ちっそ‐こてい【窒素固定】
窒素固定
窒素固定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/19 05:27 UTC 版)
窒素固定(ちっそこてい)とは、空気中に多量に存在する安定な(不活性)窒素分子を、反応性の高い他の窒素化合物(アンモニア、硝酸塩、二酸化窒素など)に変換するプロセスをいう。
自然界での窒素固定は、いくつかの真正細菌(細菌、放線菌、藍藻、ある種の嫌気性細菌など)と一部の古細菌(メタン菌など)によって行われる。これらの微生物には、種特異的に他の植物や、動物(シロアリなど)と共生関係を形成しているものもある。また、雷の放電や太陽からの紫外線、山火事や火力発電所、内燃機関での燃焼により、窒素ガスの酸化によって窒素酸化物が生成され、これらが雨水に溶けることで、土壌に固定される。
これとは逆に窒素化合物を分子状窒素として大気中へ放散させる作用または工程は脱窒と呼ばれ、窒素固定と合わさることで窒素循環が成立している。
また、アンモニア合成を代表として人工的に窒素分子を他の窒素化合物に変換する手法も幾つか開発されており、工業的に非常に重要な位置を占めている。
窒素固定の総量
研究者によって推定量は異なっている。
- Burns and Hardy[1] によれば(生物由来)、
- 陸上 140TgN/yr[注 1]
- 海洋 36TgN/yr
- 佐竹(2010)[3]の報告によれば、
- 人為起源 156TgN/yr
- 海洋生物 121TgN/yr
- 陸上生物 107TgN/yr
- 空中放電 5TgN/yr (3-10TgN/yr の中間値)
生物学的窒素固定

ある種の細菌がもっている酵素のニトロゲナーゼは、大気中の窒素をアンモニアに変換するはたらきを持ち、この作用を生物学的窒素固定といい、窒素固定を行う微生物をジアゾ栄養生物(diazotroph)という。
ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、次式のように表される。
-
シュロックらによる錯体を用いた窒素固定例[9] 内燃機関や燃焼に伴う窒素酸化物の目的外生成のほか人為的にも固定され、肥料をはじめ様々な工業プロセスに使用されている。最も一般的な方法はハーバー・ボッシュ法によるものである。石灰窒素をふくむ人工肥料の生産は非常に大きな量に達しており、現在では地球の生態系において最大の窒素固定源となっている。
「アンモニア」も参照その他
稲妻の語源は、雷が稲を実らせるという信仰からきているが、これは実際に落雷による放電によって窒素酸化物が生成され収穫量が増えたため、という説がある。同様に落雷したほだ木ではきのこの収穫量が増えると古代ギリシアのプルタルコスの著作である『食卓歓談集』にも記述される程、古来より言われてきた[10]。
注釈
脚注
- ^ Burns, R.C. and R.W.F. Hardy(1975)Nitrogen fixation in bacteria and higher plants, Springer Verlag, Berlin/New York., doi:10.1002/jobm.19780180215
- ^ 吉川知里「海から放出される一酸化二窒素」『化学と教育』第64巻第4号、日本化学会、2016年、178-179頁、doi:10.20665/kakyoshi.64.4_178、ISSN 0386-2151、2023年12月26日閲覧。
- ^ 『地球環境』Vol.15 No.2 国際環境研究協会
- ^ アン・マクズラック著、西田美緒子訳 『細菌が世界を支配する』 p186、白揚社、2012年9月30日、ISBN 978-4-8269-0166-6
- ^ F. H. Grau; P. W. Wilson (1962). “Physiology of nitrogen fixation by Bacillus polymyxa”. J. Bacteriol. volume=83 (3): 490–496. doi:10.1128/jb.83.3.490-496.1962 .
- ^ “シアノバクテリアの窒素固定”. www.agr.nagoya-u.ac.jp. 名古屋大学大学院生命農学研究科・農学部. 2022年7月21日閲覧。
- ^ 吉田重方、松本博紀、トルンブイチ、草地雑草根におけるニトロゲナーゼ活性 日本草地学会誌 Vol.31 (1985) No.3 p.358-361, doi:10.14941/grass.31.358
- ^ 腸内微生物との共生関係の不思議
- ^ Dmitry V. Yandulov; Richard R. Schrock (2003). “Catalytic Reduction of Dinitrogen to Ammonia at a Single Molybdenum Center”. Science 301 (5629): 76-78. doi:10.1126/science.1085326 .
- ^ プルタルコス、柳沼重剛「食卓歓談集」、岩波書店、2001年12月14日、 ISBN 9784003366431。
参考文献
- 佐竹研一「地球環境に附加される自然起源と人為起源の窒素化合物 (窒素汚染と大気・水環境)」(PDF)『地球環境』第15巻第2号、国際環境研究協会、2010年、97-102頁、 CRID 1520290882883535488、 ISSN 1342226X、 NAID 40017225059。
関連項目
窒素固定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 05:20 UTC 版)
窒素は、タンパク質や核酸の原料として全ての生物にとって必須な元素である。窒素は窒素分子の形 (N2) で空気中に大量に存在するが、全ての真核生物を含む多くの生物は、窒素分子を直接利用することはできない。しかし原核生物の中には、窒素分子をアンモニアに変換できるものがおり、この反応は窒素固定 (nitrogen fixation) とよばれる。藍藻の中にも窒素固定が可能なものがおり、生態系において重要な役割を担っている (他の生物が利用可能な窒素栄養分の供給)。窒素を固定する酵素であるニトロゲナーゼは酸素に弱いため、酸素発生型光合成と窒素固定を1つの細胞で同時に行うことはできない。それに対応して、藍藻は以下のように光合成と窒素固定を分けて行っている。 一部の藍藻では、光が当たる日中に光合成を行い、光がない夜間に窒素固定を行う。糸状性のアイアカシオ属 (Trichodesmium) では、窒素固定を行う細胞 (diazocyte) とふつうの栄養細胞が分化しており、光合成と窒素固定を同時に異なる細胞で行うことが可能になっている。この例では細胞の形態的分化は顕著ではないが、ネンジュモ目の藍藻は、異質細胞 (heterocyte, ヘテロシスト heterocyst) とよばれる形態的にも極めて特殊化した窒素固定用の細胞を形成する (右図4a, 上図2g)。異質細胞は光化学系の一部を欠くため細胞内に酸素が発生せず、また酸素を通さない厚い細胞壁で囲まれている。隣接する栄養細胞と接する部分では、異質細胞の細胞質は極めて細くなっており、またその部分にはときに光学顕微鏡で確認できる程の大きなシアノフィシン顆粒 (極節 polar nodule) が存在する (右図4a, 上図2g)。異質細胞で固定された窒素はグルタミンの形で隣接細胞へ輸送され、隣接細胞からはその材料であるグルタミン酸やエネルギー源である糖 (窒素固定は大量のATPを消費する) が供給される。異質細胞は通常の栄養細胞から分化するが、種によってその位置や間隔はほぼ一定であり、重要な分類形質となっている。異質細胞が分泌するペプチドによって周囲の細胞が異質細胞になることが抑制され、これによって異質細胞の間隔が一定になる例が知られている。
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