根 さまざまな根

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/25 02:41 UTC 版)

さまざまな根

根はふつう地中にあり、植物体の固定と水・無機養分の吸収という機能をもつ。しかし地中部にあってもこれ以外の機能をもつ根も存在する。また地中ではなく地上に伸びて機能する根もある (気根)。さらに、根はしばしば他生物 (菌根菌根粒菌、宿主植物など) と密接な共生関係を結んでいる。

地中根

地中にある根は地中根 (terrestrial root) と総称される[37]

6a. キク科草本の普通根 (定根)
6b. ブラックベリー (バラ科) の普通根 (不定根)
  • 普通根 (ordinary root)[37]
    形態的にも機能的にもふつうの根のこと。定根の場合も不定根の場合もある (図6a, b)。
6e. ダイコン (アブラナ科) の多肉根 (青首の部分は胚軸)
6f. ビート (ヒユ科) の多肉根
6g. ヒアシンス (キジカクシ科) の収縮根 (環状のしわが見える)
6h. レウコスペルムム属 (ヤマモガシ科) のクラスター根
  • 収縮根 (contractile root; 牽引根 traction root)[10][16][37][62]
    地下茎が成長に伴って地上部に出るのを防ぐために、これを地中に引き込む機能をもつ根のこと。伸長後に収縮するため、表面に環状のしわが生じる (図6g)。地下茎から生じる不定根である。ユリ (ユリ科) やグラジオラス (アヤメ科)、リンドウ (リンドウ科)、シシウド属 (セリ科)、アザミ (キク科) などに見られる。
  • クラスター根 (cluster root, proteoid root)[63]
    短い側根が密生して試験管ブラシ状に変形した根 (図6h) であり、また有機酸分泌能力が一般的な根よりも高く、土壌中の難利用性のリンを溶解し吸収しやすくすることでリン欠乏土壌に適応している。ヤマモガシ科 (学名: Proteaceae) の植物から発見されたため、かつては proteoid root とよばれていた。しかし後にマメ科クワ科ヤマモモ科などからも見つかったため、形態的特徴に基づいてクラスター根(房のような根の意味)とよばれるようになった。また側根ではなく根毛が房状に形成されたダウシフォーム根(dauciform root)がカヤツリグサ科イグサ科の一部に、同様のキャピラロイド根がサンアソウ科に見られ、これらもクラスター根と同様にリン吸収に適応したものであると考えられている[64]

気根

地上部にある根は気根 (aerial root) と総称される[37][65]地下茎から生じるものや、地上茎、水中茎から生じるものなどがある。

7a. オヒルギ (ヒルギ科) の呼吸根 (屈曲膝根) (奥に支柱根も見られる)
7b. ヌマスギ (ヒノキ科) の呼吸根 (直立膝根)
  • 呼吸根 (通気根[54]、respiratory root, pneumatophore)[37][66] (→詳細は「呼吸根」を参照)
    地上に露出し、地下部の呼吸のための酸素を取り入れる根のことであり、内部に通気のための組織をもつ。沼沢地など地中の酸素に乏しい環境に多い。上へ垂直に伸びる直立根 (erect root) (例:ハマザクロ)、上下に屈曲しながら伸びる屈曲膝根 (curved knee-root) (例:オヒルギ; 図7a)、根の背面が所々で上部に向かって肥大する直立膝根 (erect knee-root) (例:ヌマスギ; 図7b) に類別される。
7c. カトレア (ラン科) の吸水根
7d. クモラン (ラン科) の同化根
  • 吸水根 (absorptive root)[37]
    空気中の水分を吸収するための根のこと。表皮が多層化して死細胞となり (ときに木化する)、空気中の水分を吸収・貯蔵することができる。このような表皮は根被 (velamen) とよばれる[23][24]サトイモ科ラン科着生植物に例がある (図7c)。また「吸水根」という用語は全く別の意味で用いられることがあり、1つの植物において、土壌深くまで伸びて主に水を吸収する根を吸水根、浅く広がって主に無機養分を吸収する根を吸肥根とよぶことがある[67]
  • 同化根 (assimilation root, assimilatory root)[37][68]
    多数の葉緑体を含み、扁平化して光合成を行う根 (図7d)。カワゴケソウ科クモラン (ラン科) ではが退化しており、同化根が光合成器官となる。
7e. カポック (アオイ科) の板根
7f. タコノキ属 (タコノキ科) の支柱根
7g. 多数の気根を垂らした Ficus virens (クワ科)
7h. 気根によって他の木を覆う Ficus barbata (クワ科)
  • 絞め殺し植物 (strangler)[70] (→詳細は「絞め殺しの木」を参照)
    他の植物 (宿主) の樹冠で発芽し、成長する。寄生植物ではないため宿主となった植物から栄養を奪うことはないが、地面に向けて多数の気根を伸ばし (図7g)、やがてこの気根が宿主の幹を覆うとともに (図7h)、茎は葉を付けて宿主の樹冠を覆う。宿主植物が枯死した場合には ("絞め殺し") その部分が空洞になり、かご状になった絞め殺し植物の気根が残る。ガジュマルなどイチジク属 (クワ科) に例が多いが、他にもヤドリフカノキ (ウコギ科) やヤマグルマ (ヤマグルマ科) が絞め殺し植物となることがある。
7i. イワガラミ (アジサイ科) の付着根
7j. バニラ (ラン科) の節からは、巻ひげになる気根が生じている。
7k. ヘゴ属 (薄嚢シダ類) の茎を覆う保護根
7l. クリオソフィラ属 (ヤシ科) の根針
  • 保護根 (protecive root)[37]
    茎から生じ、多数が密に絡み合って茎を厚く覆う根であり (図7k)、茎を保護し機械的支持を与える。いわゆる木生シダとよばれる植物に見られ、ヘゴ (薄嚢シダ類) では茎の直径 13 cm に対して保護根の厚さ 56 cm に達した例がある。
  • 根針 (根刺、root spine, root thorn)[37][54][73]
    茎から生じ、硬い棘になった根 (図7l)。ヤシ科に例が多く、その他に Moraea (アヤメ科)、ヤマノイモ属 (ヤマノイモ科) などで見られることがある。

水中根

8. コウキクサ (サトイモ科) はそれぞれ1本の水中根をもつ.

通常の状態として水中に伸びている根を水中根 (aquatic root) という[37] (図8)。このような根は、根冠や根毛を欠いていることがある[8][26]ミズキンバイ (アカバナ科) は、水底を横走する根茎の背面から列状に生じて水中に浮かんでいる根をもち、特に浮根 (floating root) とよばれる[37]

他生物と共生した根

根はふつうは地中にあり、他生物と密接な共生関係を築いている例が多い。根は特に根冠や根毛を通じて有機物 (光合成産物の20%にも達することもある) を土壌中に分泌・放出しており、根の周囲に特異な環境を形成している[58]。このような環境は根圏 (rhizosphere) とよばれ、さまざまな微生物が植物と共生関係を結んで生育している。また下記のように、ほとんどの維管束植物は根において菌類と直接的に共生して菌根を形成しており、さらに窒素固定を行う生物と共生して特異な構造を形成している例もある。

9a. 菌鞘に覆われている外生菌根
9b. アーバスキュラー菌根は外見的な特殊化は見られない。写真では根から伸びる菌糸と胞子 (褐色の球) が見られる。
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9c. a. ラン型菌根菌のペロトン. b. アーバスキュラー菌根菌の樹枝状体. c. 根の細胞 (大型で液胞で占められた細胞) の間隙を占める外生菌根菌のハルティッヒネット断面.
  • 菌根 (mycorrhiza, pl. mycorrhizae)[37] (→詳細は「菌根」を参照)
    維管束植物のほとんどは根において菌類 (菌根菌、mycorrhizal fungus) と共生し、菌根を形成している[74]。ただし水生植物やウラボシ科アブラナ科ヒユ科ナデシコ科タデ科などでは菌根をもたない種が比較的多く知られている。菌根の形態や菌根菌のグループにはさまざまなタイプが知られており、それに応じて外生菌根 (外菌根; 図9a, 9c-c)、アーバスキュラー菌根 (図9b, 9c-b)、ツツジ型菌根 (エリコイド菌根)、イチヤクソウ型菌根 (アルブトイド菌根)、シャクジョウソウ型菌根 (モノトロポイド菌根)、ラン型菌根 (図9c-a) などに類別されている[75]。この中ではアーバスキュラー菌根が最も普遍的であり、進化的にも最も祖先的な菌根であると考えられている[74]。根が合成する植物ホルモンであるストリゴラクトンは、アーバスキュラー菌根菌を根に誘引する[59]。菌根菌が根の表層や細胞間隙に菌糸を張り巡らせるものや、植物細胞内 (正確には細胞壁細胞膜の間) に侵入して栄養交換用の構造を形成するものがいる[58][76] (図9c)。菌根菌の菌糸は根毛よりも細く、遥かに長く土壌中に張巡らされており、より効率的に無機養分や水を吸収し、これを植物に供給している[77]。また菌根菌は、植物に病害や乾燥ストレスに対する耐性を付与することも知られている[78]。一方、植物は菌根菌に有機物を与えており、菌根菌との間に相利共生関係が築かれている。ただし植物の中には、自らは光合成せずに有機物も菌根菌から得ている例がある (腐生植物 = 菌従属栄養植物、菌寄生植物)[79]。また菌根菌は、異種間を含むさまざまな植物の根をつなぎ (菌根菌ネットワーク)、その間で糖などの物質転送が起こっていることが知られている[76][80]
9d. エンドウ属 (マメ科) の根粒
9e. ダイズ (マメ科) 根粒内の根粒菌 (濃色部) (透過型電子顕微鏡像)
  • 根粒 (根瘤、root nodule)[37] (→詳細は「根粒」を参照)
    マメ科の植物では、根に根粒菌と総称される窒素固定能をもつ細菌が共生し、根粒とよばれる粒状の構造を形成する (図9d, e)。根粒菌は窒素化合物を供給し、植物は有機物を供給する相利共生関係が築かれている。マメ科植物と共生する根粒菌はプロテオバクテリア門に属するが、マメ目に比較的近縁なバラ目 (グミ)、ブナ目 (ヤマモモハンノキモクマオウ)、ウリ目 (ドクウツギ、ナギナタソウ) の中には、窒素固定能をもつ放線菌フランキア属と共生して根粒を形成するものが知られている[81]。このような植物はアクチノリザル植物 (actinorhizal plant)、形成される根粒は放線菌根 (actinorhiza) やハンノキ型根粒ともよばれる[82][83] (図9f)。マメ目、バラ目、ブナ目、ウリ目は単系統群を形成しており、この系統群は窒素固定クレードとよばれる[84]。根粒形成の機構は、アーバスキュラー菌根形成の機構をもとにしたものであることが示されている[84]
9f. ヨーロッパハンノキ (カバノキ科) のハンノキ型根粒
9g. ナンヨウソテツ (ソテツ科) のサンゴ状根
  • サンゴ状根 (coralloid root)[85][86] (図9g)
    ソテツ類 (裸子植物) は、根の一部が負の重力屈性 (背地性; 上方に生長する性質) を示し、サンゴ状根とよばれる特殊な根を形成する。この根にはネンジュモ属 (Nostoc) のシアノバクテリア (藍藻) が共生している。ネンジュモ属は窒素固定能をもち、窒素化合物をソテツ類に供給する。ソテツ類はさまざまな毒素をもつことが知られているが、そのうち BMAA (β-methylamino-L-alanine) はソテツ類自身が生成したものではなく、共生藍藻が生成したものであると考えられている[87]

寄生根

10a. ヤドリギ (h = ): 宿主の師部 (c) 内を横走する不定根 (寄生根、f) が宿主の木部 (b) へ側根 (e) を伸ばし、また不定芽 (g) をつける。
10b. 上がネナシカズラ (e = 表皮、r = 皮層、g = 維管束)、 下が宿主であるアマ (E = 表皮、R = 皮層と師部、H = 木部)。寄生根の木部が宿主の木部とつながっている (木部架橋)。

共生の1形態として、寄生がある。他の植物に寄生し養分を奪う植物は寄生植物とよばれ、自ら光合成を行いながら宿主からも栄養分を奪う半寄生植物 (ヤドリギなど) と、光合成能を欠き、有機物も含めた栄養分を宿主から奪う全寄生植物 (ネナシカズラなど) がある[88]。寄生植物は栄養分を吸収するために宿主に吸器英語版 (haustorium, pl. haustoria) を付着させているが、寄生植物における吸器は特殊化した根であり、この根は寄生根 (parasitic root) ともよばれる[10][16][37]。寄生根では、しばしば寄生植物と宿主の維管束 (木部) がつながっている (木部架橋、xylem bridge)[24] (図10b)。寄生根は、以下のようにいくつかのタイプに類別されることがある[37][54]


注釈

  1. ^ 小葉植物の根の木部も外原型とする記述もある[34]
  2. ^ 菌根菌は主根型根系に特徴的というわけではなく、ひげ根型根系にもふつうに見られる。
  3. ^ 広義には、側根が生じている母軸となる根 (定根か不定根かを問わない) を主根とよぶことがある[45]

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