ディッコが創造した「ミスターA(Mr. A)」。鋼鉄のマスクに背広とフェドーラ帽を身に付けたミスターAは自分の倫理観に過酷なまでに忠実なクライムファイターであり、彼が現場に残していく「善」の白と「悪」の黒に二分されたカードはいかなる倫理的に灰色の領域も許さないというその信念を象徴している。「このスティーブ・ディッコの典型的なキャラクター―変な名前を持ち、「K」で始まる名字を持ち、奇妙なデザインのマスクを被っている―を再現しよう」と試みたとムーアは語っている。また、同じくディッコによって創造された「クエスチョン(Question)」も、ロールシャッハのモデルとして使用されている。 コミック史研究家のブラッドフォード・W・ライトは、ロールシャッハの世界観とは「彼の名の由来となったインクの染みを用いた心理学テストの様に、黒と白は様々な形を取っても、決して灰色に交じり合う事がない」物だと述べている。ロールシャッハにとって世界は偶然に支配された場所であり、ライトによればこの世界観がロールシャッハに「『モラルの欠落した世界』へ思うがままに『自らデザインした模様を書き殴らせて』いる」理由だという。 Dr.マンハッタン/ジョナサン・“ジョン”・オスターマン(Doctor Manhattan/Jonathan "Jon" Osterman) イントリンジック・フィールドの実験室で起きた事故により超人的能力を得た、本作における唯一の超人。あらゆる原子を思うがままに操作できる能力を持つ。また、時間を超越しているため自分の体験した過去・現在・未来の事象を全て同時に認識している。その一方で、超人的な能力の影響を受けて徐々に人間性を喪失しているが、その事を周りの人間に理解されていないため、以前の恋人ともすれ違いの後に別れ、現在の恋人であるローリー(二代目シルクスペクター)との仲も悪化しつつあり孤立を深めている。 全身が水色で、体毛が一切ない。額に水素原子をモチーフにしたマークを描いている。デビュー当初は黒いボディスーツを着用していたが、年月を経るにつれて面積が減少し、レオタード状、パンツ、ビキニパンツとなり、最終的には全裸となる。 キーン条例制定後もベトナム戦争を勝利に導いた功績に加え、ソビエトに対する抑止力、国防の要として活動が許可された。その技術によってアメリカの文明は大きく発展しており、現代を凌ぐほどの数々の新技術が存在する。これは他のスーパーヒーローの装備品にも影響を及ぼしている。 モデルは「キャプテン・アトム(Captain Atom)」である。キャプテン・アトムはロケットの爆発事故で原子分解された事からスーパーパワーを手に入れたヒーローで、自分の持つ核エネルギーを周囲の人間に警告する原子マークのコスチュームを着用している。ムーアの原案上では、キャプテン・アトムは核戦争の恐怖を体現するキャラクターであったが、ムーアはDr.マンハッタンに対しては、彼がキャプテン・アトムで考えていた時以上の「量子力学的スーパーヒーロー」の要素を付け加えている。 また、当時のスーパーヒーローが彼らのオリジンに対して科学考証を欠いていたのに対し、ムーアはDr.マンハッタンの構築に当たって原子核物理学と量子力学に関する考証を試みた。ムーアは、量子力学的宇宙に生きる人物は遠近法的な視点で時間を知覚せず、それは彼の人間関係の受け取り方に影響を及ぼすであろうと考えたが、『スタートレック』のスポックの様な無感情なキャラクターを創造するのは避けたいと望み、Dr.マンハッタンにある程度の「人間的な習慣」を残すことで、そこからストーリーが進むにつれ徐々に人間性を失っていく様を描いた。 ギボンズはムーアに対し、かつて自身が創造した全身青色のキャラクター「ローグ・トルーパー(Rogue Trooper)」を基に、Dr.マンハッタンの皮膚の色調にはそのモチーフを再利用しようと提案、ムーアはその提案を採用した。それにより、ギボンズはコミックの色彩設計の中でDr.マンハッタンが取り分けユニークなキャラクターになったと語っている。一方のムーアは、DCが全裸の登場人物を許可するかどうか確信が持てず、Dr.マンハッタンの描写には苦心した事を回想している。ギボンズはマンハッタンの全裸を上品に作画する事を試み、正面を描くタイミングを慎重に選択し、読者がすぐにはそれと気付かないような、ギリシャ彫刻風の、「慎み深い」男性器を彼に与えたとしている。 1989年にサム・ハムが執筆した未採用の映画脚本では、ヴェイトの最終目的を「過去のオスターマンを殺害しDr.マンハッタンの出現を防ぐこと」としており、Dr.マンハッタンがヴェイトを殺害した時に歴史は変更され、オスターマンはDr.マンハッタンに変貌しない事になる、というストーリーであった。 コメディアン/エドワード・モーガン・ブレイク(The Comedian/Edward Morgan Blake) キーン条約の制定後に活動している政府公認のヒーロー。「ミニッツメン」の発足当時からヒーローとして活動しており、当初はギャングと戦っていたが、太平洋戦争とベトナム戦争に従軍して政府にコネを作り、イランアメリカ大使館人質事件を解決するなど工作員として活動していた。また、ウォーターゲート事件を追跡していた記者を殺害し、ジョン・F・ケネディを暗殺した張本人であることが示唆されている。失踪したフーデッド・ジャスティスの行方を追う任務にもついており、公式には失敗したと記録されているが、発見し殺害した上で成果を偽ったとも推察されている。 自らの暴力衝動を満たす為にヒーローとなるような過激で粗暴な人物だが、それ故に「20世紀という時代のパロディ」となることを選んだ。かつてサリーをレイプしようとした事があり、ホリス・メイソン(初代ナイトオウル)の自伝でそれが暴露された。そのためローリーから敵視されているが、その事件後合意の元で性行為を行っており、その際にできた子供が後のローリーであることが明かされる。 ミニッツメン時代のコスチュームは顔をドミノマスクで隠した薄い布の黄色いコスチュームだった。任務中に負傷した後、革製のフルフェイスマスクと星条旗をアレンジした革製のボディアーマーに変更している。また、スマイリーフェイスマークのバッジを愛用しており、コメディアンの血に汚れたバッジは本作のシンボルである。 死亡する約1週間前、任務からの帰還途中地図上に記載されていない島を発見し、反政府組織の拠点であると疑い島に降り立つも、そこで進められるオジマンディアスの計画の全貌を目撃してしまう。オジマンディアスによる「史上最大の悪質なジョーク」を目の当たりにしたコメディアンは精神のバランスを崩し、モーロックのもとを訪れ怒り涙する。そして、その一部始終を監視していたオジマンディアスに殺害されてしまう。 コメディアンの原型となっているのは、チャールトン・コミックに登場する平和の為なら暴力も厭わないという主義を持つスーパーヒーロー「ピースメーカー(Peacemaker)」であり、更にマーベル・コミックのCIA諜報員ヒーロー「ニック・フューリー(Nick Fury)」の要素が加えられている。ムーアとギボンズは、コメディアンを「巨体と怪力を与えられたジョージ・ゴードン・リディ的なキャラクター」と考えていた。 二代目ナイトオウル/ダニエル・“ダン”・ドライバーグ(Nite Owl II/Daniel "Dan" Dreiberg) フクロウをモチーフにしたコスチュームを身に纏うヒーロー。かつてはロールシャッハの相棒として活躍していたが、キーン条例の制定と共に引退していた。引退後は鳥類に関する論文を科学誌に寄稿している。また、先代のホリス・メイソンやロールシャッハとの間には友人関係が続いている。 子供の頃から騎士物語やヒーローに憧れており、銀行家であった父の遺産で装備を整え、メイソンが引退すると許可を取り名前を襲名してデビューした。ステルス機能に加えて火炎放射器やミサイル、機関砲を搭載した飛行船オウルシップ・アーチー、小型レーザー、ホバーバイク、各種防護服、暗視ゴーグルを使用する。また、ベルトには様々な装備品が収納されたポーチが備わっており、リモコンを使ってアーチーを遠隔操作することなども可能。 自ら引退の道を選んだものの、未だ情熱を抱き押さえ込んでいたためインポテンツであったが、ローリーとの再会などを経てヒーロー活動を再開するにつれてかつての輝きを取り戻す。 モデルは「二代目ブルービートル/テッド・コード(Blue Beetle II/Ted Kord)」。コードは先代であるダン・ギャレット(Dan Garrett)の遺志を受け継ぎ、二代目ブルービートルとして、昆虫型の飛行船を乗り回し、自ら発明した武器を手に戦うヒーローだった。正体が新人警官である先代のギャレットは、初代ナイトオウルであるホリス・メイソンのモデルにもなっている。リチャード・レイノルズは自著『Super Heroes: A Modern Mythology』において、ナイトオウルの行動様式にはDCの「バットマン」とより大きな共通点が見られると述べている。ジェフ・クロックによれば、ドライバーグの普段の姿は「中年に達した性的不能のクラーク・ケントを連想させる」。ギボンズはドライバーグを「自分の趣味に過度に没頭する、漫画マニアの少年」だと考えていた。 オジマンディアス/エイドリアン・ヴェイト(Ozymandias/Adrian Veidt) 卓越した頭脳を持ち、世界で最も賢い男と呼ばれる。優れたアスリートでもあり、その身体能力は至近距離で発射された銃弾を素手で受け止められるほど高い。金色のヘッドバンド、マント、胸飾りのついたチュニックというコスチュームを着用。現役時代はドミノマスクで顔を隠していたが、引退後にコスチュームを着る際には素顔のままである。 かつてはアレキサンダー大王に憧れてユーラシア大陸を放浪したが、彼が失敗した事を悟ると今度はラムセス2世に学んだ。名前の「オジマンディアス」は、ラムセス2世のギリシャ語名にちなんだものである。キーン条約の制定以前に人気を保ったまま引退したため市民から賞賛されている人物でもあり、その知名度を活かしてヴェイト社を世界的企業にまで成長させた。 南極に巨大な秘密基地「カルナック」を保有しており、Dr.マンハッタンの発明品を実用化して様々な研究へと投資することでアメリカを発展させている。この成果でもある遺伝子操作で生み出された猫科の動物ブバスティスを伴っており、これは現役時代には存在していなかったが、オジマンディアスのアニメなどでは共に活躍しているなど、彼のトレードマークとして認識されている。 その頭脳により世界を滅亡させかねない核戦争の勃発が間近に迫っているという結論を導き出したオジマンディアスは、これを阻止するため「人類にとっての共通の敵」を作る事で敵対する国家同士を結びつけるということを画策する。まず、ヒーローとしての絶頂期に自ら引退することでその後の事業を優位に進め、莫大な富と名声を築き最先端の技術を手にした。さらに計画を進めるための拠点として島を買い上げ、そこへ世界中の優れた科学者や芸術家、超能力者などを結集させ、超能力者の脳髄から培養し膨大な量の情報を組み込んだ強大な脳を移植した巨大なエイリアンを創造しそれをニューヨークへ転送。テレポートされた生物は転送中に死ぬか転送先で爆発するという問題点を活かしてニューヨークを襲い、爆発によって死ななかった者をその爆発によって発生した精神波動の衝撃波によって死に至らせ、衝撃波でも死ななかった者には奇怪な幻覚により精神異常を起こさせる。そしてそれを「エイリアンの侵略によりニューヨーク市民の半分が殺された」と偽装するという計画であった。 モデルは「サンダーボルト(Thunderbolt)」。ヒマラヤのラマ僧院で育てられ古代の賢者の秘術を授けられたキャラクターであり、ムーアは「脳の全領域を使用することで肉体と精神を完全に活用できるようになった」という設定に感銘を受けていた。ギボンズは「ヴェイトの最悪の罪の一つは、ある意味で残りの人類を見下し嘲笑していることなんだ」と述べている。2008年にヴェイトは『フォーブス』誌が選ぶ「架空の大富豪ベスト15」の第10位にランクインした。 二代目シルクスペクター/ローレル・ジェーン・“ローリー”・ジュスペクツィク(Silk Spectre II/Laurel Jane "Laurie" Juspeczyk) 初代シルクスペクターことサリーの娘であり、彼女によってスーパーヒーローとしての英才教育を施されて成長するとシルクスペクターの名を継いだ。しかし、ローリーは「親に押し付けられた」と反発している。また、母親がブレイクを憎んでいない事に対して怒りを抱き続けている。現在は引退してDr.マンハッタンの恋人として同棲しているが、彼の価値観を受け入れる事ができず、関係は悪化している。 黒色のボンデージのようなコスチュームに、透き通った黄色の上着、ハイヒールを着用する。 映画版においてはコスチュームが大きく異なり、黄色と黒のボンデージ風スーツに、長手袋、ロングブーツ。現役時代は、髪型もポニーテールに変えている。 彼女とDr.マンハッタンの関係は、キャプテン・アトムとその恋人「ナイトシェイド(Nightshade)」の関係に似ているが、他の主要人物とは異なり、シルクスペクターはチャールトンに特定のモデルキャラクターを持っていない。登場人物の中に女性ヒーローの必要性を感じたムーアは、「ブラックキャナリー(Black Canary)」や「ファントムレディ(Phantom Lady)」の様なアメコミヒロインから着想を得てシルクスペクターを描いた。IGNで紹介されている2003年に書かれたデビッド・ヘイターによる映画『ウォッチメン』草稿では、ローリーの姓はジュピターであり、コードネームはスリングショットであった。
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